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愛してはいけない :注意:(あっさりですが)虫食あり
しおりを挟む怒涛の行為が終わった後、翌日?の夕方に、ぼろきれになるまで使い込まれた雑巾の気分で目覚めた。
腹を突き破られたと感じたのは錯覚だったのか、腹に蔦を巻かれていることもなく、目覚められたことに安堵した。
しかし、五体満足ではなかった。
イタチがハッスルしたせいなのか、腹を破られた錯覚のせいか熱を出してしまい、全身の痛みと怠さから動けなかった。
その上で、下半身の感覚が痺れたままだったので、このまま立てなくなるのではと恐怖した。
全身がだるくてしんどくて自分で動けない間、何もかもをイタチに世話されて、ベッドから抜け出せたのは三日後だった。
必要なことだと分かっていても、尿瓶を優しく股間に当てられる経験は二度と味わいたくない。
今まで全裸でも風邪を引かなかったのは、偶然だったのか。
前から思っていたが、なぜかイタチがそばにいる間は、尻から出るべきものが出ないことを確信した。
どこかで詰まってるのか?
動けるようになってからも、イタチが日に何度も様子を見にきて抱きしめられたけれど、こちらを気遣ってかそれ以上は求められない。
これまで一日半おきだったのが突然十日以上も空いたので、それで暴走したのか?と考えると、ほどほどのところでこちらから誘うべきなのかもしれない。
我慢された挙句に、動けなくなって熱が出るほど無理をさせられるのは困る。
動けずに何もすることがなくて暇すぎたため、一人でひたすら考えた結果、ストックホルム症候群という単語を思い出したものの、どういう精神状態が当てはまるのかまで知らないことに気がついた。
自身の異常性を自認はしていても、正しい知識を持つ第三者に異常だと診断されることは怖かったし、自身で判断を下すのも嫌だったので、そちらの方面には明るくない。
とにかく依存するのがよくないのだろう。
依存……間抜けなイタチ顔は愛らしいと思うようになったが、戦っている姿以外は格好いいとは思えない。
人間大のツートンカラーのイタチで、二足歩行なのに胴長短足なので、よちよちと歩く姿はなんとも言えなかった。
普段から二足歩行をしているのに、どうして動物をそのまま大きくしたような姿なのか、と不思議に思っているが、生物の進化過程には詳しくない。
そういえば、拳大の生きている甲虫を持って部屋にきたときは、虫の大きさに肌を粟立てつつも、カブトムシやクワガタを喜ぶ子供のようだなと思ったのに、直後にそれを口に放り込んだので顔が引きつってしまった。
肉食じゃないのかよ!と思ったが、もしもイタチの主食が虫だとすれば、食事を共にするのは遠慮したい。
虫食が普通の国もあることは知っているし、高タンパクで栄養価が高い虫食を薦める専門家がいると伝えるニュースも知っているが、歯を剥き出して虫を食べている姿は放送禁止にするべきだ。
とにかく今のところは、考えても答えが出そうにないので、答えを出すのは後に回した。
少なくとも、イタチの全てを受け入れてはいない、と思う。
ようやく手元に届いた果物は、前腕ほどの長さの淡緑の空豆みたいな莢に、不揃いの白い塊が入っているというもので、当然ながら似たものを見たことがない。
初めに見たときは、豆の莢にそっくりな形とその大きさから、福神漬けに入っている、なた豆かと思ったほどだ。
草を味見する時のように白い部分を少しかじってみたら、ほろほろと脆く崩れた後に、もそもそした繊維が残る食感で、ヨーグルトのような酸味とほのかな甘みを感じた。
中身は豆ではなかったし、果物……と言われればそうなのかもしれない。
腹を壊さないか様子を見ながら、少しずつ食べる量を増やしているところだ。
ここの住人には無毒な果物でも、自分にとって毒かを調べることはできないので、覚悟はしている。
そんな風にして過ごし、草のえぐみを果物の味でごまかしているところに、久しぶりに宰相さんがやってきた。
「まずはお礼をさせてください」
「何に対して?」
入ってくるなり体に巻いている布を剥いで、腹を見せてくる宰相さんに何事かと思ったが、あれか、あの、犬が負けた!腹見せる!服従!みたいなやつなのか?
