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一、片思いから
06 志野木
しおりを挟む東鬼に告げた通り定時では帰れなくて、ようやくパソコンの電源を落としたのは七時を過ぎたころだった。
先輩方はまだ帰れそうにないので、繁忙期はまだ続きそうだ。
今日は先輩事務員の首長さんがいないので、後片付けも時間がかかる。
俺がする仕事というわけではないけれど、全員分の湯のみを洗って拭いて片付けた。
「お先に失礼します」
「はいよー」
「はーい気をつけてー」
どうやら東鬼が迎えに来る前に仕事を終わらせられたか、と安堵していると、ほとんど歩かない内に、目の前に紺色の制服が現れた。
「……」
タイミングが良すぎないか?と疑っていた気持ちが見抜かれたらしい、東鬼は広い肩をすくめると「待ってた」と言い訳のように呟いた。
元同級生から恋人?未満?になれたのは嬉しいけれど、東鬼がストーカーを目指しているのかを疑ってもいいだろうか。
「うちに来るのか、俺が行くのか?」
そういえば、俺は東鬼の家の場所も住所も知らないな、と今更のように思う。
一回とはいえ突っ込む以外はしてるのに、未だにパソコンのメールアドレスらしいものしか知らない事に焦燥を覚える。
外を堂々と歩ける関係ではないから、今の距離感の方が良いのか。
昼間の東鬼の様子を見ていると、俺の存在を知られて構わないのか、困るのか判断できない。
俺の職場に知られるわけにはいかない。
「うちは……ちょっと」
「分かった」
目を逸らしながら困ったように言葉を濁らせる東鬼の姿を見て、こいつは実家住まいなんだ、きっとそうなんだと痛い胸をごまかしながら、エレベーターへ向かった。
アパートの玄関を開けると同時に、中に引きずり込まれて壁に押し付けられた。
背中を守るように支えられた大きな手が、熱い。
「タク……っ」
「……ん」
切羽詰まったような表情を浮かべる東鬼の顔を見たくなくて、その先を言わせないように唇を塞いだ。
忙しくて会えなかった。
それだけじゃなくて、共通の趣味であった車いじりさえほとんどできてない。
寂しかった。
東鬼の肌の熱さを、力強い鼓動の心地よさを、筋肉の硬さを知ってしまったせいで、一人で寝るのが辛かった。
ガシャンと音がして、東鬼が後ろ手で鍵をかけたことを知る。
俺を体全体で壁に押し付けながら片手で抱き込み、舌同士をからませているのに器用だな、と苦しさの中に残った冷静な部分で思いながら、何もかも分からないくらい東鬼に溺れたいと願う。
東鬼の分厚い舌が歯の裏側を擦り、俺が精一杯伸ばした舌をからめとる。
お互いに興奮した動物みたいな荒い呼吸をしながら、靴を蹴り脱いで、ベッドまでの途中に服を脱ぎ散らかしていく。
スーツのジャケットをハンガーにかけておかないと。
そう思っていても、この流れを止めたくない。
東鬼と抱き合う時は、狭いベッドが苦手で良かったと思う。
男の一人暮らしには不必要でも、部屋の半分を占有しているダブルベッドのお陰で、体の大きな東鬼と抱き合って横になれる。
貪りあうようなキスから、お互いの性器をまとめて握りこんで、擦りあって登りつめた。
呼吸が整って、俺の頭が冷えてきたタイミングで、抱えられるようにして風呂場に連れ込まれる。
東鬼は、きっとこの先を望んでる。
以前に感じたのは、東鬼は一回で満足してしまう俺とは違う、ということ。
狭い風呂の中で全身を洗いあいながら、もう一回しごきあった。
俺はもうこの辺りから疲れてしまって、あまり動きたくなくなっていた。
その後も執拗に前を刺激されたけれど、短時間に二回も出したせいで完全にしおれていた。
なんとか俺の反応を引き出そうとしている東鬼の必死さが、俺に精神的な余裕を与えてくれる。
「座ってくれ」
小さな湯船のふちに腰を下ろした東鬼のものは、すでに二回吐き出したとは思えないほどしっかりと勃ちあがり、腹につくほど反り返っていて、俺のものよりも雁首がしっかりと張り出しているし、浮き出ている血管も多い。
