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アレフガルド - ハヌマット大森林

咲守の姫

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| エレンカレン


「あー!!もうっ!また上手くいかない…」

「はー。姫って、ほんっと不器用だよな…」

 
 ゆったりとした椅子に腰掛けながら、わたしは小さな頃から苦手だった弓を自作していた。また上手くいかない……

 いつものように幼馴染のメルロスに揶揄われる。こいつの溜息もいつも通りだ。だから昔から嫌だったのに…


「るっさい!」

「エレンの性格じゃないかしら?」

「昔からだよな」


 もう一人の幼馴染、ララノアもチクリと刺してくる。

 だいたい君ら二人が! いつもいつも出来なかったら絡んでくるからでしょ!私はこういうチマチマした事が苦手なの! だいたい早く終わったら終わったでいっつも邪魔してぇ。ぐぁあああ。


「寄って集ってなんだよ。ララノアもメルロスも二人してさあ……あ、わかった。妬いてるんだ! 妬いてるんだねえ。そっかそっか。妬いてるんだってー格好悪いよねー聖木の咲守なのにねーこうなっちゃダメだから、ねータウロー?」


 わたしはお腹を撫でながら語りかける。あ、蹴ってきた。荒んだ心がじんわり癒される。

 えへへへへ。


「違うわよ!あなたがちゃんとしないからでしょう!」

「ガサツで、大雑把で、無計画で、不器用なのは事実だろ!はー。なんで勇者様の子はこいつにしか…」


 やっぱりそれじゃん。なんか妊娠がわかってから圧がすごいんだよ。ただでさえ妊娠期間が長いってのに! 二人してネチネチネチネチネチネチ…でも負けないよ! なんてったって、お母さんだからね!


「あーはいはい。嫉妬おつでーす。いいじゃない。わたしはあの一夜だけでしょ? あなた達は好きな時に好きな奴と好きなだけぎったんばっこんして作れば良いじゃん」

「もうしないわよ! しても忘れられないことを自覚させらせて終わってから後悔しか残らないからもうできないのよ!」

「え? ヤッたのか?」


 あーララノア試したんだ…誰だろフィアロスかな? 仲良かったし。ふふ。薄そう。


「るっさいわねー。胎教に良くないからちょっとは静かにしてよねっ! もし流れたら勇者様に申し訳ないじゃないっ!」

「ごめん」

「ごめんなさい」


 そうだよ! 流れたらどうしてくるんだ! ほんとにもうっ! 実は結構不安なんだからね!

 まあ、二人はそんな心配を和らげるようにいつも通りにしてるんだろうけど。

 まったく素直じゃない。いい友人達だ。


「でも、本当なんでなんだろうね?」

「ちゃんと計算しましたのに」

「ちゃんと逆算したのに」


「…そんなことしてたの?」

「あなたみたいな考え無しとは違うんです! きっちり確実に狙いましたのに…」

「一番アホな姫が当たるってどんな罰なんだよ」


 やっぱりこいつら許さーん!


「ぐぬぬぬ……一番アホって何よ! 咲守の姫たるわたくしに対してなんと不敬ことを!」

「急に姫ムーブすな! 弓が出来る気配すらしないからだろ! 三ツ頭なんて子供がするもんだぞ、これ!」

「姫なのをいいことに昔から人にやらせてましたわね」


 こいつら~また馬鹿にしてぇ! でもまあいいわ。ふっふーん。せいぜい悔しがるといいわ。


「あー多分あれだよ、あれ。妊娠してるからだよ。経験ない? あ、ない? ないかー。あ、ごめんね? えっとねー。なんか集中出来ないっていうかー。お腹ゴロゴロ蹴ってくるからほっこりするっていうかー」

「くっ、腹立つ! あなたが弓作りを教えてほしいって頼んできたのでしょう! 子供に自ら教えたいからって!」

「うぜぇ、こいつ……出産したあと覚えとけよ。…つーか本当に何したんだ? どう考えてもおかしいだろ」


 しつこいなぁ。ララノアもメルロスもわたしみたいに素直で良い子じゃないからじゃない?そうだよ! 意地悪だからだよ絶対!


「んー? みんなと一緒だよ? いつかの宴会のあとにー。抜け出してー。勇者様の寝所にー。入り込んでー。起きてた勇者様にー。お願いしただけー」

「詳細を」

「大雑把なんだよ」

「え───」


 あの夜のことは昨日のことのように思いだせる。人生の一番勝負だった。

 月明かりの下、聖木の葉で身体を清め、森に慣らし。

 薄く透き通るアラクネの絹のヴェール、婚姻の証だけを装備し。

 心臓が口から飛び出すくらいドキドキしながら勇者様にお情けをお願いした。

 もう京介様ったら。あんなに激しく…うえへへへへ。


「詳細ー? んー…仕方ないなあ。ぅほん! ………ハヌマット大森林の中央、聖木の咲守たる我々アグラリアンの住まう聖なる森。そのウロのひとつに、今まさに契り合おうとする一組の男女がいた。透き通る夜の森の香りの漂う中、シムルグの柔らかい羽毛の上、裸で抱き合い、見つめ合う二人。清涼なる月明かりが青白い膜で肌を包みこむようにして、まるで……」

「おい、なんか始まったぞ」

「ま、気持ちはわかりますわ。腹立ちますけど」


「……あぁ! その時、勇者様はおっしゃった! 君の姿はまるで彼の地にて伝説とされるゴーホーローリーの化身……」

「これ、ずっと聞くのか?」

「一応詳細ではありますし…」


「……勇者様の濡れた黒曜の瞳に映る紅潮した、わたくしの頬。恥じらいを誤魔化すかのように食べさせ………あっ」

「おい、今何食った」

「エレン、…何食べましたの」


「……いや、何も? ちょっと…だけ? アラグデァアの実っていうか? 景気付けに? みたいな? あははは…」

「こいつ……勇者様に盛りやがった」

「最っ低ですわ」


「だってぇ! 一番ちんちくりんな私なんか抱いてくれるか心配だったんだもん!」

「もん、じゃねーよ! 世を救う勇者様に媚薬盛るとか何考えてんだ! 里でも禁止されてたヤツだろ!」

「アラグデァアの実を……?」


「そこは大丈夫っ! 私も食べたから!」

「アホか! 罪重ねんじゃねーよ! 余計悪いわ!」

「…待って。あれ、たしか乱魔の効果もあるから儀式以外禁止されてて…魔力を乱した? 勇者様は私達より魔力の操作に長けていたけど大森林の植生耐性はそこまででもな…あー! 絶対それですわ!!」


「でも勇者様、平気みたいだったよ?」

「あなたも服用してたからでしょ!」

「二人してあっぱーになってるからじゃねぇか! あの時そうすればよかったのか…」


「あ、それは無理だったよ」

「なぜですの」

「まだいっぱいあっただろ」


「だって、お土産に姫巫女様に在庫全部あげちゃったし」

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