【R18】A pot of gold at the end of the black rainbow

Cleyera

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 それから。
 おれはエト・インプレタ・エスト・コル・メウムと性器をあわせて、一緒にこすりあうことにハマってしまった。

 これまでに自慰の経験はあった。
 王が女を抱く姿ばかり見せられていれば、欲求の解消の必要性は理解するしかない。

 それでも、柔らかい小さな手に導かれること、好意を持つ相手と陰茎同士をこすりあわせる経験は強烈過ぎた。

 完璧に外壁の王族のことなど、忘れていた。
 母の火葬のことも。

 結局のところ、おれも、快楽や衝動に弱い龍人なのだろう。

 朝も夜もなく、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに甘える。
 快感のままに吐き出す。

 そんな日々が続き、何日かが過ぎた頃。

其方ソナタに客が来ておる」
「おれに?」

 常に陰茎をさらしてはいなくても、二人で体を触れあわせていることが、一日の大半になり、おれはほとんど下穿き一枚に上衣を羽織っただけで過ごしていた。

 客と言われても心当たりはない。
 けれど、おれのことを大切にしてくれるエト・インプレタ・エスト・コル・メウムが、おれの敵にあたる者を城に招き入れると思えなかった。

「これを着る時が来たのう」

 嬉しそうに差し出された服に絶句した。

 緻密な刺繍の施された羽織の上着は、まるで王の正装のように美しい。
 ずっしりと重たいのは、刺繍糸の重たさなのか、衣に重厚感を出すために詰められた綿なのか。

「ふむ、素晴らしいのう」
「お世辞でも嬉しい」

 数日の間に、おれの白髪は肩を越すほどに伸びていた。

 龍人の国の王族に準ずる者は、男も女も髪の毛は長く伸ばすものだと決まっている。
 髪を伸ばしておくと、龍のような姿になった時に、たてがみがより美しくなるからと。
 真実は知らない。

 けれどおれの場合は髪を結べるまで伸ばしてしまうと、鍛錬時に兄弟に掴まれて引きずられるので、ずっと耳下で切りそろえていた。

 もちろん自分で。
 御典医の爺さまにもらった小刀は、何にでも使える、おれの数少ない私物だった。

 今は、短くする理由はないけれど、龍のような姿にもなれないのだから、伸ばす理由もない。

 ただ、髪を切る暇と時間があるなら、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムにくっついて過ごしていたかった。

 放置の結果、伸びた。
 たった数日で。
 たぶん数日だと思う。

 毎日エト・インプレタ・エスト・コル・メウムに触れて、触れられて過ごしていたので、時間の感覚が曖昧になっている。

「世辞ではない、折角だ、髪にも飾りをつけような」

 うきうきした様子で座るように言われ、床に敷かれた円座の上に腰を下ろすと、どこから用意したのか、白と黒の組紐を持ってきて、髪を結いあげてくれた。

 うんうんと嬉しそうに頷く姿に、そっと姿見を覗いて、ため息をつきたくなる。

「前と同じだ」

 不思議な光沢を持って、つやめいて光る白黒の組紐はきれいだ。
 けれど、それを頭に結んだおれは、どれだけ贔屓目に見ても、どちらかといえば女顔の平凡な男。

 身長は変態前に比べて高くなった。
 肩幅が広くなって、体格が良くなった。
 とはいえ、顔は整っていた母に似ているものの、美形というほどでもない。

 目や鼻は母に似ているけれど、男女の違いか配置がずれている。
 だから平凡に見えると、おれは考えている。

 老化ではない白髪は珍しい。
 両瞳が虹瞳の王族は、おれが今代で唯一だから、その二点で珍品扱いはされそうだ。

「同じではない、我にとっては唯一の番である、胸を張るが良いぞ」
「……そうする」

 エト・インプレタ・エスト・コル・メウムは、おれとは比べ物にならない視野と見識を持っている。
 疑う前に信じるしかない。


 久しぶりに靴を履いて、なぜか手を引かれながら城の中を進んでいく。
 おれの方が城の内部に詳しいはずなのに、どうしてなのか女性のように手を引かれている。

 少し気恥ずかしい。

 誰もいないはずなのに、城の中は綺麗に保たれていた。
 城内の灯りは油を注されたばかりに見え、水晶窓は磨かれて陽光にきらめく。
 石の床にも、ほこり一つ落ちていない。

