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三、歩み寄りたくても
33 東鬼
しおりを挟む毎日が静かに過ぎてって、無事に年を越えた。
人の世だと大騒ぎらしいが、寮から出ねえと普段となんも変わんねえ。
妖には人の世の年越しなんざ、なんの意味もねえからな。
おれが人の姿になれるようになったので、タクの生活に必要なもんをアパートから持ってきた。
タクの服をおれの服の横に入れた時に、新婚だよな?これって新婚生活だよな?と思ったんだが、タクは気づいてねえのか?
タクに見限られるわけにはいかねえから、化け狸のところに顔を出して脅したことを謝った。
それから頭を下げて頼み込んで、タクを本物の傷病休暇扱いにしてもらったから、満額じゃねえけど給料が出ることで、アパートの家賃光熱費は大丈夫だろう。
リハビリも順調そうだから「お披露目が終わりゃ職場に戻れると思う」って伝えたら、なんか真っ青になられちまったんだが。
タクのアパートには、週に一回おれが郵便物を確認に行ってる。
行くと言ったら確認を頼まれた、冷蔵庫の中で誕生していた謎物体も無事に処分した。
あれが自炊の罠ってやつか。
おれはまだ仕事に復帰してねえ。
タクが完全に元気になるまで、有給やらなんやら、使えるもんを全部ぶっこんで休ませてくれって、おやっさんに頼んである。
用事を済ませに少し離れるくらいならともかく、一日は無理だ。
タクの姿が見えねえ状況じゃ、仕事が手につかねえ。
車の改造費用に貯めてた金は、生活費で使い切っちまったから、復帰しねえとまずいんだけどな。
おれがサーキットに通い始めたのは、タクが車好きだって知ってからだ。
セフレと待ち合わせしてた時に、偶然見かけたタクを付け回して、通ってるカスタムショップまで調べて、車買ってサーキットで練習を済ませてから、偶然を装って再会した。
自分でもストーカーでしかねえ、と思ったけど、止めらんなかった。
タクと一緒にサーキットに行くために車買って、カスタムの基礎を勉強して、工具買って、改造までしてんだから、周りから見たら間抜けかもな。
足回りを交換するってタクが言ってたから、おれもなんかいじろうかなーと貯金してたんだが、もともと車が好きなわけじゃねえから、なんも問題ねえ。
今月は良くても、来月からは復職しねえと生活できなくなる。
おれだけなら公園や橋の下で転がってても生活できるけど、タクを屋外で暮らさせるわけにはいかねえし、おれがタクのアパートに転がり込むのもダメだろうから、職場に戻るつもりだ。
タクの側にいるためなら、離れても我慢できる……と良いんだがなぁ。
今のおれがふにゃふにゃなのは、欲求不満だからだ。
まだ弱りきってるタクを抱いたあと「体が戻るまで待ってほしい」と言われてから約一ヶ月、突っ込むのを我慢してる。
タクのことを一番に大事にして、何よりも考えてるつもりだ。
いつでも一番はタクで、最優先に考えてるのに。
なんでかは知んねえけど、タクの元気がねえ。
心のつええタクは、誰かに言われるまでもなく、自分の意思でリハビリを根気よく続けてる。
おれが杖代わりになって歩く練習やスクワットなんかも始めたから、ガリガリになっちまった体も少しずつ元に戻ってきた。
筋肉がつきにくいのは、腹が弱いのとおんなじように体質なのかもしんねえ、と気がついた。
毎晩、介助っていう名目で一緒に入る風呂で、おれのちんぽを二、三回は手コキしてくれっから、機嫌が悪いわけじゃねえと思う。
知らないうちにおれが馬鹿やって怒らせてたとしても、タクなら言ってくれるはずだ。
幸せな新婚生活のはずなのに。
なんか、うまくいってねえ。
そんな気がしてならねえ。
事後承諾になっちまったが、タクの腹の中に種付けできたのはよかった。
おひいさまってのは感覚的なもんで、うまく説明できなかったが、腹の中にぶっぱなしゃおひいさま?みてぇな感じで理解された気がする。
人間は妖特有の固有臭や妖気を感じ取れねえから、それでも間違ってねえとは思う。
ゴムなしで突っ込んで、ゆっくりと味わうタクの腹ん中はきつくて柔くって、めちゃくちゃ気持ち良かった。
初めての生本番がタクのケツマンってーのは、ガチで最高だった。
あん時は一回だけって約束だったから我慢しまくってたけど、本当ならタクの腹からあふれるくれえ、満たしてやりたかった。
オニグルイが効いてる間はディルドだけで我慢してたが、これからは時間をかけておれのちんぽの味と形を教えてやれる。
早く元気になってくんねえかな。
突っ込みてえ。
突っ込みてえとは思うが、イチャラブ生活を満喫してえから、まだガキはいらねえ。
弱ってるタクに負担をかけたくねえし、まだ腹の中が作り変えられてねえから、すぐにできることはねえだろう。
それでもセックスの度に毎回、中を洗ってやるのを忘れねえようにしねえとな。
あれ、タクにガキができるって言ってあったか?
