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33 勘違いだけど ※ 後背座位(少し

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 ブレーと一緒に過ごした二百年で、彼が羽目を外して酔い潰れる姿を見る機会はなかった。
 外で飲んだ時は歩いて帰ってきていた。

 酒の飲み方について、苦言を呈する必要がなかった。
 これまでは。

「全て酒は薬とも喩えられる、飲み方についてとやかく言うつもりはない、けれど薬を酒として飲むのは受け入れられない。
 貴方たちは死にたいのか?」

 それも、私が作った薬草酒を飲んで死なれるなど、受け入れられない。

 口調がきつくなっている事を承知の上で言うと、四人がしょんぼりとして、口々に悪気はなかったと言い訳をこぼす。

「こいつをヌー父様に返しといてくれるか」
「え?……いつの間に」

 ブレーが手渡してきた空になった薬草酒の小樽は、私が以前に渡したものではなかった。
 彼らが酔い潰れたのが、この酒を飲み干したから、だとしたら。

 私は叱る相手を間違えていたようだ。
 本当の犯人が父だったとは。
 薬師の風上にもおけぬ。

 薬師としての説教を終えてから、四人には口が痺れるほど苦い薬草茶を渡して、薬草粥を用意する。
 症状が軽くなった、は完治と同意ではない。

「ブレー、私は酒造りは専業ではないが、次の日に残るような無謀な飲み方は、酒を作った者に失礼だと考える」
「すまん」

 まあ、言い訳だ。
 酒を楽しむのも悪酔いするのも、好きにすれば良いだろう。
 私が作った薬草酒は人を助けるものであり、それを悪用されるのは許せない。

 ……まあ、今回は父がブレーに酒を渡していると思っていなくて、勘違いした訳だけれど?
 言わなければ、発覚しないだろう。
 ごめん、ブレー。
 ちょっと私は早とちりしすぎた。

 一体、父はどういうつもりでブレーに樽を渡したのか。
 言わなくても知っているだろうと考えて、里の人々全員で使うように伝えていなかったのかもしれない。
 樽の残り香から判断して、汎用性の高い滋養強壮系統の薬草酒のようだけれど。

 窟の祝宴で使うように、と渡してくれたのなら、四人で飲み切ったのはやりすぎだろう。
 だから今回の仕置きは、順当である。

 薬草酒で中毒死されては困るので、勘違いした事は言わないでおく。
 そうしておこう。



   ◆



 もう一泊してから徒歩で直近の人種族の村に向かい、そこから乗合馬車を乗り継いでシンネラン王国へ向かう事になった。
 いつも、ブレーが里帰りの時にたどる道のりを、一緒に行けるのは嬉しい。

 父にブレーに危険なものを渡すなと抗議の手紙を送り、反省したらしいドワーフたちを見送った事で、少しだけ気が晴れた。

 ドワーフの特徴的な赤ら顔が青ざめて、どす青黒くなっているのを見たのは初めてだった。
 酔わないのではなく、酔いにくいのだと知った以上、同じ事を繰り返さないように釘は刺しておきたい。

 二日酔いで死んだ者はいない、という与太話を人種族の酒場で聞いたけれど、酒精の過剰摂取で臓器を損傷してからでは手遅れだ。

 ブレーが私を置いて早死にしたら、その後、私は屍のように生きるのだろう。
 防御魔法を使わずに広範囲殲滅魔法を発動すれば、自死はできるかもしれないけれど、大叔母の姿を思い返してみると、そこまでの思い切りも気力も出ない可能性がある。


 天幕の中で、寝台に座って『収納』内の片づけと整理をしていたら、ブレーが側に来た。
 なにか用だろうか、と顔を上げ。

「ん……ん、なに?」

 頬を両手で挟まれて、唇を吸われた。

「なんもない」
「ん、ん……」

 もう一度。
 唇を押し付けるだけの、他意のない口づけ。

「ブレー、どうした?」
「心配させてしまったろう?」

 ……言わなかったのに。
 見抜かれてる。

 やっぱりブレーはすごいな、と額を目の前の首筋に押し付けた。
 ふわりと立ち上る酒精の残り香のせいで、いつもの体臭が遠い。

 がっちりと四角い背中に腕を伸ばして、縋り付く。

「どうかな」

 これを心配と言って良いのだろうか。

 無茶をして欲しくない気持ちは本物だけれど、結局は、私自身の未来を憂いているだけだ。
 愛しい人と共にいたいと願うからこそ、健康であってほしい。
 けれど、楽しみを奪ってまで健康であれ、と強要するのは本末転倒だとも思う。

