【R18】厭人領主の婚約者になった元英雄は、醜い下働きに恋をする

Cleyera

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22 二人の考察

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「……ぬぅ」
「どうなさいやした、アテンションヌ様」

 街を歩きながら、何か悩んでいるらしいケェアの姿に、老門兵が声をかける。

「ポルタイル、仮定の話だが、好いた相手が何かを悩んでいる時は、どうすべきだろうか」
 (もうお手上げなので、何かヘルプください、俺氏のチートは狂戦士化とパワーだけなんす)
「……領主様が、何かお悩みなんで?」

 季節が一つ以上過ぎる間、ずっと街へのお供をしていたことで、老門兵ポルタイルの口調はくだけていた。

「仮定、もしもの話だ」
 (すいません、領主様がどう思ってっかは不明なんす、相変わらず顔見えねえんす、悩んでるっぽいのはエトレしゃんの方なのよー)
「へえ、もしもですかい」

 ケェアは、夏めいた日々がゆっくりと過ごしやすくなっていく間、ずっとエトレが何かを思い悩んでいると感じていた。
 初めは毛無しを迫害する通説通り体が弱いのか、と思っていたけれど、胃のあたりを押さえている姿を見てからは、精神的なものが原因で胃腸を傷めているのではないか?と疑っている。

 前世の感覚で言えば、もうすぐ冬だ。
 この国では季節という明確な区切りがなく、巣ごもりの時期という言い方をするけれど。

 一年だけ、というエトレの言葉を疑っているわけではない。
 一年が経ったら何が起きるのか、春になったら何があるのか、知りたいけれど、聞かないと決めている。

 聞かないと決めていても、元から色白で線の細かったエトレが、病気なのではないかと思うほどに痩せていけば、心配になる。
 ユウジン恋しい人なのだから。
 近頃では、毎晩の正餐を共にしている領主も食が進まないのか、途中でカトラリーを置いてしまうことが増えた。

 悩みを晴らすために、わずかにでも慰めになれば、とケェアは幾度も贈り物をした。
 もちろんエトレと領主の二人に。
 諜報員らしい者たちが館にいるから、エトレだけに贈り物をして、立場を悪くさせることはない。

 エトレはケェアが贈ったものを使ってくれる。
 それを喜んでいてはいけなかったのか。

 お人形の髪の毛のようにふわふわで、少しぼさぼさと絡んでいた白っぽい髪は、艶めいているのにふわふわになった。
 艶が出てくると、黄色味がかった白髪ではなく、白金プラチナブロンドだと分かった。

 まとめ髪のおかげでむき出しの白いうなじが、ひどく色っぽく艶っぽく見える。
 エトレのために調合してもらい、贈った毛艶油の香りとエトレの香りが混ざって、ケェアの腰は疼きっぱなしだ。
 ただ、腰帯として贈った色石を縫い付けた黒い布は、なぜか使ってもらえない。

 もしかして、贈り物も負担になっているのだろうか、とポルタイルに相談することにした。
 答えを得られる相談相手を求めるなら、家令のトゥアに聞くべきかもしれないけれど、それでエトレとの散歩を禁止されたらと思うと、聞く事ができなかった。

「んー、直接領主様に聞いたら駄目なんで?」
「もしもの話だが、領地の問題であれば、未だ婚約者の身では聞けぬ」
 (聞かないって言っちゃったのよね)
「はあ、確かに、ん"ー、そんなら黙って抱きしめるしかねえですよ」
「……抱きしめる?」
 (下心しかないフリーハグは痴漢行為っしょ!!
 エトレしゃんに嫌われたらぴえんよ)

 何を言っているのだ?と見たポルタイルの顔は真面目そのもので、とても冗談やごまかしを口にしているようには見えなかった。

「強くて逞しいオスに抱きしめられりゃ、大抵の孕み腹は嬉しいと思うもんでさ」
「……」
「アテンションヌ様?」
「……本当か?」
 (俺氏領主の婿になるんよ、エトレしゃん守りたいから物理的に触れないのー、嬉しいって思ってくれるかすら不明ニャンじゃけえ)
「えー??ほんとですって」

 ポルタイルは、ケェアの益荒男マスラオぶりから、王都にいるときはさぞかし多くの腹を鳴かせてきたのだろうと思っていた。
 結婚前に羽目を外し、女遊びをされないようにと、街への共につけられたとばかり思っていたが、ケェアはその手の店の場所を聞こうともしない。
 その上で、ポルタイルを撒こうともしない。
 あまりにも品行方正すぎる。

 それなら頭の堅い戦バカなのかと思えば、装飾品店に通いつめた挙句に、一点物の特注品をせっせとこしらえさせて、婚約者の領主様に送っている。
 仲良くしているとばかり思っていた、領主と婚約者の関係に、どうなってんだい?と頭を巡らせ、ポルタイルは妙案を思いついた。

「そんなら夜這いされたら如何で?」
「ふぁっ!?」
 (俺氏の耳バグった!?)
「はい?ふあ?」
「いや、なんでもない、今、おかしなことを言わなかったか?」
 (ま、待て、待って、レイプしろってこと?!)
「おかしくありませんって、腹は意中のオスが来るのを待ってるもんでさ、夜這いしんさい!」
「えーそりゃねえよ、とっつぁん」
「はい?今なんて?」
「ああ、いや……夜這い、か」
 (思わず心の声が出ちまったじゃねえかよ、アニマル社会めっ)

 ケェアは苦々しく顔をしかめる。
 本当にそんなことで、エトレの苦しみを軽くできるのか、と。
 抱きしめて癒せるのなら、いつでも抱きしめたい。
 股間が苦しくなるのは分かりきっていたが、それ以上に、あの美しい女性(男性器つき)を助けてあげたかった。
 何を苦しんでいるのか、悩んでいるのか。

 ケェアは様子をじっと伺っているポルタイルへと目を向ける。

「夜這いの流儀を、教えてくれ」
「……へい!」

 オス二人の心が一つになった瞬間だった。

 
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