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本編
06 大好きぺろぺろされて、決意するおれ
しおりを挟む兄にたっぷりと背中を撫でてもらって、おれはしっかり満足した。
自分がもこもこの毛玉になっていることを確認する。
兄と一緒に風呂に入るから、臭くもないし、汚くもない。
気を取り直して。
誕生日会は無事に終わった。
おれが気絶している間に、兄が国王にひどい目にあわされなくてよかった。
呼び出しはあったらしいが、倒れたおれの側にいたい、と兄が先んじて手紙を書いたらしい。
あの国王に、何を書いたんだろう。
今日のこの日を、手ぐすね引いて待っていたはずの国王が、そう簡単に兄の願いを優先するものか?
兄を強姦する気で、るんるんで待ってた(と思う)国王が、大人しく待つって。
なんか、怖いんだけど。
納得はしてないけど、これで、とりあえず一つ目の悪夢は回避した。
でもこれで、国王が諦めたとは思えない。
十歳の誕生日の当日という特別感がなくなっただけで、今夜にでも仕切り直しを求められる可能性はあるのだ。
むしろこれから先が本番だ。
周囲には敵しかいない。
国王。
王妃。
護衛。
使用人。
みんな、敵だ。
おれが、兄を守ってみせる。
誰にも体を差し出す必要がないように、おれが守るんだ。
「スノシティ」
「あいっ」
兄が名前を呼んでくれるので、ほとんど反射で返事をした。
おれに名前があることを知っているのは兄だけ、というかおれに名前をつけたのは兄だし。
処刑された時は〝スノシティ〟が、過去に兄が飼っていたペットとかの名前だったら最悪だ、と思ってた。
今では、おれの宝物だ。
兄がおれにくれた、おれが人からもらった、初めての贈り物だ。
振り向いたおれの両ほほに、兄の細い手が添えられた。
「大好きだよ、スノシティ」
「あいっ!」
おれも兄が大好きだ。
守ってみせるから!と意気込んだその時。
ぺろり、と兄がおれの鼻先をなめた。
「……っっみゅあっ!?」
「ふ、くふふっ」
おれが変な声をあげる姿を見た兄が、嬉しそうに微笑む。
「これは、大好き、同士がすることだよ」
「みゅ、ふみゅうっ」
ぺろ、ぺろり、と敏感な鼻先をなめられて、兄の香りを、体温を、直に感じてしまう。
兄が何を考えて、おれの鼻先をなめたのかなんて知らない
相手が敵なら、弱点に大人しく触らせたりしない。
でも、この時は動けなかった。
二歳の体では、この胸の奥にある喜びを処理しきれなくて。
兄に大好きと言われて、触れてもらえることが嬉しくて。
◆
おれは、いざという時にだめなタイプらしい。
処刑された時も、今回の誕生日会も。
おれが何かしようとすると、最後に大失敗をする。
でも今回は、おれの失敗を兄本人が挽回してくれた。
すごくへこむ。
でも、結果的に兄の心身を守れた。
兄の誕生日から十日が経つけれど、国王からの呼び出しはない。
沈黙を守る国王が不気味だ。
不安を抱えたままのおれは、ずっと兄にくっついて過ごしている。
いつか、うっとうしいって放り出されないか心配になるくらい、兄にくっついてる。
兄にくっついて過ごす日々の恩恵を、万全に受けながら、神経をはりつめ続けるのはとても大変だ。
兄を狙っている、うさんくさい護衛が当番の時は、いつでも体当たりできるように構えておく。
噛みつきとひっかきは、危ないからだめだって。
まだ、牙が生えてきてないからな。
かみついたら、おれが痛くなるからだめだって。
ひっかきも、爪を痛めるからだめなんだって。
そんなにやわじゃない、と思う。
二歳の爪って、やわらかいのかな。
後宮にいた時は、兄が頼んでくれなければ食事にもありつけなかったが、今は一緒に過ごすことで、兄が自分の食事を分けてくれる。
とても美味しい。
おやつも食事も、食べたことがないものばかり。
なんで兄の食事の中に、おれが食える離乳食が用意されているのか、この時は考えもしなかった。
そして、使用人が後宮に持ってきていた、食事という名のものが、捨てる前の残飯や生ゴミだったのだと、おれは知った。
第一王子である兄に、誰かの食べ残しや野菜の皮や種を食べさせようとする者はいない。
もし国王に伝わってしまったら、職を失うどころではないだろう。
栄養が足りているからなのか、兄が風呂上がりに全身を揉んで、ブラッシングしてくれるからなのか、おれの毛艶は過去最高に良好だ。
処刑された時は、いつでもどこかにはげやぼろぼろの場所があって、虫に刺されたみたいに全身がかゆくてたいへんだった。
あれは、食事の量も質も足りてなかったから、なのか。
まだらの入ったねずみ色だと思っていたおれの被毛は、青みがかった白銀色だった。
一応、この国の王族の血を引いている……からなのか?
