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五、受け入れて、受け入れられて
57 東鬼
しおりを挟む復職して一週目。
五鬼助さんの紹介で、俺の代わりをしてくれていた事務員さん(妖)からの引き継ぎや、資格試験の勉強だけで、時間があっという間に過ぎていく。
自分のことで手一杯で、周囲に目を向ける余裕がなかった。
そして一週間目が終わった時に、俺はとんでもないミスをしていたことを知った。
復職してから三週間目に、所長と話し合って、週の中に一日、休みをもらえるように勤怠予定を変更してもらった。
一周間目が終わり、週末まで放置していた東鬼の相手をしたら、鬼の姿だと言うのに、土日の二日間が入れられっぱなしになり、その後の三日間を寝込むことになった。
久しぶりの職場に慣れようと必死で、東鬼にまで気が回っていなかったとはいえ、ひどすぎる。
俺は復職したばかりだぞ、少しは考えろよ!と責めたい。
責めたいのに責められない。
絶倫で鬼畜すぎるのに、やった本人が一番落ち込んでいるから文句が言えない。
二週目の月曜日には、動けない俺の代わりに東鬼が所長に謝りに行った。
もちろん朝一で休みたいという電話をしたけれど、けじめとして俺が頼んで行ってもらったのだ。
東鬼に抱き潰されて、足腰立たなくなったから仕事に行けないなんて、俺は職場の人たちに知られたくなかったよ!
それでも、復職して二週間目なのにごまかして「体調不良で休みます」も、すごく言いにくかったから、仕方ない。
今回だけでなく、いつも東鬼が自分でなんとかしようとしているのは知っていた。
ゴミの中にティッシュとオナホを捨て過ぎなんだよ、大雑把め。
そして自分だと解消しきれない、って聞いたのはこの時が初めてだ。
理解できなくて東鬼に説明させたけれど、鬼の性欲ってやつはものすごく厄介なものに聞こえた。
木曜日には起き上がれるようになったものの、残り二日も満足に仕事ができる状況じゃなかった。
足腰に力が入らないまま、なんとか職場に顔を出したら、同情されているのが良く分かる口調で「このままだと今後も出勤できないよねぇ、勤怠の周期を考えようか?」と所長に言われてしまった。
説明もできないのに、どこまで知られているのかな、と情けなくて逃げだしたくなる。
多分だけど、所長は東鬼の鬼の姿を知っている気がする。
そして俺が、鬼の姿の東鬼とセックスをしているってことまで、知られている気がする。
何もかもを受け入れてもらえるのは助かるけれど、とても心苦しい。
顔から火が出そうだ。
ようやく復帰できたのに、さらに負担をかけて申し訳ないと思っていたら、首長さんにまで「無理はしないのよ!」と説教をされてしまった。
助け合いの精神なのかと思っていたら、妖たちの基準が〝一に嫁、二に嫁、三四がなくて、五に暇つぶし!〟だからと言われた時は、妖は人とは違うな……と思ってしまった。
週中と週末って、曜日まで決められて週に二回は〝東鬼とセックスをする日〟を決められてしまうと、義務のようで嫌だ。
けれど、東鬼にとっては最低限度の回数らしい。
これ以上は、俺が付き合いきれない。
毎回、快楽に溺れることができるようになっても、体への負担が大きすぎる。
どれだけ丁寧に準備をしても、腹の中に腕を突っ込まれているようなものだから、どうしても疲れきってしまうし、負担も大きい。
東鬼に我慢をさせたいわけでは無いので、鬼の衝動についても話し合いを続けて、様子を見ながら過ごしていくことになった。
四週目、五週目は無事に過ごすことができた。
木曜日の夜に、アパートに「泊めてくれ」とやって来た東鬼にくっつかれ、剥がすのを諦めて勉強している最中に、ふと冷静になる。
俺は何をやっているんだろう、と思ってしまう。
こんな生活をしたかったんだろうか?と。
東鬼が愛しい気持ちは変わらないまま。
日常の中に、ルーティンのようにセックスが組み込まれている。
東鬼への恋を拗らせていた頃から思えば、幸せなはずなのに、何かがおかしい気がする。
それでも、周りの理解がある間は、このまま甘やかしてもらうしかない。
もしも週中の休みをもらえなくなった時は、俺がフルタイムで働くことを諦めるしかないのだろう。
東鬼が「そんときゃおれが倍は働く!」と宣言しているけれど、俺は養われたいわけじゃないから、賛成しかねる。
お前に甲斐性を求めてない、と言ったら泣かれた。
残念すぎるところまで好きなんだから、気にしなくて良いんだよ、とフォローしたら襲われた。
今週は三回もする気かよ!?と恐れおののいたものの、東鬼とのキスですぐに腰砕けになってしまい。
普段の大雑把さが嘘のような手際の良さで、裸にされた。
俺が、ローションや精液で汚れた服を手洗いするのは嫌だな、と思っているのを、東鬼は理解しているから。
理解しすぎなんだよ!!