 きょろきょろしながら、客間区画を出て、書庫へ向かう渡り廊下へと辿り着いた。

「待ってくれ」
「ん?」
「この先に行くのか?」
「そうだ」

 おれは、王族のことをすっかり忘れていたことを、ようやく思い出した。
 あれから何日が経ったのか。

 日々をエト・インプレタ・エスト・コル・メウムとの享楽の中で過ごしていたから、正確な日数が分からない。

 そういえば、城の暦盤は更新されているんだろうか。
 城で意識を取り戻してから、一度も時告げの鐘の音を聞いていない。

 勤怠と時刻の管理をしている時香盤ジコウバン係がいないのなら、日時を知るのは不可能かもしれない。

「~~~~ぁ」

 風が隙間から吹き込むような音が、いいや、声が聞こえた。

 見たい、見たくない。
 相反する感情が湧きあがり、体と心は見るべきだと判断したらしい。

「……ぅっ」
「ふむ、そろそろ良い加減に干からびておるわい、客人も見た頃合いかのう」

 城の外壁の内側に磔にされた王族は、生きている、ようだ。

 前は目立っていた筋状の汚れは、風で流されたのか薄くなっている。
 汚れの一番上に磔になっている人型は、黒ずんで干からびて半分ほどに縮んで見えた。

 おれよりも幼かった弟や妹は、声を上げる気力もないのだろう。
 可哀想だとは思わない。

 弟や妹は、おれが王太子だと知りながら鍛錬の的にして痛めつけ、断れない状況でのみ「お兄様」と呼び、毒入りの菓子や茶を勧めてきた。

 母親たちの言葉を鵜呑みにして漫然と従い、おれが王になった後のことを全く考えていなかったわけだ。
 無教育で放置されていたおれとは違い、自分で未来を考えられるだけの知識を、多くの教師から与えられているはずなのに。

 兄弟姉妹が、王族として使用できる予算を確保されていない王太子を、嘲笑っていたのを知っている。
 名前だけ養家からの援助も一切なかった。

 母には、誰かの好意か罪悪感からなのか、現物支給で女性ものの服と日々の食事だけは用意されていた。

 全ては、おれしか後継者がいないのに、おれを生かしておきたくないと、王が意思表示をしていたから。

 生まれた場所が悪かった。
 生きてるだけましだ。
 仕方ないと、母が生きている間は思っていた。

 今は無理だ。
 おれは王族を許せない。

 磔になった十三人の中で、髑髏に皮を貼り付けたような王だけが頭を揺らして、聞き取れない割れた唸りを上げている。

「行きたくない」
「ん?、其方が切り刻むと言うておったので、ちょうど良い乾き具合になるのを待っておったのだが、気が変わったかの?」
「違う、おれがとどめを刺したい気持ちはあるよ。
 でもエト・インプレタ・エスト・コル・メウムにあんな汚いものを、見せたくない」

 汚い。
 そう、汚いのだ。

 王は、その心根と同じくらい、姿も醜くなっていた。

 あそこにあるのは、黒く干からびたゴミだ。
 やっと見た目と中身が同じになった。

 王妃も、側妃も、愛妾もいるというのに、王は母に手を出した。
 王の側に登りたい女など、掃いて捨てるほどいただろうに。

 他の城勤めの女性たちが無事だったのは、母が望まずとはいえ、王の残虐性を一身に受け止めていたからだ。

 今の醜くて汚い王を、美しいエト・インプレタ・エスト・コル・メウムが見たら、汚れてしまう。
 そんな気がして、不安になった。

「ふふ、其方に我がどう見えておるのか、知るのが恐ろしいな。
 心配せずとも良い、我と其方は魂の傷を埋めあうことができるのだから、どのような穢れも恐ろしくなどない」

 にっこりと微笑まれて、むぎゅ、と腹に抱きつかれた。
 みぞおちに、ぐりぐりと押し付けられる頭。
 途端におれの股間が、こんにちは、と起き上がる。

 あまりにも節操のない自分の体に、顔が熱くなって、両手で隠した。

「さあ、ゆくぞ~」

 どうしてなのか、ご機嫌な声に導かれて、顔を隠したままおれは進むしかなかった。

 
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