【R18】I've got a crush on ogre

Cleyera

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四、生まれたままで

40 東鬼 :注意: 暴力的描写有

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 おれの姿は、鬼に戻ってた。
 まるで、どこか遠くから見てるみてえだ。

 腹に回した腕の中で、苦痛の声が上がる。
 おれの腕と腹に挟まれて押しつぶされ、痛みと苦しさから逃げようとしてた、白くて小さくて細い体が、なぜか抗おうとした直後に力を抜いて、震えるだけになった。

東鬼シノギ、しの、っタッくん、苦しいっ」

 モヤモヤと揺れるような視界の中で、タクにそっくりな何かが悲鳴をあげてる。
 言葉だけで制止を求めてるが、抱きこまれてる体は逃げようとしてねえ。

 おれの鮮やかな赤い肌に、真っ白な肌が映える。
 このまま骨ごとへし折って潰しちまいてえ、ぐちゃぐちゃに裂けた白い肌を、鮮やかで濃い赤い血が彩る姿が見てえ。
 すっげえ、きれえだろうな。
 ニセモンだとしても、タクが血に塗れる姿は。

 豆腐みてぇに柔くて細い肉は、指先に少し力を入れるだけで簡単に形を変える。
 ふと見てみると、白い肌に真っ赤な内出血の花びらがいくつも咲いてた。
 触れた跡が赤く染まってくのが楽しくて、肉を握り直すたびに、タクのそっくりさんが苦痛に声をあげる。

 ああそうか、親父も、おれと同じなんか。
 母親を何十年も抱いているのに、未だに興奮しすぎて、力加減を忘れちまうのか。
 人間は弱っちいもんな。

 少なくとも、親父が母親に尋常ではない感情を抱いてることを知った。
 おれがタクに抱くのと同じだ。
 ニセモン相手に、力加減なんて必要ねえよな。

「……タッくん、……っいた、いっ……」

 そっくりさんの細い体からは、ミシミシと音が聞こえる気がする。
 まだ、紙を一枚めくる程度の力しか使ってないつもりなのに、引き裂いてしまいそうだ。

 潰して引き裂いてから珍宝チンポウを突っ込むか?
 タクにそっくりな顔で、声で、体でおれをタッくんとか呼んでくんのは、本気で頭にくる。
 腹に据えかねる。
 ニセモンなんだから。
 引き裂いてから、ゆっくりと突っ込んで楽しめばいい。

「しの……ぎ……」

 おれの指が薄い肉に食い込む。
 鉤爪が突き刺さって、赤い血が白い肌を幾筋も流れてく。
 小枝のような骨が手の中でポキリと折れ……待て、待て、待て、待ってくれ!

「た、く?」
「……ぅ」
「とまん、ねえっ」
「そ……う、だな」
「やめてぇんだ」
「は…ぁ…知って、る……よ」

 真っ青な顔に脂汗をびっしりと浮かせて、タクが笑った。
 困ったような怒ったような照れたような……どうしようもなくて泣いてるような顔で。

「それでも、俺はおまえ、が、すきだ、からっ」

 鬼であることが、鬼に生まれたことが。
 受け入れがたく。
 親父と母親を心の底では恨んでた。
 自分を抑えられねえことを憎んでた。
 鬼をやめられねえことが、嫌で嫌でたまらなかった。

「できれ……っば、もうすこし、やさ、しく、ぅ、して、っ、くれ……よ、な」

 おれが鬼であることを、押しつぶされかけながら、タクが受け入れてくれた。
 頑固で倫理観がしっかりしてるタクが、鬼の本性を、何をかもを壊し尽くしちしまう破壊衝動を、受け入れられるはずがねえのに。

 壊して。
 奪って。
 暴れる。
 ことしかできねえ鬼を。
 否定しねえのか?
 拒絶しねえのか?
 好きでいてくれるのか?

 息も絶え絶えに告げられた言葉が、自分でも知らないうちに凍てついてたらしい心の最奥を溶かす。
 鬼だから、誰にも愛してもらえねえんだ、と思い込んでた気持ちがゆっくりと緩んでいく。

 おれに殺されかけながら、おれに笑いかけてくれるタクがニセモンなら、本物なんてどこにもいねえ。

 どうしてタクをおひいさまだと思ってしまうのか、他の誰も代わりにならなかったのか。
 タクだけが、おれを受け入れられるから。
 タクだけが、おれを受け入れてくれるからだ。

 鬼の本能みてえなもんで、タクが欲しいと感じてると、思い込んでた。
 違ってたのか。
 おれは、おれの意思で、おれを受け入れてくれるタクを、選んだんだ。
 そして、幸運なことにタクもおれを選んでくれた。

