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三、歩み寄りたくても
30 志野木
しおりを挟む「もう、たぶん、勃たない」
「……なんでだよ?」
理解できない、と首元でくぐもった声が聞こえる。
俺に体重をかけないように支えている太い腕に力が入り、振動が腰に伝わってくると、うずくような快感が湧き上がった。
「動くなって、話ができなくなるっ」
「動いてねえよ」
俺をすっぽりと覆っている東鬼の体が、小刻みに震えている。
「泣かないでくれ」
「泣いてねえ」
「鬼のくせに泣き虫か」
「泣かねえ!」
震える東鬼の頭を撫でながら、言い聞かせるように呟く。
俺自身にも言い聞かせているつもりで。
「動けなかった時も東鬼のことは分かっていたんだ」
「……」
「ただ、体が動かせない上に声も出せなくて、辛かった」
「……」
東鬼が無言になってしまったのが不安だけれど、聞いてはくれているようだ。
「ジョウタさんって人が、それに気がついてくれて、動けるようになる薬はあるけれど危険だって止められた。
俺が使用を強要したから勃たなくなった、以上」
「はしょるなよっ」
「他に説明できない」
東鬼の苦しむ姿を見ていたくなかったから、なんて理由を本人に言えないだろ。
あの時は、本当に追い詰められていて、それしか選べなかった。
今、死ぬか、飲むかって言われたら、また飲む方を選ぶだろう。
後悔しない、東鬼に薬の責任を負わせないって決めたんだ。
「ジョウタさんは、ちゃんと説明してくれたよ、後遺症が出るって。
絶対にあの人にひどいこと言うなよ?」
「ガワさんをジョウタって呼ぶなよ、名前呼びとかなんだよそれ」
「河童のジョウタですって名乗られたんだよ」
「あー、そうか。
眷属としての仕事か、そいつぁしゃあねえか」
納得しているらしいところ、悪いんだけどな。
ペシリと東鬼の肩を叩いた。
しっとりと汗ばんだ肌の下は分厚い筋肉が張り詰めていて、こいつも俺と一緒にここに引きこもっていたのに、いつ、筋トレをして維持しているのか、と思ってしまう。
「あのさ」
「あー?」
「さっきから、少しだけ動くのやめて欲しいんだけど」
「……わりぃけど、無意識だからな」
話している途中から、本当に少しだけ、尻の穴をこねられるように東鬼の腰が動いている。
上から抱きかかえられるように包まれて、マットレスに押し付けられている俺には逃げ場がないから、動かれるたびに、与えられる快感のもどかしさが辛い。
気持ち良いけれど物足りなくて、会話にも集中できない。
「俺の話はおしまいだよ、勃たなくても問題ないだろ?」
「……よくねえよ」
これはこれで可愛いけどよ、と言いながら東鬼が手を伸ばして、萎えたままのものを指先でつまんで揉んできた。
「待て、触らないでくれ、くすぐったいからっ」
「感覚はあるのか」
「ただ勃たないだけで、折れたとか腐ったとかじゃないからな!」
「あー、でも炎症の跡が残っちまったな、お前のちんぽ綺麗だったのに」
「きれいって……」
体を起こした東鬼が、俺の股間をまじまじと覗き込む姿が、いたたまれない。
いいや、それよりもだ。
綺麗って発言は、誰のものと比べてるんだ?
他の男のものを知らなければ、そんな発言しないよな?
東鬼は両性愛者だったのか?
