【R18】かみさまは知らない

Cleyera

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9 おれ

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 嵐で大揺れになった暗闇の船内で、おれは呼吸をした。

 体調が悪すぎて、考える余裕はなかった。
 考えることを放棄して、目を閉じて、呼吸しながら、湿って臭い寝台に倒れているだけで精一杯だった。

 おれは延々と何時間も、下手したら何日も、気持ち悪さを緩和するのに二人のちんこを吸って舐めて触れ続けた。
 元気になってみれば、おれはなんてことしてたんだ、と頭を抱えるしか無い。

 二人はずっと、嵐が過ぎ去るまで付きあってくれた。
 この間、二人は一度も射精していない。
 おれのために我慢してくれていた、と気づいたのは、動けるようになってからだった。





 目が覚めて、やったぜ船酔い完治した!、と歓喜しているおれを見る夫たちの目がなんか変だった。

 とりあえず陽光で温められた甲板で光合成しながら、煮汁がどろどろで灰色の謎煮は見た目からして腹を壊しそうだから遠慮して、船旅って大変なんだなーとため息をついた。

 一人で野垂れ死にしてた頃に比べて、おれってば贅沢に慣れちゃったなーと感慨深い。
 これが夫二人に養われる愛され嫁ってやつか。

 とか、手すりに腕を乗せながら冗談めかして泡を立てる波を見ていたら、唐突に腰を後ろに引っ張られた。

「うぇおっ?」

 変な声が出た直後、びたんっと音がして。
 引っ張られるままにくの字になっていた体を起こして、顔を前に戻してみれば、おれがいた甲板に細長い魚が刺さっていた。

 長い胴体が甲板をびしばしぶっ叩いて、突き刺さった頭部が抜けないのか大暴れしている。
 木に穴が空いて……るだと!?
 えええええ!?

「ゼン、怪我はないか?」
「お、おおおう」

 なにこれ、木に魚が刺さってるよ、なんだっけ、これあれだ、刺さる魚!
 すげー硬いやつだ!
 名前知らんけど!

「魚って船の上まで飛んでくるものなのか!」
「……どうだろう?」

 おれの腰に腕を回して助けてくれたスペラがディスを見て、同じく至近距離にいたディスがおれを見ながら首を傾げる。
 物知りディスでも知らない事があるのか、と頷きながら、おれはとりあえずこの新鮮間違いない魚が食えるのかを知りたくなった。

 そして、おれだけ焼き魚にありつきました。
 うまかった。
 やっぱり海の魚は美味いよな。

 船のスタッフさん、謎煮を作ってる火で魚を炙らせてくれてありがとうございました。
 乱入許してくれるなんて優しいですね。
 あと、いつもご飯ありがとうございます、腐ってそうな匂いがする真っ黒な干し肉を諦めないとか、勿体無い精神がすごいです!

 いやー金持ちの夫がいるって良いね!
 すいませんね、自分だけなんか特別扱いしてもらっちゃって。
 もちろん夫たちへの対価は体で払いますんで、今夜は二人をしゃぶる、とおれは勝手に決めたよ。



 体調不良がどっかにすっ飛んでった喜びで、一日ハイになってたけれど。

「あれ?」

 夜になって気がついた。
 おれ、船酔いで死んじゃってたみたいだ。
 普通に目が覚めたと思ってたのに、違ったらしい。

 日が暮れた、カンテラの燃料が勿体無いから寝るぞ、と相変わらず真っ暗な部屋に戻って、そういえば部屋の中を掃除してくれたんだな臭くなくなってる、と嬉しくなって。
 じっとりと湿気って重たい毛布を持って気がついた。

 あれ、湿気ったままで重たいのにカビ臭くなくなってる?、と。

 現実感なくなってるじゃん!!
 元気になったんじゃなくてリスポンしてたらしい。
 ものすごく気持ち悪かったのは覚えてるけど、死ぬほどひどかったのか。

 ぁえー、人って船酔いで死ぬの?
 もしかして、スペラとディスの二人はおれがリスポンする所を見たのかな。
 うわ、どうしよう。
 また二人がものすごく心配性になったりする?

