2 / 13
拾った人が死にそうだ
しおりを挟む先端を押し付けて揺らして窄みを広げようとしても、なかなか入れられない。
少し切れてしまったから広がりにくいのかな。
無理に入れたら、垂れ流しになって戻らなくなるのを知ってる。
ご近所さんのお嫁さんがそうだもの。
ボクよりも本性の体が大きいご近所さんは「いつでも子作りできる良い嫁だ♡」と、お嫁さんを溺愛しているから、垂れ流しでも困らないのは知ってるけど。
〝人〟は弱いから、傷を負った後にどれくらい傷を治す時間が必要か、どこまで回復するかが分からない。
せっかくのお嫁さん候補なんだから、いっぱい抱いてあげたい。
傷つけないように、優しくしてあげないと。
しばらく腰を揺らして窄みをゆるめようと馴染ませている間に、だんだんとオトコの反応が薄くなっていく。
「……ぁ……っ……」
「あれ、もう限界?」
まだ入ってないのに?
がっかりしながら脱力している体をひっくり返すと、顔が死体みたいな土気色になっていた。
その上で新しい涙と鼻水とよだれを垂らして、白目をむいていた。
これだけ汚れているのに、死相って分かるものなんだ。
あ、まずいや。
このままだと、本当に死んでしまう。
中に出してあげるまで耐えてくれるかなと思っていたけど、すでに体液を流し過ぎていたらしい。
体内が腐りかけているのも、関係あるかも。
やる気満々のボクの相棒をなだめすかしながら、意識のないオトコをかついで、家とは名ばかりのぼろ小屋に帰ることにした。
周囲でおこぼれ待ちをしていた貧民窟の住民には、ボクのご飯を分けてあげることにした。
新鮮な山菜を諦めるのは辛いけれど、もっと良いモノを拾ったので惜しくない。
あとは、略奪狙いで追いかけられた時に考えよう。
現場を見ていたなら、歯向かうやつはいないだろう。
ボクの本性が〝人〟ではないと分かるように、魔力を垂れ流したけど、人は鈍感だから気づかない者がいないとは言い切れない。
いつでも崖っぷちな貧民窟に生きる者の多くは、生存本能に従うことを知っている。
今のボクの、人そっくりでよわよわな見た目にだまされるような愚か者は、少ないと信じたい。
〝人〟種族だって、動物と同じように忌避本能があり、ボクらは基本的に人種族に嫌われがちだ。
貧民窟に来てから、ボクが襲われたのは一度だけ。
人の子供の姿そっくりだから、さらって売ろうと考えたようだ。
金に目が眩んだんだ、許してくれ、と泣かれた。
悪逆は嫌いでは無いけど、まったくもって好みではなかったから、踏み潰してその辺に転がしておいた。
その後、どうなったのか確認してなかったな。
ボクらは人種族が嫌いでは無いのに、一方的に嫌われる。
悲しいというより困るよねぇ。
雨漏りと隙間風が同居人の仮住まいに戻り、引き戸に気休めの尻刺し棒をはめてから、寝台代わりの枯れ草の山にオトコを寝かせる。
もうそれは、お姫様を絹の寝台にご案内するように優しくね!
本物の絹を山繭以外で見たことないけど、繭をたくさん敷き詰めた寝台ってことなのかな。
あんなものの上に寝たら、繭が中身ごと潰れそうだけど。
人が考えることってよく分からないや。
そもそもボクらには屋根も壁も必要ないからね。
……うっわぁ、枯れ草の山がものすごく似合わない。
ボクにはこれで十分だけれど、人を飼うなら、見栄えと寝心地が良い寝台が必要だということがよく分かるよね。
あ、そうだ、ご近所さんの真似をしてボクの抜け毛で寝床を作ったらどうかな。
そんなことを考えながら、意識のないオトコが体に巻いていた布を引き裂く。
布地の裏に変な文字がいっぱい刻まれている。
ずたずたに引き裂かれて、全部ダメになってしまっているけど。
フクを着たままで、寸刻みにされたみたい。
なにがあったんだろうね。
「うーわぁ」
裸にしたオトコの全身が、見事に傷だらけなことに呆れる。
よくこんなぼろぼろで生きてたよ。
なにをどうしたら、ここまでぼろぼろになるんだろう。
確認してみても、オトコの体の構造は〝人〟種族そのもの。
どこにでもいる〝普人種〟だと思う。
頭部から頚椎の角度がおかしいのは、二足歩行だから。
ご近所さんたちのお嫁さんにも、二足歩行の種族がいるから、事前の情報収集も兼ねて勉強してきた。
「人の国で手に入るお嫁さんは〝人〟種族の確率が高いでショーッ!」というご近所さんの発言を、切り捨てなくてよかった。
四肢のはえる場所、関節の形状がおかしいのは、この貧民窟に来てから知った。
前脚を器用に使うから、関節形状がおかしいんだよ。
人種族の基本形は二足歩行。
頭部には長く伸びる〝カミ〟と呼ぶ体毛があることが多い。
体を守る毛が無いか少なくてよわよわの皮膚だけだから、〝フク〟を着なければ身を守ることもできない。
角や尻尾、牙を持ってないことが多い。
気遣ってあげたから、ちょっと切れしまったけど垂れ流しになってない、はず。
それでも、まあ、体液がからっけつで、魔力も無くて死にかけている。
体の中も腐りかけ。
年齢は不明。
ボクは外見で人の年齢は見抜けない。
赤子と老人くらいはわかるけど。
全身が泥と体液まみれ……たぶんだけど、ジイサンって呼ばれる歳くらいかな。
骨格や贅肉のつき方から見て、過去に鍛えていた時期がある。
鍛えるのをやめてしまったから、ぶよぶよとゆるんでたるんだ不摂生を重ねた肉体になった。
そんなとこだろう。
素敵なお嫁さん候補のジイサンを見つけた悪徳に、ニンマリして。
随分と、古い傷跡も多いことに気がつく。
体液を含んでしまった長いカミはきつく編み込まれて、垢と脂と泥にまみれてべたべたでずっしりと重たいし、とても臭い。
淫蕩と退廃の臭いがする。
古傷と長いカミ。
文字通り地を這うほどにのばされたカミを、縄のように編み込んでいる〝人〟で思い当たるのはマジュツシくらい。
鍛えていた痕跡と傷痕から、戦場、それも最前線に放り出される系だろう。
まあ、これだけ臭ければ、もう魔力は使えないだろうね。
人種族だけが使う、魔力の運用方法がマジュツ。
それを扱うのがマジュツシ。
このジイサンが自分から堕落したのか、堕落させられたのか。
体液と垢と汚濁の奥底に、酒と魔薬とオンナの淫液の臭いを感じる、このオトコは肉体の芯まで汚染されている。
体内の魔力合成機能が破綻している。
おそらくだけれど。
普人種は他の人種に比べて体内魔力製造力が弱い。
繁殖力が強くて、寿命が短いことと関係している、ような気がする。
たぶん。
酒と魔薬に体内が汚染されて、徐々に弱っていく魔力合成機能。
生合成される魔力量が減ってしまえば、戦場でまともに戦えなくなり、失墜していく忿懣をオンナで発散して。
オンナの中に魔力と子種をぶっ放せば、さらに魔力が回復しなくなる……と。
ご近所さんに聞いた人種族あるある堕落話を思い返せば、そんなところだろう。
最高に効率が良い悪循環を繰り返して、ジイサンは堕落したのかもしれない。
体内で魔力が生合成されなければ、魔力は枯渇する。
使い方を知っていても、無いものは使えない。
相入れないご近所さんでもあるアイツらに聞いた「普人種のマジュツシは崇高にして高潔、その弱さが愛しい」という言葉は、本当だったわけだ。
享楽と淫蕩に耽るだけで力を失う弱小種族か、本当に哀れだ。
繁殖するだけで力尽きるなんて。
可哀想で、可愛すぎるよ。
弱くて気高い身を堕落させた後だからなのか……その身をむさぼるのはとても美味しそうだ。
マジュツシとして使えなくなって、廃棄処分されたのか。
それとも……貧民窟に逃げ込んだのか。
どちらにしても、ボクのお嫁さんに相応しい。
11
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

見習い薬師は臆病者を抱いて眠る
XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。
傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。
人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。




つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる