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警備強化(GPS搭載)したので、迷子は子を産める個体かを調べてみる ※
しおりを挟む木やウツシミたちは、義母のように冷たい目で睨んでくることも、義姉のように殴りかかってくることもない。
ぼくは木が大好きになっていた。
木の元が、帰りたい場所になっていた。
手と足が自由になり、口元に噛まされていた布も外してもらった後で、ウツシミたちが新しい葉の服をくれた。
着替え終えたら、前の服はばらばらの枯れ葉になってしまった。
一体、一個、一匹、果実なら一つだろうか?
肩に登ってきたウツシミが、こっちだよ、と枝の手を振って案内してくれる。
そういえば、臭い男二人はどこに。
振り返ろうとしたぼくのほほを、ウツシミがつんつんとつついて、あっち、あっち、と急がせる。
背後で、低いうめき声や、中身の入った袋を叩くような音、なにかが引きずるような音がしてる気がするんだけど。
気にしないでってことだろう。
さっきは男性の声を出していたのに、ぼくに対しては話してくれないのかな。
「助けてくれて、ありがとう」
ぴょこんとお礼をする姿が可愛いから、会話がなくても良いかなと思ってしまった。
進むにつれて、たくさんいたウツシミたちがばらばらと散っていき、ぼくの肩に一つが残った。
枝の手で進む方向を教えてくれて、誰にも会うことなく、静まりかえった知らない建物の中を進んでいく。
石を積み上げて作った、物語の砦みたいな場所だ。
堅牢さを優先しているのかもしれないけれど、天井を除いて石積みが丸見えだと薄ら寒さを感じる。
子爵家も外壁は石積みだったけれど、建物の中は木の壁だった。
ここは中も石で、とても寒々しい。
遠くで、ごごん、ごごん、となにかが崩れるような音が聞こえる。
人の怒鳴って、わめく声も。
肩に乗っているウツシミがそっちじゃないよ、と訴えてくるから、気になるけれど覗きに行くのはやめておく。
ついさっき助けてもらったばかりなのに、自分から人がいる場所に向かうべきじゃない。
騒動の中に入って、一人でうまく立ち回れるほど、ぼくは人生経験を積んでない。
臭い男たちに立ち向かうことができなかった。
十歳までは剣術だって習ってたのに。
それにしても、どうしてぼくが妖精だと勘違いされたのか。
髪の色が薄くなって、長さも伸びたけど、どこからどう見ても十四歳で男のはずなのに。
やっぱりこの、葉の女性服もどきがいけないのかな。
下着をつけてないし、裸足だから?
でも、種を渡すのも、お尻に種を入れるのも、裾が広がった服を着てないと見えてしまいそうで……見たくない。
種を入れられるのは慣れたけれど、入れられている所は見たくないから、膝までは丈がないと困る。
全裸はもちろんいやだ。
悩みながらウツシミの案内に従って歩いていくと、誰にも会わずに建物の外に出ることに成功した。
……あれ、ここって。
思い出す前に、がさがさと揺れる音がした。
最近はいつも側で聞いている音だ。
振り返ると、そこに生えている広葉樹が枝を揺らしている。
『ぶじかい』
とても遠くから囁くように、木の声のような音のような、意志が聞こえた。
「木さん、拐われてしまってごめん、助けてくれてありがとう」
巨木とは似ても似つかない大きさなのに、この木も木の仲間なのかもしれない。
つるりとなめらかな木肌に手を触れて、ありがとう、と念じるとざわざわと枝が揺れた。
『もどっておいで』
「うん」
ぼくは、街より木の側の方が、好きだ。
街に残りたい理由がない。
肩に乗ったウツシミが案内をしてくれるのに従っていたぼくは、街の中が静まりかえっていることに、気がついていなかった。
明るい陽の光に照らされている街の中には物売りの声も、外を行く人々の声もしない。
誰もいないように、しんと静まりかえった街中を通り抜けて、ぼくは森へ帰る。