 おれはなんてアホだったんだろう。
 両思いだから突っ込める、おひいさまに出来るって思い込んで、深く考えずにきた自分が許せねえ。

 タクが、命がけでおれに心を向けてくれてるなんて、思いもしなかった。
 逃げ出そうとしたら、母親みてぇにしちまうんじゃねえかって思ってた。

 ありえねえ。
 タクに限って、おれを見捨てることはねえ。
 少なくとも、タクがおれを見限ったら、口にするし態度にも出すだろう。
 懐の深いタクだから、見限る前におれをぶん殴ってでも、矯正させようとしてくるかもしんねえ。

 怯えなくて良いのか。
 失うことを。
 見捨てられることを。

 おれは、見つけてたのか。
 おれだけの宝を。

 痛そうに顔を歪めたままのタクが、血まみれの腕を抱擁から引き抜いて伸ばしてくるので、請われるままに頭を下げると、震える指で頬を撫でられた。
 撫でられた場所がひやりと冷えた。
 甘い甘い、血の匂いがする。

「ほんとうに、たっくんは……なきむしだな」

 泣くなよ、と呟いたタクは、小さく息を吐いて目を閉じた。
 知んじまうのか、と焦ってタクを揺さぶるおれに「いたいから、うごかすな」と吐き捨てるように言う姿は、いつもと変わらないタクだった。



 理性が残ってんのがおかしい。
 そういう状況だった。

 毎日でもおひいさまに突っ込まねえと、欲求不満で気が狂う鬼のおれが、セフレなしのオナホオンリーで三週間過ごして、まともでいられるわけがなかった。

 タクのケツマンの味を知った上で、同衾までしてっから尚更だ。
 なんも知らねえ頃なら、我慢できてたんだろうな。

 タクが誘拐されてから、ぶっ壊してえ衝動を発散できてねえおれが、タクを押しつぶしてあふれる血を見たいと思うことを、途中でやめられるはずがなかった。

 それなのに、おれの手は、タクに優しく触れることができた。
 今だけは鬼の本性を忘れたように、力加減ができた。
 手のデカさはどうしようもねえけど、本来なら触れただけで皮膚を裂いて肉をえぐる鉤爪を使って、タクの傷に薬を塗れた。
 ガワさんが治療することを、受け入れらんねえぐれえ気が立ってんのに、不思議だ。
 嬉しいけど、どうなってんだ?

 ぎこちなく傷の手当てをするおれを見てるタクの表情は、ぼんやりして顔色が悪い。
 文字通り抱き締めて殺されそうになったのに、おれを見る表情に怯えはない。

 あれだ、事故とか事件の後に陥る、ショック症状ってやつが出てんのか。
 それとも骨を折る手応えこそ感じなかったが、内臓まで傷つけちまったんだろうか。

 あれからガワさんに泣きついて、おれがタクを殺しそうになったことを伝えて、診察してもらって薬を受け取った。
 タクの怪我がきちんと治らねえと困るから、鬼の破壊衝動と溜まりに溜まった性欲が原因だってことも、ちゃんと伝えた。

 ガワさんは基本的に冷静だってのに、見たことがねえほど呆れた顔された。

 その辺の女か男を誘って突っ込むか、山に行って岩でも殴ってこい!って言われたけど、もうおれはタク以外に突っ込みたくねえ。
 タクのケツマンの具合を知っちまったから、他の腔じゃあ満たされねえ。
 山に行くのも無理だ、そんな長時間タクから離れらんねえ。

 先代のおひいさまが生きてた頃の叔父が、毎晩出かけて土まみれで帰ってきていたのには、理由があったんだな。
 薬漬けになってねえおひいさまには、無理をさせられない。
 常に突っ込んで過ごせねえ。
 つまり、足らねえ分の衝動の発散をどっかでしなきゃなんねえ。

 頑張って思い出してみれば、叔父のおひいさまは、おれが知ってる時でおばちゃん、それからおばあちゃんになって老衰で死んでる。
 毎日、鬼の珍宝を突っ込まれてたら、老衰で布団の上で死ねるわけがねえんだよな。

「タッくん」
「……ん、なんだ?」
「どうして、俺たちはいつも、普通にセックスができないんだろうな?」
「え"!?」
「え?」

 突然のタクの言葉に、頭の中が真っ白になった。
 驚くおれに、顔色の悪いタクが困った顔を向けてくるのはなんでだ。

「……できてねえか?」
「できてないだろ、タッくんは気にして……ないのか」
「あー、えー、あ、あのな」
「困らないでくれよ、別に怒ってるとかじゃないから。
 でもさ、俺はこの先もいきなり暴走し始めるタッくんを、制御できる気がしないんだ」

 呟くタクの尖った頬骨を見ながら、そう言われてみれば、いっつもおれが辛抱できずに突っ込んでることに気がついた。
 えー、普通のセックスって、どういうもんだ?
 勃たせて突っ込むじゃダメなのか?
 
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