【R18】I've got a crush on ogre

Cleyera

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二、伝えられないまま

ーー 東鬼 :回想 1/2

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 鬼ってのは、生まれ持った体格と身体能力だけで、十分すぎるほどに強い妖だ。
 話の出どころも根拠も知らねえが、日本三大妖怪だかなんだかに〝鬼〟が入ってるのは、有名な話だろ?
 固有の妖らしいしな。

 まあ、そんな暴力の権化である鬼は、里においては日常的に殴り合うことで、破壊衝動を発散してるって話だ。
 残念ながら、おれ自身は鬼の里で暮らした事がねえから、本物の鬼同士の殴り合いは見た事がねえ。
 一方的に殴られた事ならあるけどな。

 鬼は殴り合いで興奮して本気になっちまうから、衝動の解消目的では同格の相手としか殴り合わないらしい。
 一方的に殴り殺されかけた者としては、理にかなってんなと思う。

 そんな話を教えられて「衝動を発散する方法を考えよう」と言われたのはまだ人に化けられないガキの頃だった。

 叔父は、その当時のおれには格上の鬼だった。
 周囲に他の鬼がいなかったので、叔父と殴りあう以外の破壊衝動を発散する手段を探した。

 毎晩のようにパンイチパンツ一丁で何処かに出かけて、土まみれになって帰ってきた叔父は、おれに自分の衝動発散法を教えたくねえようだった。

 困ったおれが選んだのが、人間の格闘技だ。
 必要なのは運動の量じゃなくて、ぶっ壊した!って実感だから、スポーツよりもあってんじゃねえかって、当時まだ存命だった叔父のおひいさまが、一緒に考えてくれたんだよ。

 直情的で脳筋な赤鬼で、人に化けるのが下手くそなおれは、人の社会での戸籍がねえ。
 保育園や幼稚園、もちろん保育所みたいなとこにも通ってなかったから、時間だけはたくさんあった。

 小鬼の時でも、フライパンを曲げられるくらいの力はあったらしいから、人間の子供と過ごすなんて、殺人犯を野に放つのと同意だったろう。



 選択肢も習える場所も多い、打撃技が主体の格闘技は、ダメだった。
 空手、キックボクシングにボクシング、ムエタイあたりは全滅だった。

 手や足での打撃がメインの格闘技ではおれの力が強すぎて、組手やスパーリング以前に個人練習すら成立しないことがあった。
 初日で型なんて習ってないのに、講師の好意で「軽くポンって当ててごらん」と言われた一撃で、興奮しすぎてサンドバッグをぶっ壊して、講師を吹っ飛ばしちまって、逃げた。

 正確に言うと、講師の〝子供は触りたがるよねー〟という好意が発端だ。
 「(手を痛めないように)軽くポンって当ててごらん」と言われた一撃で、興奮しすぎてサンドバッグをぶっ壊して、(子供にあわせてサンドバッグを揺らして「すごいぞ!」と言ってくれるつもりで待機していたらしい)講師を吹っ飛ばして、逃げた。

 一度で懲りりゃあ良いのに、それを行く先々で繰り返すあたり、おれは本当にアホだ。
 いつも、楽しそう!って雰囲気だけで選んで、初心者には型をみっちり覚えさせてから打撃練習に入る、厳しいところじゃなかったからなのか。

 レスリングもダメだった。
 見学に行ったおれに、「(子供に抱きつかれる程度)大丈夫だよ」と請け負ってくれた先生の肋骨を折ってしまって、逃げだした。
 治療にかかるだろう費用は、叔父が謝罪の手紙と一緒にこっそり置いてきたらしい。
 叔父さんごめんなさい。

 人に化けられるようになっても、力まではうまく制御できない。
 もどかしさに苛立ちを覚えてたおれが、偶然出会ったのが柔道だった。

 柔道?空手と何が違うんだ?と思いながら見学したら、意外となんとかなった。
 それまで選んでた、カルチャースクール的なノリの場所じゃなくて、しっかり本格的な道場で、師範が「まずは柔軟と受け身から!」と厳しかったからかもしんねえ。

 何回か通ううちに、おれの力が強すぎる、と師範が気がついてくれたので、柔軟と受け身をしっかり習った後、基礎練習が始まってからは一人で打ち込みをしまくった。

 師範にはおれが人間じゃないって、バレてたと思う。
 一人だけ、明らかに特別扱いだったからな。

 あの頃はまだ、興奮すると簡単に額の生え際にある一本角が出ちまってたから、見れば分かったはずだ。
 親指より短いちんちくりんの角でも、角は角だ。
 それとも体の大きさがちょっと膨れあがって、全身の肌が朱塗りみたいに真っ赤になるくらいなら、ごまかせてたのか?