他の誰かのものと俺のものを比べられるくらい、大勢の男と関係を持ったことがあるのかと思ったら、なんだか、胸の奥がざわざわする。
なんだろうこれは、すごく嫌な気分だ。
高校生の時に彼女といるのを見たときは、こんな風に感じなかったのに。
「自分は見えないからいいんだよ!」
「ぅぐっ、っ、きっつ、しめんなよ、一回しかできねえのに出ちまうだろ!」
「出せばいいだろ」
自分の股間を覗き込んで鑑賞する趣味はない!と、腰に力を入れると、東鬼が低く呻いた。
今の弱った筋力でも、多少は締まったらしい。
さっさと終わらせろ!と再び腰に力を入れようとする俺に、東鬼が突然、歯を剥いて獰猛な笑顔を見せた。
「そうだな」
「え……っあ、待て、まっーーんんっっ」
あ、まずい。
と察した直後に腹の中をこする巨大なものを感じて、必死で歯を食いしばった。
一息に抜かれて、腹の中を削られるように入れられると気持ちがいい。
熱くて厚い肉体に押さえ込まれて、力の入らない足をだらしなく開いて、男としての尊厳なんて無くしたような格好をしている。
今までなら絶対に情けないと思っただろう。
男が好きでも、男に組み敷かれたくはない、と。
相手が東鬼なら幸せで、そうだ、幸せしか感じられなくて、これが終わらなければいいって思ってしまった。
何度、絶頂を乗り越えたのか。
東鬼は俺を気遣って、激しく腰を振ることはしないけれど、俺がオニグルイという薬?でおかしくなっている間に、快感を感じる部分を熟知したのか、的確にゆっくりと気持ちいい場所をこすり続ける。
「……ふーっ……っ……っふ…………ーっ……ふぅーっ…………!、ぅうーっ」
「タク、上手だ、すっげぇ気持ちいいって顔してんな、可愛い」
俺が絶頂を迎えると、萎えたままのものから、透明になった体液が垂れていく。
勃起しない上に精子が作れないのに、射精はできるのか?
無理に仰向けの俺の体を動かさず、押し曲げようとせず、興奮を抑え込んで優しく抱こうとしてくれている東鬼は、とても格好良かった。
真っ赤な顔をして、額の生え際に捻れた赤黒い一本角を生やして、瞳を金に光らせているところまで。
東鬼が鬼の体格になってしまうのを我慢しているのは分かっていて、だから俺もあおることはしないように、と声を我慢し続けている。
動かれるたびに出てしまう呻きと、腹をいっぱいに満たされた苦しさを誤魔化すための呼吸はやめられないけれど。
下手に刺激をして、尻の中に入っているものが、成人男性の腕のサイズになったら困る。
「っぅ……ふっ……ぅぅーーっ!」
「またイけたか?ケツマンきゅうってなったぞ」
出し入れされて、穴をこすって広げる熱くて太い肉が、気持ちいい。
壁をゆっくりと擦られることが頭を真っ白に染めていき、いやらしい音が響くのを情けないと思わなくなった。
これは気持ちの良いことだ、愛しあう人との行為だ、と俺自身が知らないうちに教え込まれた快感で、脳が溶けてしまいそうだ。
俺は今、東鬼と愛を交わしている。
これ以上の幸せが、この世にあるわけがない。
「……っ、…………っふっ、……ぅっ」
「あ、ぐ、ーっ、はぁ、っっ」
俺は何度目かの絶頂に呼吸を詰まらせ、東鬼はひたすら射精しないように耐えている。
なぜ我慢するのか。
何かの罰ゲームなのか?と聞きたくなるような状況で、東鬼が顔を緩める。
ひどく幸せそうに。
「一回だもんな、大事にしねえとな、はぁ、出さねえってキッツイな」
「いっかいって、そう、い、いみじゃないっ」
やはりこいつはアホだった。
負担をかけないでほしい、って意味で言ったのに、まったく伝わっていなかった。
自分が一回終わるまでと思っているようで、その一回で、一日使いそうな絶倫鬼畜っぷりに、泣きそうだ。
「……もう、むり、つかれた」
かなり前から、疲れきった下半身の感覚がない。
足が閉じられなくて全開になっているって、気がついているだろう?
汗をかきすぎて、だるくて気持ち悪い、水が飲みたい。
「分かったよ、じゃ、中で出すな?」
「は?まさかお前、コンドームつけてないのか!?」
「おう……っ」
「や、やめ、あ、あっっっ…………ーん"ん"っっ」
「……ぁぁー出る、出てるっ、タネつけしてるっ、ぅぅ…………タク、おれのタク」
射精を促すための長くて早い動きに、再び歯を食いしばることしかできなくなった俺の上で、腰を降っていた東鬼がひときわ強く腰を押し込んでくる。
押し上げられた絶頂の快感とともに、腹の奥に熱を感じた。
ああああああ、もう、俺もアホだっ!!
この状況で、幸せ♡なんて感じている場合じゃないだろ!!
東鬼に躾けられすぎだよ!!
頭ではそう思っても、疲労と快感で動かない体ではどうすることもできずに、そのまま、風呂に運ばれて全身を丸洗いされた。
尻の中まで東鬼に洗われるなんて、罰ゲームとしか思えない。
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