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洗濯女(男)の憂鬱
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あけましておめでとうございます
お年玉 (っ'-')╮ =͟͟͞͞◯ブォン 投下のつもりです
現物(?)支給ぅっ!!
三ヶ日で全6+1話+SS+登場人物を連投します、コトヨロ~
一応、異世界だからカタカナ外来語に違和感が……でも日本語で服の説明が難しくて、ルビ振ってみました
読みにくいだけだったらすいません
えっちは題名に※です
◆
全力で押し返してるのに、目の前の金属鎧はびくともしない。
それでも手で押すことしかできない。
ただただ悔しい。
前衛職と後衛職って理由だけで、ここまで身体能力に差がある……わけじゃないって知ってるから。
この力強さが、ひたむきな鍛錬と努力と色々で培われたものだってこと。
「はなして、やだ、んうっっ、はなっ、んんっ、はなし、っえ、はなせよっっ!」
「うん」
侍女の制服を着たまま押し倒されかけてる、泣きそうなボクの声なんて聞こえてないのか、耳に届かないのか、返事だけが返ってきて逆に口付けが深くなる。
「ぅむ、んんっ、んぅーっ」
熱いほどに体温の上がった舌が、ボクの口の中を這いまわる。
これを好きって思ったらだめだ。
師匠に「あいつ、発情すると熱が出るからわかりやすいでしょ♪」って教えられたのは、初めて襲われかけた後のこと。
その時に助けてくれたのは師匠じゃなかったのに、なんで知ってるのかって思ったら、ニンマリと幸せな猫みたいな顔をして「弟子を見守ってるからね」って続けて言われた。
黙ってれば美形、が台無しだ。
つまり、口付け以上をされたとしても、師匠は見てるだけ、ってこと。
そう、今も見てる可能性がある。
突っ込まれた舌に噛みついてやりたいけど、できない。
抵抗はしても良いって許可されてるけど、顔に怪我をさせてしまうと師匠にめちゃくちゃ叱られる。
たとえ理性を失っていても、顔を傷つけてはいけない相手だから。
でもさ、全身鎧姿なのに、顔以外に攻撃できる場所があるのかな!?
ボクは近接戦闘能力皆無の素手で、侍女の制服しか装備してないんだよ!
「んんっ」
舌の先でつつかれるように、歯並びを確認するように撫でられて、唇を隙間なくふさがれた。
体格が違いすぎて、筋力も違いすぎて、抵抗が無駄すぎる。
苦しい。
強引すぎる!
全身を無遠慮に撫で回してくる手甲で覆われた手を、本気で叩いても怯まない。
むしろこっちの手が痛い。
なんで聖鎧を着たまま発情してるんだよ!
鎧に付与された抗魔刻印で〝睡眠〟の魔術が不発に終わる。
腕力では叶わない。
ぐいぐいと押し付けられる金属鎧が、冷たくて痛い。
形の美しい額にごつんと頭突きをして、無理矢理に顔を背ける。
これくらいなら、あざにならないはず。
「……っ」
「し、ししょおーっ」
来ないと知ってても薄情な師匠を呼んでみる。
絶対にどうやってか見てるはずなのに!
「ん、ぐっ、離せって!」
一瞬だけ自由になった頭は、すぐに顎を掴まれて引き寄せられる。
兜だけは脱いでるから、とかなり本気で目の前の顔面に平手を放つ。
師匠、頬の手形は怪我に入りますかーっっっ!?
「……」
「ううううう、無言がいやだー、っんん」
ボクの非力な平手打ちなんて可愛いもんよ、とでも言いそうに、片手ですっぽりと受け止められて包み込まれ、反対の手が後頭部を押さえてくると、再び舌が口の中に突っこまれた。
ボクが本気で全力で嫌がっても、目の前が桃色になってしまったこの人には通用しない。
頭では理解してるって知ってるよ。
でも、それとこれは話が別だ。
自他ともに認められてる本物の剣聖さまだろう!
本能を理性で抑え込めよぉおぉぉぉっっ!!
