上 下
21 / 156
禁断の恋

禁断の恋4 - 宣言

しおりを挟む
| 藤堂 未羽


「お邪魔します」

「お邪魔しまーす」

「どうぞ」


 あれから由真の家に行き、少し落ち着いた頃に響子から準備完了の連絡があった。

 三人で集まり、いろいろな事を話ながら自宅へ向かった。

 いろいろと吹っ切れたのか、私は自然と持ち直していった。いや、二人の気遣いが嬉しかったのだろうし、秘密を話した事で、本当の意味で分かり合えたと感じたからだろうか。

 そう言えば、今まで思いを共有していたのは、結局あのサイコパス愛香だけだった。

 あいつを特殊な女だとは思っていたけど、あいつとは分かり合えていたのか…なんか複雑。

 自宅に着くと、二人には一旦外で待ってもらった。

 京介は居なかった。

 2階にある京介の部屋の形跡も見たけど、何も無かったように見える。だけど…


「おかしい」


 ない。

 具体的には京介の匂いだ。いつもなら扉を開けただけで京介の匂いに包まれるのに、何も、ない…


「どういうこと…」


 とりあえず二人をお迎えして、リビングで麦茶を飲む。冷静に考えても、やっぱりおかしい。
 コトリとグラスを置き、両手を祈るように組み、額を乗せる。


「…」

「京介さん、どこに行ったんでしょうか」

「未羽、京介くんの行き先に心当たりは…どしたの? 司令官みたいにして…」


 私は心から搾り出すようにして、切実な訴えを二人にした。


「…ないの」

「何がですか?」

「何か無くなってたの?」


「京介の匂いが無くなっているの」

「…匂い、ですか?」 

「何? 変態?」


「おかしいの。掃除をしたって匂いまでは無くならないっ、全然無いの!」

「……」

「やっぱり変態じゃん」


 私は身振り手振りで異常を訴える。二人は顔を見合わせ複雑な表情をしていた。

 あれ? なんか温度差を感じるな。

 気を遣っている態度が丸わかりな響子がおずおずと聞いてくる。由真はメガネを外し、眉間を揉んでいた。


「それは、その、それほど重要な?」

「未羽、ちょっと何言ってるかわかんないんだけど」

「はー…」


「溜息やめて。言動がおかしいのは未羽だからね」

「何やら未羽さんにとっては重要なようですね」


 仕方ない。百聞は一臭にしかず、だ。
二人を京介の部屋に案内する。


「ここが京介さんの、部屋」

「これが京介くんの、部屋」


 二人はジロジロと見渡していた。京介の部屋は清潔感のある寒色系の色合いですっきりと纏められている。
 対照的に二人の頬は赤みを帯びていた。


「ね?」

「何が?」

「何ですか?」


「無いでしょ?」

「…そもそも私たち、京介さんの匂いを知らないんですが…その、良い匂いかすらも」

「そうだよ。あのね、未羽みたいに変態じゃないの、私たち」


「はー…」

「そのやれやれみたいな顔やめて」

「ちょっとその溜息止めてもらっていいですか?」


 仕方ない。私は自分の部屋から今までの戦利品と、昨日の第一級特別戦利品を持ってきた。


「これ」

「なんですか?」

「何?」


「二人とも、ちょっとこれを嗅いでみて」

「いったい何です、かっ……っ!」

「このTシャツが何なの?柔軟剤を変えたと、かっ……っ!」


「この匂いが、この部屋には、あったの」

「これはもしかして京介さんの…」

「……」


「由真?」

「…」


「わかってくれた?」

「わかりたくなかったけど…まあ、うん」

「わからせられました」


 それがこの部屋から消えている。新築の家でもそれなりに匂うのに、この部屋にはそれすらない。絶対おかしい。そして分かり合えた友ならばと、切り出す。


「あと、これ。特別だから」

「「!!」」


 二人に昨日の禁制品を渡す。二人は黙ってすんすんし出した。わかる。実は私だけ可笑しいのかと思ってたけど、良かった。違った。


「ね?」

「…鼻を突き抜ける瞬間が…」

「…しゅごい」


 そろそろ返してもらう。
二人の匂いがついてしまう。これは良いものだ。


「…あっ」
「…ああっ」


 リビングに戻り、再び話合う。

 急に不安になってきた…匂いがない異常自体は、京介がどっか遠いところに行ってしまって、もう二度と帰ってこない気にさせる…


「何か異常な事が起きてる、との未羽さんの見解には私も賛成です」

「すごかった」

「とりあえず、ご飯の支度をしましょう」

「すごいの作ろう」

「そして、いよいよ帰って来なければ、警察に連絡しましょう」

「そうだね。未羽の主観では普通に見えたらしいし、お腹が空いたら帰ってくるんじゃないかな。きっと大丈夫だよ」


 不安な気持ちに襲われ、私は頷くしかできなくなっていた。

 その上で。と響子は語り出した。


「成瀬さんは強敵です。未羽さんは義妹と言うことで、そもそも女として見られていないかも、というのが私の認識です。ですが、昨日の暴行もあって、京介さんが見限った可能性も多いにありえると思います」

「今まで未羽はツンツンしてたしね」

「ですので、いま、この瞬間はチャンスなのです。そうですね、私と由真さんで京介さんを接待しますので、未羽さんはその際に混ざり、素直な気持ちで接する事をまずはしましょう」

「あ、響子と私が励ましたりしてるところを未羽もマネればいいんだね。ピンでするより、簡単かも」


 響子は矢継ぎ早にプランを述べる。そのシーンを想像する。前向きな気持ちにしてくれる。


「…未羽さんは禁断の恋、と言いました。それは京介さんも同じ気持ちかもしれません。その為にはまず、タガを外さねばなりません」

「タガ?」

「そう、禁断の、つまり理性の蓋です。念のため伺います。未羽さん。あなたは京介さんと結ばれたいのですよね?」


 こくりと頷く。叶うなら何だっていい。


「目的のためなら手段は問いませんか?」


 こくりとまた頷く。叶うなら何だってする。


「では、私、狭川響子にお任せいただけますか?」


 こくりと改めて頷く。響子と由真ならいい。


「ふふっ、ありがとうございます」

「何するの?」


 由真の問いに、響子はかつて見たことのないキメ顔でこう宣言した。


「3Pです。ぃたっ」


 すぐに由真に頭を叩かれ、4Pに訂正させられた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...