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ランペイジ!

パンツ(真)

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| 藤堂 京介


 首藤さんは小学校が同じだから、家は思ってたとおり近所だった。

 昔からある模型屋さん「ランペイジ模型店」。そこが首藤さんの実家だった。

 首藤さんの家とは知らなかったな。

 店名の意味を知ったときは意味がわからなかったな。

 おままごとは小物を充実させてなんぼの愛香は、僕によくものづくりを頼んできていて、プラ板を加工しては、いろいろなものを作っていた。

 ここには小学校の時からそのプラ板をよく買いに来ていたのだった。

 店主である首藤さんのおじいちゃんはいつもは惰性で営業しており、おばあちゃんと一緒に今日明日は町内会の慰安旅行に出掛けていて、両親は首藤さんが高校生に上がってから旅行に行こうと決めていたらしく、夏休みの混むシーズンを避けて昨日から三日間出ていると言う。


 つまり、誰もいない。


 はず、なんだけど…首藤さんの瞳の色は嘘ついてなかったし…


「どうぞ」

「お邪魔します!」

「お邪魔します」


 玄関から見える一番奥まったところにある部屋が首藤さんの部屋だった。


 ここか。ここなのか。僕の反応もここからだったんだけど…

 部屋の中は緑色の配色でまとめられていて、四葉のクローバー柄が多かった。机、ベッド、テーブル、クッション、姿見。クローゼット。まあ、一般的な女の子の部屋だと思うよ………


 ベッドの下に人がいなければ。


 ドッキリサプライズかな? 敵意ないし。多分女の子だし。


「はるはるは脅した」

「…うん?」


 そんな事を思っていたら、首藤さんは部屋の戸を閉めるなり、いきなり物騒な事言い出した。すかさず間宮さんが話に乗っかる。

 ベッドの下の子もなんか緊張していた。


「きぬきぬに脅されました。この女最低です」

「帰る?」


「いやです! 脅されていません! 今日見たこと、起きたこと、聞かされたことは全てこのはるはるの胸の内にしまいます」

「よろしい」


「…中2なのに高校生のきぬきぬより大きなこの胸の、内に…」

「帰れ」


「事実じゃないですか!」


 やっぱり君たち仲良くない? 道すがら聞いた分には明確に敵同士だと言っていたけど、だいたいそもそも敵ってあんまり使わない言葉だと思うんだけど。

 ベッドの下の子もうんうんしてる。


「まあまあ。二人とも。進めてもらえないかな?」

「…京介くんの秘密は森にはバレない。円卓のみんなと舎弟はるはるだけ」

「…まあ、秘密がなんなのか知りませんが、森は苛烈ですからいい判断です。きぬきぬと仲良くしいて良かったです。あと舎弟って言わないでください」


 うん? 円卓? 森? グループか何かかな? ベッドの下にいる子もなんか緊張が強くなったな。


「違う。今日から舎弟、か、帰るか」

「逃げ道最初っから塞がないでください!帰らないです!」


「じゃあ舎弟、返事、宣誓、早く」


 間宮さんは僕の方をチラチラ見ながらため息をし、イヤイヤ宣誓し出した。首藤さん強気だな。こんな子だったっけ?

 あ、ベッド下の子もワクワクしてる!


「うぐっ……、ふー…私ー間宮晴風わー、きぬきぬのー、舎弟にー、なることをー、違いますー…」

「帰る?」


「誓います!」

「よろしい」


 なんだか放っておいたら二人していろいろ置いて行くから整理したいんだけど。

 いや、一番気になる事はベッドの下なんだけど。

 なんかもぞもぞしだした……?


