【R18】A pot of gold at the end of the black rainbow

Cleyera

文字の大きさ
上 下
1 / 23

01 創傷の床

しおりを挟む
お越しいただきまして、ありがとうございます
毎度同じようなものを書いております当方は、木でございます(´∀`*)
今作についての注意点をいくつか、前書きでお願いします

・残酷描写あり、登場人物がおかしいです、ご注意!
・東洋龍です、指の本数については触れません(宗教や国や思想は不要な話)
ツガイという単語がでますが、宿命や本能による強制は無し
・双方が人外の姿で合体!
・男性妊娠可能ですが、妊娠出産の描写はありません

ついに人外×人外でからんでる所を書いた٩( 'ω' )و
需要なんて考えてないわよー(。-∀-)









   ◆
 

 おれは、黒い虹を見たことがある。
 美しすぎて、息も止まるほどの。



 ぷかりと、泡が水面に浮かんで弾けたように、目が覚めた。

 目の前に広がるのは、見知った景色。
 ではなかった。

 おかしい。
 ……おれは、死んだはずなのに。

 そう思いながら瞬きを繰り返しても、目の前の光景は変わらなかった。

「ふしゅぅぅ……すぅぅぅ……ふしゅぅ……」

 空気が抜けるような音を立てる穴が二つ、目の前にある。
 吸って、吐いて、ゆっくりと広がってすぼむ。

 二つの穴を囲むのは、ひびわれた白っぽいウロコ
 吐く音と共に、少し生臭い風が顔にふきかけられる。

 熟睡している、ようだ。
 ゆっくりとした呼気の音が、知らない場所で目覚めた衝撃を、少しずつ落ち着かせてくれた。

 うん、たぶん、これは鼻の穴だ。
 なにの鼻の穴かは分からないけれど。

 それにしても、ここは、どこだろう。

 体を動かそうとして、動かないことに気がつく。

 力が入らなくて、だるくて動かせない。
 ひどく体が重い。
 けれど、不思議と寒くはない。
 暑くもない。

 きっと、今、おれの全身を包み込むように覆いかぶさっている、鼻の穴の持ち主の体温のおかげだろう。

 それにしても、大きな鼻の穴だ。
 どれほどの巨体の持ち主なら、拳の入ってしまいそうな鼻の穴の大きさになるのだろう。

 指先一つ動かせないので、ぼんやりとそんなことを考えた。

 おれの視界は、二つの鼻の穴でいっぱいだ。
 距離が近い上に鼻先が長いのか、本当に鼻の穴しか見えていない。

 規則正しく聞こえる、穏やかな寝息。
 おれを包み込む温もり。

 他に誰もいない、とても静かなどこかで。
 これは夢だ、と思った。





 目が覚めた。
 いつのまにか眠っていたらしい。

 それから、やっぱりおれは死んでないのかも、と考えを改める。

 目の前にあるのは暗がり。
 夜の闇ではないけれど、曇り空でもどこかの天井でもない。

「……?」

 意識を失う前に、目の前にあった巨大な鼻の穴がない。
 体を動かそうとしても動かないので、視線だけで周囲を見る。

 どこだろう、ここは。

 おれは死んだはずなのに。
 いいや、死んでないのか。

 見えるのは暗い空間。

 けれど、見覚えがある。
 いつか、どこかで。
 思い出せない。

「目が覚めたか」

 何者かの声に目を向けた。
 空中に。

「……!」

 とてつもなく巨大な……。

「……ほん、もの?」

 一度だけ見たことのある、◯の姿に似ている。
 ちょっと待て、◯とはなんだろう?

 頭の奥が濁ったように重たくて、思い出せない。
 そんなことではない、違う。
 ◯とは比べられない、荘厳で尊い存在だ。

 姿を見ただけで、そう思う、感じる。
 心が震える。
 涙が出そうなのに、出ない。

 会いたかった。
 憧れてた。
 ……なにに?

