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六、そのままの幸福
65 東鬼
しおりを挟むそれからの五月と六月はクソ忙しかった。
家を建てるのに必要な打ち合わせをした。
延々と打ち合わせばっかりした。
請け負ってくれた妖関連の工務店に、とんでもなくでかい平屋にする理由を、説明しなくていいのは助かった。
あとは、本職でも同僚になったガワさんと、話す回数が増えたくれえか。
責任者資格の試験も近づいてきて、忙しすぎて目が回るかと思った。
そんで、ウラ様は、思った以上に放任主義だった。
ガワさんが言うには、人社会での犯罪行為に手を染めなけりゃ自由らしい。
用事があって縄張りから出たい時も、相応の理由さえ伝えときゃ問題ねえって。
つまり、人を襲うな、人を食うなってところか?
そんで人の犯罪行為がダメだって言ってっから、縄張りの中に弱い奴らがいっぱい集まるらしい。
守ってくれるのかな、って勘違いして?
養殖場だって前に聞いた気がすんだけどな。
あれ、これってママに出かける先を伝えて、帰る時間を守りなさい、みてえな感じか?
眷属って小学生扱いなのか?
まあ、周辺地域にウラ様に敵う妖がいねえから、仕事なんて見回りくれえしかねえらしい。
あとは本性が水系の妖だから、地面の上のことは放置ってことか。
本当に、おれは生まれてくる子供のための警備員扱いかよ、って思った。
人でも鬼でも警備員かよ。
考えようによっちゃあ、警備員こそおれの天職ってやつなのかもしんねえ。
新人研修とか、他の眷属との顔合わせはねえの?って聞いたらよ。
ガワさんが言うには、嫁さんがもうすぐ子供産むってんで、テンパってるらしい。
まあそれがなかったとしても、顔合わせだのなんだのはねえらしい。
放任にもほどがあるだろ。
部下をなんだと思ってんだ?
あー、眷属か。
あんなおっかねえ妖でも、自分の子供が生まれるってなると焦るんだな、って変な感じがした。
おれを眷属として囲い込んだのも、嫁と子供のためだってんだから、まあ、良いパパになるんじゃねえ?ってくれえかな。
上司としては、まだ一回も仕事を回されてねえから、何も分かんねえ。
家一軒を土地付きでポンとよこすんだ、太っ腹なのは間違いねえ。
本性も太っ腹だったしよ。
新居については、工務店と建ててもらう人でやれ、ってことなのか知んねえけど、顔も見せねえ。
いつのまにか土地がおれの名義になってんだけど、戸籍とか税金とかどうなってんだ?
大妖ってのは、そんなに金と権力?が有り余ってんのか?って怖すぎる。
そのおこぼれに預かってるおれが、こんなこと言っちゃいけねえんだろうが。
まあ、生まれてくる子供の飯に、伯父を飼い殺しにしてるっつー話は聞いてっからな。
詳しくは教えてもらえねえけど。
里から逃げ出した伯父が、ウラ様の縄張りに侵入して薬をばらまいたことへの罰だってさ。
喰われるのが罰か、ゾッとしねえ。
里の薬番がいなくなっちまったけど、どうすんだろうな。
伯父を生かして捕らえてんのは、おれを囲い込むためか?ってのは考えすぎか?
タクの安全が保障されてんのは間違いねえけど。
まあ、これ以上の借りを作りたくねえ気持ちだけは、変わんねえよ。
これから長い付き合いだとしてもな。
◆
待ち望んでいたマイホームができたのは、年の瀬も迫る頃だった。
鬼が住んでも壊れねえ、外から見ると人の家にしか見えねえってのが大変で、半年もかかっちまった。
人間用の床材は、踏み抜いちまう。
人間用の壁も、ちょっと小突いただけで穴が開く。
人間用の廊下は狭くて通れねえ。
もちろん玄関も通れねえ、ってなって、全体的に家っていうよりも公民館か、体育館みてえなぶち抜きになっちまった。
部屋以外は人の姿で使えば良いだろ、ってタクに言われたけどよ。
人の姿の全裸でうろつくと怒るじゃねえか。
いちいちパンツはくのもめんどくせえよ。
おれが鬼の里の家の構造を知ってりゃ良いんだが、親父の家しか分かんねえ。
それも茅葺だったってことしか言えねえから、強度と外観の兼ね合いが試行錯誤になっちまったらしい。
山付きで周囲に家がねえとしても、茅葺きはダメなんだとさ。
法律がなんちゃら?って、忘れた。
まあ、ゴリ押しでめちゃくちゃ頑張ればできるかもしんねえけど、別に茅葺きが好きなわけじゃねえ。
ただ広いだけの家だと、タクが落ち着かねえ。
ってことで、家の中にタク専用スペースを作った。
棚とパーティションで仕切った、こじんまりとした書斎だ。
そこに、タクが前から欲しかったらしい、レーシング用バケットシートを使ったゲーミングチェア?ってのが収まった。
これからも資格取得や仕事のスキルアップを目指す、って言うから、大きな本棚は壁に作り付けだ。
人間の姿でも、鬼の姿でも愛しあえるように、キングサイズのマットレスはぶち抜きのスペースに置いた。
本当はベッドが欲しかったんだが、金が……ねえんだよな。
椅子は、タクが自分で買ってる。
あとはタクのアパートにあった家電や家具を運び込んで、独身寮でおれの使ってたもんを運んだら引っ越しはおしまい。
タクもおれも家財道具を最低限しか持ってねえから、家の中がガランとしてんだよ。
まあ、おれはタクさえいりゃ、どこでも良い。
もっと言うならタクがおれの腕の中にいて、おれの珍宝かちんぽがタクのケツマンに収まってりゃ天国だ。
ってわけで。
「あ、っ、ぁあっっ」
子供と大人並みの体格差があるから、いつもは寝転がったおれの腹の上に、タクの腰を支えて乗せる。
だけど「今夜が……初夜だよな?」っていう照れ隠しタクのセリフが発端で、初めてに挑戦した。
おれが勝手に挑戦してる、っつーか。
そうだ。
根元まで、受け入れてもらう。
これまでは拡張ができてねえから、って我慢してきた。
タクが死ぬとかねえから。
でもよ、何百回もおれの珍宝を受け入れて、腔の中を精液で満たしてんだから、そろそろ体が変わってきてると思うんだ。
孕ませんなら体液を飲ませるのが一番だって、ガワさんに言われたが、なあ?
