【R18】ポンコツ第二王子のやりなおし奮闘記

Cleyera

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本編

20 全力疾走、おれ!

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 牢屋を飛び出して、階段を四つ足で駆けあがる。
 普段は兄に教わった通り、使用人を驚かせないように二足歩行をしているけれど、こんな時に周囲に気を使うことなんてできない。

 思い切り床を蹴り、全力で踏み切った足の下で、薄い板が割れる感触が何度も続く。

 牢屋が城内のどこにあるのか、おれは知らない。
 半地下らしいことは土と水の匂いで分かるけれど、処刑された時は袋叩きにされて、気絶している間に放り込まれて、引きずり出された。

 今回も意識がない時に放り込まれたから、牢屋がどこにあるのか分からないままだ。

 とりあえず、走ろう。
 そう思いながら走った。
 顔を見たことがあるやつがいれば、と思いながら走っていたら、何人も集まっている護衛たちがおれを見て、お化けが出たぞ、と言いそうな顔をした。

 おっしゃ、おれを知ってるらしい奴らみっけ!

「兄上はどこだ!!」
「ひ、東棟にっ」
「ひがしとうどこだっ!!」
「で……えぇっ?
 ひ、東棟は東棟でございますっ」
「だから、ひがしとうってどこなんだよーっ!!」
「……えええー?」

 びびって硬直していた護衛たちが、おれが言葉を重ねていくたびに、脱力していく。
 なんでだよ!

 今までのおれは兄にくっついてたから、どこに向かって歩いてるかとか、全く気にしてなかったんだよ。
 背中かっこいい、髪の毛きらきらきれーしか思ってない。

 場所名を言われても困るんだよ!
 案内してっ!

「お、お供いたしましょうか?」
「うん」
「それでは前を失礼いたします」

 二人の護衛がおれの前に立って、ゆっくりと歩き出した。
 なんか知らないけど親切な護衛なのかな、この二人は。

「走ってくれない?」
「え、は、走るので?」
「うん、兄上のとこまで」
「あー、は、はいっ」

 おれが四つ足をついて走り出すと「お待ちくださいーっ!?」と背後で声が聞こえた。

 ぜんぜん本気で走ってないのに、追い抜いちゃったんだけど?
 早く来てくれよ。
 〝ひがしとう〟はどっちに行ったら良いんだよ!

 そういえば訓練の時でも、全力で走ったら護衛たちはついてこれなかったっけ。
 はーやーくーしーろー!



 おれに追いかけ回されて、ひぃこら言う護衛の後を追いかけて、ようやくひがしとうという場所に着いた。

 ここ知ってる。
 たぶん、国王がいる場所だ!

 おれを牢屋に放り込んだのが国王なら、おれがいないことに気がついてくれて、国王に抗議しに来た兄がピンチかもしれない。
 急げおれっ。

 思い切り踏むと、爪ががりがりと石の板を削る。
 べきり、と薄い床板が割れる。
 城内で全力疾走したのは初めてだけど、走りにくい。
 やっぱり土の上が一番だ。

「あにうえーっっ」

 吠えながら走る。

「あにうえーっっ」

 おれが油断したから、兄があああっっ。

 知らないうちにおれは泣いていた。
 口の中に涙が入る。
 幼い頃に兄が吸わせてくれたおっぱいのように、しょっぱい。
 でも、悲しいだけだ。

 また、兄のおっぱいが吸いたいよう。

 鼻をぐずぐず鳴らすと、兄の匂いを感じた。
 それを嗅いで兄の居場所を探す。

 どこだ。
 兄、待ってろ。
 おれが助けるから。

「あにうええええっっっっ」

 鉤爪で扉を開けることなどできないので、両開きの扉に体当たりしたら、メギョッと変な音がして内側に倒れてしまった。
 あれ、ここも腐ってたのか?
 ……鍵がかかってるっぽい手応えだったような。

「スー」
「あっ!、あにうえーっっ」

 飛び上がるように二足立ちになったおれに、兄が駆け寄ってきて、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
 兄だ、兄だっ、兄上だああっっ。

「あにうえ、あにうえっっっ~」
「泣かないで、大丈夫だよ、ほら、もう怖くないから」

 頭を左右に振ると、鼻先に兄の髪の毛がこすれる。
 鼻を鳴らして兄の匂いを嗅ぐ。
 大丈夫、変な臭いはしない!
 国王の臭いしない!

 よっしゃあああっっ!
 兄、無事だった!!

 安堵で力が抜けそうになるのを耐えて、周囲にも意識を向ける。
 文官に使用人、護衛が何人も室内にいる。

 そして目の前にいる人とは別で、おれの意識を逆撫でする臭いがある。

 とたんに、低く唸る声が出てしまう。
 そうだ、ここは国王陛下のいるところだった。

「大丈夫だと言ったよ」

 兄がおれの鼻先をそっと撫でる。
 ふわ、と嗅いだことのない臭いが一瞬したような気がしたけれど、おれが鼻を鳴らす前に兄が手を下げてしまった。

 兄の言葉で少しだけ冷静になれたので、周辺に警戒を向けてみると、薄暗い部屋の中には国王の臭いこそしているけれど、動きはないし声もしない。
 眠っているのか?

 天井から吊り下げた布のかけられた寝台の中に、国王がいるのは臭いでわかる。
 でも。
 なんだか、変?

