上 下
3 / 156
再会の始まり

義妹

しおりを挟む
| 藤堂 京介


 酷く記憶が曖昧になっていた家への帰り道を何とか思い出しながら歩く。

 途中、コンビニに立ち寄り、小学生の頃食べていた安いチョコを数個買った。

 歩きながら食べた。

 涙が出た。


 すれ違う人に驚かれながらも、止められなかった。
 一時期あんなに嫌いになっていたチョコレートがこんなに美味いなんて…

 懐かしい帰り道。

 まだふわふわとした気分で、まるで夢を見てるみたいだった。そう夢見心地だった。
 歩くたびに霞みがかった記憶の蓋がどんどん開いていく。

 自販機、郵便局、交通ミラー、横断歩道、信号機、小さな頃良く遊んだ公園。神社。小学校。中学校。川。橋。友達の家…そして。


 我が家。

 ああ、帰ってきた。

 その家の前には、ぽつんと一人の女の子が立っていた。


「おっそい!」

「……ぅん」


 僕にとっては5年振りだ。こいつにとっては朝振りか。いつもより遅いことはたしかに遅い、か…多分。

 なんと答えて良いのか分からず、適当に相槌してみた。

 懐かしいな。

 こいつの名前は藤堂未羽とうどう みはね同い年の義妹だ。

 中学1年の時、母さんの再婚相手が連れてきた。

 濡羽色の髪はストレートで長く、今はポニーテールにまとめてある。
 やや吊り目がちの双眸はぱっちりしていて、今は不安を写している。
 鼻筋はスッと結ばれ、形の良い唇は潤いで溢れ、開いた。


「…あんた、何かあった?」

「…何も」


 うん? いや、何もない。今日起きたはずの暴行は、じゃれ合いですらない。だから何も無いとしか言いようがない。

 何故か怪訝な態度を取ってくるな。いつもなら確か、罵倒するだけしてさっさと部屋に戻ってなかったっけ。
 昔はお兄ぃお兄ぃ言ってた時期もあったのにな。

 ああ、そうか。僕が目を合わせて話すからか。この頃は人の視線がなんかキツかったんだっけ。

 異世界でそんな事していたらすぐ死んでしまう。だから相対した相手の目からは離せなかった。
 何せ色々な情報が瞳には載っているからな。目を離した隙にブスリ、なんてゴロゴロ転がってるくらいの負けパターンだった。

 目に魔力を送り、きちんと義妹の目を見ると、心配、安堵、不安、発情……発情?!


 なんかいろいろ混ざってる色してるな…こんな思いしてたんだな。

 内容は複雑だけど。

 もっと嫌悪100とかかと思ってた。もっともこの悟りの魔法も100%当たるわけじゃないけど…異世界じゃないから、まあ当たるか…複雑だけど…


「っ、もういいわ。いつまで待たす気よ。早くご飯作ってよ」

「…っああ、わかったよ」


 そうか…高校生になってから僕も作っていたか。

 両親は海外へ赴任していたっけ。

 僕らが高校に進級する時に母さんは義父さんについていった。だからこいつと二人暮らし。

 こいつ、家に一人は寂しかったのか。当時は自分の事で必死だったからか全然分からなかったな。

 瞳の色から察するに、なんだ、ただのツンデレだったのか。


「ほら、行くよ」

「ああ」


 かと言ってもまあ、今はそれもどうでも良いけど。

ただいま。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀
ファンタジー
 東京の南はるか先、聟島に作られた魔法特区。魔法技術高等専門学校2年になった俺は、1年年下の幼馴染の訪問を受ける。それが、学生会幹部3人を交えた騒がしい日々が始まるきっかけだった。  これは幼馴染の姉妹や個性的な友達達とともに過ごす、面倒だが楽しくないわけでもない日々の物語。  5月中は毎日投稿、以降も1週間に2話以上更新する予定です。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

処理中です...