 何もかも力ませすぎる!としょっちゅう叱られて、備品を次々と壊しながら、それでもおれは同じ道場の仲間を誰一人壊さずに通い続けることができた。
 体を動かして衝動を発散することで、普通の少年らしい?生活を送れるようになった。



 人間でいうところの小、中学生くらいの年齢にあたる期間を、道場通いと、叔父のおひいさまから人間社会で生きていくための勉強を教わりながら過ごし、年に数回は里に帰った。
 鬼は成体になるまでの個体差が大きいが、おれは多めに時間が必要なタイプだったらしい。
 年数にして十何年?かもしれないが、鬼にとって人間の暦なんて、あってないようなものだ。

 そんな風に過ごしてる内に、気がついたら何度も入れ替わってる、同じ道場に通う人間の子供たちと話せるようになってて、はやりのカードゲームやアニメを教えてもらった。

 道場の友達が持ってっから!と半年かけてゲーム機をねだった結果、叔父が誕生日に買ってくれたけど、その日のうちにコントローラーを握りつぶしちまって、泣きながら寝た。

 その年のクリスマスプレゼントは、鬼の力でも壊れないコントローラーが欲しい!って手紙を書いたっけな。
 サンタ多分、叔父さんにもそんなもんは用意できなかったのか、派手な袋に新品のコントローラーが四個入ってた。

 友達呼んで、みんなでプレイできる!と思った直後に、楽しくなって興奮して、目の前で握りつぶしたら怖がられるよな……って気がついて落ち込んだ。

 最終的に、コントローラーをいくつぶっ壊したかは、覚えてない。
 間違いなく本体より金はかかってる。

 そんな感じでおれは、人の中に紛れられるようになるまで叔父の元で育てられ、人に化けることにも慣れて、力の加減もかなりできるようになったから、と戸籍も無いのに高校に通うようになり、タクに出会った。



 初めは、へー、なんかおれと名前の発音が、すっげぇ似てるやついるな、だった。

 タクの姿を目で見て確認して、すっげぇヒョロヒョロな奴だなーって思った。
 人間ってひょろっこいの多いけど、そん中でもタクは一番細かった。
 あれだ、フニャちん野郎って呼ばれるやつだ。
 ……違ったか?

 なるほど、腹が弱えから痩せてんのか、って一ヶ月もせずに気がついた。
 冷てえジュースは飲まない、水筒のお茶からほんのりと湯気が出てる、チラ見した弁当に揚げ物が入ってない。

 タクから感じる匂いも、こいつ腹が弱そうだな……っつー匂いがしてた。
 なんかこう、消化吸収しきれてない何かが、体臭に混ざるっていうかな。
 肉をあまり食べないようだから、草食ってる動物の匂いっつーか。
 腹下したら一発で分かるからな。

 人間ってマジで弱えなーとしか、その時は思わなかった。
 まあ、でも嫌いじゃねえなって。
 それが、タクに珍宝突っ込みてえって思ったのは、ものすごい些細な切っ掛けだった。

「しのぎー」
「あーい」
「はい……チッ」

 手遊びに入った柔道部の先輩がクラスに来た時のこと、おれが名前を呼ばれたのに、同時に返事をしたタクが舌打ちをした。
 一瞬、なんだよそれ!と思い、タクの顔を見たおれは、目が離せなくなった。
 困ったような、気恥ずかしそうな、照れてるような、怒ってるような、誰にも見られてねえからって油断してたのか、そんな顔をしてたタクと目があった。

 ビキリ、と音がしそうな勢いで表情と体を硬直させた後、あからさまな挙動不審さで目をそらされて、何もなかったように顔をゆっくりと背けて席に着いた。
 まるで、ジャンプして着地を失敗した猫が、それをごまかそうと毛づくろいしてる、みたいな感じだった。

 ……な、何だ今の、めちゃくちゃ可愛いぞこいつ!!
 って、思っちまったんだよ。

 それからひたすら見続けて気がついたけれど、タクは慌てると表情と体を硬直させちまう。
 体は硬直していても、頭の中ではものすごく色々考えてるってんのは、ウロウロと動く目を見りゃわかる。
 そして、そんな挙動不審な動きをしている時のタクは、予想外に可愛かった。

 可愛いなーって思って見てっと、何をしても可愛く見えてくるもんだ。
 そうやって、おれは手のひらを返すように、コロッ!と簡単にタクの存在にはまった。
 
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