【R18】A pot of gold at the end of the black rainbow

Cleyera

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15 守護者とは

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 そして宣言した通り、翌日。

 昨晩調べた城奥の書庫に、男同士で性的な交渉をする方法の書かれた書物はなかった。
 少しでも考えれば当たり前だ。

 城奥にいるのは、王族か城の奥で働く者ばかり。
 書庫を利用するのも同じ人々。

 つまり、城奥の書庫には城で働く者に必要な本しか置いてない。
 娯楽本や趣味に関するものは、公表区画に近い大書庫にあるのだろう。

 国の運営に必要な国法書に始まり、過去政策のまとめや兵法書、過去の王族史や重たい内容のものばかり。
 背表紙だけで判断したから、求めている書物のある可能性も残っているけれど、誰もいないまま探すのが大変過ぎた。

 知識を得るのは無理、ということで、おれは素直に教えを乞うことにした。

 自力でどうこうするのは諦めた。
 何をするのかすら知らないのだから、とっかかりの情報すら手に入らない状態で、どうしろと。


 起き抜けに、目の前にエト・インプレタ・エスト・コル・メウムがいて、おれは目を見開いた。

「頼む、優しくしてくれ」

 初めに出たのが、そんな情けない一言だった。

 泣きそうな声になってないだろうか。
 王が母にしていたように、はされたくない。
 側妃や愛妾みたいな振る舞いは、おれができない。

「もちろんだとも」

 いつでも洗い立ての香りがする寝台に、横になったまま。
 手足をきっちりと揃えなおしたおれを見て、なぜか困った顔をされた。

 まずは顔を洗って着替えた方が良いのか。
 着替えるとしても、なにに?
 このままで良いとしても、腰を上下に振るべきか?
 愛妾が上に乗った時に、王がそうしていた。
 とても格好悪いなと思ったが、必要ならやるしかない。

「……」
「そこまで緊張されると、やりにくいのう」
「緊張してないっ」
「そういうことでよいぞ」
「緊張してないって」

 ふっ!、と吹き出したエト・インプレタ・エスト・コル・メウムが、体重などないようにおれの腹にまたがった。
 子供の姿なのに、どうしてこんなに色っぽいんだ。

「ならば其方ソナタの、惚けた絶頂顔を見せてもらおうかの」
「おう!」
「……気合いなんぞいらんが、なんぞ、こうも可愛いのかの?」

 可愛い、っておれが?

「そうとも、其方が可愛くてならん、心根も姿も全てが愛おしい」
「……~っ」

 両手で顔を押さえた。
 言葉なんて出てこない、何を言うんだよ、と言い返そうとしたものの、声にする前に喉が詰まってしまう。

「まっこと初心だのぉ」
「……っ」

 ひ、否定できない。
 おれに好意的な言葉をかけてくる相手は、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムが初めてだ。
 未経験な事態に放り込まれて、それに対応できる柔軟さなんて持ってない!

「少しずつで良いから、慣れてくれよ?」
「……うぅっ」

 熱い顔を隠していても、しゅる、と帯を解かれる音が聞こえる。
 細くて小さくて熱い手が、おれの服を一枚ずつはがしていく。

 寝巻きと下穿きの二枚しか着てないけど。

「朝であっても初夜とは言い得て妙では有るが、全て我に任せるがよい。
 無知教育の一環として、夫は自らの手で開発した妻が快楽に狂い踊る姿も好むものである、其方もそうは思わぬか?」
「う……ぅぎゅっ」

 其方からも積極的に快感を望んで良いのだぞ、と囁かれて、喉から変な音が出た。

 自慰以外は、二本一緒ににぎって腰を振る以上を知らないのに。
 見てただけで、できるようになんて、ならない。

「ひやあっ!」

 ぬる、と腹に熱いものが触れた。

「其方の肌は、甘いのう」
「なな、な、舐めるなぁっ」

 腹は急所だ。
 内臓を守るために敏感になっている。
 御典医の爺さまがそう言っていた。

 そんなこと知らんと言いそうな様子で、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムがおれの腹を舐めていく。

