上 下
75 / 156
恋した人は魔法使い

お姉さんムーブ

しおりを挟む
| 首藤絹子


 さらさらと雨が降る中、緑色の傘をさしながら、私はエリカちゃんのマンションに向かうため足早に歩いていた。

 待ち合わせの15時はとっくに過ぎている。遅れてるけど、傘をクルクル回してしまう。

 ブルーシートとチェコ軍雨ガッパは卒業だ。

「ふん、ふん。ふへふ、…間違えた」


 罪と罰から一夜明け、世界は大きく変わった。

 鼻歌なんてお風呂でしかしたことなかった。慣れないこともしたくなる。する時はベストショットが撮れた時。

 その第一位が…いや、もうランキングは乱れてる。順位なんてつけれない。過去もこれからも全部一位。


 写真には映らない美しさが、ある。

 ほんとにその通り。

 声色、感触、吐息、そして、匂い。

 エアコン設定、黙って2℃上げてて良かった。思ったとおり。時間とともに脳が揺れた。

 それに、魔法。

 本当に美しくて、全てを塗り替える。私の白い塗料もキレイに消え去った。鼻先に付いた白くて熱くてすごい匂いで塗り替えてもらった……あんなに出るんだ。すごい。人間の神秘。

 京介くんだからか、魔法使いだからか……いや違う。あれは、


 愛。


 今日の雨は感動の涙だ。祝福が私の上から降り注ぐ。湿気はカメラの敵だった。だから雨はキライだった。でも今日から違う。空を見上げ、雨粒を受け止める。手のひらのキズはもう無い。

 違うキズはつけてもらった。ふへ。

 浮かれる、そうだ。浮かれていた。昨日から私はずーと、おのぼりさんだ。打ち上がったまま落ちてこれない。高い塔から落ちてきたくない。

 雨雲を見上げ、思った。

 みんなと、ずっと浮かんだままでいたい。





 円卓の間に着いた私は、昨日のことを全て二人に話した。ショックで固まってしまった二人には悪いけど、元々協定には書かれていたことだ。

 だから協定に従い、今度はみんなをバックアップする。

 ま、お姉さんに任せて。


「本当に、本当に、本当ですの? 本当にこんな事をするんですの?」

「私はこれで、成功した」


「絹子と瑠璃が嘘をつくとは思わないけど…」

「京介くんは嘘がつけない。私もつかない」


 エリカちゃんは世間を知らない。聖ちゃんは美学を間違えている。

 私は絶対に負けられない戦いに勝った。勝者の歴史に学ぶべき。

 でも試合はコールド負けだった。


「それにしましてもこれは…恥ずかしいですわ…」

「昨日はクオリティが低かった」


「絹子、私、アオハルしたいんだけど…」

「これも一ページ」


 はー。これだから処女はめんどくさい。

 羞恥一杯の胸の扉を無理矢理こじ開けられるズッキュンも、お腹の奥が青い稲妻で痺れる春も、そこにあるというのに。

 はー。生娘はこれだから。

 やれやれ。


「仕方ない。私と京介くんのラブ動画を見せる。寝ないで編集した」

「それで遅刻したんですのね…」

「…そんなの、撮ったの………」


 遅刻したのは朝から昂ったせいだけど、黙っとこう。


「京介くんは知らない。三脚は魔女が動かしてた。私も後で動かした」

「……」

「…その、それで、実際の京介さんは…」


「魔王」

「…」

「…今、なんと?」


「魔王、だった。まさに恐るべき魔法使いの王様。レベル100。私はしもべ。何回天国に行ったかわからない。奉仕も出来ないダメしもべ。特に最初。身体の撃ち抜き洗浄からのおあずけ。気持ち良い顔で嬉ションしてる瑠璃ちゃんをただ眺めるだけの放置プレイ……」

「絹子さんの独白を…なんといいますか……エロ──」

「言わせないわよ」


「だから策を用意した。みんなもセイコーしてほしい」 

 きっと、みんなで浮かぶと楽しい。





「本当だ。青い光で絹子の小さな小さなおっぱいが…」

「そこじゃない。でも京介くんは可愛いって言ってくれた」


「……腹立つわね」

「絹子さんの身体から塗料が消えていきますわね。綺麗ですわぁ……」


「そう、チラリズム」

「チラリじゃないじゃない。丸見えじゃない」

「どういう意味ですの?」


 はー。これだからバージンは。

 やれやれ。

 恥ずかしさで実を取る事を優先できない。コンセプトを理解してない。

 やれやれ。


「違う。さっきまでチラリとしか見えなかったものにピントが合った。その感動を利用する」

「…整う刹那でこころを掴むのですわね」

「………」


「京介くんの目は特別。して欲しいことを見抜く。だからプラスアルファ」

「……そうよ。して欲しいことはしてくれてた。でもそれ以上にはいけなかった」


「突いて欲しいところは見抜かれた」

「絹子、黙って」


「聖さんの前で言うのははばかられるのですが、その、魔女は愛香さんのおかげだと…」 

「もうやめて、って言っても無駄だった」

「絹子、黙ってってば。…いいわ。この写真の京介君、久しぶりに見たし、ね。愛香に唆されてないなら良い。だけど、このラブマシンめ。どうしてくれよう…………」

「…抵抗しても、無駄ですのね………ぃぃ」


 エリカちゃんはわかってる。聖ちゃんは拗らせすぎて抵抗がまだある。最高のシーンを求めてるせいだ。

 そんなの後で全部サイコーになるのに。

 はー。これだからおぼこは。

 やれやれ。


 仕方ない。この経験者様に任せて。迷える未体験者たち。その必中の策を授けるから。


「だから罰はこれ、全裸ボディペイント、バージョン、ラバー」

「………」

「それほんとにいろいろ大丈夫なんですの?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

卯ノ花
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

処理中です...