口を覆われて息が苦しい。
ぬるぬると口の中を撫でられてると、頭の奥が痺れたようになってくる。
何もかも全部、あの日、この人に出会ってしまったからだ。
そう思いながら、ボクの初めての口付けから、現在まで数十回目までを奪ってる剣聖さまを睨む。
師匠、茶巾縛り逆さ吊りで折檻されることになっても、これ以上は無理ぃっ。
ボクは幻滅されたくないんだよ。
これ以上は、ボクにはできない。
「!!」
本気で舌に噛みつくと、流石に痛かったのか口が自由になった。
うええ、血の味がするぅ。
もう最後の手段しか残されていない。
侍女服の中に手を突っ込まれる前に、現状を打破して止められる人を全力で呼んだ。
「と、トラバヤドゥさん助けてぇっ」
ぴた、と後頭部を押さえている手が止まる。
頭が沸いてるから、聞こえても理解できてないだろうと思ったのに、目の前でスッと細められた真紅の瞳が、怒りをたたえてることに気がついてしまった。
「……エス、きみにはぼくがいるでしょ」
声ひっくぅ。
こっわぁ。
地を這う怒声ってこういうこと?
じゃない。
ちょっと待った。
他の男の名前を呼ばれて嫉妬してます、みたいなのおかしいからね。
そういうのは、好意を持ってる相手に言ってよ。
本能的発情に引きずられて迫ってるだけのボクに対しての言葉じゃない!!
ボクと貴方は、愛称で呼びあうような関係ではない。
師匠の仲間で雇用主(たぶん???)と侍女(男だけどね!!!)。
それだけ!
それ以上になるつもりないからね!
「トッドゥはいないよ」
「え……ええ?!」
床が抜けたような気がして、ボクは軽々と抱き上げられたことに気が付く。
全身鎧を着てるのにぃ!?
「エス、きみはぼくのものだよ」
「ひ、ひぅっ」
いつもなら宝石みたいに輝いてる目が、どんよりと濁って据わってる。
こわいこわいこわい。
普段のふんにゃり脱力系の見目麗しい剣聖さまはどこいったー。
不意に思った。
ボクは脱力してるふにゃふにゃ姿しか知らないけど、この人は本物の剣聖さまだ。
戦う時とかは、この怖い姿だったりするのかな。
これまでは断固入室拒否をしてきた寝室に、抱き上げられたまま連れ込まれながら、詐欺だぁと出会いの時を思い出した。
ボクの何よりも大切な思い出の日のことを。
ボクは夢を叶えられる希望と引き換えに、大切な思い出を売ってしまったのかもしれない。
美化した思い出だけで十分だったのに。
面白がって煽る師匠が、有能でなければ。
ボクの治療をまるっと引き受けてくれてなければ。
逃げられたかもしれないのに。
背中に冷えた敷布が当たるのを、侍女服越しに感じた。
ボクの目の前で光る宝石のような瞳が、炎のように揺れた。
◆ ◆
再会の日、ボクは必死で魔神さまにお願いしていた。
お願いします、助けてください。
仕事が忙しいから、って休日の礼拝もサボりがちでごめんなさい。
どうか、ボクをここから助け出してください。
……でも、現実は現実のまま。
無情な神の助けを得るのはあきらめて、硬くて冷たいものにすっぽりと包まれる自分の手へ、ゆっくり意識を向けた。
「お嬢さん、お願いだ、誰にも言わないでほしい」
真紅の宝石のような瞳が、あふれそうに潤んでるのを見てしまうと、とても嫌とは言えない感じ。
あのさ、これ、自分の判断で返事して良いのかな。
ものすごく悩みつつ、でも逃げたくて、関わりたくなくて心の中で悲鳴をあげた。
「わかりました、誰にも言いません(から、手を離してくださいぃぃ~っ)」
「ありがとう」
色々混ざりすぎて震える声で返事をすると、途端に濡れて揺れてた宝石の瞳がキラキラと光を放つ。
……うわあ、なにこれ、すっごい。
売られている絵姿を見て、本当にこれだけ美形な男がいたら、顔見たら逃げるか倒れるしかないよな、って思ってた。
まさか、絵姿よりもキラキラだなんて。
本当にこんなにきれいな人がいるって思いもしなかった。
途端にバクバクと音を立てる胸は痛いほどで、顔が熱いのはなぜ。
信じられない、かっこよすぎる。
なんかずるい。
美形は爆破しろ。
格好良すぎて嫉妬すら起きない!
