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本編

01 なにも知らなかったおれ ※

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お初の方もお久の方も、ご来訪ありがとうございます
ポンコツ主人公(獣人)が前向きに頑張ります!

性描写含むは題名に※で、ぬるい※は08からです
ちょこちょことぬるい※があります
タグにあるように、父母と兄のあっさり※があります
03から血生臭さの少ない日常になりますので、お付き合いくださると喜びます

主人公のモデルは、とある食肉目の大型哺乳類で
グレイシャー◯◯◯
ブルー◯◯◯
スピリット◯◯◯
カーモード◯◯◯
ゴースト◯◯◯
と別名が多く「兄上、いっぱいあるのすごい?」と褒めてアピールで照れ2モジ2する主人公









   ◆
 

 ズシャアッッと派手な擦過音を立てながら、ギロチンの刃が木枠の左右に作られたみぞを滑り落ちる。
 その鋭く研がれた先端が、おれの首を切断する瞬間。

 泣き叫び、絶望の表情で崩れおちる兄を見た……気がした。



 おれは、生まれつき王位継承権を持たない第二王子として、この世に生を受けた。
 継承権を持たない理由は、おれが国王にこれっぽっちも似ていないから。

 目の色や髪の毛の色が違う、なんて生やさしいものではない。

 種族が違うのだ。
 父母である国王と王妃は人なのに、おれは獣人の赤ん坊として生まれた。

 疑うまでもなく、もちろん父親は国王ではない。
 先祖返りの可能性もない。
 聞いた話だが、この国は数百年をさかのぼっても、人のみが住んでいる国だ。

 まあ、正確に言えばどこもかしこもまったく王子ではないけれど、一応、第二王子扱いなのだ。
 公式には存在してなくても。

 王妃が身籠った前後で、獣人国の使節団が国を訪れていたことが調べられ、不義の子として殺される寸前だったおれを、兄である第一王子が救ってくれた。

 七歳年上の兄は、成人後に〝美氷の王子〟と呼ばれる、男にしておくにはもったいないほどの人族的美貌の持ち主だ。

 その兄が「あかちゃん、かわいいね」と国王に言った。
 ただそれだけで、おれは生かされた。
 第二王子になった。

 おれを殺したら兄が悲しむかもしれない、そんな理由だけで。
 王城の最奥の後宮に放置されるという形であっても、生かされた。

 全部、使用人たちが話していたことで、真実は知らない。



 日々、誰にも愛されていないと感じ、そのまま育った俺は、盛大にひねくれた。

 生まれ持った身体能力で、後宮の備品を壊しまくった。
 目につくものの全てに暴力を振るった。

 兄が訪れて、おれに生ぬるい説教をする以外は、気楽な生活だった。

 王子としての教育を受けることもなく、人の国に獣人の名前だけ王子の居場所なんてない。
 獣人の血を引く体の奥底にある、本能を満たすこともできない。

 おれは絶望していた。
 このまま愛玩動物のように飼い殺しにされるのはごめんだ。
 本気でそう思っていた。

 だから、暴れてやった。
 国をひっくり返してやろうと、王家の滅亡を狙った。
 全員、死んでしまえと願った。

 策はなく、味方もいない。
 たった一人の反乱がうまくいく理由がない。
 身体能力頼みで暴れまくった挙句に、おれは捕らえられた。

 そして十六歳の成人を迎える日、おれは吹雪く中で非公開に処刑され、首を落とされた。

 ……はずだったんだ。





 ふわふわと空中に浮いている。
 ここはどこだ。
 兄は、泣き崩れた兄はどうなった。

 まさか、あの兄が。
 凍りついたように、いつでも美しい顔を動かさない兄が、おれのために泣くなんて思わなかった。

 幼い頃から、兄だけがおれを心配してくれた。
 兄だけが、おれを家族として扱ってくれた。

 でもおれは一度だって、兄を敬わなかった。
 すねて、ふてくされて、ひねくれた。
 どうしておれは、兄だけは嫌いじゃないと言わなかったんだ。

 そう思った途端に、目の前に見たことのない光景が広がった。

 目がちかちかするほど派手で、下品な寝室だ。
 おれには体の感覚がなくて、ふわふわと浮かんだまま。
 自分の意思では動けない。

「いや、やめ、て、……さまっ」
「良い子だから大人しくしていなさい」
「やだ、やああっっ、いた、いたいっっ」

 おれは呆然とその光景を見た。
 見ていることしかできなかった。
 おれが生まれたその日に、あっさり「殺せ」と口にしたという男、血のつながらない父親で国王が、子供の兄にのしかかっていた。

