【R18】異世界で白黒の獣に愛される四十路男

Cleyera

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暗闇で懇願する ※

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 時間がどれだけ経ったのか、途中で気絶したのか、次に意識が戻ったのは頬に何かが触れたからだった。

「    ?」

 聞き取れないけれど、言葉だ。
 暗闇から自分に向けられている声に対してそう思ったら、枯れたはずの涙が溢れてきた。
 女々しいと思っても止められない。

「たの、む、たす、け、てっ、も、むり」

 声をかけてきた相手にすがろうとしたけれど、するりと下がられて、冷たく濡れた毛皮の上に倒れこむ。
 反射的に動かした体には、痛まないところがない。
 ヒリヒリと痛む喉から出した自分の声は、かすれてほとんど聞き取れない。

「    、       」
「なにいって、分からな、い、たのむ、から、こんなこ、としたくない」

 相手の言葉を遮って、ひたすらに嘆願を続ける。
 しばらくの間、相手の温情にすがろうと頼み込んでいたけれど、いつまで経ってもそこにいるはずの誰かは近づいてこないし、遠ざかろうともしなかった。

 なぜだろうかと考えて、そこで顔に血が上った。
 あれからどれだけの時間が経ったのかを知る術はないが、毛の塊に凌辱された体はそのままだろう。
 全裸だけでも恥ずかしいのに、この暗闇の中にいても見えているのだとすれば、ひどい姿のはずだ。

「これは、あの」

 思わず体を隠そうと腕を腹に巻きつけたけれど、どこもかしこも痛まないところはない上に、尻から考えたくもないものが次々にこぼれて足をつたい落ちる。
 しどろもどろになりながら口を開いたが、そこでふと思う。
 今、目の前にいるやつは何者だ?と。
 言葉をかけられたから、人だと思った。
 それでも、こいつが味方である可能性は低いんじゃないのか?

 すがるように膝立ちになっていた体を守ろうと、ゆっくりと後ろに下がる。
 現状で選べる選択肢に逃げるは存在しない、自分の鼻先さえ見えない暗闇で走れるとは思えない。

「   」

 怯えている姿を見られたのだろうか、柔らかな声が聞こえて、するりと頬を撫でられる。
 それは、少なくとも力づくで押さえつけようとするものではなく、触れてきたのは乾いて硬い感触だったが、少なくとも毛は生えていなかった。

「ここから出してくれ」
「       、      」

 話しかけられても相手の言葉を聞き取ることはできないし、知っている言語ではないように聞こえる。
 なんていうか、動物が喉を鳴らすようなクルルルルグルグルゥという音にしか聞こえない。
 試験用のリスニング問題でつまづいたから、確信を持っては言えないけれど、英語ではないだろう。

 不意に柔らかいものが口に押し付けられる。
 指や肉ではない、とゆっくり唇を開いて食んでみると、食感と風味からパンのようなものだとわかった。

 薄く柔らかいパンもどきを、言葉の通じない相手が唇に押し付けてくる。
 何度か手で払いのけても、言葉で拒絶しようとしても、諦めずに口元に押し付けてくるので、抵抗を諦めて、痛む喉に苦労しながら噛んで飲み込んだ。

 パンもどきの次は、木製のカップのような触感のものを口元に押し付けられる。
 中身はただの水だったが、渇ききっていた喉と体を潤せたことに安堵の息をついた。

 腹にものが入って頭に血が回り始めたのか、まともに考えることができるようになると、なるほど、あの毛の塊のために飼育されるわけか、と理解した。
 生かさず殺さずってことで、どこにも味方はいないらしい。

 こうして、暗闇生活が始まった。


  ◆


 暗闇生活が始まって何日が過ぎたのか分からないが、毛の塊は定期的にやってくる。
 時間の経過を知る手段がないので、本当に定期的かどうかは不確かだが、頬にしか触れてこない手による食事が終わると、毛の塊がやってくる。