ああ、どうしてボクは、ひざまずいた(土まみれで)半泣きの超絶美形剣聖さまに手を包まれてるのかな。
よく通る柔らかい声でお嬢さんって呼ばれても嬉しくない。
頭には布を巻いて、汚れの目立たないつなぎ女性服、分厚い防水布の前掛け。
洗濯女の制服姿だけど、ボクは男だ。
一昨日、ボクが洗濯女として働く領主さまの館に、英雄の剣聖さま御一行がやってきた。
周りの何カ国かとの共同戦線が……この先、覚えられなかった。
この国の政治的な話を耳にするようになったのは、領主さまのところで働き出してから。
つまり、知識のないボクには難しすぎた。
話をまとめてもらって分かったのは、戦いに勝ったすごい人たち=剣聖さまたちが、この館に滞在するってこと。
宿に泊まれよって思ったけど、領主さまが呼んだらしい。
なんて面倒くさいんだ、上流階級社会。
剣聖さまたちが周辺で活動する間、領主さまの館で宿泊するらしくて「下働きの使用人は絶対に高貴な方々の前に出ないように」と言われた。
何年もいるつもりなのかな。
下働き使用人の洗濯女をしてるボクが、剣聖さまに会う必要性は、ない。
悲しいことに一欠片もない。
女装してるけど、ボクは男だ。
下働きの洗濯女に、相手なら選り取り見取りの剣聖さまが、手を出す理由がない。
そんな風にしか思わなかったから、いつも通り働いて過ごした。
運が良ければ遠くからその御姿が見えるかも、とすっごく、すごく期待はしてたけど。
見てみたいなぁとは思っても、会っても困るだけ。
だって、噂の超絶美形の剣聖さまだよ。
顔が整いまくってるってのは、雑貨屋で売ってる姿絵で確認済み。
顔だけ?
とんでもなく豪華な全身鎧の絵姿しか売ってないから、唯一見えてる顔以外は、すごい鎧だなーくらいしか感想が出てこない。
絵は尾鰭補正もすごそうだよね。
……なんて。
本当は違う。
会いたい。
ボクは昔、剣聖さまに助けられた。
全身を覆う鎧姿で顔は見てないけど。
本音を言えば、お礼を言いたい。
あの時、助けてくれてありがとうございましたって言いたい。
でも、本人に言うことは望んでない。
たった一度、会っただけのボクのことなんて覚えてないよね。
覚えてたとしても、今の格好じゃわからないだろう。
ボクはちょっとワケありで、領主さまの所で女の子の格好をして働かせてもらってる。
それを知ってるのは使用人を統括してる家宰さんと、領主さまだけ。
チビでガリガリの体に感謝したのは、生まれて初めてだった。
お年玉 (っ'-')╮ =͟͟͞͞◯ブォン 投下のつもりです
現物(?)支給ぅっ!!
三ヶ日で全6+1話+SS+登場人物を連投します、コトヨロ~
一応、異世界だからカタカナ外来語に違和感が……でも日本語で服の説明が難しくて、ルビ振ってみました
読みにくいだけだったらすいません
えっちは題名に※です
◆
全力で押し返してるのに、目の前の金属鎧はびくともしない。
それでも手で押すことしかできない。
ただただ悔しい。
前衛職と後衛職って理由だけで、ここまで身体能力に差がある……わけじゃないって知ってるから。
この力強さが、ひたむきな鍛錬と努力と色々で培われたものだってこと。
「はなして、やだ、んうっっ、はなっ、んんっ、はなし、っえ、はなせよっっ!」
「うん」
侍女の制服を着たまま押し倒されかけてる、泣きそうなボクの声なんて聞こえてないのか、耳に届かないのか、返事だけが返ってきて逆に口付けが深くなる。
「ぅむ、んんっ、んぅーっ」
熱いほどに体温の上がった舌が、ボクの口の中を這いまわる。
これを好きって思ったらだめだ。
師匠に「あいつ、発情すると熱が出るからわかりやすいでしょ♪」って教えられたのは、初めて襲われかけた後のこと。
その時に助けてくれたのは師匠じゃなかったのに、なんで知ってるのかって思ったら、ニンマリと幸せな猫みたいな顔をして「弟子を見守ってるからね」って続けて言われた。
黙ってれば美形、が台無しだ。
つまり、口付け以上をされたとしても、師匠は見てるだけ、ってこと。
そう、今も見てる可能性がある。
突っ込まれた舌に噛みついてやりたいけど、できない。
抵抗はしても良いって許可されてるけど、顔に怪我をさせてしまうと師匠にめちゃくちゃ叱られる。
たとえ理性を失っていても、顔を傷つけてはいけない相手だから。
でもさ、全身鎧姿なのに、顔以外に攻撃できる場所があるのかな!?
ボクは近接戦闘能力皆無の素手で、侍女の制服しか装備してないんだよ!
