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昼中の睦言 前 ※ 人×人
しおりを挟む今日もまた、おれの部屋にエト・インプレタ・エスト・コル・メウムが来た。
つまり……そういうことなのだろう。
初めて抱かれてから、必ず毎日、部屋に来るエト・インプレタ・エスト・コル・メウムに、少し困っている。
抱かれるようになる前も毎日来てくれて、おれが眠れているか、食事が足りているか、と細やかに気遣ってくれていた。
これまでの優しさがあるから、とても「来るな」と言えない。
もし来てくれなくなったら、おれが耐えられない気がする。
「さ、横になるが良い」
「……」
明らかに、やる気だ。
困る。
昼の軽食が済んだばかりなのに。
初めの日こそ、腹が熱くなって痛くて、死ぬのではないかと怖かった。
けれど、その翌日からは、怖い、の理由が変わってきている。
おれは、おれが怖い。
いつか、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに側妃みたいにねだってしまうのではないか。
愛妾のように、快感で獣のように吠えてしまうのではないか。
ずっと、嫌いだと思っていたのに。
自分がそうなるかもと思うことが怖い。
もしかしたら、すでになっているかもしれない。
「どうした?」
ぽすぽすとおれの枕の形を整え、上掛けは邪魔にならないように、と足元へたたみ。
準備万端、と立っているおれを見上げる子供。
全てがきらきらしい。
柔らかそうなほほや唇が麗しい。
伸ばされる指先がたおやかで、その手にすがりたくなる。
子供の姿なのに、おれを抱く時は男でしかない。
龍の姿で巻き付かれているから、男というより雄なのか。
「今日は……昼寝したい」
「ふむ?、そうか、それなら一緒に寝ような」
ころんと転がって、横に来いと手を伸ばされて。
安心して細い腕の中に潜り込んだ。
腰帯を緩めて、息を吐く。
抱かれたいと、自分からすりよる日が来そうで。
それが、怖い。
そう思いながら、目を閉じた。
おれの毎日は、ほとんど同じ流れだ。
朝起きて、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに食事を与えられる。
相変わらず何を食べさせられているのか、分からない。
食後から昼までは自由に過ごす。
書庫から建国神話の貴重な原本を持ち出しているので、体が動く時は読むようにしている。
つまり、ほとんど読めていないということだ。
エト・インプレタ・エスト・コル・メウムから聞いた内容を確認して、間違っているときは注釈を新しい紙に書いていく。
書き込んだ紙をどうするかはまだ決めていない。
原本に書き込むことは、流石にできなかった。
まるで歴史学者の真似事のようだが、おれの性格に合っていたようだ。
御典医の爺さまに基本の読み書きは教わっていたけれど、おれが読んだことのある神話は、子供用の簡単な書物だった。
原本には難しい単語が多いので、字引きを使いながらになる。
原本も子供用も、本筋の内容は変わらないけれど、情報の量が段違いに多い。
なぜか落ち着く。
おれは、本を読むのが好きだったらしい。
建国神話の原本は全五冊。
紙は貴重品なので、一冊あたりは分厚くないけれど、いつかおれの手で間違いを直して、正しく編纂したい。
あと、紙が古くなっている箇所を補修したい。
補修の方法がわからないから、その項を新しくするか、いっそのこと一冊すべて書いた方が良いのか。
読みやすくてきれいな字を書く練習から始めないと。
そんな風に過ごしていると昼になる。
時間を知る手段がないので、昼ごろというべきかも。
「軽く食べぬか?」
「ありがとう」
健康になったおれは、腹が減って仕方がない。
部屋を覗きに来てくれた、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに喜んで返事をする。
軽食を食べさせてもらうと、なぜかそのまま寝室に連れ込まれ、流れるように抱かれることになる。
まだ昼なのに。
そう思いながら、頭が真っ白になるまで受け入れてしまう。
気がつくと朝。
どれだけ寝ていたのか不明だけれど、一晩だろう。
