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8 ボク
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しおりを挟む心身が満たされた、自分が変わったと知った。
ディスと二人で張った結界の中、交代で休みと周囲の警戒をする時間をとりながら、ボクとディスはゼンさまと情を交わし続けた。
甘くて悦びに満ちた、終わってほしくない一時。
かみさまの居られる天上が地に現れたと、錯覚するような幸せな時間だった。
思い返すだけで体に活力が湧き上がる。
あの時以来、ゼンさまが与えてくれた空っぽの腹に、あふれるほどの力が満たされている。
ゼンさまから力を授かった。
ディスも同じだと言う。
シンシはかみさまと目交うたびに、力を分け与えて頂ける。
少しずつなのは、ゼンさまの弱い肉体に負担がかかるからだろう。
けれど今回、ボクらは急いで強くならなくてはいけなかった。
かみさまがそれを望まれていた。
ゼンさまが、遠慮するなと言ったのだ。
ボクらがゼンさまを抱いたのは、今後の為。
本当なら、抱き合う目的で抱きたかった。
かみさまの優しさに付け込んで行われていても素晴らしかった交合だ、愛を交わす目的ならもっと喜ばしかっただろう。
今回は火急の事態であり仕方なかったけれど、今後の事をディスと話し合う機会になった。
シンシをこれ以上増やせば、ゼンさまへの負担が大きくなりすぎる。
時間をかけ、無理をさせないように気遣っても、二日が限界だった。
ゼンさまを抱く事で、ボクらはかみさまの力を分け与えて頂ける。
シンシとしての位階が高められる。
痛感した。
以前から実感はあった。
初めてゼンさまを抱き、愛を交わす事を知った日、ボクはゼンさまを堕神にしてしまったと勘違いした。
違うと気がついて、シンシとの交合が必要だと判断した。
それだけでは無かったのだ。
ボクらは二日の間、常にゼンさまの中に自らを収め、力を与えられ続けた。
最後まで付き合うと言われた以上は必要な事だと考え、無理はさせない事を二人で意思疎通しながら、ゼンさまと愛を交わした。
もっと激しく抱きたい欲と戦いながら、ゼンさまの甘える声と柔らかく震える体、抱きしめてくれる口内や後孔を堪能した。
一生分の精液を出しきった気がする。
こんなに幸せな鍛錬なら、命を削るとしても何度でも受け入れるだろう。
それはディスも同じだったようで、全てが終わった後は虚脱していた。
心も体も力に満ち溢れているのに空っぽで、喜びと幸福以外が存在しない。
苦しみも悲しみも無い世界をゼンさまは望んでいて、ボクらに与えてくれた。
力の高められる上限を二人で探っていたら、ゼンさまが空腹を訴えられたので、これ以上は無理だと判断して終わりにした。
弱い肉体が壊れる懸念を理解した上で付き合うと言ってくれた事が、望外の喜びなのだ。
衰弱して死ぬ姿は見たくない。
ゼンさまが次に死んだ時、肉体を再生して戻る保証はない。
ボクらを不要と見捨てる事は無くても、ボクらの無力さに呆れる可能性はある。
弱いボクらを守るために遠ざけるかもしれない。
誰よりも弱い肉体で、誰も彼もを守ろうとする優しさが、憎い。
ボクたちと一緒に世界の果てで暮らしましょう、と言いたい。
ボクら以外誰もいない場所で、毎日愛を交わして幸せに暮らしましょう、と誘いたい。
出来るはずもない。
かみさまにはかみさまの目的があり、ボクらはそれをお助けするためにシンシに選ばれた。
だから、ここにいるんだ。
出来るだけの迎撃準備はした。
街を出て一月。
そろそろ頃合いだろう。
街にいる時に見つけたカウタ・テメイニック。
かみさまを探してどこまでも追いかけ続ける歪な存在。
ボクの目には、黒いもやもやの塊にしか見えなかった。
思い返してみれば、あれは溜め込んだものではなく、初めからそう作られたものだったように感じる。
あれは、厄介だ。
