22 / 58
22 二人の考察
しおりを挟む「……ぬぅ」
「どうなさいやした、アテンションヌ様」
街を歩きながら、何か悩んでいるらしいケェアの姿に、老門兵が声をかける。
「ポルタイル、仮定の話だが、好いた相手が何かを悩んでいる時は、どうすべきだろうか」
(もうお手上げなので、何かヘルプください、俺氏のチートは狂戦士化とパワーだけなんす)
「……領主様が、何かお悩みなんで?」
季節が一つ以上過ぎる間、ずっと街へのお供をしていたことで、老門兵ポルタイルの口調はくだけていた。
「仮定、もしもの話だ」
(すいません、領主様がどう思ってっかは不明なんす、相変わらず顔見えねえんす、悩んでるっぽいのはエトレしゃんの方なのよー)
「へえ、もしもですかい」
ケェアは、夏めいた日々がゆっくりと過ごしやすくなっていく間、ずっとエトレが何かを思い悩んでいると感じていた。
初めは毛無しを迫害する通説通り体が弱いのか、と思っていたけれど、胃のあたりを押さえている姿を見てからは、精神的なものが原因で胃腸を傷めているのではないか?と疑っている。
前世の感覚で言えば、もうすぐ冬だ。
この国では季節という明確な区切りがなく、巣ごもりの時期という言い方をするけれど。
一年だけ、というエトレの言葉を疑っているわけではない。
一年が経ったら何が起きるのか、春になったら何があるのか、知りたいけれど、聞かないと決めている。
聞かないと決めていても、元から色白で線の細かったエトレが、病気なのではないかと思うほどに痩せていけば、心配になる。
ユウジンなのだから。
近頃では、毎晩の正餐を共にしている領主も食が進まないのか、途中でカトラリーを置いてしまうことが増えた。
悩みを晴らすために、わずかにでも慰めになれば、とケェアは幾度も贈り物をした。
もちろんエトレと領主の二人に。
諜報員らしい者たちが館にいるから、エトレだけに贈り物をして、立場を悪くさせることはない。
エトレはケェアが贈ったものを使ってくれる。
それを喜んでいてはいけなかったのか。
お人形の髪の毛のようにふわふわで、少しぼさぼさと絡んでいた白っぽい髪は、艶めいているのにふわふわになった。
艶が出てくると、黄色味がかった白髪ではなく、白金だと分かった。
まとめ髪のおかげでむき出しの白いうなじが、ひどく色っぽく艶っぽく見える。
エトレのために調合してもらい、贈った毛艶油の香りとエトレの香りが混ざって、ケェアの腰は疼きっぱなしだ。
ただ、腰帯として贈った色石を縫い付けた黒い布は、なぜか使ってもらえない。
もしかして、贈り物も負担になっているのだろうか、とポルタイルに相談することにした。
答えを得られる相談相手を求めるなら、家令のトゥアに聞くべきかもしれないけれど、それでエトレとの散歩を禁止されたらと思うと、聞く事ができなかった。
「んー、直接領主様に聞いたら駄目なんで?」
「もしもの話だが、領地の問題であれば、未だ婚約者の身では聞けぬ」
(聞かないって言っちゃったのよね)
「はあ、確かに、ん"ー、そんなら黙って抱きしめるしかねえですよ」
「……抱きしめる?」
(下心しかないフリーハグは痴漢行為っしょ!!
エトレしゃんに嫌われたらぴえんよ)
何を言っているのだ?と見たポルタイルの顔は真面目そのもので、とても冗談やごまかしを口にしているようには見えなかった。
「強くて逞しいオスに抱きしめられりゃ、大抵の孕み腹は嬉しいと思うもんでさ」
「……」
「アテンションヌ様?」
「……本当か?」
(俺氏領主の婿になるんよ、エトレしゃん守りたいから物理的に触れないのー、嬉しいって思ってくれるかすら不明ニャンじゃけえ)
「えー??ほんとですって」
ポルタイルは、ケェアの益荒男ぶりから、王都にいるときはさぞかし多くの腹を鳴かせてきたのだろうと思っていた。
結婚前に羽目を外し、女遊びをされないようにと、街への共につけられたとばかり思っていたが、ケェアはその手の店の場所を聞こうともしない。
その上で、ポルタイルを撒こうともしない。
あまりにも品行方正すぎる。
それなら頭の堅い戦バカなのかと思えば、装飾品店に通いつめた挙句に、一点物の特注品をせっせとこしらえさせて、婚約者の領主様に送っている。
仲良くしているとばかり思っていた、領主と婚約者の関係に、どうなってんだい?と頭を巡らせ、ポルタイルは妙案を思いついた。
「そんなら夜這いされたら如何で?」
「ふぁっ!?」
(俺氏の耳バグった!?)
「はい?ふあ?」
「いや、なんでもない、今、おかしなことを言わなかったか?」
(ま、待て、待って、レイプしろってこと?!)
「おかしくありませんって、腹は意中のオスが来るのを待ってるもんでさ、夜這いしんさい!」
「えーそりゃねえよ、とっつぁん」
「はい?今なんて?」
「ああ、いや……夜這い、か」
(思わず心の声が出ちまったじゃねえかよ、アニマル社会めっ)
ケェアは苦々しく顔をしかめる。
本当にそんなことで、エトレの苦しみを軽くできるのか、と。
抱きしめて癒せるのなら、いつでも抱きしめたい。
股間が苦しくなるのは分かりきっていたが、それ以上に、あの美しい女性(男性器つき)を助けてあげたかった。
何を苦しんでいるのか、悩んでいるのか。
ケェアは様子をじっと伺っているポルタイルへと目を向ける。
「夜這いの流儀を、教えてくれ」
「……へい!」
オス二人の心が一つになった瞬間だった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる