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生贄の対価

生贄3

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| 藤堂 京介


「お邪魔します」

「お邪魔しまーす」


 愛香と初芝さんの家に来た。初芝さんは家に着くまで僕のジャケットの袖口を掴んでいた。

 反対側の愛香は僕の脇腹に肘をエグるようにグリグリと刺してきた。可愛いなあ。


「ナデポとか」

はは、

「チョロインとか」

ははは、

「即落ち2コマとか」

はははは、

「……うわきもの」


 頭と肩で抱きしめてやった。愛香の好きな挟み方。

「うみゅっ! しゅき~…」

 機嫌は保たれた。





 初芝さんの瞳の中は、最初から不安と後悔で一杯だった。僕は特に後悔には弱かった。すぐさま撫でてあげたくなってしまった。なってしまったなら躊躇はしない。

 だって僕、勇者だったし。

 撫でながら微弱の回復魔法をかけてあげた。相当ストレスを抱えていたのだろう。魔法耐性がないから、受け入れるしか道はなかった。ごめんね。痛んだ髪もツヤツヤだ。

 そういえば小学生の頃、愛香にナデポナデポ言われてたな…あーまたナデポだーとか、またナデポしてるーとか。これの事だったのか。

 いや、魔法なんか持ってなかったんだから、ないない。安心させる為だったし。

 まあ心根は一緒か。

 それに魅了系は使ってない。あれは嘘が供物だから僕が使うと魔法使えなくなっちゃうし。大元は魔族の魔法だしね。

 そんなこんなで、やってきました。

 初の現代一人暮らし部屋。


 初芝さんの部屋はワンルームの賃貸だった。玄関を開けると直ぐに廊下があり、8畳ほど、らしい。畳のサイズとかあんまり知らないんだよね。

 どれくらいか。屈強な戦士が…じゅう…装備抜いたら十二人くらいか。寄り合い馬車より少し広い? か。両手を広げ、思い出しながら目測してみる。

 高さは…あ! フルプレートメイルの戦士が天井を突き破った! やっぱり…

 昨日からちょこちょこ天井見上げては、なんか抑えつけられるような圧迫感があった。

 あっちじゃ2メーター超えのやつゴロゴロいたから高かったんだな。そっか。天井が低かったんだな。
 

「…何してんの?」

「ああ、気にしないで」


 初芝さんは鞄を置くと、紅茶を出してくれた。インスタントでごめん、だなんて言いながら。

 いや、全然香るんですけど。充分なんですけど。

 意地悪な領主のところに呼ばれて行った時は散々だった。茶会だと言うのになかなか出てこない、出てきたと思ったら色の着いたお湯。あの不味さと言ったらなかったよ。比べる方がおかしいけど、それより全然美味いよ。

 また異世界が現代に敗北してしまった。


「…なんか遠い目してるんだけど」

「…あー京ちゃん 今日は何回かしてたね」


「…京ちゃん、ね」

「あはは。そう、京ちゃん」


「じゃあ、興味無いってウソだったんだ」

「そう。京ちゃんに嫉妬して欲しくってさー。結構作ってたんだー」


「…本人の前で言っていいの? その、そんなこと」

「大丈夫、わからせられたから」


「?」

「ワカラセ、られたから」


「わからないわ…」


 そんなこんなでまあ始めようか。

 審判の時間です。


「さて、初芝さん。君は……実はギャルじゃないね?」

「!………っそうよっ! 悪い?! 似合わないのは知ってるわよっ!なんなのよ、ギャルって!かれぴ?ふざけんな! なんでもかんでもピッピッ、ピッピッつけないでよ! テストで間違えそうになるじゃない! 好きをしゅきしゅき言うな! 日本語を使え、日本語を!」


「あれ?」


 話の枕くらいに思っていたけど。随分溜まってたんだな。一回バレたし開き直ってしまったのか。傍に居る愛香が悶えていた。何してんの?


「? 何してるの」

「もらい事故です。気にしないでください」


 何故に敬語?


「さて。動画の件、だいたいの狙いは想像ついているんだけど、答え合わせしても良いかな? そもそも僕は見てはいないんだ」

「そうなの…?」


「うん。まあ、見なくてもこの手の考える事なんかだいたい一緒だしね」

「言うじゃない。じゃあ、言ってみて」


「要するに。俺の胸に飛び込んでこい愛香、わかってるのは俺だけだぜbyクズ川王子ってことでしょ?」

「…酷い例えだけどまあ合ってるわ」


「使い古された典型的なマッチポンプだしね」

「そう…言われるとそうね。…結構、スケール小さいわね」


 そうなんだよ。ただそれだけの為に面倒かけすぎだって話だ。かけないといけない理由があるのか、そもそもの実力なのか。道楽なのか。

 まあそれは今は良い。


「ただ、ね。これは葛川から見た作戦でね。…僕が我慢ならない事がひとつあってね……〝自分の都合で/どういう目に/遭うか/知ってて/生贄に/しようと/した人が/いる〟」


 言葉を区切りながら、魔法を言葉に乗せる。


「〝それは/僕にとって/見過ごせない。君に/その覚悟は/あるんだろうな?〟」

「かっ、か、か、覚悟ならあったわよ!メ、メグミのために絶対復讐するんだって!でも、でも、でも!仕方ないじゃない!それしか思いつかなかったんだからぁ」


 すごい。耐性ないのに喋れている。

 僕は黙ったまま、圧を強めた。泣きだした。下も漏らした。でもまだ続けている。

 …すごいな。


「メ、メグミの無念をっ! ぐすっ。悔しさをっ! 何年かけてでも! あいつらに!うぇーん…」

「京ちゃん」


フワリと、愛香が僕の頭を後ろから腕で包み込んできた。


「私の為にありがとう。私は大丈夫だよ。多分、朋花ちゃん、友達思いの良い子だから」

「愛香はそれで良いの?」

「うん!」


 愛香が良いのなら良いんだけどね。

 まあ、初芝さんの覚悟は全部知れたよ。

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