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14 街に行く
しおりを挟む辺境領は、田舎であっても国際色豊かだ。
友好国である隣国と接しており、隣国からの入国者が、様々な文化や品物を持ち込んでくる。
「……」
(うほー、いろいろあるぅ!)
ケェアは辺境にやって来て季節一つ半がすぎてから、初めて街に出る事を許された。
最も暑い時期だ。
偏屈というか頑固というか、ケェアにとっては格好良いスパイなジィさんである老家令がようやく許可を出してくれた。
もちろんケェア一人ではない。
「何をお探しになりますか?」
「……何を、か」
(特に探してるもんとかねえかな、少ない手持ちを使いたくないしー)
いつかの老年の門兵が案内として随伴しているが、腰を低くして敬語を使って来るのが、ケェアは気に食わなかった。
エトレの言う時間稼ぎがなんのためかは知らなくても、少しでもこの地の話し方を、訛りを知りたかった。
老家令は、辺境とはいえ貴族家に仕えているからなのか、訛っていない。
領主の婚約者の勉強を一手に引き受けていて、隙がなくて、いつでも背筋がピシリと伸びている。
エトレも訛っていないし、妻になるはずの領主とは話す機会がない。
「前のように話して欲しい」
(俺氏、来年から進退がどうなるかわかんねーので、少しでも田舎の風習を知っときたいのよ)
「申し訳ありませんが、トゥア様に叱られてしまいますんで」
敬語を使いなれていないのは間違いないのに、門兵は困ったような顔をして断ってくる。
領主の夫(予定)のケェアよりもトゥア様、つまり老家令の方が立場が上だ、と言われているような気がする。
やはり自分は、ただ利用されているだけなのか。
そう考えて憂鬱になったケェアの耳に、リン……と鈴の鳴るような音が届いた。
キョロキョロと周囲を見回して、とある店先に金属製と思しき玉が並んでいるのを見つけた。
金属製の風鈴を小さくしたような、鈴というには大きいけれど、手で持って使うベルにしては小さい。
中途半端な大きさのそれをしっかり見てみようと歩みを進めると、門兵が慌てて後について来た。
鈴にしては大きなそれには、鎖や金属製の箸のような棒がくっついていた。
これはなんだろうか、とケェアが見つめていると、店員らしき者が愛想よく近寄って来た。
「いらっしぇい、仕入れたばっかでさあ、旦那さんはお目が高い!」
お目が高いと言われても、これが何かが分からない、とケェアが無言で考えていると、門兵がずい、と前に出た。
「こちらは領主様の夫君になられるアテンションヌ様だ、気軽に話しかけてはならん」
口調は偉そうに言っているけれど、老年の門兵はチラチラとケェアを気にしていた。
貴族の在り方を知らないケェアでも、ここは自分が何か言うべきなのだろうな、と気がつくほどに明らかなパスを渡されたので、うむ、と大仰に頷くと店員の視線が刺さった。
「へえ、領主様の御夫君様ですか、そいつは失礼いたしやした、店主のヴォンテと申します、以後お見知りおきを」
「ヴォンテか、よろしく、自分はケ……それが何か教えてくれ」
(うひ、あっぶね、自己紹介はしない!名乗るのは公式訪問の時だけだっけ?公式ってなんだ?
それにしても鎖とか棒がついた……金属玉?って、なんに使うん?)
婚約期間であることを、うまく説明できそうにないので、ケェアは話を変えた。
老家令から、貴族は自分から庶民に自己紹介をしない、と教えられたことを思い出して、名乗りそうになったのを途中でやめる。
遠くからリンと涼しげな音が聞こえたので鈴なのかと思ったけれど、近くで見たそれは、どこからどう見ても鈴ではなかった。
どこにも穴がない。
金属で球体が作られている。
風でゆらゆらと揺れると、シャリィンシャリシャリリと中で鈴に似た音が鳴って、さらに反響しているような音がする。
「これは月鈴っていうもので、隣国から持ち込まれた新製品を改良したものです」
「鈴、か」
(へー、こんな穴のない鈴なんて初めて見たな、中はどうなってんの?)
先ほど、気軽に話しかけるなと言われたのを一瞬で忘れてしまったのか、商売人の顔になった店主は得意そうな表情を浮かべる。
ケェアも名乗っていないことを脇に置いておいて、真面目に目の前の球を見つめた。
「本来は手首足首に幾つもつけて、踊るときに楽器として使うらしいですが、こっちじゃ使いやせんからね、帯飾りや首輪にしたら面白いんじゃねえかと思いやして」
なるほど、それで鎖や箸……かんざし?がくっついているのか、とケェアは月鈴を手にとってみる。
思ったよりも軽い玉はやはり中が空洞になっているのか、ケェアの硬い蹄に当たると中で響くような音を立てる。
優しい音を幾度か聞いて、ケェアは月を見上げるエトレを思い出した。
長い白金の髪に、鈴飾りがついたかんざしは映えるのではないだろうか、と。
この月鈴をエトレに送りたいと思った。
この世界の月はほとんど赤い。
青白く見えるエトレの姿を見て、月や氷雪の妖精のようだと思うのはケェアだけだ。
「これはなぜ月鈴と言うのだ」
(この世界だったら月は赤じゃねーの?)
「さあ、そこまでは分かりかねます」
手の中の、鈍い銀とも鉄とも言いにくい色の金属。
何かの合金だとは思うけれど、ケェアには武器の良し悪しは分かっても、金属そのものの知識はない。
金属だとしか分からなかった。
◆
すいません
エロが9万文字超えないと出てこないことが判明しました
遠すぎるぅ……(つД`)ノ
41話から地味にエロになりそうです
たどり着いてからお読み頂いた方が良いかもしれません、申し訳ありませんm(_ _)m
完結までの流れはあるので、エロ増量します、書きます(暴走)
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