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四、生まれたままで
40 東鬼 :注意: 暴力的描写有
しおりを挟むおれの姿は、鬼に戻ってた。
まるで、どこか遠くから見てるみてえだ。
腹に回した腕の中で、苦痛の声が上がる。
おれの腕と腹に挟まれて押しつぶされ、痛みと苦しさから逃げようとしてた、白くて小さくて細い体が、なぜか抗おうとした直後に力を抜いて、震えるだけになった。
「東鬼、しの、っタッくん、苦しいっ」
モヤモヤと揺れるような視界の中で、タクにそっくりな何かが悲鳴をあげてる。
言葉だけで制止を求めてるが、抱きこまれてる体は逃げようとしてねえ。
おれの鮮やかな赤い肌に、真っ白な肌が映える。
このまま骨ごとへし折って潰しちまいてえ、ぐちゃぐちゃに裂けた白い肌を、鮮やかで濃い赤い血が彩る姿が見てえ。
すっげえ、きれえだろうな。
ニセモンだとしても、タクが血に塗れる姿は。
豆腐みてぇに柔くて細い肉は、指先に少し力を入れるだけで簡単に形を変える。
ふと見てみると、白い肌に真っ赤な内出血の花びらがいくつも咲いてた。
触れた跡が赤く染まってくのが楽しくて、肉を握り直すたびに、タクのそっくりさんが苦痛に声をあげる。
ああそうか、親父も、おれと同じなんか。
母親を何十年も抱いているのに、未だに興奮しすぎて、力加減を忘れちまうのか。
人間は弱っちいもんな。
少なくとも、親父が母親に尋常ではない感情を抱いてることを知った。
おれがタクに抱くのと同じだ。
ニセモン相手に、力加減なんて必要ねえよな。
「……タッくん、……っいた、いっ……」
そっくりさんの細い体からは、ミシミシと音が聞こえる気がする。
まだ、紙を一枚めくる程度の力しか使ってないつもりなのに、引き裂いてしまいそうだ。
潰して引き裂いてから珍宝を突っ込むか?
タクにそっくりな顔で、声で、体でおれをタッくんとか呼んでくんのは、本気で頭にくる。
腹に据えかねる。
ニセモンなんだから。
引き裂いてから、ゆっくりと突っ込んで楽しめばいい。
「しの……ぎ……」
おれの指が薄い肉に食い込む。
鉤爪が突き刺さって、赤い血が白い肌を幾筋も流れてく。
小枝のような骨が手の中でポキリと折れ……待て、待て、待て、待ってくれ!
「た、く?」
「……ぅ」
「とまん、ねえっ」
「そ……う、だな」
「やめてぇんだ」
「は…ぁ…知って、る……よ」
真っ青な顔に脂汗をびっしりと浮かせて、タクが笑った。
困ったような怒ったような照れたような……どうしようもなくて泣いてるような顔で。
「それでも、俺はおまえ、が、すきだ、からっ」
鬼であることが、鬼に生まれたことが。
受け入れがたく。
親父と母親を心の底では恨んでた。
自分を抑えられねえことを憎んでた。
鬼をやめられねえことが、嫌で嫌でたまらなかった。
「できれ……っば、もうすこし、やさ、しく、ぅ、して、っ、くれ……よ、な」
おれが鬼であることを、押しつぶされかけながら、タクが受け入れてくれた。
頑固で倫理観がしっかりしてるタクが、鬼の本性を、何をかもを壊し尽くしちしまう破壊衝動を、受け入れられるはずがねえのに。
壊して。
奪って。
暴れる。
ことしかできねえ鬼を。
否定しねえのか?
拒絶しねえのか?
好きでいてくれるのか?