もちろん竿の長さと太さも体格にふさわしい、だからこそ受け入れるのを躊躇った。
ぶら下がっている睾丸も、しっかりと膨らんでいる。
自分の股間にも規格は違えども同じものがついているが、普段は間近に見る機会のないものを、触れそうな距離で見つめてから、怯えるようにピクリと動くそれに唇をつけた。
「……っく、待てよっ」
男のものを舐めるなんて初めてだから緊張していたけれど、上からうめき声がふってきた。
頭上から「嘘だろ舐めるのか、舐めてくれんのかよ、マジかうわ、おれのちんぽをタクが舐めてるっ!」と一人で混乱しているらしい東鬼の声が届いたお陰で、一瞬で冷静になれた。
ゆっくりやれば大丈夫、のはずだ。
張りつめて揺れる睾丸から竿の根元までを指で撫でると、自分のものと構造は変わらないはずなのに、なんだか感動した。
好奇心から手のひらで受け止めた睾丸は、思った以上にしっかりとした触感で、片手では収まらないほどずっしりと重たかった。
竿も睾丸も表面を覆う皮膚は柔らかいのに、中がすごく固い。
東鬼の股間は二人の出したものが混ざってドロドロになっていて、見ているとヒクヒクと動いた。
色は日焼けとは違う浅黒い色味で、太い血管が何本も浮き上がっていて、嫌悪感を覚えてもおかしくない見た目なのに、嫌だと思わなかった。
自分で擦る時に、どんな風に刺激すると気持ちがよかったかを考えながら、元カノが一度だけ舐めてくれた時のことを思いだして、先端をくわえる。
歯を立てないように、優しくちゅうちゅうと先端を吸いながら、先端のくぼみを舌の先を使ってくじる。
「うわ、それ、気持ちっ、うっ」
俺の下手くそな愛撫なんかで言葉をこぼしてくれる東鬼が愛しくて、もっと反応してほしくなった。
欲張るな、と自分に言い聞かせながら、舌をさらに動かす。
つるりと張り出した亀頭の下のくびれをぐるりと舐め回して、竿を舌全体を使って舐めあげる。
裏側の筋が浮いた部分は丁寧に唇で辿っていく。
どろりと青臭くて苦い味も、東鬼のもの(一部は俺の?)だと思うだけで、幸せな気持ちになる。
歯が当たらないように気をつけながら、口の中に迎えいれて、唇をすぼめて顎を開いて頭を動かすと、生臭い匂いが鼻に抜けた。
舌をうねらせながら竿に押し付けて、手で根元から中程までをしごきあげた。
俺の唾液まで追加されて、さらにドロドロになっているから、手の中でぐちゅぐちゅと熱くて固い肉が滑る。
「あ、っあ、タク、っも、それっ」
「っっうぐっ」
喘いでいた東鬼の手が俺の頭を支えた、と思ったら、突然のどの奥まで先端を突きこまれた。
そのまま奥を先端で突かれて、反射のように逆流してきた胃液を必死で飲みくだした動きが、東鬼にとってのとどめだったらしい。
「うっ出るっ」
のどの奥にびゅ、びゅと叩きつけられたものが、粘って絡みつく。
頭を押さえられているせいで逃げ出せず、息が苦しくなって、必死で青臭いそれを飲みこんでから東鬼の太ももを叩いた。
ずるりと口の中のものが抜かれ、喉を突かれたことと息が苦しくてこぼれた涙を、手の甲で拭いながら顔を上げる。
腹の底がぐるぐると動いているような、おかしな感覚がする。
精液って飲むと腹がおかしくなるのか?
「はぁ、はっぁ、殺す気かよ!」
「え、タク、まさか飲んだのかよ!?」
口だけでなく喉の奥までいっぱいに詰め込まれた上で、頭まで押さえられていたのに、どうやって吐きだすんだよ!と睨むと、東鬼が体を震わせた。
「ヤベェ、おれ、ずっとセーエキ飲ませたがる奴は変態だって思ってたけど、おれも変態だ!!」
「はあ?」
おかしなことを言い出した東鬼を見て、頭がおかしくなるほど気持ちよかったのか?と、初めてで下手なはずの口淫を思い出していると、しっかりとした太い腕に抱きしめられた。
痛くて苦しい原因が、呼吸なのか暴れ出した心臓なのか分からなくなった俺の耳に、信じられない一言が届く。
「結婚しよう!!」
思わずこいつ大丈夫か?って目で東鬼を見てしまった俺は、きっと悪くないと思う。
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