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本編
11 大好きぺろぺろするおれ ※
しおりを挟むこの一件から、兄は二人で一緒になにかする時は、おれがしてはいけないことを、説明してくれるようになった。
今までは、おれが兄を守りたいと思っても、空回りしている気がして、虚しくなる事があった。
幼いから仕方ない。
そう思っていても、おれだけが兄にべったりとくっつきたがっているようで、悲しい気持ちになる時があった。
小さい体が憎かった。
硬くて鋭い牙と爪が欲しかった。
自分が無理の効かない子供であることが辛かった。
それが、説明してもらえることで、予定を調整してもらえるようになった。
これまでのように一緒にいるだけでなく、気持ちも兄に近づけた気がする。
おれと兄の間には、お互いの考えていることを伝える意思が、会話が足りなかったことが知れた。
三歳児に全てを説明する十歳児がいるはずもないので、これは当然か。
兄が歩み寄ってくれたなら、おれももっと変われるはずだ。
分からないこと、理解できないことを何度も聞き直して、納得するまで兄と話すようにした。
兄が勉強しているのを(うたた寝しながら)横で聞き、兄に作法を教わって(できないままだけど)、兄が剣を振る横で(ころころ転がされながら)体術を習うようになった。
何人かだが、おれに対して嫌悪を見せない護衛がいる。
その中の一人が、おれには剣術よりも体術が向いていると言いだしたのだ。
全身けむくじゃらの獣人であるおれの手は、人の手と形が違うから剣を振ることは難しい。
指をバラバラに動かせないので、人用に作られている剣の柄がうまく握れない。
長い鉤爪が邪魔になって、食器もうまく使えないままだ。
護衛に言われて、武器を使えないなら自分の肉体を武器にすれば良い、と気がついた。
前のおれは、栄養が足りていなくてガリガリだった。
戦い方なんて知らなかったのに、護衛を吹っ飛ばすことができた。
知識と経験を積めば、もっと強くなれる。
兄を守れるようになる。
兄が見ている前だけという約束で、護衛に体術を教えてもらっている。
ドジばかりふむから、兄はおれが痛い目に遭わないか、心配で仕方ないらしい。
体術を習うようになってから、おれはこれまで丸く削ってもらっていた手の爪の手入れをやめた。
訓練場内を四つ足で走ったり歩いたりしているうちに、自然に削られて尖っていくだろう。
その代わり、普段の生活では、兄が用意してくれた手袋をはめるようにした。
鉤状に曲がった爪先だけを覆う形で、手のひらは出ている。
爪が当たる先端の内側には小さな金属片が縫い込んであって、外側を綿と柔らかい革で覆ったそれは、外から見るとぬいぐるみの手に似ている。
兄が襲われた時のために、外し方も練習した。
……でも最終的には、革紐を食いちぎる事になりそうだ。
はめたまま平手で殴っても、大人をよろめかせるくらいはできる。
兄からの大切な贈り物だから、できれば壊したくない。
襲ってこないで欲しい。
ただ、一つ困惑していることがある。
この手袋をはめていると、兄が「すっごくかわいい」と言って、鼻先に大好きのぺろぺろをたくさんしてくるのだ。
初めは戸惑っていた鼻先への口付け。
今も好きとは言えない。
むきだしになった弱点だから、本能的な恐怖を感じて硬直してしまう。
でも、兄がおれに触れてくれるのは大好きだ。
おれから触れるのも。
手袋は、鋭く尖った鉤爪で兄を傷つけないために、絶対に必要なものだ。
兄にぺろぺろして欲しいから、はめてるわけじゃない。
違う。
夜中。
ふと目が覚めた。
「ん、っはぁ、っ」
なんだろう。
苦しそうな声が聞こえる。
誰の声だろう。
……一人しかいないだろ!