「ゼン、どうかした?」
「寝ないのか?」

 おれが病み上がりだから、と二人はなにもしないで眠る用意をしている。
 夜になったら二人を襲って男性器しゃぶっちゃうゾ☆、とか思ってた頭が冷えていく。

 調子に乗ってる場合じゃなかった。
 おれ、弱すぎ。
 贅沢には慣れるくせに、不便な生活に慣れる事ができないなんて。
 船に乗ってる間は、二人に迷惑かけないようにしないとな。

「なんでもない、二人ともごめんな」
「どうした、なにかあったのか?」
「ゼン、どこか調子が悪いなら言ってくれよ」

 しょんぼり落ち込みながら、ディスとスペラに左右を挟まれてベッドに収まった。

「しゃぶりたかったけど、次にする」
「……っ」
「……ぅぐ」

 二人がうめく声を聞きながら、やっぱり我慢させてたんだよなと後悔した。
 元気になった~とか浮かれてる場合じゃなかった。

 おれって本当にダメな嫁だなぁ。
 お風呂にする、ご飯にする、それともわたし?、の全部ができない。

 暗闇が落ち込んだ表情を隠してくれることを願いながら、目を閉じた。



   ◆



 結局おれは、船が目的地に辿り着くまでに何度か死んだ。

 初めは船酔い?
 見てもらった船医には、魚を食べたら回復したと言っておいた。

 現実感を手に入れるには、リスポンの後にがっつりと夫二人に抱かれる必要がある。
 つまり、船酔いで死んでから現実感が無いままだから、何度リスポンしてるのかしてないのかが分からない。

 それでも、死んだんだろうな、と分かる事が四回あった。

 二度目は船が揺れた時によろけて転んでどこかに頭をぶつけた。
 目が覚めて、転ぶ前に感じていた空腹がなくなっていたから、たぶん死んでる。
 室内が真っ暗でなにが起きたか分からないまま死んだ、覚えてないってことは即死だったんだろう、問題は運動能力なのか反射神経なのか。

 三度目は空腹に負けて食べた謎煮に当たって、上から下から規制が必要な大騒ぎになって、目が覚めたらすっきりさっぱり。
 治ったというより、食べた事実自体が無くなってる感じ。
 夫たちに後片付けをさせてしまったのは間違いない。
 コレ以降、空腹を我慢しようとしたら新鮮な焼き魚を用意されるようになった。
 特別扱いが辛い。

 四度目は、目が覚めて気がついた。
 眠った覚えが無いのにベッドで寝てた、つまり死んだ?
 怪我してない、腹壊してない、なにが起きたのか分からない。
 スペラとディスに聞いても答えてくれない、怖いんだけど。
 おれの弱さがミステリーすぎる。

 船旅が向いてないようなので、これが終わった後は船に乗らないことにします。
 夫たちがおれを見る目がしんどいです。

 目を離したら死ぬのではないかと構えられてる気がする。
 少なくとも四回は死んでるから、心配するな、そこまで弱くないよ、と嘘でも言えない。

 約束で尻の穴が使えないから、手と口だけでも二人に触れたいのに、おれが疲れるといけないと止められる。
 欲求不満になってるのに、わがままだと思われたくなくて引くしかない。

 死んでほしくないと思われてるんだろう。
 この世界の奴らが頑丈なのであって、おれが弱いわけじゃないと思いたい。

 早く、陸地につかないかな。
 そう思いながらなんとか日々を過ごして、ある日、打ち鳴らされる鐘を聞いた。

「陸だ」

 ディスの言葉に顔をあげる。
 真っ暗な部屋の中、壁越しでも他の部屋の喧騒が聞こえてくる。

 みんな、喜んでる。

 良かったと思ったら、ふっと意識が遠くなった。 

「ゼン、寝ていて良いから」
「降りるのに三日はかかるから、休んで」

 二人しておれを寝かしつけようとするから、大人しく毛布に潜り込んだ。
 この湿って重たくて前は臭いと感じられていた毛布ともお別れだ。

 スペラとディスの優しい声と、温かな手の感触を頼りに目を閉じる。

「おやすみ」
「おやすみ、良い夢を」
「おやすみなさい」

 うちの夫たちは甲斐甲斐しい。
 陸地に上がったら、おれは二人をがっぷりなめしゃぶるぞ、と決意しながら暗闇の中に沈んでいった。

 
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