【R18】I've got a crush on ogre

Cleyera

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二、伝えられないまま

ーー 東鬼 :回想 2/2

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 タクと同じクラスで二年を過ごしたのに、なぜか避けられ続けてクラスメイト以上の関係になれなかった。

 猫みたいな反応をする姿を見て、あからさまなアピールをしたら、逃げるタイプだと思ったから「一緒にお笑いやろうぜ」って言い続けたのに、一度だって本気だと思われなかったみてえだ。

 本音を言ったら、お笑いをやりたいじゃなくて、一緒に住みてえ!だからな。
 どんな手を使っても珍宝突っ込んでおひいさまにする!って考えてたのに、避けられて連絡先すら聞けずに卒業しちまった時は本気で落ち込んだ。

 結局おれとタクの間には、惹かれあうもんがなかったんかなーと思いながら、フリーターとして、いくつかのバイトを転々としながら過ごした。



 翌年、叔父のおひいさまが亡くなった。
 老衰で大往生だった。
 おれにとって母親も同然だったから、一人残された叔父のために、なんかできねえかと思ったけれど、叔父は鬼が変わったようになってしまった。

 人間社会に紛れるための仕事を辞めてしまい、家に帰ってこなくなった。
 おひいさまの死がそこまでショックだったのか、と思ったおれは帰りを待った。
 鬼ってのは良くも悪くも即物的だから、新しい出会いがあれば帰ってくると思って。

 アルバイト生活で二年が経った頃、若い女性を連れた叔父がふらりと戻ってきて、「おひいさまを見つけたから、出ていってくれ」と言われた。

 その言葉にショックを受けなかったのは、おれが鬼だからか。
 たった二年で、五十年以上連れ添ったおひいさまを、過去に切り捨てたのかよ!と人の常識に慣らされた頭で思っても、鬼が二年も突っ込む相手なく過ごすのが、自殺に近い行為だと体験で知ってるから、叔父の選択を嬉しくも思った。
 オニグルイなしで添ってくれる相手なら、子供の誕生だって素直に受け止められる。

 なんていうか、少なくとも叔父は、二年間は所構わず珍宝を突っ込みたい衝動に耐えた、たぶんな。
 亡くなったおひいさまを、心から愛してねえとできないことだ……たぶんな。
 おれ自身はおひいさまを得たことがないから、たぶんとしか言えないけど、おれだって性的衝動の発散には困ってっから、叔父の選択を責めることはできない。

 おれはこの頃には、日常的に男女混合の複数のセフレを、性的衝動の発散に利用してた。
 たくましい男に突っ込まれたいって奴らは、探すと案外簡単に見つけられるから助かってた。
 全員、ゴムつけて突っ込むだけの関係だ。

 男の尻の中を洗う手伝いなんてしたくもねえし、したこともねえ。
 タクのケツマンだったら、ザーメンぶっこむために喜んで洗ってやるけどな。

 セフレに体液を摂取させるわけにいかねえから、キスはもちろんしない。
 フェラもイラマもさせたことがねえ。
 人の姿に化けていても体格が良いし、体力も人間以上にあって、顔も普通?だから相手に困ったことはなかった。

 親父に半殺しにされたことでセックスに嫌悪感を持ち、ずっと自慰で誤魔化してたけど、高校生の時の女で初体験を終えられた。
 性欲を溜め込みすぎて気が狂う前に、人の姿で発散できるようになったのは、本当に助かった。

 問題は、体は発散を求めていても、心はまだタクを求めてたことだ。
 鬱陶しいのはごめんなので、恋愛感情を向けてくる相手は切った。

 体が育ったことで、より強くなっていく鬼の本能と、叔父のおひいさまに教えられた人の常識が乖離しすぎて、この頃は生きてんのが辛かった。
 突っ込みてえ、でも相手はおひいさまが良い。
 タクが忘れらんねえ、でもセックス無しの生活には耐えられない。

 決して一つにならない欲求と理性の間で、タク以外でおひいさまだと感じられる相手を求めた。
 顔も名前も覚えらんねえセフレの数ばっかり増えて、欲求の発散は順調になっても、おひいさまを手に入れたい衝動が消えない。

 親父が母親を手放さない前例もあるから、おひいさま、もしくはおひいさまにしたいと思った対象を失うことが我慢できない、強欲で貪欲な所が赤鬼の特徴なのか。
 執着とは違う。
 おれはタクをどうにかしたいなんて思ってねえ。
 ただ、どうしてもタクをおれのおひいさまにしたい、珍宝を突っ込みたい、という願いがなくならねえ。