「殿下の呪いを軽減してくださったことに、です」
「呪い?」
それは初めて聞くなと顔をしかめると、犬は苦しそうな顔をした。
「先に呪いの存在をお伝えすれば、逃げようとなさるのではないか、と考えまして」
「それについては反論する、何も知らされていなくても逃げたい気持ちはある」
「……イソスーヤ様をこの地にお呼びしたのは神ですが、神に救いを求めたのは殿下ではなく、我らなのです。
責めるのであれば、我らにお怒りをお向けください」
「へぇ、神様ね」
なんか、とつぜんファンタジーなことを言い出したな、と思ったけれど、よく考えなくても目の前にいるのは二足歩行の犬だ。
しかも常に二重音声が聞こえているが、どこの誰が同時通訳をあてているのかは不明のまま。
慣れてきてしまって麻痺しているが、ファンタジーではない点の方が少ないのか?
詳しく話してもらうことにして、食事を続けても?と聞くと、宰相さんも腰を据えて話すことに決めたらしい。
絨毯の上で四つ足をついて腹を据える姿は、どう見ても巨大な犬だ。
二メートルくらいのイタチよりもさらに頭一つはでかいが、世界で一番大きな犬もこれくらいだったか?
椅子などない部屋の中なので、ベッドの上に座ったまま果物をゆっくりと咀嚼する。
ほろほろと口の中で崩れる食感は果物らしくないが、食べやすいからと急いで食べると、腹が冷えたように痛むことが判明した。
イタチが側にいて中身が出てこないので、下痢を起こしているのかは不明だ。
よく噛めばなんともないので消化できない、ということではないのだろう。
昨夜の腹痛のせいで、今もわずかに残る下半身の重怠さに煩わされているが、食後に体調が優れないことはないし、現状で他に食べられそうなものが見つかっていないので、自分が合わせていくしかない。
ゆっくりと食事をしながら宰相さんの話を聞いて、ずっと気になっていたイタチの豹変の理由を知った。
まず、この世界、そう、ここは自分が生まれ育ったのとは違う世界、異世界だという。
世界の定義が宇宙なのか、次元なのかは不明。
そしてこの世界には神様がいる、名前は不明。
この神様は知能ある全ての生き物の母であり父、神によく仕えるものは加護も受けられるという。
なんだその箱庭の世界は、とここで思ったものの、口の中にもろもろとした果肉が入っていたので、うなずくだけにした。
イタチは神の篤い加護を受けていて、父である王様もイタチを次の王にはできないけれど、出奔させる気はない。
なんで王にできないなのかと聞くと、ここ特有の理由だった。
王様の種族は岩場で見かけたライオン似の種族で、有能でも容姿の違うイタチに跡を継がせることはできない、そうだ。
え、ライオンとイタチって全く姿が違うけれど、親戚なのか?