朝食を食べて。
体が動くなら本を読む。
動かなければもう一度寝る。
昼になればエト・インプレタ・エスト・コル・メウムが来て。
そんな生活だ。
「何を考えておるのだ?」
細い腕に抱きしめられて、髪の毛を撫でられながら考え事をしていてはいけなかったのか。
そう問いかけてくる声が少し硬い。
目を閉じたまま答える。
「……特になにも」
嘘ではない。
おれの生活、こんなんで良いのかなと漠然と思っていただけで、改善しようとか、今の生活がどうこうとは思ってない。
結局、おれは満たされていることが怖いのだろう。
今までは、真夜中以外は気が抜けなかった。
母と一緒にいる時だけは襲われなかった。
兄弟姉妹にも絡まれない。
真夜中なら、王だって眠る。
「本当にか?」
そう言いながら、するりと、前合わせから滑り込んでくるほっそりとした手。
なぜかおれよりも体温が高くて、熱い。
指先に、ぴん、と胸の先端を跳ねられて、体が勝手に震えた。
「んっ」
エト・インプレタ・エスト・コル・メウムが大好きらしいおれの体は、少し触れられるだけで大喜びで返事をするようになってしまった。
おれ自身も好きだけれど、まだ、性交に至る気持ちが追いついていない。
「我と共にあるのは苦痛か?」
「それだけはないから!」
いつも気持ちを先回りしてくれるから誤解していたのだろうか。
エト・インプレタ・エスト・コル・メウムは、おれの心を読んでいるわけではないのだ。
「ならば」
「え、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに抱かれたいと思うのが怖い」
嘘はつかない。
嘘がつけない。
どちらだろう。
どちらでも一緒か。
「ふむ?」
「嫌われたくないんだ」
エト・インプレタ・エスト・コル・メウムが何を考えているのか、おれには分からない。
それが怖い。
番だと言われて、大切にされて、身も心も満たされた。
おれは何も持っていなかったから、今の幸せは手に余る。
幸せすぎて、身動きが取れない。
「我が其方を嫌うことは無いと思うが、まあそうだの……抱いて良いか?」
「う……うん」
どうして今の会話内容から、性交の話になるんだ。
いつも話が急展開すぎる。
何を考えているのか、本当に理解できない。
頭の中がめちゃくちゃなのに。
おれの頭は勝手に頷いていた。
今も、おれの頭の中は混乱したままだ。
「ど、どうして、な、っひゃあっ!」
うつ伏せに寝台の上に転がされて、腹の下に丸めた掛け布団を押し込まれたかと思えば。
人のままのエト・インプレタ・エスト・コル・メウムの手が尻にかかり、左右に広げられると同時に陰茎が穴に押し込まれた。
おれの体が完全に馴染んだことで、尻を洗うことも広げることも不要になった。
今朝、そう教えられた。
柔らかくほぐされる自分の股間を見続けるのが辛かったから、あの工程が無くなったと知り、ものすごく嬉しいと思った。
でも違った。
あの、どうしてよいか分からなくなる工程で、諦める……というか慣れる時間があったから、おれはエト・インプレタ・エスト・コル・メウムを受け入れられていたらしい。
そうだよ、あれがないってことは、いきなりってことだ。
心の準備をする時間がない。
これまで、子供を孕むために必要と言われ、陰茎を受け入れる時は龍のような姿になっていた。
自分で制御できる訳ではなく、気がつくと変わっている。
人の姿では子供ができないのに?、と必死で首を捻ろうとしても、背後から体重をかけられてできない。
枕を抱えて震えながら、体の奥を目指してくる熱に、耐えることしかできない。
「我はのう、どうしても子が欲しいわけではないのだぞ」
「ひ、ひぃっ、やめ、そこ、やめてっ」
腹の下に丸めた布団があるからなのか、入ってくる熱に中がこすられるのをすごく感じる。
腰から下が溶けてしまいそうだ。
「其方の体は素直だと言うのに、のう?」
「ひっ、ぃいっっ」
ぐり、と中から腹側をこすられて、同時に陰茎を握られた。
ぬるぬる、と細い指先で先端を揉み込まれながら、おれはまた入れられただけで射精してるのか、と気がついた。
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