……まあいいか、その時で。
おれはタクをおひいさまにできた。
予定通りっつうか、ようやくここまで漕ぎつけたって方が正しい。
この先は、タクが元気になったらお披露目して、一緒に暮らす。
落ち着いてきたらガキを仕込む。
タクは素っ気なく見えて面倒見がいいから、生まれてくる子供を可愛がってくれるだろう。
金輪際オニグルイを使うつもりはねえ。
おれの母親みてぇに、自分の子供に乗っかるんじゃねえか?って心配したくねえもんな。
里とも決別できたし、邪魔してくるやつもいない。
全てが順調で何も問題なんかねえのに、タクの目が、なんか違うんだよなぁ。
おれを見るたびに、嬉しそうに光を増してた目が、なんか辛くて苦しそうに見える。
もしかして、ついにおれのこと嫌いになっちまったんじゃねえのか?
嫌いになられても、文句も言えねえか。
おれに関わったから誘拐されて。
薬漬けにされかけて。
人間の男にとって、一生もんの体と心の傷を負わされて。
その上でおれに、死ぬまで生ちんぽ突っ込まれる(予定)生活。
おれは幸せだけどさ、タクの立場からの気持ちを考えると、何しても償いきれねえなって思うわけだ。
赤鬼であるおれの正確な寿命は不明だが、親父が百は超えてるつってたから、おれも百歳以上は生きるだろう。
タクがおれに愛想を尽かすことがなけりゃ、死ぬまでついていてやれる。
それもタクがおれを拒否した瞬間に、どうなるかわかんねえけどよ。
おれはどうやっても鬼でしかねえから、タクがおれを捨てようとしたら、親父みてぇになりそうで……この先は考えたくねえ。
タクは優しくて男前だから、おれが悪いんじゃねえって言ってくれるけどよ。
全部、おれが大元じゃねえか。
どうしたらタクを幸せにしてやれんのかな。
手放せねえから、おれが幸せにしてやるしかねえのに、幸せそうにしてくれねえのが辛い。
人の中で育ってんのに、人になりきれねえおれじゃ、タクを幸せにはできねえのか。
タクと一緒にいたら、不幸にしちまうんだろうか。
古今東西、鬼が人の姫を嫁にして、鬼と一緒に暮らしてんのが〝めでたしめでたし〟なんて話は聞いたことがねえもんな。
その日の夜、いつもと同じように、二人で風呂に入ろうと準備をしていた時。
「東鬼」
「タッくんって呼んでくれよ」
「真面目な話だ」
そんなん顔見た瞬間に分かってたよ。
ああくそ、おれのおひいさまは、逃げねえからタチが悪りぃ。
どんなに辛くてきつい道でも、正面からしっかりと見据えて、一歩ずつしか進めなくても道を変えようとしねえ頑固もんだからな。
回り道してもいいし、逃げたって誰も責めたりしねえのに、なんでこんなに頑固なんだ。
幾ら何でも不器用すぎんだよ。
他人には要求しねえくせに、自分に厳しすぎる姿に惚れたんだけどよ。
可愛いくせにかっこいいとか意味わかんねえよ。
「体がほとんど元に戻ったと思うから、アパートに帰りたい。
職場への復帰も考えてる」
「……」
ついにこの時が来たか、と思った。
やっぱりタクの中では〝幸せ新婚生活〟じゃなかったのか。
「そいじゃ、お披露目やんのか?」
「やらないわけにはいかないんだろう?」
前にタクには教えてあった。
お披露目は、鬼の姿のおれと独身寮の住人たちの前でセックスすることだって。
何勝手に変な話を決めてるんだよ!ってめちゃくちゃ怒ってたけど、動けなかった間の何もかもを世話になってるって知って、意見を変えたようだ。
おれの珍宝は、人間の成人男性の手首より太いくらいだと思う。
亀頭部分は拳くれえか。
鬼は無理だ!って尻込みして、一緒に暮らせる時間が伸びるんじゃねえかって期待してたけど、タクの決心を変えることはできなかったようだ。
世話になった礼としての対価がお披露目、っておれが言っちまったのがいけねえのか。
あと、そろそろ金がねえってバレちまったのもきっと、タクの判断を早めたんだろうな。
「分かった、お披露目の予定は合わせてもらうとして……今からいいのか?」
おれの言葉に、少し顔を強張らせたタクが、小さく頷いた。
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