 白っぽい巨体は、するすると宙を泳ぐように降りてきた。

「無理に話すでない」

 つるりと滑らかで長い鼻先に、風もないのにゆらゆらと揺れるひげは、しなやかで長い。
 口元に覗く、びっしりと生えた鋭い牙。

 恐ろしいはずなのに、そう思わなかった。

 助けたいと思った。
 どうして、こんな目に、と。

 日に焼けて色褪せたような白々とした鱗は、傷ついてはがれ落ちて肉が見えて、どこもかしこも歪んでくすんでいた。
 鱗の大きさもまばらで、形も揃っていない。
 腐りかけた肉には体液が滲み、じくじくと光っている。

 丸太よりも太い胴体に生えた細い四肢は、奇妙にねじくれて曲がっているように見える。
 途中からおかしな角度に曲がり、ぶらりと垂れ下がっているだけのように見える尾を、ずるずると引きずる音がする。

 巨大な牙も、何本も折れて、抜けているように見える。
 歯茎は鬱血して、ぶよぶよと腐りかけているようだ。

 古ぼけた金属線のようなまつ毛が縁取る瞳は、真っ白に濁っていた。
 見えていないのかもしれない。

 まばらに毛がはえた頭頂の耳は、片方がない。
 折れて見えないだけなのか、根元から失われているのか。
 もう片方の耳は、半分ほどしかない。

 この世の何よりも尊い姿のはずなのに、ひどくいびつだった。
 傷ついてぼろぼろだった。

 生きたまま、腐り果てているように見えた。

 それなのに美しい姿だと感じた。
 ただ、見つめることしかできなかった。

 柔らかい場所に寝かせられているらしいおれからは、節くれだった曲線を描く喉元が見えた。
 逆鱗ゲキリンだ。

 きっと本物だ。
 どうしてそんなことが分かるのか。
 逆鱗とはなんだろう。

 すべての色が抜けたような色の鱗の中で、なぜ逆鱗だけが黒いのか。
 元は黒かったのか?

「きれいだ」
「そうか、其方ソナタの言葉であれば喜ばしい」

 仰向けのおれの上に、触れないようにわずかな距離をとった巨体が寄ってくる。

 醜いのにきれいだ。
 傷だらけなのに美しい。

 どうして歪んでいるんだろう。
 どうして醜い姿になっているんだろう。

 おれなら、守れるはずなのに。
 おれが…………だったら。
 ……あれ、そういえば。

「あの」
「うむ」
「おれって、どこの誰だろう?」
「さあなぁ」
「……え?」
「其方はワレの寝床に落ちてきたのだ」

 困った。

 おれは、自分がどこの誰なのか、思い出せない。
 そしてこの目の前の巨体は、危機管理能力がないらしい。

 落ちてきたとかいう、どこの誰かも分からないおれを、のんきに自分の寝床に寝かせておくなんて。

「そ、そうなんだ」
左様サヨウ
「それでは、あなたは誰?」
「我はペルディディ・コル・メウムだ」
「それは名前?」
「いいや、ペルディディ・コル・メウムは我で、我がペルディディ・コル・メウムである」

 自分が誰か思い出せないことが関係しているのか、なぜかすとんと胸に収まる〝ペルディディ・コル・メウム〟という名称。
 名前ではないなら、なんだというのか。

「……そう、なんだ」

 おれは、どうしてペルディディ・コル・メウムの寝床に落ちたんだろう。
 思い出せなかった。





   ◆





 うとうとしながら、柔らかな寝床で過ごす日々。
 視線以外を動かせなかった体は、少しずつ動かせるようになっていく。
 まだ起き上がれない。

 ペルディディ・コル・メウムが全身を包み込むように眠ってくれると、早く元気になれる気がした。
 いつのまにか、穏やかな寝息をかけられることに慣れてしまった。

 温もりが心地よくて、ひどく眠い。

 たまに目を覚ましていても、寝転がったままで見えるものは無い。
 ただ、暗い。
 見上げた空間にはなにも無くて、ただ暗いと感じる。

 ここはどこなんだろう。
 ペルディディ・コル・メウムに聞いても「我の寝床だ」としか答えてくれない。

 嘘や悪意なく、この場所は寝床でしかないのだろう。

 おれは考えた。
 覚えていないなりに、知っている国や地名は無いのかと聞いたけれど、ペルディディ・コル・メウムから引き出せた情報はなかった。

 「どこでもよかろう」と言われて終わり。
 周囲のことに興味がないのかと感じた。

 本当に、ここはどこなんだろう。

 
   ◆









題名の〝a pot of gold at the end of the black rainbow〟は〝虹の麓には幸せがある〟のもじりです
本来は〝a pot of gold at the end of the rainbow〟で〝虹の根元には金の(入った)壺がある〟です
壺を埋めた、貯蓄大好き妖精を見つけると宝が手に入る(幸せになる)よ~という伝説です

虹が消えたら壺はどうなる?……と思いつつ、好きです

『黒い虹に出会って幸せになる』という意味のなんかいい題名を、思いつけませんでした(。-_-。)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

処理中です...