 ブレーが私と共にいる事を望んでほしい。
 私と共に、ずっとこの先も生きてほしい。

 いずれ訪れる、別れの日まで。

「すまんかった」

 頬に触れる指先の熱が、固さが、愛おしい。
 小鳥が餌をついばむような、触れるだけの口づけが喜ばしい。
 私の心の痛みまで心配してくれる優しさが嬉しい。

「もう、怒ってない」
「そうだな」
「でも、心配はした」
「そうか」

 縋りついた背中の温かさは、いつでも私に大好きを与えてくれる時のもので。
 私は額をブレーの首筋に押し付けながら、呟いた。

「酒精を摂りすぎると、男性機能の反応が悪くなるらしい」
「そうか、そういうこともあるのだろうな、心配させてしまったか」
「……らしい」

 私は、ブレーに触れたいのであって、抱かれたいわけではない。
 触られたいのであって、繁殖行為に溺れている訳ではない。

 ただ、ブレーに大好きをされながら達する喜びと快感を知ってしまった事で、取り返しがつかなくなっている気はするけれど。

「心配させてすまんかった、ほれ、きちんと反応しとるぞ」

 ブレーが少し膝を曲げて、私の膝に股間を押し当てる。
 どうだ、分かるか?、と耳元で聞こえる声に、気が緩みそうになる。
 ……どうして、少し固くなっているのか。

「それは……良かった?」

 なんと言えば、良いのか。
 こういう時の返事は難しい。

「おう、エレン」
「なに?」
「抱いてもええか?」
「……聞くな」

 私には、この意地っ張りな自分のもやもやした心が、本当にどうしようもないくらい、手に負えない時があって。

「エレン、抱かせてくれ」
「……う、ん」
「抱くぞ」
「分かったから、何度も言うな」

 ブレーが言い直してくるから。
 声が優しくて、甘いから。
 低くてお腹に響く声は優美ではないのに、私の心をいつでも優しく慰撫してくれる。

「好きだ」
「……」

 私が、返事できない、事を知ってるくせに。

 大きな手が、私の短く刈った後頭部を撫でる。
 細っこい毛がやわくてきもちええのう、と言われても反応に困るのに。

 ドワーフの髪と髭が頑丈なだけだから。
 ごわごわと固くてうねっていて、まるで硬い金属線のような。

 好きだ。
 好きだよ、ブレー。



 天幕の中で、私は額冠を被り、杖を握りしめながら、ブレーと愛を交わした。

 どんな種族であっても、男同士の繁殖行為に意味はない。
 胎が無い以上、回数を重ねても子はできない。

 だからこれは、愛を伝え合うためだけに、行われる行為だ。

「好きだ、エレン」
「ん、わたし、もっ」

 寝転がると額冠の枝が痛いだろう、と寝台の端に座ったブレーの膝の上に私は座っている。

 魔法道具で洗浄して、ゆっくりと時間をかけて解された尻の穴に、ブレーを根元までずっぽりと咥え込んで座って、いる。
 太ももの裏にはブレーの硬い膝が当たり、腹に回された太い腕が熱い。

 二人で眠れる特注の寝台は、高さも幅も長さも全てが大きいので、ブレーは座った時に足の裏が全てつかない。

 私は膝を大きく開いてつま先で床を踏み、尻に体重がかかりすぎないように精一杯踏ん張っているのに、ブレーの腕が私の腰を引き寄せようとする。

 もう根元まで入ってる!
 これ以上、入るものか!
 と言えたら良いのに。

 ブレーの先端が呼吸のたびに腹の奥を押し上げて来て、ひどく気持ちいい。

 しっかりもたれると、下半身がじんじんして腰が抜けそうなので動きたくない。
 両手は杖を握りしめているから、他に体重を分散させる事ができない。

 ブレーは不安定な体勢でほとんど動いていないのに、ゆっくりと腹をさすってくる手が熱かった。

 
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