 嫌がって暴れる兄の腕を縛りあげ、仰向けにベッドに押し付けるようにして、幼い兄の尻の穴に自分の薄汚いものをつっこむ姿は、反吐が出るほど醜かった。

 なにしてんだ、このジジイ。
 頭がおかしいぞ、コイツ。

 首を振りながら暴れ、痛みに泣き喚く兄の尻は血まみれで、成長とともに表情を失くし、美氷の王子と呼ばれる姿になる前だった。

「とうさま、やめて、いたいっ、やだあっ」
「大丈夫、すぐに気持ちよくなる、体が育つ前から仕込んでやるからな、……うっ」

 なにもかも、めちゃくちゃだ。
 国王は自分の息子に欲望をねじこみ、そして、情けないほどすぐに中で放った。

 満足そうに息をつく国王。
 兄は「もうやめて」とぐずぐずと泣き、そして、その姿を見ていやらしい笑みを浮かべた国王は再び……ああ、覚えてる。

 この日の午前中に、兄の十歳の誕生日会が城の庭園で開かれていた。
 大勢に愛されて望まれている兄が憎くて、日付が変わって警備の薄くなる夜明けに、兄の部屋に忍び込んで。
 高熱を出して寝込んでいる兄の姿を見た。

 誕生日会の直後に寝込んでる?
 なんで?

 兄に八つ当たりに来たおれは、ひどく苦しそうな顔をしている兄を見て驚いたけれど、不満をぶつけるように叫んでから後宮に逃げ帰った。
 おれを放っておくから、ひどい目にあったんだ。
 そんなことを口にした気がする。

 まさか、これが、兄が寝込んでいた原因なのか。
 苦しそうにしていた原因なのか。


 ショックを受けていたら、目の前の光景が変わった。
 また知らない部屋だ。

 派手でけばけばしくて、目に痛い。
 国王の寝室と装飾が違うけれど、ごてごてしていることは変わらない。

 でもその部屋の中央の椅子に座っているのは、王妃。
 おれと兄の生みの母親だ。
 生みの親とはいえ、顔を見られた瞬間に甲高い声で怒鳴られて、近づけば蹴飛ばしてくるクソババアでしかないけどな。

 王妃は兄にさかんに茶を「飲め」とすすめていて。
 兄が「苦いので苦手です」と断ると、無理矢理カップを口元に押し当てて、強引に飲ませた。
 それも何杯も。

 兄の姿をよく見れば、十歳の頃よりも少し成長している。
 その顔は、すでに凍りついたような無表情に、ほんのりと口元だけが歪んでいた。

 王妃はなにやってるんだろう、と見ているおれの前で、ゆっくりと兄が長椅子に倒れ込んだ。
 震える指先が、兄の具合が悪いことを語っている。

 医師を呼ぶのかと思えば、王妃はにんまりと笑った。

「今日の薬はよぉく効くでしょう?
 精通おめでとう、お祝いにお母様が女の味を教えてあげるわね」
「あ、て、やめ……かあ、さまっ」
「だいじょうぶよ、辛くも痛くもないわ、とっても気持ちよくなれるのよ」

 顔を分厚くけばけばしく塗った王妃は、自分のドレスをたくしあげて、下着を履いていない下半身を晒すと苦しむ兄の上にまたがった。
 怖気のふるう行為を行うために。

「あぁ、ふふふ、まだまだ幼いけれど、今日から一人前になるわね、これからはたくさん可愛がってあげるわ」
「っ、あ、やだ、やめっあ……っ」

 飲ませられた茶に、なにかの薬が入れられていたのだろう。
 震える体では逃げることができずに、兄は王妃に下半身を露出させられ、望まぬ行為を強制させられていた。

 やめて、いやだ、と細くあげる悲鳴は、部屋の外へ届かない。
 すでに兄の表情は凍りつき始めて、涙だけが瞳からこぼれおちる。

 動かない表情なのに、兄が諦めたことを、おれは知った。

 おれは今の自分に体がないことを悔やんだ。
 ふわふわと浮かぶだけで、兄を助けられない。

 覚えてる。

 優しくて、後宮に来てくれた時はいつでも微笑んでいた兄は、成長とともに表情を失っていった。
 王族の長い白銀の髪と、薄い青の瞳の色味から、美氷の王子と呼ばれるようになった。

 その変化が、国王と王妃によってもたらされたものだとしたら。
 おれは兄の何を見ていたのだろう。

 後宮に一人きりで押しこめられていたおれの元に、唯一来てくれるのが兄だった。
 勉強の合間に抜け出してきているのか、いつも息を荒くして、おれの名前を呼んで駆けてきた。

 おれが自分の足で後宮を出れば、待っているのは罵倒と暴力だったから。
 兄はいつも来てくれた。

 満面の笑顔でおれに笑いかけ、獣人の証であるけむくじゃらの体を、優しく撫でてくれた。
 美味しい食事を、用意してくれた。

 兄だけが。
 兄だけだったのに。
 どうして、おれはっ……。

 
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