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シャンプルディ
01 美神な嫁は夢か現か幻か ※
しおりを挟む体を包む熱を感じて目を開くと、鮮やかな銀色が見えたので、寝ぼけたまま手を伸ばした。
寝床部屋に、こんな綺麗な色のものが置いてあっただろうか?と思いながら、指を埋めた銀色のものは、こしのある暖かい被毛だった。
「……夢か?」
寝起きで掠れた声が、静かな部屋に響いて消える。
目を凝らして耳をすませてみれば、かすかな寝息が、ゆっくりと上下する銀毛から聞こえている気がした。
白く細く奇妙に骨ばった、無毛の指でかき分けた豊かな被毛の奥には、石炭のように黒々とした皮膚があって、暖かくてしっかりとした弾力を返してくる。
皮膚の下に感じる肉のしっかりとした質感、触れただけで感じとれる美しさに、畏敬の念があふれてしまい、毛に埋めた手が勝手に動いた。
毛の質はごわついて硬いけれど、普段から丁寧に毛づくろいをしていることが分かる、広く平らな銀毛の背中は、撫でて愛でる対象として最高だった。
「ん……」
無遠慮に被毛をかき回してしまったからか、銀毛の背中がうねってゆっくりと寝返りを打ち、その寝顔がこちらへと向けられた。
嗚呼、これは夢だ、夢に決まってる。
夢でなければおかしい、こんなことありえない。
手を伸ばすまでもなく触れられる距離に、美しい神がいた。
俺の目の前に、子供のように安らかな寝顔の、美の極致が存在している。
頭頂から足までをみっしりと覆う、豊かな黒毛。
被毛に覆われている筋肉質で太く長い腕、分厚くていかつい肩、たっぷりと肉のついた尻から続く足も太く、毛のない部分の肌は黒々と艶めいている。
立った身長は俺とほとんど変わらなかったはずだが、昨日のことが夢でなければ、体重は立派な体格に相応しく、俺の倍以上あるだろう。
記憶の中で、溶けたように緩んで甘えてきた彫りの深い顔は、眠っている今では幼子のようにあどけなく、可愛らしいとさえ感じてしまう。
これが夢や妄想の産物でないかを確かめたくて、俺は眠る美神の豊かな胸元へ両手を伸ばす。
嗚呼、暖かくて心地よい。
……触れたら消える、そんな予想に反して、俺の手は柔らかくも弾力に満ちた皮膚に触れ、滑らかな黒い肌が俺の白すぎる手の中で形を変えた。
叫びださなかった俺自身を、褒めたい。
毛の生えない薄気味悪い指を食い込ませて、手の中の暖かい肉を揉みながら、昨夜のことを思い出す。
今、俺の寝床で眠っている、美神のごとき存在のバンマヌッシュが、俺に「好き」と伝えてきたことや、「抱いて欲しい」と頼んできたことは、夢ではなかった……ようだ。
この街に来てから、何もかもがおかしい。
どうして、こうなったのか。
醜い流れ者の傭兵の俺に絡んでくる、美神の行動の理由を冗談か嫌がらせだろう、と思っていた。
真実を知るために、傭兵斡旋所に〝街一番の美神バンマヌッシュ〟の素行調査依頼を出したが、それで得られたのは俺の想定の真反対の結果だった。
調査内容の詳細を聞けば聞くほど、信じられなかった。
街ぐるみ、いや世界中が俺を騙そうとしているのか、と本気で疑っていた。
虚偽の情報を与えられたのだと、思っていた。
調査結果によると、美神は心身ともに街一番の美人で、その性格まで聖人もかくやと気高く、それでいて身持ちは固く、これまでに特定の雄との浮ついた噂はない、ということだった。
俺はこれを信じてなかった、信じなかった俺自身を恨んだ。
……昨晩、俺は間違いなくバンマヌッシュの純潔を奪った。
周囲にはうまく隠しているだけで、とっくに雄を知っている、それどころかとっかえひっかえして、毎晩違う雄を腹に咥えこんでいるに違いないと思い込んでいた。
それだけに、うぶな様子で頬を染めて初めての経験に怯え、震えながら甘えてくる痴態に燃えあがって、抱きつぶしてしまった。
俺が美神の初めてを奪った……だが、美人で聖人なバンマヌッシュが、なんのために俺を受け入れたのか、確固たる理由が得られていない。
正視できないほどの醜さと、躊躇なく相手をぶっ潰すことから〝悪鬼の如きシャンプルディ〟と呼ばれている傭兵の俺に、抱かれた訳。
俺が生きてきたこれまでで、誰かに好きだなんて言葉を与えられたことはなかった。
