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恋した人は魔法使い

目出し帽

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| 藤堂 京介


 あれから僕と絹ちゃん以外は円卓のたまり場に向かってもらった。

 回復の魔法を使い、おかしらとコックローチ達を治す。瞬く間に身体は治り、素直パンチは残ったまま。

 ED or ガチマゾ状態。よし。

 監禁室から出てきた時には、それはもう真っ白で真っ新だった。

 僕は職人としての自信をつけていた。

 レベル1 にも出来ることはある。





 絹ちゃんはデータを抜きにかかってる間、僕は魔法をアレンジすることにした。


「そうそう、これこれ」


 あると思った、目出し帽。

 だいたい身バレには細心の注意を施してあるおかしら達だ。だから暗殺ギルドのような格好をしてるはず。そう思い聞き出した。

 出てきたのは黒色の目出し帽だった。

 そう、僕には掛け替えのない異世界経験がある。脳筋でもこれくらいは見つけれるんだ。

 そういえば、あの暗殺ギルドに追われていた双子は元気だろうか。まあ殺しからは抜け出せたから大丈夫だろう。
 どうか、修羅の道から光溢れる道へ進んで欲しい。暗殺なんて悲しいこと、もうしなくていいんだ。

 二人に、幸あれ。と願う。





 エリカの言うタイミング通りに自首させるには薬物が邪魔だった。予測がつかない動きはして欲しくない。だけど撫で撫ではしたくない。

 なら被せてみるかと目出し帽。これに回復魔法を渡してみる。せっかく人数分あったし、全員な。

 ではさっそく。


「…これは………似合うな」


 つい、口から本音が出てしまった……このおかしらの目出し帽は目と口しか開いていない。回復の魔法が効いているのか、その目からは恍惚の境地、その口からは垂涎。

 それが8人編成の、目出し帽ーイズ。

 ……なんというか、犯罪臭が酷いけど似合うな。酷く似合う。いや犯罪者か。なら似合うのは当然か。このまま組体操とかさせてみたくなるな。ピラミッドとか。人数足りないか。僕と絹ちゃんが参加したら丁度良いけど、パンチしたくなるな。


「あとは後遺症のもん、だ…ぃ…」


 あれ? これどうやって完全に薬物が消えたか判別するんだ? 瞳の色は今は恍惚だ。当てにならない。麻実さんはここにいる間ずっと消えてた。つまり撫で撫では効く。では魔法の目指し帽は?


 ………面倒だな。


 位階が高ければ高速で出来るのに。高速でするからただ毛根が死滅するだけで実質撫で撫でしてない感じになるのに。

 まあいい。壁にぶつかったらとりあえず初心に帰って素直パンチ改だ。アートリリィとは流派は別れたのだ。そして僕はもうぶつかった壁は壊さないんだ。


「げぎゃ」


 粘着く感じは、無い……さっき葛川兄を殴って掴んだ感触だ。

 一応これでいくか。様子はまた後で見ればいい。

 そういえば、よくアレンジした魔法を見せたらアートリリィが焦っていたな。あれはなんだったんだろうか。

 まあいい。とりあえず全員殴る。


「ぐぎゃ」


 とりあえずガチマゾはいなかった。よし。

 おかしら宅で出来る事を終わらせて、僕らもみんなのところに向かおう。





「こっち」

「1201…」


 絹ちゃんに手を引かれて連れて来られた先は、1201号室。円卓の乙女、そのたまり場だそうだ。

 エリカにおかしら達のアヘ顔写真を見せたら、おかしらは前沢という名だそうだ。マンション内で何度かすれ違っていたらしい。
 そう言っていたから絹ちゃんを待ってる間、おかしら改め前沢に聞いた。

 こんなイカれた奴らが近くにいたなんて心配だしな。

 前沢曰く、和光家に手を出してはいけないと葛川兄に聞いていたから我慢していたらしい。我慢って何言ってんだと、鼻を削いだ。

 豚の魔物の討伐部位だ。もちろん無くなった鼻は瞬間回復した。ただ、目指し帽には鼻に孔が開いてしまった。

 しまった。せっかくの統一感が…バラツキは職人の恥だ。でもこれでリーダー前沢が一目瞭然だ。よし。

 とりあえず、前沢にはレディメイドされた鼻と耳を持たせておいた。ん? 自分にぴったりだからプレタポルテか? アレフガルドはだいたいプレタだ。

 ま、どっちでもいっか。

 コックローチには耳だけだ。差別じゃなく区別ね。安心して改心してほしい。

「ア、ハイ」

 ほんとイカれてるよ。





「そうだ。京介くん、もう準備出来たから」

「昨日言ってたこと?」


 振り返りながら軽い調子で絹ちゃんは言う。


「うん。はるはると作った。今夜10時スタート」

「そっか、ありがとう。頑張ってくれたんだね」


 昨日、絹ちゃんの家で帰り支度をしていた時だった。僕の盗撮暴行動画を利用して、何やら二人で企画するから任せて欲しいと言っていた。

 危なくない事ならとOKした。あぶなすぎること(意味深)なら嬉しいけども。

 ちなみに僕は何をするのかわかっていない。ただ、心配しないで、としか聞いていない。脳筋は黙って従うのみだ。立ち塞がる壁だけぶち壊せばいい。

 若干疲れた様子だったので、少し撫で撫でする。ああ、おかしら達とは違うな…こっちが癒されるな。


「んっ…、ううん。罪ほろぼし。んっ。役に立てたら嬉しい。ぁっ。あと、今日は三人で、んっ、練習してた」

「練習? 劇とか、ダンスとか?」


 そういえばさっき言ってたな。休日に集まって練習か…これが平和か。
 何か大会とかかな? なんだ、僕はてっきり…


「ううん、………自発的、罰2の」

「………」


 てっきりあぶなすぎる大冒険が、やっぱり始まるようだった。
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