服を脱がせてくる手際が良すぎて嫌だ。
翌日は休みではない上に、ここがアパートだから、と人の姿で始めてくれた東鬼に、なぜか執拗に胸を舐められて。
そんな所には何もないだろう?と思っているのが伝わったのか「おっぱい気持ちよくねえか?」って不安そうに聞かれた。
……おっぱい?
俺は勃たなくなったかもしれないが、気持ちの上では男を辞めてないぞ。
当然、そんなものは無い。
何を言っているんだろう、と困っている俺に向かって「分かった、週中えっちはおっぱいを開発する日にする!」とか意味不明なことを言い出す東鬼。
そして、延々と胸を舐められた。
太っていて胸に肉があるならともかく、俺みたいな痩せすぎの男の胸を舐めて何が楽しいんだ?
骨が当たって痛いだけだろ?
おかしくなってしまったのか?と怯えていたら、東鬼がどこからか、指先くらいの大きさのコード?がついたピンク色の楕円形のものを取り出した。
「それ、なんだ?」
「……」
「なあ、それって……な、何するんだよ?」
ピンク色のそれを、医療用テープで俺の胸の、乳首?に固定して貼り付けてくる。
突然来たのに、何でそんなものを用意してあるんだ?
「……しのぃにゃあっ!?」
何がしたいんだよ?
と言葉にするよりも前に、胸に固定されたそれが振動を始める。
お、驚きすぎて、変な声が出ただろ!
何がしたいんだよー!!?
細かく震えるそれを、東鬼が俺の胸に押し付けるようにわずかに動かすけれど、何がしたいのか不明なままだ。
胸がビリビリするから、やめてほしい。
「んー、反応ねえなあ」
「何がしたいんだよ!!」
「いやな、メスイキだけじゃなくてよ、チクビイキもさせてやりてえなーと思ってよ」
「……?」
また、良くわからない単語が出た。
時々東鬼は俺が知らないことを言うから、これらも〝ケツマン〟みたいな淫語なんだろうなとは思ったけれど、それがどんなことなのか知りたくない。
そもそもケツマンの意味だって、良くわからないのだ。
拡張の方法を調べている時に何度か見かけたから、尻の穴をさす単語だろうけれど、意味を知ろうと思わなかったから調べてない。
知ったところで使う機会もないだろうから、調べる必要がない。
「良くわからないけど、やめにしないか?」
この震えているものの、材質そのものは柔らかいんだろうけれど、震えるたびに肋骨に当たって地味に痛い。
「……先がなっげえなー」
なんで東鬼が落ち込むんだろうな、と思いながら「そうだな」と同意だけしておいた。
あとで、同意したことを後悔すると思わずに。
そんなこんなで、人の姿で初めてくれた所までは良かったけれど、結局最後は抱き潰されて、翌朝は寝坊をした。
二人揃って遅刻した上に、尻周辺の違和感で椅子に座っているのが辛くて、湿布を貼っていても痛む腰をさすっている俺を見る、所長や先輩方の目が……。
前より職場の居心地が悪くなっているのは、まちがいなく東鬼が原因だ。
生暖かい目で見られ続けるたびに、情けなくて逃げ出したくなる。
そう思っていても、俺には他にできることがない。
引っ越し先を探しているけれど、まだ見つかりそうにない。
職場を変えるなんて無理だ。
きっと、慣れる。
そう思って過ごすことにした。
開き直るのは無理だ。
惚れた方が負けだとは良く聞くけれど、俺もこれに当てはまってるんだろうか。
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