 始めこそ全身がどこもかしこも痛くて、見えなくてもアザだらけになっていると感じていたが、幾度も続く悪夢に疲れてしまい、抵抗を諦めたら毛の塊の態度が変わった。
 それに伴いアザの数も減っているような気がする。

 態度が変わったといっても、突然のしかかって押しつぶして来るなり、無理やり突っ込んできて腰を振る行為自体は変わらない。
 ただ、突っ込んだ後にすぐに動かなくなったとか、耳元で牙を鳴らさなくなったとか、そんな少しの変化だ。
 耳元で牙を鳴らされて、鋭い爪らしきものを肌に食い込ませてくるのは本気で怖いから、やめてくれるのは大歓迎だ。

 毛の塊には知能があるのか、抵抗をやめてからは雌が屈服したとでも思われているのかもしれない。
 初めの手荒な行為も、猫の雌が性交の痛みで叫ぶようなものだと思われたのか。

 ということで、今もうつ伏せで尻だけを高く突き出した体勢で、ガツガツと後ろから突き刺されている。
 現状で取れる最善手として、負担軽減のために自分からうつ伏せになり尻を差し出すようになった。
 望んでいないことを幾度も経験させられたせいで、受け入れる側は四つん這いか、うつ伏せで尻をあげた状態が一番楽だと知った。

 抵抗した末の行為では、上から力で押さえつけられた状態での仰向けが多く、終わった後で床に押し付けられた腰から全開にされた股関節が痛み、何よりも酷使される尻穴の違和感がひどかった。
 必要以上に力が入っているからなのか、全身が事後に痛むのにも慣れてしまった。

 毛の塊の毛皮が分厚いおかげで、後ろから強く突かれても骨同士がぶつかったりはしないが、この行為自体が辛くて痛いのは変わらない。
 うつ伏せの体勢は膝が痛いが、ただ転がっていると他の体位に変えられそうになるので「穴はここだぞ」と打算と捨て鉢感情混じりで誘っているつもりでもある。

 今の境遇に対して、いつかは逃げ出したいと思っているが、同時に諦めてもいる。
 絶望しきれないのは誰とも意思の疎通がはかれないからで、逃げ出した後の想像がつかないからだ。
 逃げ出すための策も展望もないのに、うまく逃げ出せば元の生活に戻れるかもしれないと、希望が捨てきれない。

 閉じ込められている暗闇には、毛皮以外は何もないので、自殺さえできない。
 石でできているらしい壁と床と、床に敷かれた毛皮、それに尿瓶程度しかものがない環境では、頭を強く打ち付ける以外の自殺方法が思いつかなかった。

 初めから治療してもらえると思っていないとはいえ、死ぬなら苦しまないで済む方法がいい。
 ハンストしてもいいけれど、飢えで苦しんでいる所に性交を強要されるのは辛すぎる。
 むしろ言葉が通じないことで、死にかけていても気が付かれないかもしれない。

「あ、あっ、あ、あ、ああ」

 少しでも体の負担を減らそうと考え、今では突かれる動きに合わせて声を出すようにしているが、これは毛の塊の反応がよくなって解放が早くなる気がするからで、快感を感じているわけじゃない。
 数え切れないくらい犯されているけれど、尻ってのは気持ち良くならないもんなのか、と不思議なほどだ。

 女性でも初めは痛いけれど、だんだん気持ちよくなるとか聞くのに、男の尻は違うのか?
 それなら話に聞くアナルセックスなんて無理じゃないか?
 個人差で気持ちよくなる適性があったりするのか?
 これまでに女性男性問わず、縁も相手もなく経験がなかったし、ここでは情報が得られないので疑問を解消する手段がない。
 人並みに映像や本などの世話にはなっていたが、やはりああいうのは創作、と考えるべきか。