 くすぐったい。
 でも、ぞわぞわする。
 なんだこれ、おかしい。

「ふ、開発のし甲斐があるというものよ」

 ぞくぞくするような色っぽい声が落とされて、どういう意味だ、と顔を両手で押さえたまま悩んでいると、熱い手が腹を撫で回してきた。

「~っっ」
「どこに触れられても、性感帯のように感じられるようにしてやろうな」
「ぅああっ」

 もどかしい。
 気持ちいいのに、足りない。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。

 へその周りを撫で、みぞおちをくすぐり、胸の先端には近付かずに鎖骨のくぼみへ。
 下穿きの縫い目が陰茎を押さえて食いこむ痛みに、歯を食いしばる。

 信じられない。
 腹から首元までを撫でられただけなのに、勃起した。

「さあ、其方も我に触れて良いのだぞ?」

 え、え?
 もしかして、ここでお預け?
 ……いいや、お預けというか、まだ腹とか撫でられただけで、服も前を開かれただけだ。

 なのにおれだけ、臨戦態勢とかっ。

 ま、負けてたまるか!
 おれも触ってやる!

 がばりと体を起こして、にこにこしているエト・インプレタ・エスト・コル・メウムに手を伸ばして……。



 そっと頬を両手で包んだ。

 目の前には子供の姿。
 本性は龍だと知っていても、どうすれば良いのか。

「なんだ?、其方の眼前で脱衣して見せつけて欲しいのか?」
「ん……ちがうよ、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムの人の姿は幼いから」

 他人と触れ合ったことなんて、ない。
 蹴られ殴られる時か、傷の治療か、母にまじないいたいのとんでけ~される時か。

「すまんが、この姿は今は変えられんようだ。
 其方の望むままにせよ、なんであっても喜べる自信があるからの」

 あっさりと許しが与えられて、おれは呆然とエト・インプレタ・エスト・コル・メウムを見つめた。
 そんなおれの表情が面白かったのか、小さな手が伸びてきて、おれの胸に押し当てられる。

「其方の望みであれば、どのようなことでも好ましかろう」
「……くちづけ、したい」

 寝床にいた時の穏やかさとは違う。
 暴れる胸の奥の熱を、どうにかしたい。
 でもおれは知らないから。
 この熱が、なにかを。

「もちろんだとも」

 微笑む瞳は、黒く虹の色にきらめいた。



 触れるだけ。
 撫でるだけ。
 優しくなだめるように。
 慰めるように。
 痛みも苦しみも、全てが溶けていく。

 ちゅ、と微かな音とともに離れた唇を追って、起き上がったおれは少しだけ前のめりになる。
 寝台に足を伸ばして座った体勢のまま、股間の窮屈さは変わらないのに、心が満たされる。

「まずは足りておらぬ精神の器を満たさねば、体がついてこんのであろうな」
「ん?」
「心配いらぬよ、我は其方に触れたいが、それは肉欲だけではない。
 番に触れることで、魂の在り方の確認になり、傷を癒すことができるから望むのである。
 いずれは、子も望んでもらいたいが」
「……どうして、子供?」

 おれに子を産ませたい、が一番の望み?

「世界が揺れておる」
「世界?」
「守護の任を与えられし種が失われ、神秘がツイえて、世界の根幹が失われつつあるのだ」
「それは困ることなのか?」
「今すぐには困らぬが、後になればなるほどに世界から命が絶えていくであろうな。
 龍として在るからには見過ごせぬ事態だ」

 我が別個体として分裂する術を持っておれば、其方に無理を強いる必要もないのだが、と落ち込む姿を見て、不安が薄れた。

「龍だから?」
「左様、子を残せと叫ぶ義務感ばかりは、我にはどうしようもし難い」

 ようやく口説き落として番になれたのに、ゆるりと愛しあう時間を望むたびに、頭の奥で焦燥が囁いてくるので鬱陶しい、とぶつくさ呟く姿は、愛おしかった。

 
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