信じて良いのか、判断がつかない。
いいや、やはりこれは夢に違いない。
俺の願望がひどくなりすぎて、一人寝が寂しくなりすぎて、理想の美神を妄想で見ているだけだろう。
「……ん……ぅ」
そこだけ毛のない、黒く艶光る盛り上がった胸を、自身のなまっちろい指で、丁寧に優しく揉みしだく。
左右の胸の先端にある小さな尖りをつまんで、痛みを与えないように転がしていくと、寝ている美神が甘えたような音を鼻から漏らした。
いいや、まだだ。
俺はまだ、夢を見ているのだ。
こんなに魅力的な存在が俺の寝床にいるなんて、夢としか考えられない。
片手で、もっと触れて欲しいと立ち上がった胸の尖りを愛撫しながら、昨夜の俺の妄想の中で「初めてだから……」と怯えるバンマヌッシュをなだめすかして、たっぷりと雄の味を教えた蕾へと空けた手を伸ばす。
なまっちろい上にずるむけの無毛、武器としても使えないような貧弱な爪しか生えない俺の手だが、性交相手を傷つける心配がいらないという点では、初めて醜い姿でよかったと思えた。
どれだけ金を積むと言っても、ほとんどの娼婦が俺を受け入れることを拒絶する。
金が目的の最底辺の娼婦だって、俺の股間にぶら下がる雄の外性器を見るなり、真っ青になって「命だけは!」と命乞いを始める。
それなのに、バンマヌッシュはそんな俺を受け入れたのだ。
俺は昨夜、この美しい黒く艶やかな被毛で覆われた肉体に、抱擁をおくり、全てを舐めて、全てに口付けて、全ての場所に噛みあとをつけた……はずだ。
夢中になりすぎて、覚えていないだけなのか、何もかもが俺の妄想だったのか。
今、確かに見えているはずの目の前の美神でさえ、幻なのかもしれない。
美神のしっかりと大きくて形のいい尻臀の谷間、豊かな被毛を掻きわけた先の蕾は、簡単にほころんで、柔らかく俺の指先を受け入れた。
……嘘じゃないのか、本物?幻じゃない?
すごく柔らかいのは、昨夜、俺を受け入れたから?
いいや、これは寝ているからだ。
無防備に全身を弛緩させているからだ、きっと、そうだ。
確かめないといけない。
本当に美神が、昨夜、俺を受け入れてくれたのか。
そう思うだけで、俺の股間のものは生っ白い無毛の腹にくっつくほど勃ち上がり、長年の戦場づきあいで全裸姿さえ見られている傭兵たちにすら「ウゲぇ、デカすぎ」とか「ありえないぐらいキモイ」と言われる大きさに育ってしまう。
横向きで安らかに寝ている体を、抱え込むように優しく仰向けにして、毛深くて筋肉質で太くて最高に肉感的な足を左右に押し広げた。
中心から左右に割れるように毛が流れる腹部の下、股間を覆う毛の中に、小さくて可愛らしい外性器の頭が覗いている。
愛撫したい気持ちを堪えて、広げた足に手をかけて腰を持ち上げるように力を入れると、黒々とした蕾が俺の目の前に現れた。
昨夜の記憶が本当なら、何度も俺を受け入れたはずの蕾は、まだふっくらと柔らかく膨らんでいるようにも見える。
そこを見ただけで、これ以上ないほど硬くなり、だらだらとよだれを垂らす己の反応に呆れながら、まだ夢が続いていることに眉を顰めた。
「……ん……」
両足を大きく開かれ、腰を持ち上げられた体勢が辛いのか、バンマヌッシュは小さく呻いて彫りの深い顔立ちを少し歪める。
そんな表情の変化が、目の前にいる存在が神ではなくて血肉を備えた生き物だと、俺と同じように生きているのだと教えてくれているようだったが、そんなことで俺の疑いの気持ちは晴れなかった。
関節の形がおかしい無駄に長い足を、たっぷりと肉付きのいい尻の下に押し込むように揃えてから、蕾へ指を添えてゆっくりと押し込んでいく。
俺の夢だからだろうか、バンマヌッシュの艶めく黒い蕾は、俺の指を喜んでいるように形を変えると、滑るようにたやすく飲み込んだ。
痛くないだろうか、と不安になりながら指を一本増やすと、それすらも喜ぶように食われてしまう。
中に指を半分入れた状態で指を開くと、ぬかるんだ腹の中が濡れたように光って見える。
嗚呼、とろけている。
俺に入ってきてほしいと、よだれを垂らさんばかりに懇願しているのか?
これが、夢でなければ、なんだというのか。
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