「ん、あ、っあ、ぅっ、あ」

 早く、何もかも終わればいいのに。
 常にそう考えながら、毛の塊の動きに逆らわないように気をつけていた。

 毛の塊との行為は、腰を押し付けてくる動きが犬のように早いせいで、呼吸が辛い。
 下に毛皮が敷いてあっても、一人と一体分の体重がかかる膝は傷になるし、疲れて朦朧としているせいで今が何回目なのか分からない。
 腹の中は毛の塊が吐き出したもので、ドロドロのぐちゃぐちゃになっていて、動かれるたびにブチュグジュと聞くに耐えない音が聞こえる。
 最後には気絶してしまうので、後始末がどうなっているのかは知る機会がない。

「ぐっぅ」

 余所事を考えていたせいで、ぐぐっ、と不意に深く押し込まれた熱の衝撃で苦しい呻きが止められず、毛の塊の動きが止まった。

「つ、続けろよ」

 この毛の塊は、こちらの言葉を少しずつ理解しているのかもしれない。
 いやだ、とかやめろ、というと行為が手荒になる。
 まるで「痛いのが好きなんだろ?」とか言われているようで腹がたつ。
 痛いのも乱暴なのも好きじゃない、男、いや雄?に抱かれて喜ぶ趣味もない、それに今なら獣姦とか単語だけで腹一杯だ。
 それ以前に、恋すら……したことないかもしれない。
 自分が誰かを好きになるのはおかしいと思ってたからな、と再び嬉しそうに律動を始めた毛の塊に合わせて喘ぐ。

 早く、終われ。
 少しでも長く休ませてくれ、もう若くないんだよ。





 また、気絶したらしい。
 いつもと同じように頬に触れてくる手に起こされた。
 四十歳を過ぎてから、体力が落ちてきたのは自覚していたが、この歳になって若い頃以上に盛る、いや、盛られる?生活になるなんて思いもしなかったので、とてもついていけない。

「         」
「暖かいものが食いたい」

 頬を撫でてくる手が話すクルルグルクルルゥ、みたいな言葉は、多分「飯だぞー」みたいな感じだろう。
 ほとんど聞き取れないけれど、いつも同じようなことを言っている気がする。

 ずっと空腹をごまかせる程度のパンもどきしか食べていないから、たんぱく質が足りなくて体温が上がらないのか、一人でいると寒くて仕方ない。
 行為中は分厚い毛皮で背中が暖かいが、ずっと全裸生活なのが辛い。

 そういえば、と疲労で重怠い体を起こして確信した。
 この食事を持ってくる手が、気絶している間に体を綺麗にしているらしい。
 獣がそんなことをできるとは思えない。

 こいつが尻の中も綺麗にしているのか。
 壁際に小便を入れる蓋つきの瓶は置かれているけれど、糞をひりだす壺みたいなものは用意されていない。
 この暗闇で目覚めてからこれまでに排便をした覚えはないし、出そうだと感じたこともない。

 もうずっと死ぬまで、この広すぎる石部屋に閉じ込められたままなんだろうか。
 凍死するほどの寒さではないけれど、体調を崩さないのは不思議だ。

 唇に押し付けられるパンもどきを齧ると、頬に乾いて硬いが暖かい肌?が触れてくる。
 肉体労働者の硬くなった手のひらのような感触に、よくできました、みたいな撫でられ方をして、ゾッとした。
 いつまでも大人しく飼育されていると思うなよ。
 ここから出られそうにないから大人しくしているだけで、今の生活を受け入れたわけじゃない。

 会社では勤続年数に準じた、それなりの仕事はしていた。
 その経験が今では何の役にも立たない。
 だから大人しくしている。

「外に出してくれ」

 通じなくても、何度も繰り返す。
 大人しくしていれば、隙ができるはずだと信じて。


  ◆  ◆


 スゴクダイスキ、ボクノオヨメサン、カヨワイノシンパイ、モットクスリガヒツヨウ!
 
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