「あにうえっ!!」
がばり、と体を起こすと、寝台の近くに置かれている長椅子に兄がいた。
座面が寝台の方を向くように置いてあるので、前屈みになっていた兄の姿がよく見える。
兄の寝室の中は、常夜灯があるのでほんのりと明るい。
さらにおれは獣人だからなのか、暗いところでもけっこう見える。
「っ、スノシティ、どうしたの、お手洗いかい」
慌てたように、長椅子の上でひざを抱える兄。
ほとんど体毛のない、すべすべとした真っ白い足が曲げられている。
隠したいんだろうけど、おれは兄が下半身に何も履いていないのを見てしまった後だ。
さらに、何をしていたのかも。
処刑された時のおれは、ちんこを排泄にしか使ってなかった。
浮いて、国王と王妃に苦しめられる兄の姿を見て。
表情を失っていく姿を見たことから、ちんこに触れることは薄汚い行為だ、と思っていた。
でも、今はちょっとだけ違う気がしてる。
兄と一緒に行動するようになって、少しずつ文字が読めるようになって。
国王や王妃が兄に強要した、薄汚いと思っていた行為は、好きな人とするもの、と知った。
兄が毎日、鼻先をぺろぺろしてくれるのは、おれのことを好きでいてくれるから。
可愛い、ってほめてくれるのも。
抱きしめてくれるのも。
洗ってくれて、全身の毛づくろいをして、揉んでくれるのも。
兄は自分が努力するのは普通だと思ってるようなのに、おれが努力すると、すごくたくさん褒めてくれる。
「スノシティ?」
「あにうえ」
寝台から降りて長椅子に近づくと、兄が体を強張らせて向きを変えようとした。
「あにうえ、おれもだいすきってぺろぺろしたい」
「えっ?」
これまではずっと、兄がおれに好きだよと言ってくれた。
おれからは言えてない。
おれも、兄に〝好き〟を伝えたい。
弱点をぺろぺろするのが、好き、を伝える行為なら、人の弱点はそこしかないと思う。
まったく隠せてない、いつでもぶらぶらしてるちんこ。
体を守る被毛も、肉を食いちぎる牙も、引き裂く爪もない、人の肉体はどこもかしこも弱そうにしか見えないから、他に思いつかない。
就寝時は手袋をはめていないから、鉤爪で兄のやわらかい肌を傷つけないように気をつけて、ほっそりとした足へ手をかけた。
「あにうえ?」
足を開いて欲しいんだけど。
そう思いながら見上げると、兄の顔に見たことのない表情が見えた。
目を見開いてさまよわせながら、あうあうと口を開けたり閉じたり。
なにを悩んでいるんだろう。
ま、いっか。
両足の間に、爪が兄のちんこに当たらないように手を入れて、鼻先を無理矢理ねじこんだ。
うわ、兄の肌すべすべー。
このまますりすりしても気持ちいいかも。
兄がおれの腹毛に顔をすりすりするのと同じだよな。
「すっすのしてぃっっ!?」
なぜか慌てている兄の声が降ってくるけれど、おれは目の前でぴこん、と背伸びして主張しているものを見た。
やっぱり、見間違えじゃなかった。
兄のちんこが立ってる。
おれのより大きい気がする。
腹の中にしまえないし、被毛がなくて丸見えだからかな。
そんなことを思いながら、舌を伸ばして兄の股間をなめた。
牙が当たらないように、気をつけて、丁寧に。
ぺろり、ぺろり、となめると、先端からとろりと垂れてきた汁が舌に触れた。
なんだろう、汗かな?
「っあ、だめ、だめだよすのしてぃっ、や、だめだからっ」
しょっぱいけど、なんか、それ以外にも兄の匂いと不思議な味がする。
……おれ、この味を知ってる気がする。
なんだろう。
どこでだろう。
夢中になってぺろぺろなめた。
しょっぱいの美味しい。
兄の匂いがして、心が気持ちいい。
舌をからめるようにのばして、ぺろりとなめたら、唐突に思い出した。
おっぱいの味がする。
兄のおっぱい、ここにあったんだ。
どうして見つけられなかったんだろう?
ぽわぽわと、兄がおっぱいを飲ませてくれていた頃の幸せな気持ちを思い出す。
……あれ、これちんこだよな、おっぱいじゃないのかな。
ま、いいや。
幸せだから。
う゛く、う゛く、と赤ん坊のようにのどが鳴ってしまう。
「あにうえ、すき、だいすきぃ」
ぺろぺろとなめる合間に、一生懸命、告げる。
兄が大好きだってこと、守ってあげたいこと。
いつもおれを守ってくれてありがとう、ってこと。
たくさん言いたいことがあるのに、うまく言葉にできないことがもどかしかった。
◆
兄王子殿下の剣術鍛錬の相手をする護衛騎士たちの会話
護衛騎士1 「どうする、鍛錬とはいえ弟君に触れると殿下が怖いぞ」
護衛騎士2 「いや、でもよ、鍛錬無しって言うと弟君が泣くぞ?」
護衛騎士3 「弟君に触れて殿下に睨まれるより、弟君が泣く方が怖いだろ」
護衛騎士1、2 「「殿下がな!」」
護衛騎士3 「というわけで、弟君の相手、頑張れよ~」
護衛騎士1、2 「「こら、一人だけ逃げるな!」」
スノシティ 「あ、ほんじつもおねがいしましゅ!」 緊張しつつおててをそろえてぺこり
護衛騎士1、2、3 「(あ、かんだ、かわええ)……はぁい、ひっ!?」
兄王子殿下 「本日も、お願い、します、ね?」 きれいすぎるにっこり
護衛騎士1、2、3 「はいっっ!!」
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