「んんっ」
舌の先でつつかれるように、歯並びを確認するように撫でられて、唇を隙間なくふさがれた。
体格が違いすぎて、筋力も違いすぎて、抵抗が無駄すぎる。
苦しい。
強引すぎる!
全身を無遠慮に撫で回してくる手甲で覆われた手を、本気で叩いても怯まない。
むしろこっちの手が痛い。
なんで聖鎧を着たまま発情してるんだよ!
鎧に付与された抗魔刻印で〝睡眠〟の魔術が不発に終わる。
腕力では叶わない。
ぐいぐいと押し付けられる金属鎧が、冷たくて痛い。
形の美しい額にごつんと頭突きをして、無理矢理に顔を背ける。
これくらいなら、あざにならないはず。
「……っ」
「し、ししょおーっ」
来ないと知ってても薄情な師匠を呼んでみる。
絶対にどうやってか見てるはずなのに!
「ん、ぐっ、離せって!」
一瞬だけ自由になった頭は、すぐに顎を掴まれて引き寄せられる。
兜だけは脱いでるから、とかなり本気で目の前の顔面に平手を放つ。
師匠、頬の手形は怪我に入りますかーっっっ!?
「……」
「ううううう、無言がいやだー、っんん」
ボクの非力な平手打ちなんて可愛いもんよ、とでも言いそうに、片手ですっぽりと受け止められて包み込まれ、反対の手が後頭部を押さえてくると、再び舌が口の中に突っこまれた。
ボクが本気で全力で嫌がっても、目の前が桃色になってしまったこの人には通用しない。
頭では理解してるって知ってるよ。
でも、それとこれは話が別だ。
自他ともに認められてる本物の剣聖さまだろう!
本能を理性で抑え込めよぉおぉぉぉっっ!!
口を覆われて息が苦しい。
ぬるぬると口の中を撫でられてると、頭の奥が痺れたようになってくる。
何もかも全部、あの日、この人に出会ってしまったからだ。
そう思いながら、ボクの初めての口付けから、現在まで数十回目までを奪ってる剣聖さまを睨む。
師匠、茶巾縛り逆さ吊りで折檻されることになっても、これ以上は無理ぃっ。
ボクは幻滅されたくないんだよ。
これ以上は、ボクにはできない。
「!!」
本気で舌に噛みつくと、流石に痛かったのか口が自由になった。
うええ、血の味がするぅ。
もう最後の手段しか残されていない。
侍女服の中に手を突っ込まれる前に、現状を打破して止められる人を全力で呼んだ。
「と、トラバヤドゥさん助けてぇっ」
ぴた、と後頭部を押さえている手が止まる。
頭が沸いてるから、聞こえても理解できてないだろうと思ったのに、目の前でスッと細められた真紅の瞳が、怒りをたたえてることに気がついてしまった。
「……エス、きみにはぼくがいるでしょ」
声ひっくぅ。
こっわぁ。
地を這う怒声ってこういうこと?
じゃない。
ちょっと待った。
他の男の名前を呼ばれて嫉妬してます、みたいなのおかしいからね。
そういうのは、好意を持ってる相手に言ってよ。
本能的発情に引きずられて迫ってるだけのボクに対しての言葉じゃない!!
ボクと貴方は、愛称で呼びあうような関係ではない。
師匠の仲間で雇用主(たぶん???)と侍女(男だけどね!!!)。
それだけ!
それ以上になるつもりないからね!
「トッドゥはいないよ」
「え……ええ?!」
床が抜けたような気がして、ボクは軽々と抱き上げられたことに気が付く。
全身鎧を着てるのにぃ!?