途中で、裸足で歩いていると痛い、と伝えると、どこからともなく集まってきたウツシミたちに抱えられて運ばれて、なにかを考える余裕がなくなった。
周りを見回す余裕があっても、昼の街を歩いたことは無かったから、気が付かなかったかもしれないけど。
木が、なにを望んでいたのか。
知っていたら、気がついていたら、ぼくは、どうしていただろう。
◆
◆
巨木の元へ帰ってから、ぼくの生活は少し変わった。
いつも、ぼくの肩や背中にウツシミが一つ、乗っているようになった。
……種をお尻から入れられている時も。
ウツシミの重さは果実一つ分だから、重くない。
でも、種を入れられておかしくなっている姿を見られているのかな、と思うと、なんだかそわそわしてしまう。
ウツシミは木の果実みたいなもので、木に見られているのと変わらないはずなのに。
「……やぁ……でちゃう……んぅっっ……もれちゃうよぉ……」
『それなら、ほら、先っぽを覆ってあげるから出していいよ』
うとうとしながら我慢して。
揺れるゆりかごの中でお腹の中の種どうしがこりこりと当たると、前の方がじんじんしてきて、我慢しても最後にはもらしてしまう。
ううん、我慢すればするほど、気持ちよくなってしまう。
木が、意図的に気持ちよくなってしまう場所に種を当てている気がする。
お尻の穴をたくさんの枝に広げられながら、お腹の中をなでられると、気持ちよくておもらしが我慢できなくなる。
やめてほしくて頼むのに、木は出して良いと言う。
おもらしがいやだから我慢しているのに、うまく訴えられなくて、やわらかい葉で先端をこすられると、ぼくは簡単にもらしてしまう。
その時は、頭の中が真っ白になって、気持ちよくて、この気持ちよさが終わらないで欲しいと願ってしまうけど。
冷静になると、情けないし、恥ずかしいし、格好悪い。
やっと呼吸ができるようになって息を整えていると、仰向けになったぼくの胸元に移動してきたウツシミが、葉の服をめくった。
胸元だけを、一枚。
「えっ……ひゃあっ!?」
細い木の枝を何本もあわせたようなウツシミの手が、むきだしの胸に置かれて、ぱちん、とぼくの胸の先を挟んだのだ。
痛くはないけど、驚いた。
おもらしはしたけれど、お腹の中のじんじんはまだ残っていて、息もうまく吸えない。
なんでそんなところ触るの、と聞きたいのに、うまく言葉にならなかった。
『ああ、フタツアシはそこから種とは違う白いのが出るんだよね、幼生に吸わせるのを見たよ』
「見たってどこで……、あ!、ぼくは出ないから!」
ウツシミの行動を後から補足するように木の意志が聞こえたけれど、急いで訂正しておいた。
「それは赤ん坊のご飯だから、出るのは女性で、ぼくは出ないよ」
期待させてから落ち込ませたくない、と言い募ると木が珍しいくらい大きく、梢を揺らした。
『腹の中で胚を育み、幼生を産み落とすフタツアシがジョセイでメスなら、出せるようになると思うけどな』
「……え?」
『種の発芽促進してるよね』
「ええ?」
そうなの?
種が木の赤ん坊って言われたらそうなのかも。
本当にそうなのかな?
ぼくは教師から正しい性教育を受けていないから、否定するだけの根拠を持っていない。
本で読んだのは、女性が子を産んで乳を吸わせて育てる、だったけど。
貴族だと乳母を雇う。
赤ん坊が生まれるところも乳を吸うところも、ぼくは見たことがないけど。
それにしても、幼生が吸うのを見たって、どこで?
森に住む、獣のこと?
もしかしたら男でも、子を産んだら乳が出るようになるのかな。
……子を産む……のは、どうやって?
赤ん坊って、どうやって生まれるんだろう?
種みたいに、引き抜くの?
『ちょうど種もあるし、試してみようか、はい、どうぞ』
「ええ゛っ!?」
目の前に差し出された果実は、白い果皮がふんわりと光っていて、明らかに今までのものと違っていた。
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