「陛下は病の療養を理由に、退位を望まれている」

 兄がおれの腹をぽんぽんしてくれる。
 たいい?
 ってなに?

 兄に意識を戻して、なにそれ、と首を傾けるおれに、柔らかな微笑みを向けてくれる姿。
 なんてキラキラしてるんだろう。
 薄暗い部屋なのに、兄だけがキラキラしてる。
 ふわふわと光ってる。
 きれいだなぁ。

「現陛下の退位後、太子である僕の新王就任の周知を大々的に行う。
 ……それでね、王への就任と共に、王妃をメトらなくてはいけないんだ」

 話が突然すぎてついていけない。
 なに、なんの話をしてるんだ?

 国王が王をやめる?
 兄が王になる?
 王妃をめとる?
 めとるって……なに?

 理解できない、なにも考えられないけれど、おれが思ったことはたった一つだ。

「おれはもう兄上の側にいられないってこと?」

 兄が王になって、新しい王の妃が必要。
 妃って女だよな。
 たしか、王の子供を産むのが妃だって兄の教師が言ってた。

 その後で兄が反論してたけど、なんだったかな。
 王を補佐するのが妃だから、子供なんてどこからでも連れてくれば良い、だっけ?

 子供って、その辺にいるのを連れてきて良いものなのか?
 城の中で見かけたことないけど、城の外には子供がいっぱいいるのかもしれない。

 子種を注ぐと子供ができるのは知ってるけど、どうやって産まれるとか知らないからな。

 赤ん坊におっぱい飲ませるのは知ってる。
 あれだよ、兄の……ちんこ?
 おっぱいってちんこだったか?
 まあ、いいか。

 今の兄は、誰にも股を開いてない。
 おれが知る限りだけど、周囲の護衛や使用人を使うのに抱かせたり、抱いたりしてないと思う。
 
 でもそれは、おれがいるからかもしれない。

 兄と妃。
 二人が揃えば、そこに、おれの居場所はない。

 兄の治世におれはいらないのかもしれない。

 国王にまとわりつく獣の存在を、王妃になる誰かに受け入れてもらえなければ、おれは処刑されるのかな。
 それとも、城の外に追い出されるとか。

 そうか。
 ついに来たんだ。
 心に決めたことをやりとげる時が。

「そうではなくて」
「兄上」
「……なんだい」
「おれは兄上が決めたことに従うよ」
「……」

 おれが変わったのは、変われたのは、兄がいたから。
 たった一人で絶望しなくてよくなった。
 処刑された時のおれは、何も知らなかった。
 悲しさも喜びも楽しみも。

 今のおれは、全部知った。
 兄がおれを好きでいてくれたから、知れた。

「兄上がおれの全部だから」
「良いんだね?」
「うん」

 涙がにじんでいるのを見られたくなくて、目を閉じる。

 兄よりも背が高くなってよかった。
 泣き顔を見られずに済むから。

「嬉しいよ、新王妃として〝スノシティ〟の名前を国中に公布するから」
「うん……うん!?」

 涙って、一瞬で引っ込むもんなんだな。
 処刑された時とあわせて三十年くらい生きてるはずなのに、初めて知ったよ。
 人生ってすごい。

 人生の奥深さに驚いている場合じゃ無かった。
 王妃は女。
 おれは男。
 獣人なら良いなんて決まりは、ないよな。

「兄上、おれ、男だよ」
「そうだね、でも王妃が女性でなくてはいけない、なんて決まりはないよ」
「え゛!?」

 それ、初耳なんだけど。
 いやそもそも、おれって、この国の決まりとか知らない。
 ずっと城から出たことないもんな。

 あれ、でも、王妃って国王の子供を産むんだろ?
 ……おれは男だから、産めないよな?
 男でも産めるのか?

 そんなことを思っていたら、ぎゅう、と兄の腕に力が入った。
 なんだろうと首を曲げて下を見てみたら、兄の嬉しそうな笑顔がそこにはあった。

「王妃になるのは嫌ではないんだね、すごく嬉しいよ」
「あ」

 いや、嫌とか、まだ考える余裕がなかっただけなんだけど。
 それを言ったら、兄が落ち込むかな。
 言えないな。

 そう思ってしまうおれは、本当に王妃になるのは嫌ではないのかもしれない。

 
   ◆





護衛(?)1 (ええ、おいおい、ちょっと嘘だろ! ついさっき総動員でめちゃくちゃ苦労して、罪科人待機牢まで運んだ弟君オトウトギミが出てきたぞ!?)
護衛(?)2 (護衛で残ったあいつらはどうなったんだ?)
護衛(?)3 (そりゃ……)
護衛(?)1 (で、殿下の居場所は……あ、でも殿下が東棟の侵入禁止を厳命してるぞ)
護衛(?)4 (そんじゃどうするよ、殿下が来られるまで戻って待つように言うのか?)
護衛(?)3 (えーっ、興奮してる弟君に、一人で牢屋に戻れって言うのか?)
護衛(?)1 (あ、そうだ!、先に殿下に伝令を送って、その間にゆっくり遠回りしながら弟君を連れてくとかどう?)
護衛(?)2 (おー、それ良い、伝令頼むぞ、おれも一緒に案内役するわ)
護衛(?)1 (助かる、一人だと不安だよ)
護衛(?)3、4 (伝令役了解!) すたこらさっさ~

牢屋に護衛として残っていた護衛(?)はきっと崩れた石積みの下(´;ω;`)
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