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6 ボク
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しおりを挟むゼンさまの目覚めを待つ間に、ボクらは動くことにした。
同じことを繰り返されぬように。
二度とゼンさまを奪われることのないように。
提案をしたら、あいつも乗り気だったから、同じ気持ちだったんだろう。
ゼンさまを傷つけた奴らは絶対に許さない、って。
もしもゼンさまが起きておられたら、絶対にやめろと言うだろうから、今しか動けないと分かっていた。
ゼンさまが起きる前に、全てを終わらせよう。
それがボクとあいつの共通認識。
ボクはあいつが嫌いだけど、シンシとして補いあっているのは間違いない。
悔しいけど認める。
そんなこんなで数ヶ月の間に色々と暗躍していたら、冒険者の仕事を全く受けていなかった、というわけだ。
ボクたちに出来ることは全てやった。
あとは、ゆっくりと安全を確保しながらゼンさまの目覚めを待つだけ。
毎日、体を拭いてさしあげる。
動かしていない関節が強張らないように、全身の血行が良くなるまで撫でさすって揉みほぐして。
以前に半年を寝込んだ後は体がうまく動かないようだったので、少しでも助けになるように手足も支えながら動かした。
あと一月ほどで半年だ。
以前は予兆もなく目覚められたと思っていたけれど、毎日ゼンさまの体に触れていて分かった。
ゼンさまから感じられる真っ白が前と違う気がする。
きっとこれが目覚めが近づいている証に違いない。
目覚めまでずっとお側にいたかった。
ゼンさまを抱き抱えて移動することは簡単だけれど、あいつの言う通り先立つものは必要だ。
まずは移動申請をして、この町でしばらく滞在すると告げた。
簡単な仕事を受けて、獣を見つけて、殴り殺した。
気のせいかな、前よりも力が強くなっている気がする。
もやもやも使わずに殴っただけなのに、頭蓋骨が砕けてしまった。
腹を殴らなくてよかった。
仕事を早々に片付けたボクが組合に獲物を持ち込むと、ざわっと嫌な感じに騒ぎが起きた。
「信じられない、暴君猪をこの短時間で?」
「虹金等級だとよ」
「お近づきになっておけば」
シンシの肉体を得て身体能力が高くなったから、全部聞こえてる。
残念だけど、ゼンさま以外に興味は持てないかな。
かみさまよりも美しい心を持っていて、優しい人なんて存在しない。
ボクは最上を知ってしまったから、今後、この世にあって人が用意できるものに興味を引かれることはないだろう。
「こいつ預けておくから、明日、報酬を受け取りに来る」
すぐに帰りたいから解体は有償でも頼んだ方が早い。
頭がぐずぐずになった獣を組合に丸投げにすることにした。
金を稼ぐのがボクだけなんて気に入らない。
ゼンさまが目覚められたら、あいつも登録させるか。
もしかしてもう登録してたりするのか?
ボクよりしっかりと教育を受けているのは間違いなく、子供の体でも性交の知識はあったから、箱入りおっさん?