というか、あんな間抜け顔でおバカなイタチに王様とか無理だろ、と言ったら、宰相さんがものすごい険しい顔になってしまった。
第三王子という生まれの順番は王になるのに関係なくて、能力こそ全てだという。
動物か、いや、動物だったな。
イタチに体格では勝っているのに、戦っても勝てない兄弟が、恨みを募らせて王族らしからぬ陰険な方法で蹴落とそうとした、で、それが呪い、と。
「殿下にかけられたのは空の呪、それを身に受けし者は知能を失い、次第に野の獣のようになります」
今のイタチは子供の時のやんちゃ坊主そのもので、本当はもっと沈着冷静で大人だ、となぜか長々と語られた。
とにかく、呪いを解くには異界から招かれし者の助けがいる。
なんでだ、そこがおかしいだろ。
呪いを解こうとするのはいいが、そこで異世界から誰かを連れ込もうとなるのはおかしいだろう。
「神がそう判断されたのです」
「……」
全く納得いかないが、狂信者にありがちな盲言かもしれないので、これ以上は掘り下げないでおこう。
それで、なぜかイタチの雌ではなく人間の男が来た、と。
宰相さんが言うには、二人の気持ちが通じ合った状態で性交を行うと、呪いの症状が軽減されるという。
こっちが犯されていると思っていて、言葉も通じなかった間は、症状の悪化を止めることはできても、目に見えるほどの軽減はしなかったと言う。
イタチ本人は、呪いで獣のようになっている間のことを、ほとんど覚えていないため、周囲がどれだけ心を尽くしても改善しない。
今回の行為で、目に見えてイタチの精神面が落ち着いたから、と相思相愛を喜んでの情報開示らしい。
なんでセックスで呪いが解けるんだよ、そこは真実の愛のキスとかじゃないのか。
おとぎ話の定番を、大人向けにしました!みたいなエロ展開とかいらないと思う。
ついでに、自分が動けなくなっている原因というか、そういうの筒抜けなんだ、そうか、恥ずかしいよりも情けないなぁ。
あと、そう言うことなら、自分に裏側を教えたのは失敗でしかなかった。
宰相さんはイタチの症状が軽減したことで、相思相愛になったと思ったんだろうが、始めが酷すぎたのと自分自身の異常な精神性のお陰で、そこまで関係は進んでない。
イタチの告げてくる真っ直ぐすぎる愛してるに、答えを出しきれない自分が情けなかったが、話を聞いてのぼせていた頭が冷えた。
神なんて信じない。
ただそこにある自然現象や、自然そのものを神と呼ぶなら可愛げがあるものを、意志を持って干渉してくる存在なんてただの害悪だ。
水槽の魚みたいに、管理されお世話されて生かされるのは望んでいない。
「イソスーヤ様には、殿下の奥方となり、この地を守ることに協力いただきたく存じます」
「……なるほど、あんたの判断は正しかったな」
「イソスーヤ様?」
「ギルが俺に愛してるって言うのは、神が押し付けた感情なんだな?」
「そこまではわかりかねますが、殿下は心からイソスーヤ様を望んでおられます」
「いいや、絶対そうだ、ここまで役立たずの穀潰しを、なんのために飼っておくのかと考えてた、なるほどね、そういうことなら呪いを解く方法を教えれば協力する。
呪いが解けたら元の世界に返してくれるよな?」
「イソスーヤ様、それは誤解でございます、どうか考え直してください」
「悪いな、それは無理だ」
二度とイタチを愛したいなんて思わない。
異世界から連れ込まれたおっさんを相手に、愛を感じるように改造?洗脳?されたイタチも被害者だ。
愛したい、と思ったのに。
誰かに刷り込まれた感情で愛を囁かれていたなんて、バカにするにもほどがある。
怒っていないし悲しくもない、胸が締め付けられるように痛くて苦しいのは、気のせいだ。
暗闇の中にいた正確な日数は不明だが、この異世界とやらで過ごして二月以上は経っているはずで、ここでの一日が何時間であっても、元の世界で一日も経ってないはずがない。
すでにアパートや仕事が、行方不明で処理されている可能性も高いが、帰りたいと思った。
◆ ◆
イソスーヤが私を受け入れてくれて、頭にかかっていた靄が晴れていくと、今までのことが夢のように感じる。
野の獣のように過ごしていた間の記憶はほとんどないが、私がイソスーヤに無体を強いたことは間違いない。
無粋が入る前に、イソスーヤと神殿に赴き婚姻の儀を行わねば。
ああ、そういえば、イソスーヤの名前の発音を練習しようと思っていたな。
……確かイソスーヤ……違うな、イソスウヤ、イソスウヤ……これからずっと側に在るのであれば正しく名を呼びたい、練習しなくてはならないな。
健気で可愛らしい私の唯一、何よりも誰よりも大切にしよう。
神様、イソスウヤに会わせて下さったことに心よりの感謝を捧げます。
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