街を出る前、ゼンさまが脱いだ服を持ったディスに気を惹かせ、ボクが背後からありったけの黒いもやもやを叩き込んだら、泥の城が崩れるように地に広がった。
うまくいったと思った。
直後に、背筋に冷たい水を注がれたような悪寒がして、飛び退った場所に、棘のあるつる草のような黒がぞわぞわと音すら聞こえそうな勢いで伸びて、埋め尽くすように蔓延っていった。
伸びてきたつるを引きちぎり、脆さに驚く。
鋭い棘は生えていても、シンシであるボクらを傷つけられるほど硬くない。
すぐに終わると思ったけれど、ちぎってもちぎっても侵食が止まらない。
末っ子叔父のもやもやが膨れ上がった時の光景を思い出して、手が鈍る。
「きりがない、一旦引くぞ!」
「分かった!」
ボクの動きが鈍った事で逃げる判断をしたディスに従い、その足で宿に帰ってすぐに街を出た。
ゼンさまはボクらの判断を信じてくれて、一切を任せて従ってくれた。
あれは絶対に追ってくる、と確信を持ちながらボクらは時間を稼ぐ事しかできなかった。
もやもやを大量にぶちこんだのに、自壊させられなかった。
カウタ・テメイニック。
対峙してなお、恐ろしさを感じられない、間違いなくやばいものだ。
あれは、地の果てまでもかみさまを追いかけてくるらしい。
ディスの知らない事はボクも知らないから、信じるしかない。
かみさまを探して追いかける事だけが、あれの存在意義だとディスは言った。
もう心もなにも残っていない、妄執だけを残したものだと。
カウタ・テメイニックを利用して、かみさまを見つけようとしている誰かがどこかにいる。
また、かみさまを利用して死ぬまで使うつもりだ。
絶対にさせるものか。
二度と、手を離さないと決めたんだ。
追いつかれるまでにボクたちの力を底上げする必要がある、と結論が出た。
街では無関係の人を巻きこんでしまうから、無人の地で罠を張って確実に崩壊させようと決めた。
ゼンさまからは、十分過ぎる力を頂いた。
これまでとは明らかに違う、濁流に押し流されるような量を与えられ、奔流の中を泳ぐように必死で飲み込んだ。
ただひとつ星にヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウはおられる。
ヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウの力の一部を、ゼンさまという器を介してボクたちに与えてくださっている。
期待に応えなくては。
ゼンさまを守らなくては。
ディスと二人で一つになったような気がした。
知識のないボク、経験の浅いディス、二人揃って一人前だ。
かみさまがそう認めてくださった、気がした。
疲労でゼンさまが休んでいる間に、新しく与えられた力の使い方を学ぶ。
そして、全てを終えたゼンさまが眠りにつくと、思っていた通りにそいつは現れた。
「先駆けなるカウタ・テメイニック、立ち去る気はないか?」
ディスの問いに、応えはない。
頭を振りながら鼻を鳴らす姿。
ボクには人の形に見えない黒い塊。
街で見た時は、人がもやもやを溜め込みすぎた成れの果てかと思ったけれど、今のボクなら分かる。
あれは、人為的に作られたものだ。
もやもやの中に人を感じる。
人であった誰かの存在を感じる。
心も体も壊れるほどもやもやを詰め込まれ、なにも考えられず、なにも望めないようにされた誰かに、ボクは哀悼の意を捧げることしかできない。
末っ子叔父とよく似ていて、違う存在。
可哀想だ、と思った。
助けてあげられない事が、心苦しい。
「手加減しようなんざ、考えんなよ」
「分かってる、そんな余裕ないよ」
ディスの恐れが見えた。
殺しが怖い、と。
ボクは、怖くない。
ボクにできることはたった一つ。
ゼンさまに教えて頂いた慈愛の心を持って、痛くないように苦しまないように終わらせてあげる。
これを終わらせた後で、ゼンさまを抱きたいという気持ちだけで触れたい。
ゼンさまに触れる許しを得ているのは、ボクたちだけだ。
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