「……えっと?そもそも円卓とか森って何のことかな?」

 その言葉に、ハッとして顔を合わせる首藤さんと間宮さん。まさか。


「「聞かないでくださいぃぃぃ」」


 二人はやっぱりゆっくり滑らかに揃って……土下座した。

 絶対仲良いよね。君たち。もう好きなだけ土下座してていいよ、満足するまでしてなよ。

 そしてベッドの下の子は多分アレを始めだしていた。だって机の下にパンツ落ちてるし。

 土下座ダブルに、ベッド下でオナニー。

 僕はとりあえず溜息を一つ、ついた。





 あれからまた土下座から立たせて、諭したあと三人でテーブルを囲み座った。 やっぱりもう土下座はやめようね。それ多分ハラスメントだからね。


「藤堂さんは来たことあるんですか?」

「家は初めてだよ。表の模型店はよくきてたな~」

「知ってる、見てた」


「こわっ、この人気持ち悪いです」

「……帰って」


「気持ち悪いだなんて思わないよ。首藤さん気にしないでね、声かけてくれれば良かったのに。間宮さんって口悪いんだね」


「!! 嘘ですぅ! すみませんっ! すみませんっ! …初めて入ったなんて聞いてショックでショックで…首藤先輩ごめんなさい」

「…すぐに謝れてえらいね。気をつけようね」

「やぁい。怒られてる。京介くんが許すなら許す。お茶手伝って」


「むっ! え……でもぉ」

「舎弟」


「わっかりましたょぉ」

「京介くん、待ってて」


「え、あっ……」


 部屋に二人きりには出来ないとお茶とお菓子の準備に二人は出て行った。 

 いや、出て行ったら不味いんだけど。

 出て行ったら気まずいんだけど。

 そのせいで、今まさに部屋で二人きりなんだけど。二人きりになったせいで音がクリアーに拾えてしまうんだけど。

 だから耳良いんだよ、僕。


「ん、んん、ん、は、あ、ん」


 まだオナニー続けるのか…………勇者かよ。勇者ばっかりだな。この世界。

 女勇者か…昔選べたな。

 しかし、これはいったいどうするのが正解なのだろうか。





 なかなか帰ってこない二人は置いておいて。まずは気になるおパンツの処理をしようか。

 それとも、これはすっとぼけた方が良いのだろうか。首藤さんが戻ってきたらクローゼット漁ったって思われないだろうか。

 だいたいの勇者、疑われるし…

 いや、そもそも丸まってるアレがパンツなのかはわからない。広げてみないとわからない。ベッドの下の子のものなのかもわからない。

 でも、僕は昔から勘はいいんだ。

 あれはパンツだ。必ずだ。

 そもそもベッドの下の子は誰なんだろうか。女性であることは間違いない。ただ首藤さんの友達と知り合いと無関係な人では随分と変わる。

 連絡無く潜り込み、ベッド下オナニーしている事から、百合相手、もしくはストーカーの線も考えられる。

 その場合、ストーカーをストーカーしている事になる。つまり、僕以外全員ストーカーだ。ダブルじゃなくトリプルで。マスター、氷少ないよ~チェイサーも~。

 違くて。

 この部屋には、ストーカーじゃないやつが一人居る!……いや、あたかも僕もストーカーじゃないと悪いみたいになるな。

 違くて。

 ストーカー×3があらわれた! とかないよ。スライムじゃないんだから。


 もし友達の場合、ストーキングしてまで百合合いたい。

 もし知り合いの場合、ストーキングしてまで百合合いたい。

 もし無関係な人の場合、ストーキングしてまで百合合いたい。


……友達だろうが知り合いだろうが無関係な人だろうが、やっぱり百合でストーカーになるのか。えー……


「勇者、はぁ負けな、ぃ!」

「!??」


 今勇者って言った!? 帰還勇者がここにも!? いや、待て待て、落ち着いて落ち着いて。

 例えば、別世界救ってきた人が…最愛の人をストーキングして…ベッドの下で…愛のオナニーとか?
いやいや、ないよ。ないない。

 例えば、夢魔の支配する夢世界から首藤さんと友達を救うための儀式オナニーの真っ最中…とか?
いやいや、ないよ。ないない。

 例えば、いや、もういいか。

 何かの比喩だろう。魔力感じないし。うんうん。僕は昔から勘はいいんだ。勘は関係ないか。索敵の魔法だな。


「悪ぃ、ぁ、魔法、ああ! 使いめ~ぁん!」

「!??」


 やっぱり戦ってる!?