息も絶え絶えに告げられた言葉が、自分でも知らないうちに凍てついてたらしい心の最奥を溶かす。
鬼だから、誰にも愛してもらえねえんだ、と思い込んでた気持ちがゆっくりと緩んでいく。
おれに殺されかけながら、おれに笑いかけてくれるタクがニセモンなら、本物なんてどこにもいねえ。
どうしてタクをおひいさまだと思ってしまうのか、他の誰も代わりにならなかったのか。
タクだけが、おれを受け入れられるから。
タクだけが、おれを受け入れてくれるからだ。
鬼の本能みてえなもんで、タクが欲しいと感じてると、思い込んでた。
違ってたのか。
おれは、おれの意思で、おれを受け入れてくれるタクを、選んだんだ。
そして、幸運なことにタクもおれを選んでくれた。
おれはなんてアホだったんだろう。
両思いだから突っ込める、おひいさまに出来るって思い込んで、深く考えずにきた自分が許せねえ。
タクが、命がけでおれに心を向けてくれてるなんて、思いもしなかった。
逃げ出そうとしたら、母親みてぇにしちまうんじゃねえかって思ってた。
ありえねえ。
タクに限って、おれを見捨てることはねえ。
少なくとも、タクがおれを見限ったら、口にするし態度にも出すだろう。
懐の深いタクだから、見限る前におれをぶん殴ってでも、矯正させようとしてくるかもしんねえ。
怯えなくて良いのか。
失うことを。
見捨てられることを。
おれは、見つけてたのか。
おれだけの宝を。
痛そうに顔を歪めたままのタクが、血まみれの腕を抱擁から引き抜いて伸ばしてくるので、請われるままに頭を下げると、震える指で頬を撫でられた。
撫でられた場所がひやりと冷えた。
甘い甘い、血の匂いがする。
「ほんとうに、たっくんは……なきむしだな」
泣くなよ、と呟いたタクは、小さく息を吐いて目を閉じた。
知んじまうのか、と焦ってタクを揺さぶるおれに「いたいから、うごかすな」と吐き捨てるように言う姿は、いつもと変わらないタクだった。
理性が残ってんのがおかしい。
そういう状況だった。
毎日でもおひいさまに突っ込まねえと、欲求不満で気が狂う鬼のおれが、セフレなしのオナホオンリーで三週間過ごして、まともでいられるわけがなかった。
タクのケツマンの味を知った上で、同衾までしてっから尚更だ。
なんも知らねえ頃なら、我慢できてたんだろうな。
タクが誘拐されてから、ぶっ壊してえ衝動を発散できてねえおれが、タクを押しつぶしてあふれる血を見たいと思うことを、途中でやめられるはずがなかった。
それなのに、おれの手は、タクに優しく触れることができた。
今だけは鬼の本性を忘れたように、力加減ができた。
手のデカさはどうしようもねえけど、本来なら触れただけで皮膚を裂いて肉をえぐる鉤爪を使って、タクの傷に薬を塗れた。
ガワさんが治療することを、受け入れらんねえぐれえ気が立ってんのに、不思議だ。
嬉しいけど、どうなってんだ?
ぎこちなく傷の手当てをするおれを見てるタクの表情は、ぼんやりして顔色が悪い。
文字通り抱き締めて殺されそうになったのに、おれを見る表情に怯えはない。
あれだ、事故とか事件の後に陥る、ショック症状ってやつが出てんのか。
それとも骨を折る手応えこそ感じなかったが、内臓まで傷つけちまったんだろうか。
あれからガワさんに泣きついて、おれがタクを殺しそうになったことを伝えて、診察してもらって薬を受け取った。
タクの怪我がきちんと治らねえと困るから、鬼の破壊衝動と溜まりに溜まった性欲が原因だってことも、ちゃんと伝えた。
ガワさんは基本的に冷静だってのに、見たことがねえほど呆れた顔された。
その辺の女か男を誘って突っ込むか、山に行って岩でも殴ってこい!って言われたけど、もうおれはタク以外に突っ込みたくねえ。
タクのケツマンの具合を知っちまったから、他の腔じゃあ満たされねえ。
山に行くのも無理だ、そんな長時間タクから離れらんねえ。
先代のおひいさまが生きてた頃の叔父が、毎晩出かけて土まみれで帰ってきていたのには、理由があったんだな。
薬漬けになってねえおひいさまには、無理をさせられない。
常に突っ込んで過ごせねえ。
つまり、足らねえ分の衝動の発散をどっかでしなきゃなんねえ。
頑張って思い出してみれば、叔父のおひいさまは、おれが知ってる時でおばちゃん、それからおばあちゃんになって老衰で死んでる。
毎日、鬼の珍宝を突っ込まれてたら、老衰で布団の上で死ねるわけがねえんだよな。
「タッくん」
「……ん、なんだ?」
「どうして、俺たちはいつも、普通にセックスができないんだろうな?」
「え"!?」
「え?」
突然のタクの言葉に、頭の中が真っ白になった。
驚くおれに、顔色の悪いタクが困った顔を向けてくるのはなんでだ。
「……できてねえか?」
「できてないだろ、タッくんは気にして……ないのか」
「あー、えー、あ、あのな」
「困らないでくれよ、別に怒ってるとかじゃないから。
でもさ、俺はこの先もいきなり暴走し始めるタッくんを、制御できる気がしないんだ」
呟くタクの尖った頬骨を見ながら、そう言われてみれば、いっつもおれが辛抱できずに突っ込んでることに気がついた。
えー、普通のセックスって、どういうもんだ?
勃たせて突っ込むじゃダメなのか?
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