【R18】異世界で白黒の獣に愛される四十路男

Cleyera

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おまけ 2

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 俺の職場には、日本人形みたいな上司がいる。
 五十イソっていう名前で、直属の上司ではないけれど、課長だ。

 顔立ちは整っているんだけど、顔色が青白いのと無表情のせいで、普通に怖い。
 人と言っていいのか悩むくらい表情の動かない顔、ハゲとは縁のなさそうな黒々とした髪。
 年齢は多分四十前後だと思うが、常々、年齢不詳だなと思っている。

 白塗りの人形のような肌が、定期交流会のバーベキューで晒された時は、裏でものすごい騒ぎになったものだ。
 悪ふざけに巻き込まれ、頭から水をかぶっても無表情のままだった課長が、タオルで首筋を拭く姿には妙な色気があって、俺も少しだけドキッとした。

 呼べば飲み会にも参加してくれるけれど、大抵一人で隅に座ってウーロンハイ?を飲んでいる。
 そして騒いでる奴らを無表情で見ているけれど、騒ぎには参加しない。

 食事を食べるところを見ていなければ、人形かロボットだと言われても信じそうなくらいだ。
 正直言って、その辺のロボットの方が人間味があると思う。


 五十課長は人気がない。

 いや、正確には近づきがたい、だ。
 悪い人じゃないのは、みんな知ってる。

 話しかければ言葉は返ってくるし、無表情すぎる顔と同じような平坦な話し方ではあっても、部下への配慮は感じるし、仕事で困っていればフォローもしてくれる。
 それでも、仕事の内容以外では、勇気を出して話しかけるまでのハードルが高すぎるのだ。

 何を話しかけても無表情で返されるってのは、かなり心をえぐられる。

 課長は身長だって肩幅だって、どこからどう見ても男だし、顔も女っぽいわけじゃない。
 運動をしてきたような体つきではないけれど、女性的には見えない。

 なのに、課長から未亡人のような雰囲気を感じる時がある。
 愛する人を失って、夜の一人寝が寂しくて、慰めてくれる新しい男を待っている……みたいな。

 同期の中には「課長は総愛され総受けデュフフ」とか言ってる女、いやお腐れ神様もいるけれど、あれだけ人間味を感じさせない人なら、本当にありなんじゃないかと思ってしまうのだ。

 まあ、何が言いたいかというと、課長には独特の雰囲気があるってことだ。


  ◆


 ある女性社員Aちゃんが、五十課長にがっぷり食いついたことがある。
 噂の域を出ないので本当のところは知らないが、すごく可愛い子なのに男好きだという噂があって、何股もかけてるだの、売りをしてるだの変な噂があった。
 男性社員の一人として、女のやっかみは怖いなーって遠巻きにしてた。

 でも、課長は何も変わらなかった。

 Aちゃんがあからさまにアタックしても、社食で「課長」と語尾にハートがつきそうな声で呼んでも、無表情が崩れない。
 会話をしている姿を見ても、Aちゃんが近づくと、近付かれただけ離れる。
 なんだこれ、どうするんだよ、と思いながら周囲が見ている間に、Aちゃんの方が心折れてしまったらしい。

 Aちゃんはすごく頑張ったと思う、半年以上全く態度が変わらない課長にアタックし続けた。
 初めの頃はAちゃんを悪く言っていた女性たちまで、最後の方では、なんで気づかないの!!と怒っていたくらいだ。
 個人的な意見だけれど、課長はAちゃんがアタックしてきていることさえ気がついてなかった、ような気がする。



 そんな五十課長が、変わった。

「だいじょぶ?」
「大丈夫ではない、翌日に響くので奥は駄目だと言ったはずだ」
「ごめんなさい、しゅうやがかわいいとやめられなかった」

 目の前で、恋人のように課長の腰に腕を回している男との会話を、偶然とはいえ聞いてしまった。
 ……奥ってなんだ?
 それと、課長の名前ってしゅうやっていうのか、知らなかった。

「四十を越えた男に可愛いは使わない、間違った日本語だ」
「あいらしい、いとおしい?」
「どちらも使わない」
「にほんごのいいまわすはむずかしい」
「文章は漢字混ざりでも読めるのに、なぜ会話だけが下手なんだ?」

 そう言いながらも、課長は今までに見たことのない表情をしていた。
 明らかに左右の口角が持ち上がり、目元が柔らかく緩んでいる。

 人形は、笑えるらしい。

 ク◯ラが立った!的な感動を覚えながら、見てはいけないものを見た気がしたので顔をそらして、もう一度課長とそいつの方を見たら。

「……ヒィ」

 目があった。
 あいつ、きっと本業は殺し屋だ。
 って信じてしまいそうな顔で、睨まれた。

 そして。

「しゅうや、あいしてる」
「……っ!?ギ、ルっやめ、っ」

 課長を抱きしめながら壁に押し付けて、ディープな感じで始めるな!
 濃厚な感じで襲ってる最中だっていうのに、そいつの目は俺を見てる。
 本気で殺されるんじゃないか、って気がしてきたので、関わる気ないよーって首を振ってその場を立ち去った。

 腹が減って幻覚でも見たんだろうな、と誰かのお土産で分けられたチョコを口に放り込んだ時に、気がついた。

 Aちゃんの敗因は、態度で示したからだ、と。
 あいつみたいに、まっすぐ「愛してる」って言っていたら……って日本人にそんなことできるか、課長の攻略のハードルが高すぎだろ、と思った。

 あー、俺も可愛い彼女が欲しい。
 
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