王妃も継承権持ちの王族で、白銀の髪してるもんな。
今のおれは、兄の足元でちょろちょろする白銀の毛玉。
光の加減でちょっと青く見えるくらいだ。
攻撃力も危険性も、無さそうに見える方が良い。
まだ使えないけれど、牙も爪も、いざというときに取っておくべきだ。
見た目については、このまま兄にくっついていたら、今以上にもこもこになりそうな予感がある。
お風呂に入らない日でも、兄はおれをブラッシングして、全身を揉みほぐしてくれる。
気持ちよくて変な声が出ると、兄が笑うので恥ずかしいけれど、止まらない。
「ん、っん、あにぃえっ、みゅう~っ」
「ここが気持ちいい?」
「うん、しょこ、きもちー」
二歳児だからではなく、兄の手ででろでろになってしまい、うまく話せない。
最近は、もういいやと開き直ることにした。
「きれいになったよ」
全身をブラッシングしてもらって、すっきり。
もみもみしてもらって、全身ポカポカでほっこり。
きっと今のおれは、どこからどう見ても、良くできたぬいぐるみだろう。
そういえば、と兄の寝室の中を見回す。
処刑された時は、ほとんど兄の部屋に入ったことがなかった。
それでも部屋中に、たくさんぬいぐるみが並んでいたのに気が付いていた。
白いぬいぐるみを集めるのが趣味なのかと思ってたんだけどな。
今は、ひとつもない。
あれかな、おれがぬいぐるみに嫉妬するとか思ってる?
これでも中身は十六歳だから、兄がぬいぐるみを持っていても、すねたりしない、つもりだ。
だっこ最優先はおれじゃないと泣くけど。
「もう、ねようね」
長椅子から降りて、兄と手をつないで寝台へ向かう。
おれが過剰に兄から離れたがらないせいで、ほんのわずかの距離でも、兄が手をつないでくれるようになったのだ。
おれの鉤爪で、兄のやわらかい肌を傷つけないように、使用人の女に、いやいやだけれど、爪の先を丸く削ってもらっている。
二歳児の爪はやわらかいって言われたけど、爪は爪だろ。
こればっかりはヤスリを使うから、大人でないと難しかった。
毛布をめくりあげた兄が、ぽんぽん、と布団を叩いておれを呼ぶ。
「あいっ」
いつになったら、おれは「はい」って言えるようになるんだろうな、と思いながら布団に潜り込み、兄の腹にしがみついた。
初めて抱きついた日に、細いなと思った兄だが、やはり平均よりも痩せていたようで、おれと一緒に食事を取るようになってから、食べる量が増えて助かる、と使用人が言っているのを聞いた。
それが良いのか悪いのか。
なにがどう助かるのか。
兄一人が少し多めに食べることで、何かが変わる。
それなら、以前と全く違う動きをしているおれは、どうなんだ。
以前と違う行動をおれがとることで、運命が変わるなら。
変えてみせる。
もしも、食欲が旺盛になった兄が、肉をたっぷりたくわえて巨漢になったとしても、守りたい気持ちは変わらない……はずだ。
おれよりでかくなったら、どうしようとは思う。
今回は、兄を抱えて逃げるつもりで、食事をもりもり食べてるのに、兄の方が大きくなったら困るな。
そんなことを考えながら、兄の心臓の鼓動をもっと聞きたいと、耳を押し付ける。
すべすべの寝衣の下の細い骨と、華奢な肉体。
一番大切な、優しい心。
全部、守りたいんだ。
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