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31 お姫様抱っこ(的な騎牛)

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 エトレは腰までの長さがある、白金の髪をしている。
 毛が細いのか、くせ毛なのかふわふわとして、絡まりやすいようだ。

 結ばれていないエトレの髪が、微かな風でふわふわと揺れるのを見るのが、ケェアは好きだ。
 かんざしで髪を上げると覗くうなじが、細くて白くて、おくれ毛がふわりと揺れるのが好きだ。
 三つ編みが、歩くたびに跳ねるのを見るのも好きだ。
 もちろんポニーテールやサイドテールやツインテールも好きだ。
 作り方は知らないけれど、ドリルヘアでもきっと可愛い!
 この手が蹄でなければ、エトレ専属ヘアスタイリスト(?)極めるのに!と天を恨むケェアだ。

 というわけで、ケェアがエトレに三つ編みもどきを教えていた。
 あくまでもどきだ。

 前世のケェアは普通の男で、三つ編みを実演したことはない。
 散髪をサボると、だらしなくて不潔なブサイクとか救いようがないのよ!と姉に叱られた。
 前世での名前は覚えていないのに、どうでも良いことばかり思い出す。

 ケェアは前世の姉が洗面台を占拠して、デート前に四苦八苦していた時のことを思い出しながら、髪の編み方を教えた。
 三つ編みすらも詳しく覚えていないけれど、三等分にして交互に編んでいく、と言う説明で出来るようになってしまうエトレは頭が良い、とケェアは嫁(予定)を自慢に思っている。

 それはともかく姫だ。
 目の前にお姫様みたいな髪型をしてくれた、がいる。
 自分のために着飾ってくれる姿を見て、嬉しく思わないオスはいない。

 それが、オスケェアの願望にしっかりと添っているなら、尚更に。

「乗れ」
 (そい!そい!乗ってくらっしゃい!!)
「…………あの、ケェア様?」

 ケェアがエトレ・レコムフェンセの婚約者となってから、エトレはケェアのことを名前で呼んでくれるようになった。
 個人的にはもっと親しみを込めて愛称で呼んでもらいたいけれど、それは儀式が終わってからの約束だ。
 一日でも一分でも早く、春よ来い!!とケェアは毎日、毎朝太陽に祈っている。

 エトレがたっぷり困っている間に、ケェアは出来る限り体を低くした。
 防寒着で、いつも以上に大きくなっている体で精一杯。

「これは、あの、どういう?」

 困っているエトレの姿を、深窓の姫君のように愛らしいなと思いつつ、ケェアは返事に詰まる。
 なんと説明しようかと。

 街の人々に(公式には交付のみで、まだ領主だと発表前の)毛無しのエトレを受け入れてもらうために、一番良い方法をトゥアに相談したら、こうなった。

 いわゆる、婚約者をお姫様抱っこして街までやってきた、というやつだ。
 どう考えても二人が好き合ってると伝えられる良い方法だ、と提案を受けた時にケェアは思った。
 普通にのぼせていた。

 提案をしたトゥアは、オスの上に孕み腹が乗る……大丈夫だろうか。
 と提案しておきながら、不安になっていた。

 残念ながら、骨格がウシに近いと考えられるケェアは、少しなら二足歩行する事はできても、数時間は無理だ。
 エトレを横抱きにしたまま、街まで歩く事はできない。
 自分の体重で後肢を痛めてしまう。

「乗ってくれないのか?」
 (まだ結婚してないけど、嫁ちゃんの尻に敷かれたいっす!!いつかは騎乗位も望んじゃうぅッ!)
「領主様、どうぞ」

 いつのまにか側に来ていたトゥアにまで促され、ケェアの内心の不純さを知ってか知らずか、エトレはおずおずと立派すぎる背中にまたがった。
 分厚い防寒着のおかげで、乗り心地は悪くない。
 しかし、体格が良くて胴体が太いので、鞍がないと落ちてしまいそうだった。

「こちらをどうぞ」
「あ、うん」

 トゥアがケェアの立派な角と頭部に、端切れを編んだ縄を回して、手綱もどきのようにしてくれる。
 ペットの犬を参考にした、トリミングや食事療法には詳しくても、牛や馬は門外漢のケェアは、エトレを絶対に落としたくない、とトゥアと色々な結び方を試していた。

 手綱もどきを両手でしっかりと握りながらも、エトレはまだ戸惑いを隠せない。

 一体どこに、婚約者の背にまたがる領主がいるというのか。
 人前にほとんど出たことがないエトレでもおかしいと思うのだから、これは余程のことだ。

 ケェアの感覚としては、ウシは騎乗に向かないんだろうなーと、思うくらいだ。
 たしか前世のブルライダーは危険職で、ロデオはものすごく危険な競技だった?と漠然と考えていた。

 ロデオのルールは知らないけれど、落ちたら怪我をするだろう。
 つまり、エトレを落としてはいけない!

 双肩にかかった重責で踏み出す足に力が入る。
 嫁ちゃんを愛していて、嫁ちゃんを守れるのは、俺氏だけだ!と言いふらすための、アフリカバッファローライディングの始まりに、魂が震えるほどの興奮を覚える。

「ゆっくりと行くからな」
「は、はいぃ」

 俺の嫁を見ろ!と胸を張るつもりで、ケェアは領主の館を後にした。

 大きさを調整してもらったばかりの靴は、雪をしっかりと噛んで、歩きやすい。
 エトレの愛情がたっぷり詰まった綿入り足カバーで、足首もぬくぬくだ。

「エトレ、今日行く予定の店を覚えてくれたか?」
 (エトレしゃんへのプレゼントを頼んであるんだけど、サプライズを喜んでくれるかなー)
「はい、ヴォンテ宝飾店と、ティシュー仕立て店ですよね」

 そうそう、と頷こうとして、背中のエトレが揺れるのを感じた。
 ケェアは首を動かすのは危険なのか、と学習して、前を向いたままで返事を返した。

 
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