鬼の珍宝を口に突っ込むのは無理だ。
普通に顎が外れちまう。
むしろ、珍宝が収まってるだけですごくねえ?って自分でも思うくれえだもんよ。
そんな訳で、タクには言ってねえけど、今夜、おれはタクの中に全部を収めるつもりだ。
「あ、っあーっ、タッくん、っっ」
この半年で、タクは変わった。
いや、タクの体が変わったっていうか。
前戯までは必死で声を我慢して、呼吸だって例の、あの、痛くなくなる?とかいうのでふーひーしてるタクだが、いざ珍宝を受けいれちまうと、人が変わったように乱れるようになった。
どエロくてヤベえ。
おれ的には、これはオニイノクルか、オニグルイの後遺症、もしくは突っ込んだ珍宝の先走り、おれの体液が原因でこうなっちまうんじゃねえか?って。
なんかさ、タクらしくねえって、思っちまうんだよな。
おひいさまが腹の上で乱れる姿を見て、こんな風に感じる日が来るなんて、思いもしなかった。
「……?、っ、……タッくん?」
ほろほろとこぼれた涙の筋跡の残る顔で、タクがおれを見上げる。
あぐらで座ったおれの上に向かい合わせでタクを座らせて、今はまだ根元まで入らないように腰も支えてる。
このまま、後遺症で快感に溺れる姿を見てるの、つれえんだよな。
「……どうした?」
そう聞いてくる間も、タクの腔が、おれの珍宝をキュ、キュ、と締め付ける。
好き、好き、って言ってるみてえに。
「タクは……嫌じゃねえか?」
今更おれは何言ってんだよ、と思った。
そして、おれ以上にそう思ったのは、タクだったようだ。
「は?」
それまで快感に溶けてたタクの表情が、ビキリ、と硬直する。
そして、眼球が左右にゆらゆらと揺れて、ものすっごいなんか考えてんなーってのが分かった。
「……東鬼」
「お、おう?」
「お前の話は、今、この状況でないと話せないことなのか?」
そう言われて始めて、タクの、血色の良くなってる頬が引きつってることに気づいた。
なんか前に、ヤってる時に変な話したくねえみたいな、言われた?
……言われたか?
言われたような?
「あー……そんなことねえ、な」
「っ、こ、このどア「っあ、やべ!」ふぁ"っ!?、っぃ"あ"ああーーっっっ!!」
タクが息を吸って怒鳴ると同時に、ギュウっと腔がうねって珍宝を絞りあげ、一気に迫り来る射精の快感に目が眩んで手が汗で滑った。
痛々しいほどの絶叫と共に、珍宝が、根元までねっとりと柔らかい筒に包まれて、愛撫されたのを感じる。
そのまま腰を振りたくり、タクの中を満たしたい衝動に、体を受け渡そうとしたその時。
タクが、にへら、と笑った。
「……あ……ぜっ、んぶ、はいったぁ」
その顔があんまり嬉しそうで。
とろとろに溶けた腹の中が、呼吸をしようと喘ぐタクの表情が、薬の後遺症もあるかもしんねえけど、それだけじゃねえ!って、訴えてる。
タクが、おれを受け入れてくれてんのは、真実だ。
薬とか、後遺症とか関係なく。
おれは、何もかも全て、情けないところまで、何もかも全部。
まるごとタクの掌の中で転がされてるのか。
いつのまにか転がされてたのか。
気がつくの遅すぎだろ。
自分のクソアホさ加減に呆れる。
タクが一緒にいりゃ幸せだって、あんだけ感じてたのに。
ようやくか。
おれが幸せだって感じるのは、幸せになれるのは、幸せを手に入れたのは、全部タクのおかげだ。
タクの深い懐が、鬼のおれにハッピーなエンドで新しいプロローグを与えたのか。
この世に一つくれえ、赤鬼が嫁さんと幸せになる話があっても悪くねえよな。
こんな風にして、おれたちはやっと新婚生活を始めた。
最高の終わり方で始め方だろ?
二人はいつまでも幸せに暮らしましたってな。
とりあえず、人間社会での虫除けになるように、指輪買う金くれえは早く貯めねえとな!
了
次話からおまけに続きます
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