異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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生贄の対価

生贄4

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| 藤堂 京介


「愛香さま、愛香さま」

「おぉーよしよし」


 爆発寸前みたいな僕の圧力から身を挺して庇ってくれた愛香に初芝さんは秒で懐いた。

 張り詰めた空気が霧散したからか、素の愛香の待つ空気がそうさせるのか。ほんわりとした空気になっていた。


「なんなのよ、なんなのよ、なんなのよ」

「あはは、ごめんね。びっくりさせちゃって」


「だいたいなんでこんなに怖いのよ」

「たまたまだよ」


「たまたまなわけないじゃない! 漏らしちゃったじゃない! バカじゃないのっ!」

「……」


「嘘よ嘘。お願い、黙らないで、ね? ごめんなさい! お願いしますっ!」

「もー京ちゃん」


「あはは、ごめんね。ただ、はっきりさせとかないとね?」

「…はい」


「愛香を生贄&ハメ撮りからの葛川ザマァ&追放狙い、で合ってる?」


「うわ、京ちゃんなんか軽いし酷い」

「生贄を、用意するやつ、だいたい同じ」


「…愛香、ごめんなさい…」

「いいよ。まだ何もされてないし」


「いや、編集された動画内に愛香が笑ってるシーンがあって。それを撮ったのは私だから…」

「あ、そうだ、それ見せてよ」

「うん…」


 ふむ。思ってたより殴られてるな、僕。それより洗浄の魔法はまずかったかな。未羽には気づかれたかな…まああいつ大雑把だから大丈夫か。

 
「やっぱり予想通りかな」

「京ちゃんの言ってたままだね」


「でだ、初芝さん」

「う、うん」


「どうする、これから」

「…?」


「学校に行ってないからわからないけど、今日、作戦は不発に終わった。よね?だから葛川たちは来週からこのまま継続か、違う作戦に切り替わるかする」
「そうね…」


「学校では僕と愛香はそのまま動画を見てない体で普通に過ごす。愛香は周囲なんかどうでも良いって言ってくれた。グループも抜ける。そこで君はそのままあの集まりに居る?」

「…」


「良かったら何があったか教えてくれないかな?」

「…それは」


「もちろんここだけの話にするつもりだし、話したく無い話はしなくても良い」


 初芝さんの近くに寄って頭を撫でる。撫でながら光が漏れない程度の回復魔法を少しかける。


「一人で背負うと大変だからさ。その上一人暮らしだ。僕と愛香を頼ってみないかな?」

「そうだよ。話してみて」


 観念した初芝さんは、ぽつりぽつりと語り出した。
 内容としては幼馴染で親友の加藤メグミさんが、攫った女性を陵辱するアタマのイカれた盗賊みたいな事をされていた。

 あっちじゃ、まあまああった事だ。テンプレとも言う。

 お腹一杯だった。

 異世界と違うのは動画による記録だろう。しかも拡散機能つき。殺せないことも含めて厄介な。どうしようか。

 あっちにも[事象のモノリス]と呼ばれる記録できる魔道具はあった、らしい。まあ、アートリリィが言ってただけで、使ったこともどんなものかも知らないんだけど。

 悟りの魔法|過去視は基本使いたくないから教えてくれて助かった。

 過去に潜れば潜るほど目の裏側の届かない場所を掻きむしりたくなるし。目から血が出るし。その上、回復魔法効きにくいし。

 流石にこんな空気の中、二人の前で「目がぁ~目がぁ~」はやりたくない。目が痛くなったら、やりたくなくてもそう言っちゃうもんなんだよ。本気で。

 …ティアクロィエはシリアスな空気にも構わず爆笑してたな。


「そんな事があったんだね」

「酷い…」

「だから私は今までの自分の姿形を変えて高校3年間で完全に作り変えながら、探るつもりだった」


「なのに、いた」

「そう。だから最初は混乱した…拒絶したかったけど、そしたらあいつらが興味を持ってしまうことを知ってたから。だから媚びるしかなかった」


「そんな中に、愛香がいた」

「愛香はグループに属してるけど、素っ気なかった。葛川に靡かなかった」


「だから、生贄チャンスだと思った、か」

「うん。だから、ごめん。愛香」


「いいよ、許します!」

「…本当にごめんなさい。ありがとう」


 打ち明け話と回復魔法で何か憑き物の落ちたすっきりとした顔になった。良かった良かった。


「でも、あの、その…藤堂、くんはなんでメグミの事を知っていたの?私は出来るだけ痕跡を消したつもりだった。その、責めているわけじゃなくて、下出に嗅ぎつけられないか、もうバレたのかが知りたくて」


 表層を撫でただけだから、名前まではわからなかったよ。


「ああ、下出には漏れてないよ。断言できる。詳しくはまだ言えないけど、僕だけの特殊な方法で、だね」

「…そう、なの」

「敢えて言うなら初芝さん自身から、かな。だから誰も巻き込んでないし、秘密も漏洩していない。もちろん加藤さんにも。言葉だけでは信じられないかもしれないけど、"安心して"」


 微量の魔力を言葉に宿し、目を見て語りかけた。嘘じゃないから効いてくれるかな?

「…うん」

「で、ね。君は救いを求めるかい?」

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