 人里を離れたら、タクのことを忘れられるのか?
 そんなことを思っても、鬼の里に戻りたくないおれは、父親に手紙を書く気にもなれず、人里で暮らし続けるしかなかった。



 住む家が無くなっちまって、不安定なバイトじゃなくて、正社員とかそんな感じの仕事を探すことにした。
 里の外で人相手の商売をしてる珍しい黒鬼、五鬼助ゴキジョのおやっさんに「仕事くれ」と助けを求めたら「自分とこの会社で働くか?」と言われた。
 おれは警備員になった。

 結論から言うと、おれには警備員の仕事があってた。
 身体動かして訓練すんのが仕事に入る上に、何とこの会社には妖が大勢いた。
 取っ組み合うくらいならできるやつがいたってのが、救いになった。

 おやっさんは、居場所のない妖たちに居場所を作ってやる目的で始めた……っていうけどよ、絶対これ、給料を中抜きしてるよな。
 妖が人の社会で暮らしていくのに金がいるかと言われると、いらねえような気もするし、何とも言えねえ。

 まあ、人間に比べて給料は少ないみたいだけど?妖だってバレても問題なくて、(暇つぶしになる)仕事と衣食住が得られるなら、って奴が多いようだ。
 妖は長生きだから、考え方もゆるくてのんびりしてるやつが多い。
 あとは、本業との二足のわらじの妖が多かった。

 警備会社の本社からそう離れてない場所に、白蛇の大妖の縄張りの境界がある。
 「絶対に近づくな」っておやっさんに凄まれたが、市をいくつもまたぐような、とんでもなく広い縄張りを持った、いつから生きてんのかも分かんねえ、古くて強い妖だ。
 まぐれや勘違いでも敵には回せねえよ。

 それで、その白蛇の眷属の妖が、数名、何でかは知らないが警備員をやってる。
 勤務先は主人の縄張りの中、という契約で。

 はぐれや弱い妖たちが、庇護を求めて来たものの「縄張りの中にいても良いけれど、一切支援はしない」と言われて路頭に迷うそうだ。
 自分の縄張りなのに、いいのかそれで。
 入ってきた奴らが変なことをしでかさねえように、眷属使って見張ってんのかと思ったが、そういうわけでもねえらしい。

 蛇の妖ってのは、あんまり縄張りにうるさくないのかと思ってたが、警備員の一人で眷属に聞いた話では「エサを泳がせてるだけ」だそうだ。
 ……近づかねえのが一番だ。

 そんな感じで、警備会社の独身寮に入るか?おやっさんの家で一緒に住むか?と言われて、他の鬼に近づきたくなかったおれは、第三の選択肢、会社には関係ない妖向けの独身寮を選んだ。
 独身寮のことを教えてくれたのは、警備員やってる白蛇の眷属の妖で、本人も独身寮暮らしだそうだ。

 独身寮は白蛇の縄張り内で、鬼が中に入っていいのか?と聞いたら「泳がせてやる」って返事がきた。
 おれは泳がされてるらしい。
 自分の縄張りを養殖場かなんかだと思ってんのか?
 白蛇に踊り食いされたくねえから、大人しくしてよう。

 独身寮におれ以外の鬼はいない。
 鬼は基本的に里を作って暮らしているから、外にいるおれみたいなのは珍しい。
 初めは怖がってた奴らも、おれの知識や常識が人間に近いって理解してからは、分かり合えたように思える。

 住み始めた時は何とも思わなかったが、タクと再会して困ったのが、独身寮の妖たちがお披露目をするってことだ。
 鬼の里のお披露目のように、おひいさまが逃げないように、薬漬けにして徹底的に抱きつぶして、恐怖で支配する訳ではなく、単純にうちの嫁さん良いだろ!と自慢する集まりらしい。
 だが、おれは自分のもんは独占したい。
 お披露目はしたくねえな。

 タクをここに連れてくるわけにはいかねえ、その存在を嗅ぎつけられてもダメだ。
 そう思ったおれは、タクにウェブメールのアドレスしか教えなかった。
 警備員仲間の眷属にも口止めした。

 タクがおれに不信を抱いてるって、気がついてた。
 何で連絡先がメールアドレスなんだよ……ってのが、表情は変わらなくても、目に出てる。

 あんまり表情の変わらねえタクだけど、目はものすごく雄弁に語る。
 うろたえてる時も、怒ってる時も、悲しんでる時も、疲れてる時でさえも、目を見れば分かる。

 綺麗なとび色の瞳を見続けたおかげで、タクはおれが好きなんじゃね?って察せるようになったから、努力は無駄じゃなかった。
 
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