 つまり……どゆこと?

 勇者VS悪い魔法使いってこと?


 いや、そんなの、勇者ボロ勝ちでしょ、普通。

 でも、押されている…?

 そもそも悪い魔法使いはあんまりいなかったしな。強いイメージないんだよね。だいたい弱いからすぐ討伐されるし。

 アレフガルドの魔法は思いとか願いとかにリンクしてるから欺く性格には向いてないんだよ。本当に捻じ曲がった魔法使いは強敵だけど、魔族に比べれば少数だ。あんまり悪いと神殿騎士にずっと狙われるし。生活出来ないよ。


「ぁ、ぁん、ぁぁっ!」


 なら別世界の勇者様か……いやまさに温度差的には別世界だけども……なんか遠慮無くなってきてない? 声大っきくなってるんだけど。

 僕のこと、見えてるよね?

 索敵の魔法で視線がこっちに向いているのは、わかっているんだけど。そしてまだまだギアは上がっていきそうな予感もあるんだけど。


「……」


 僕は中座のままパンツ(仮)にすっと近づいた。広げるまでは何とかの猫だ。広げなければパンツの未来は無い。

 なんか人質取ったみたいな言い回しになったな…。


 まあいい。今まさに悪い魔法使いと熱戦を繰り広げているこの女勇者様に見せつけてやろう。

 この謎の布切れ(パンツ(仮))を僕が持ったのなら、何かしらのリアクションが起こるだろうし!


 いろいろな謎を解きあかしてきた…ファンタジー世界歴五年の勇者を舐めるなよ!


 ……なんかあんまり大したことない感じになるな。

 職人だったらやっと半人前卒業みたいな。さあ今からキャリア積むか、みたいな。


 …まあいい。仮に首藤さんのパンツ(仮)であってもベッド下の子のものであっても、百合ストーカーならば間に剣を挟むなと烈火の如く怒りだし、何も関係ないならノーリアクションだ。少なくともどちらかがわかる。


 いざ、行かん!


 僕が謎の布切れ(パンツ(仮))に手を伸ばすと、女勇者は息を飲んだ。ふむ。これで夢世界ではなくなった。…やはり百合か…いやまだだ。まだ何とかの猫だ。


 僕はこの謎の布切れ(パンツ(仮))を手に取り、大きく広げ、正体を暴いてみせる!


 さあ、真実よ、その姿を現せ!


「っ! 京介くん!? それだめぇーー!」

「!??」


 まさかの僕が知り合い側!?

 ベッドの下から猫のように飛び出し、抱きついてきた女の子を反射によって正面から柔らかく抱きとめる事には成功した、が、今は枷により非力になっている僕は後ろに倒れ込んでしまった。


「あっ!!」


 そのせいで、女の子は僕の股間に跨ることになり、擦ってはいけない初対面同士を擦り合わせてしまった。ちなみにあんな痴態に遭遇したからか、けっこう起きていた。

 何が、とは言わない。


「あ………! 止まらなぃょぉ……ごめんなさ~ぃ…ぇ~ん」


 そしてなぜかワンストロークかまされ、一時だけ止まり、ビクビクッと震えてから粗相をしてしまっていた。生暖かい感触が股間に染み渡る…………生暖かい?


 ………瑠璃……ちゃん?


 そして抱き止めた際、開いた謎の布切れ(パンツ(仮))は空に投げ出され、ひらりひらりと僕の顔に、真実とともに降ってきた。


 黄色い猫がワンポイント刺繍された、面積少なめのグレーのパンツ(真)だった。


 ……ほら、僕は昔から勘はいいんだ。

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