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6 ボク
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しおりを挟む生殖器周辺を、執拗なまでに揉まれ舐め回されしゃぶられ吸われた当然の結果として、絶頂に追い上げられて震えているゼンさまは、寝台の敷き布を細い指で握りしめていた。
力が入らずうまく動かせないだろうに、なんて健気なんだ。
快感に感じ入っている様子は素晴らしいが、それを与えたのはあいつだ。
ふるふると揺れる小さな舌をじゅっ、と音を立てて吸うと、ゼンさまが甘えるような声を上げた。
「んんっ」
悔しいけれど認めよう。
求められて、願われて、乞われて、快感に震えるゼンさまは、ひどく卑猥でいやらしくて素敵だ。
相手があいつでも。
ゼンさまの肉体は人に似せられているけれど、作り物だ。
かみさまが地の上で活動するために作った肉の殻で、ボクなんかには考えつかないよんどころない事情でひどく脆い作りをしている、と推測できる。
作り物と断言できるのは他に見ない黄色味がかった牙色の肌や、黒髪、黒瞳で明らかだ。
人そっくりに体毛があり、乳首もへそもあるけれど、どこもかしこも柔らかい。
薄い雲母を貼り付けたような爪、小粒な白石のような歯では、ボクらの肉体に傷ひとつ付けられないだろう。
戦う事を考えていない肉体だ。
地を歩くには弱々しすぎる肉体だ。
「ん……ぅぅん……んぅ……」
ゼンさまの日焼けを知らない生殖器周辺が、できたての牛酪のように白くて柔らかい事を知っている。
小さな口から突き出される舌が、熟れた果実のように赤く、かぶりつけば甘い事を知っている。
「それ、やめてくれません?」
「……ふん」
ゼンさまの感じ入る声が聞こえなかった事が不満らしい。
ボクが味を知らないゼンさまの精液を飲み干して、満足したあいつが、口の周りを舐めながら睨んできたので、唇を離さずに目だけでせせら笑ってやった。
お前に初めては譲ったけれど、可愛らしい声まで聞かせてやるとは言ってない。
ゼンさまの喉を痛めさせるつもりか?
ボクの考えを感じ取れたのか、あいつは苦々しい顔をして口を開いた。
「ぼくらが協力しないとゼンが悲しむと思いますよ」
「っは、そうだな」
こいつのこういう所が嫌いだ。
ボクより年上で人生経験も豊富で、感情を理性で抑え込めてしまう所が。
「はー、はー、はぁ、どうしたの?」
深く口づけしながら生殖器で絶頂を与えられたからか、ゼンさまは頬を赤く染めて、満たされた息をついていた。
ボクらがお互いに牽制しあっている事は知られない方が良い。
「ゼン、ボクはちょっと行ってくる、ディス、分かってるだろうな」
「もちろん、傷一つ、痛み一つ与えません♪」
外面の良いあいつの笑顔に、ゼンさまが呆けた顔で「よく分かんないけど発言までいけめんだなぁ」と呟いたのを聞きながら、ボクは宿を後にした。
今までの行為は、あいつへの試験でもあった。
初めてゼンさまを抱いた時のボクのように理性を失わず、無理をさせずに性交できるかを見極める試験。
あいつはやりとげた。
ゼンさまの愛らしさに屈服する事なく、人の姿で精液を飲み干してみせた。
ここから先は、あいつ一人でゼンさまを愛する。
ゼンさまに愛される。
ボクはこれまでに百四十八回、ゼンさまを抱いた。
何回抱いても、いつでも初めての気分で興奮しながら。
あいつにも同じだけの機会を与える協定だ。
シンシは常に対等でなくてはいけない。
ゼンさまから与えられるものに関しては例外で除外するが、ボクらの間ではそう決めた。
そう決めておかないと、ボクが狂ってしまう。
そんな気がして。
強く、なりたい。
とりあえず組合で手頃な仕事を探し、ちょうど日帰りで終わりそうな依頼を受けた。
ゼンさまの負担が大きすぎるので、帰って制止するつもりだ。
町から出て、荒野で獣を狩った。