「エス、きみはぼくのものだよ」
「ひ、ひぅっ」
いつもなら宝石みたいに輝いてる目が、どんよりと濁って据わってる。
こわいこわいこわい。
普段のふんにゃり脱力系の見目麗しい剣聖さまはどこいったー。
不意に思った。
ボクは脱力してるふにゃふにゃ姿しか知らないけど、この人は本物の剣聖さまだ。
戦う時とかは、この怖い姿だったりするのかな。
これまでは断固入室拒否をしてきた寝室に、抱き上げられたまま連れ込まれながら、詐欺だぁと出会いの時を思い出した。
ボクの何よりも大切な思い出の日のことを。
ボクは夢を叶えられる希望と引き換えに、大切な思い出を売ってしまったのかもしれない。
美化した思い出だけで十分だったのに。
面白がって煽る師匠が、有能でなければ。
ボクの治療をまるっと引き受けてくれてなければ。
逃げられたかもしれないのに。
背中に冷えた敷布が当たるのを、侍女服越しに感じた。
ボクの目の前で光る宝石のような瞳が、炎のように揺れた。
◆ ◆
再会の日、ボクは必死で魔神さまにお願いしていた。
お願いします、助けてください。
仕事が忙しいから、って休日の礼拝もサボりがちでごめんなさい。
どうか、ボクをここから助け出してください。
……でも、現実は現実のまま。
無情な神の助けを得るのはあきらめて、硬くて冷たいものにすっぽりと包まれる自分の手へ、ゆっくり意識を向けた。
「お嬢さん、お願いだ、誰にも言わないでほしい」
真紅の宝石のような瞳が、あふれそうに潤んでるのを見てしまうと、とても嫌とは言えない感じ。
あのさ、これ、自分の判断で返事して良いのかな。
ものすごく悩みつつ、でも逃げたくて、関わりたくなくて心の中で悲鳴をあげた。
「わかりました、誰にも言いません(から、手を離してくださいぃぃ~っ)」
「ありがとう」
色々混ざりすぎて震える声で返事をすると、途端に濡れて揺れてた宝石の瞳がキラキラと光を放つ。
……うわあ、なにこれ、すっごい。
売られている絵姿を見て、本当にこれだけ美形な男がいたら、顔見たら逃げるか倒れるしかないよな、って思ってた。
まさか、絵姿よりもキラキラだなんて。
本当にこんなにきれいな人がいるって思いもしなかった。
途端にバクバクと音を立てる胸は痛いほどで、顔が熱いのはなぜ。
信じられない、かっこよすぎる。
なんかずるい。
美形は爆破しろ。
格好良すぎて嫉妬すら起きない!
ああ、どうしてボクは、ひざまずいた(土まみれで)半泣きの超絶美形剣聖さまに手を包まれてるのかな。
よく通る柔らかい声でお嬢さんって呼ばれても嬉しくない。
頭には布を巻いて、汚れの目立たないつなぎ女性服、分厚い防水布の前掛け。
洗濯女の制服姿だけど、ボクは男だ。
一昨日、ボクが洗濯女として働く領主さまの館に、英雄の剣聖さま御一行がやってきた。
周りの何カ国かとの共同戦線が……この先、覚えられなかった。
この国の政治的な話を耳にするようになったのは、領主さまのところで働き出してから。
つまり、知識のないボクには難しすぎた。
話をまとめてもらって分かったのは、戦いに勝ったすごい人たち=剣聖さまたちが、この館に滞在するってこと。
宿に泊まれよって思ったけど、領主さまが呼んだらしい。
なんて面倒くさいんだ、上流階級社会。
剣聖さまたちが周辺で活動する間、領主さまの館で宿泊するらしくて「下働きの使用人は絶対に高貴な方々の前に出ないように」と言われた。
何年もいるつもりなのかな。
下働き使用人の洗濯女をしてるボクが、剣聖さまに会う必要性は、ない。
悲しいことに一欠片もない。
女装してるけど、ボクは男だ。
下働きの洗濯女に、相手なら選り取り見取りの剣聖さまが、手を出す理由がない。
そんな風にしか思わなかったから、いつも通り働いて過ごした。
運が良ければ遠くからその御姿が見えるかも、とすっごく、すごく期待はしてたけど。
見てみたいなぁとは思っても、会っても困るだけ。
だって、噂の超絶美形の剣聖さまだよ。
顔が整いまくってるってのは、雑貨屋で売ってる姿絵で確認済み。
顔だけ?
とんでもなく豪華な全身鎧の絵姿しか売ってないから、唯一見えてる顔以外は、すごい鎧だなーくらいしか感想が出てこない。
絵は尾鰭補正もすごそうだよね。
……なんて。
本当は違う。
会いたい。
ボクは昔、剣聖さまに助けられた。
全身を覆う鎧姿で顔は見てないけど。
本音を言えば、お礼を言いたい。
あの時、助けてくれてありがとうございましたって言いたい。
でも、本人に言うことは望んでない。
たった一度、会っただけのボクのことなんて覚えてないよね。
覚えてたとしても、今の格好じゃわからないだろう。
ボクはちょっとワケありで、領主さまの所で女の子の格好をして働かせてもらってる。
それを知ってるのは使用人を統括してる家宰さんと、領主さまだけ。
チビでガリガリの体に感謝したのは、生まれて初めてだった。
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