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42 泡姫ごっこ……じゃ無かった
しおりを挟む花の咲く時期になったとはいえ、朝晩の寒さが堪えるというケェアのために、湯を用意してある屋内の洗い場で、エトレは自分の頭を洗っていた。
貴族らしく、オス上位の考え方を刷り込まれているエトレとしては、本当は先にケェアをきれいにすべきと思っていた。
しかし浴室にケェアを案内してやって来るなり、早く、早くっ!と洗い場に押しこまれてしまったので、断りきれなかった。
お湯はだめだよっ!と主張するケェアの意見を聞いて、ぬるま湯で頭を洗っているけれど、領主になるまでのエトレの立場は使用人だったので、真冬でもお湯を使うことはなかった。
身体を拭かないと、ずるむけの肌が痒くなるから、と寒いのを我慢して洗ってきたのが嘘のようだ、とエトレは思う。
ケェアのために用意されたお湯なので、無尽蔵に使えるわけではない。
領主になっても、エトレが湯を使うのは、雪が降る間だけだ。
カミノケに絡まる精液を流し、それから心配そうに扉の外で様子を伺っているケェアに声をかけた。
「クー様もどうぞ」
「お!?」
(ふぁああああっっっ!?それどういう意味!?)
「え?」
明らかに予想していなかった、とケェアに声を上げられて。
エトレが、おかしな反応に首を傾げていると、ケェアがゆっくりと洗い場に足を進めてきた。
不思議と困っているように見える。
同時に、興奮しているようにも。
「失礼します、お腹が汚れております」
「お、おう」
(うわ、びっくりした、まさかのお背中流しますからの、二発目を仕切り直しかと思った、ごめん、今世の俺氏、一晩二回とか全然ムリぽなんだけど、身体能力はチートなのに性欲は弱いんかなぁ)
エトレが使った時よりも暖かくしたぬるま湯で、精液に塗れたケェアの腹を洗い流す。
汚れが全て落ちたかを確認したエトレは、埋めていないお湯でケェアの体を洗い始めた。
ゴワゴワと硬い被毛の下の筋肉質な身体の汗を流して、湯冷めしないようにと丁寧に布で拭きあげる。
ケェアが全身を被毛で包んでいるにもかかわらず、エトレよりも寒さに弱いということは、一緒に過ごしてきたので知っている。
風呂で主人の背を流すのは、浴室係の仕事だ。
老爺の召使いを最低限しか雇っていない男爵家にはいない。
先先代の領主の妻に若いオスを近づけさせず、そしてエトレの存在を知るものを最小限にするために。
だからなのか、執事の仕事ではないけれど、テルはエトレに浴室係の仕事をさせることがあった。
テルはエトレの無毛姿を見て嗤い、自分の美しい姿をエトレに見せて自慢してきた。
双子の兄妹でありながら、どうしてこんなに違うのかなと、口に出すこともあった。
望んで覚えた訳ではなくても、エトレはオスの洗い方を知っていた。
ケェアのような巨体で逞しい相手は初めてで、濡れて黒々と艶めく毛並みに胸をときめかせながらも、手を止めないエトレ。
「すまない」
(いくら今世がウシでも、二足立ちはできるから、腹は洗えるんだけど……嫁ちゃん手慣れてるのが……なんか……)
「クー様」
「おう」
(ブヒィ、こんだけ情けない姿を見せてんのに、まだクー様って呼んでくれんの?)
「綺麗になりました」
そう言って微笑むエトレの、濡れた髪が冷えてしまうのではないか、と心配で、ケェアは頭を寄せる。
「風邪を引いてしまうぞ」
(ぬくぬくの部屋で、二人で裸でくっついて寝んねは有りでしょうか?!)
「大丈夫ですよ」
ケェアの体から水がしたたっていないか、と全身を確認したエトレは、ようやく自分の頭部に布を巻く。
前世の記憶があるからこそ、人間の手先が器用だと知っていても、今世の自分の偶蹄の不器用さを思い出し、ケェアはため息をついてしまう。
「この手が器用なら良いのに」
(エトレしゃんをふきふきナデナデしてポられたいっす!)
「……クー様の御手は素敵ですよ」
まるで介護でもされているようだ。
色気のない上に、非常に手際の良い入浴介助を受けてしまい、ケェアは落ち込んでいた。
エトレの裸体を見て、興奮して突っ込んで一人で暴発した。
それが恥ずかしくて情けなくて、ケェアは俯く。
次の機会があれば、挽回できるだろうか、と。
エトレの裸体は美しかった。
男性のものとは思えないほど。
この世界で人間を見たのが二回目なので、比較対象が前世になってしまうけれど。
痩せすぎではないかと思っていた体には、思ったよりも筋肉が付いていた。
便利な道具がなく、何もかも人力で解決するしかないから、かもしれない。
顔以上に日焼けを知らない真っ白な体には、余計な贅肉なんてなくて、しなやかな筋肉と美しい骨格で作られていた。
肩幅は女性よりも広い。
尻も小さくて肉づきが薄く、張り出していない。
しかし、腰はキュッと細くくびれ、手足はスラリと長いのに筋肉の筋は浮いていない。
少年が大人になる前に身長だけ育ったような、言葉にし難い若者の色香があった。
清廉なのにどことなく淫らさもあって、穢して良いのかと躊躇いつつも、自分だけの色に染めてしまいたいと願ってしまう。
そんな、危うい儚さを持っていた。
ケェアが一番恐れていたエトレの股間は、前世の感覚でいうと……小さめだな、というくらい。
反応した時に倍以上になったりしなければ。
ケェアが驚いたのは、全く萎えなかったことだ。
それどころか、エトレの全裸を見た瞬間、とんでもなく昂った。
思わず獣のように特攻してしまうほど。
前戯も何もなしに突っ込もうとするなんて……とケェアは恥ずかしさと情けなさを覚えると同時に、目の前が赤くなっていないのに、あんな風になったのは初めてで困惑していた。
このまま、もしかしたら、毎回暴走して一人で暴発してしまうのではないか、と怯えるほど。
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