虚しい気持ちで心がいっぱいだからなのか、獣の内臓も頭も潰さずにうまく仕留められた。
やはり腕力が強くなっている。
脚力もあがっているようだ。
町から距離があるため、獲物の査定額と評価を下げられないように血抜きして腸を抜いて、ほとんど丸ごと持ち帰ることにする。
今のボクなら、この大きさの獣を背負っても重たいと感じない。
頭の中ではずっとゼンさまのことを考えているのに、体は勝手に動いてくれた。
今頃、ゼンさまはあいつの腕の中で悦楽に浸っておられるのか。
あいつのゼンさまへの愛は疑っていないが、二人が抱き合う姿を見たくない。
かつてボクはゼンさまに話した。
一妻多夫が普通の地域もある、と。
他人事だったから言えたんだなと、今になって気が付く。
愛する妻を自分以外の男の手に委ねる事が、こんなに心を苛んで苦しいなんて知らなかった。
獣を背負って町に戻り、必要以上の会話を一切したくないと無言で訴えながら納品して、走りたい気持ちを堪えながら宿に戻る。
もうそろそろ、大丈夫だろう。
と信じて。
扉を軽く叩き待っていると、腹の奥底まで真っ白になったあいつが、いかにも事後ですという気だるい様子で出てきた。
着ている服がさっきまでと違うことに、心が沈み込んだ。
分かっていたのに。
「ゼンは」
「もう眠られた、明日からは手足が動くようにりはびりとやらをするんだろう、無理はさせてない」
「……そうか」
ボクだったらゼンを抱き潰していたかも、とまで考えた所で、ぽん、と頭に手が乗せられた。
「悪かった、若者に八つ当たりするべきじゃないと分かってたが、どうにも羨ましくてな」
「……?」
ボクよりも年下に見える姿をしているけれど、実際は親くらいの年齢だというこいつは、腹一杯食べた後のような満たされた顔で笑った。
「ぼくは今日、どこか別の宿を取るから、お前はゼンさまについていてやれ」
からかいも皮肉もない言い回しに、ここ半年のぎすぎすした雰囲気はなんだったんだよ、と思った。
でも、ボクだって、まあ、こいつが言いたいことは分かるんだ。
心が悲鳴をあげてしまうのは止められないけれど、ボクも同じ気持ちだ。
「ゼンを置いてどこに行く気だ?」
「ぼくもお前と同じ意見だ、つまりこれからはほどほどに仲良くやってこう、と言ってるんだ」
そういう余裕のある所が、嫌いなんだ。
「できたら初めからしてる」
「やるんだ」
ぼくの知っている事を全部教えてやるよ、と言う口調がどこか末っ子叔父に似ていて、昔を思い出した。
「できる気がしない」
「儀典祭司のみに伝わっている知識や儀式はどうしようもないが、祭司としての心構えはそう変わらないだろう」
「やりたくない」
「それなら今度こそ本当に、ゼンさまはぼくが連れて行く」
役立たずのサイシはただの足手まといだ、と告げてくる声を本気だと判断する。
「ヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウは、この世の全てに対して優しすぎる。
ぼくらが命懸けで守らないと、いつ何時奪われてもおかしくないと気付いてないのか?」
奪われなかったとしても、何故、今この時にかみさまが再び地に降りられたのか、考えたことはないのか?、かみさまはいつまで地にいると明確に終わりを口にしたか?、いつ、この旅が終わってもおかしくないと気付いてないのか?、と悲痛な口調で言われて。
愕然とした。
ゼンさまがいなくなる可能性。
奪われるでもなく失われるでもなく、ご自分の意思で天へ帰られる?
それは、どんな時だ?
「かみさまの御心を惑わす事はすべきじゃない」
「いやだ、ゼンがいなくなるなんて!」
「そうだな、だからぼくらは仲良くしよう」
「……分かった」
ディスはボクと自分を運命共同体と言った。
ゼンさまにシンシを増やそうと思って欲しくない、と決意した目でいう姿は、まるでさっきまでのボクのように必死に見えた。
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