なんであいつのことなんか考えないといけないんだ、とボクは首を振ってからゼンさまの待つ宿へと急いだ。
◆
◆
ゼンさまを誘拐したのは、唯一神ヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウの教団だった。
サイシの一族ではない、人の集まり。
教団というものがあることも初めて知ったけれど、あいつ曰く、ヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウの教えの中でも、重きを置く場所が異なる人の集団がいくつも派生しているとか。
意味がわからない。
ヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウはただ一つなのだから、全部まるっと信じていればいいのに。
あいつも説明が面倒だみたいな顔をしたから、詳しく聞いてないけれど、勝手にかみさまの教えを改変して、信じたい事だけ信じてる奴らと推測しておく。
かみさまが見捨てなくても、ボクは見捨てたくなった。
実際、見捨てた。
ゼンさまを二人で守りながら教団を蹂躙した。
あいつに教わった体の動かし方のお陰で、前よりも戦いやすくなった。
それでもまだあいつの方が強いと分かるのが悔しい。
最後の一人まで締め上げて、なぜこんなに愚かなことをしたのかを聞き出したけれど、とても腹立たしい気持ちになっただけだった。
かみさまを求めたのは、とある国の王族と貴族だった。
そいつらはかみさまを〝かみ〟と呼んでいた。
まるで自分たちの道具のように、馴れ馴れしく厚かましく呼んだので苛ついて舌を引き抜いてしまった。
静かになって良かった、と安堵していたらあいつに呆れたように言われた。
話せなくしたらなにも聞き出せないぞ、と。
分かっていても、かみさまを軽んじる態度が許せなかったんだ。
気を取り直して、他の王族から話を聞いた。
自分たちの国がうまくいかなくて、かみさまが欲しかったらしい。
上手くいかない原因、つまり腹の中の悪いものをかみさまに注げば許されて何もかも上手くいく、と信じていたようだ。
信じがたい話だ。
少し考えれば分かるだろうに、自分たちが王族として君臨しているから上手くいかない事くらい。
別の有能な誰かに救いを求めるか、玉座を渡してしまえば解決だ。
ボクにとってのゼンさまのように、王にとって玉座は手放したくないものだというのは分かる。
手放したくなくて悪足掻きして導き出した答えが、かみさまの捕獲ってどうかしてるよ。
誰に聞いても同じ話だったから、嘘じゃないと判断して話し合った。
事前に二人で方針を決めていたから、結論は変わらなかった。
この国を、まるごと無くそう。
それがゼンさまを守る一番に安全な方策だ。
終着点を決めたら行動に移すのみ。
あいつがいたから、徹底的にもやもやを溜め込んでいる奴らを叩き潰すことができた。
ゼンさまを巡っては仲良くなれる気がしないけれど、相棒としての相性は最高だった。
認めるのは悔しいけれど、本音だ。
見えるボクと聞こえるあいつの二人が揃っていれば、黒いもやもやを溜め込みすぎて歪んでる奴を見つけて、捕まえて掃討するのはものすごく簡単だった。
ゼンさまを助け出す時に踏み潰した奴らが混ざっていたので、怪我をしていたのも重なって、捕まえやすかった。
どう償わせるかは決めていた。
ゼンさまがされたことを、出来る限り再現してやろうって。
傷ついた姿から何をされていたか、大体は推測できたから。
二人がかりで恐怖を煽るように捕まえて、ゼンさまがされたかもしれないように芥子の汁を無理やり飲ませて、体の形が分からなくなるまでもやもやを腹に押し込んでやった。
ボクもあいつもゼンさま以外は抱きたくないと意見が一致したから、こんなものかな。
みるみる内に人の形から外れていく姿を、あいつと一緒に見ながら思った。
きっとこれは間違ってる。
ゼンさまの望みじゃない。
でも、ボクもあいつも、後悔なんてしてない。
ボクらは人を殺さない。
かみさまにお仕えするシンシだから。
でも、ゼンさまを傷つけた奴らは人じゃない、よくわからないものだ。
心だけ人ではないものになってしまっていたんだ。
心と体が乖離しているのは良くない。
自分達はかみさまに愛されているからなにをしても良い?
それなら、かみさまに一番愛されているに違いないボクらが、お前たちの外見と心を揃えてやろう。
一人ずつ捕まえて、痛めつけて情報を吐かせて、もやもやを突っ込んで。
もやもやの塊になったあと、二人でばらばらにした。
生かしておいて、他の国まで生き延びて辿り着いたら困るから、後始末まできちんと終わらせた。
塊をばらばらにした後の残滓は、ゼンさまが近くにいるだけで浄化されてきれいになった。
そんなこんなで半年が過ぎるよりも前に、全てに方をつける事ができた。
ようやく日常を取り戻したから、ゼンさまが目覚めてくれたら完璧だ。
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