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6 ボク
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しおりを挟むボクはゼンさまの慈愛と懐の深さの果てしなさを知った。
芥子で狂わされた記憶を呼び覚ます事を恐れながら、ボクらはゼンさまを貫いた。
そうしなければディスプ……あいつが限界だった。
仕方ない。
これは必要なことだ。
ゼンさまはボクの妻だけど、これから先はあいつも同じ立場になる……可能性がある。
最悪だ。
受け入れるしかない。
そう自分に言い聞かせて、最低限、あいつがシンシとしての存在を確立できるだけの接触にするつもりだった。
そのつもりだったのに……。
ボクから抜いたもやもやを使いきれず、バケモノになりかけていた所をゼンさまに浄化されたら、あいつはシンシになった。
そこまではいい。
ボクと同じだ。
問題はその後。
シンシの肉体は、周囲のもやもやを勝手に集めてしまう。
集めようとしなくても、体が黒く重く汚くなっていく。
それがゼンさまが地に降りられた目的の一つだろうから、お仕えする身として手伝いをするのは当然のことだ。
ゼンさまとシンシで手分けして世界を浄化する。
それが正しい在り方なのだろう。
けれどシンシは、取り込んだもやもやを浄化することはできない。
破壊や変化の事象として使うことで分解は出来ても、ゼンさまが浄化した時のように完全に消滅させられるわけではない。
ゼンさまに定期的に触れさせてもらわないと、ボクらは黒く染まった重たい体を引きずりながら狂っていき、バケモノになるしかない。
急いだのは、あいつがもやもやの使い方が下手だからなのもある。
もっとたくさん使えよ、と一緒に試してみたけれど、どうも才能が無いようだ。
あいつを近づけるのが嫌で仕方なかったけれど、一刻も早くゼンさまを抱く必要があった。
初めて抱かせて頂いた時、ボクは雰囲気と共に変わってしまったゼンさまの存在感を恐れて、かみさまを末っ子叔父から聞いた堕神にしてしまったと思った。
堕神は、かみさまが地を歩くために作った肉体がケガレによって変質することで、バケモノのようになってしまったもの。
大地の全てを薙ぎ払ってしまう荒ぶる存在。
ケガレがなにかは、末っ子叔父も知らなかった。
黒いもやもやはケガレではなかった。
だから、男の精がケガレなのかと考えた。
でも、伝承の時代は女も多かったはずで、かみさまに救われたのが男だけって可能性は低い。
かみさまが不特定多数の男だけに触れる事を許すとも思えない。
どうしてかみさまの器は壊れたのか。
分からないから、怖かった。
ボクが恐れたのは、堕神の手で人の社会が壊されることじゃない。
顔も知らない誰かが浄化されて消されたって、痛くも痒くもない。
かみさまが心を痛められる事実は、想像したくないけど。
ボクが怖かったのは一つだけ。
人の欲を地を歩くための肉体に注いだことで、ゼンさまが天上に帰ってしまう可能性だ。
末っ子叔父に教わった伝承のように〝地に降りたかみさまの器は弱く、壊れてしまいました〟が、本当だったら?
ゼンさまがいなくなってしまうかもしれない。
ボクは自分のことしか考えていない。
シンシにあるまじき浅ましさだ。
同時に、この地の上でボクが大事に思える存在はゼンさましかいないと知った。
けれど、目覚めた後のゼンさまは、変わりなかった。
目を離したら大気に溶けて消えてしまいそうな儚い雰囲気が消えて、しっかりと地に足がついたように見えた。
そしてねだられた。
可愛らしくも包容力たっぷりに抱いてほしいと言われ、断れるわけがない。
二度目の交合で悟った。
シンシはかみさまと目交うことで、安定する。
かみさまにも、シンシと目交うことが必要なのだろう。
正しい目的は分からないけれど。
きっと、シンシがかみさまの側にいるために必要な事だ。
ボクはゼンさまを堕神にしていなかった。
シンシがシンシであるためにかみさまと身を交わす必要があるなら、あいつも同じなのだろう。
悔しいけれど、やめて欲しいと言えなかった。
胸が引き裂かれそうに苦しかった。
でも、やはりゼンさまはあいつを拒絶しなかった。
あいつが必要だとボクが訴えたから。
あいつが望んだから。
ゼンさまが受け入れたから。
決してゼンさまが傷つかぬように細心の注意を払った。
先達として、ゼンさまが快感を感じやすい場所まで教えてやった。
無理をさせるな、と執拗にゼンさまを上り詰めさせているのが悔しくて伝えたが、あいつは夢中になっていた。
ボクはゼンさまが初めての性交相手で、あいつもゼンさまが初めてだと言いやがった。
真似されているようで腹が立つ。
普段の純真無垢を絵に描いたような様子が嘘のように、抱きしめた腕の中で快感にむせび泣いて、全身を赤く染めてとろとろと溶けていく姿に、ボクまで理性が飛んでしまった。
肉欲に溺れているように振る舞っていても、その御心は決して汚れることがない真っ白なゼンさま。
なんと美しいのか。
なんと麗しいのか。
人を模して作った器の外見が愛らしいのは、悪意持つ者に善意を説くためなのだろうとは思っていたが、シンシであるボクらを惑わす目的もあるのか。
少し力を入れただけで跡が残る柔らかな肌、簡単に引きちぎれそうな柔弱な体。
闇を思わせる瞳と髪は物珍しさを感じさせ、特定の者たちの目を惹く。
人の形が維持できないほどもやもやを溜め込んだ者ほど、ゼンさまを蹂躙したいと感じる。
試練のために作られた体だ。
もやもやを溜め込んだ者が引き寄せられるのは、弱くて頼りないのは、そう作られているから。
分かっている。
でも、お守りしたいんだ。
「………」
「おい、離れ難いのは分かるがそろそろ稼ぎに行け、かみさまが起きた時に金が無いと嘆くことになるぞ」
二人で燦々と降り注がれた愛を受け取り、愛を注ぎ込んだ結果、ゼンさまは昏睡状態になってしまった。
初めてボクを受け入れて下さった時と同じ状況だろうとあいつに伝えたが、経験があっても待つのは苦痛だ。
長く休まれる理由は、新しいシンシを受け入れたからなのか。
弱い肉体でシンシを受け入れるのは辛いのか。
それとも繋がりを作ることが大変なのか。
快感に感じ入っているように見えても、内心は分からない。
ゼンさまにはいつだって醜さの欠片も存在しない。
ただ、ボクらを深く愛して下さっていることだけは、疑っていない。
「あの国の財宝はどこにやったんだよ」
「資金洗浄中だ」
「あれがあれば稼ぐ必要ないのに」
「金銀財宝なんぞ後生大事に抱えていたら、疑ってくれと言ってるようなもんだ。
それとな、虹金等級の冒険者が傷病療養中でもないのに何ヶ月も仕事を受けないと、変に勘繰られるぞ」
ゼンさまの前でだけ、礼儀正しく幼い子供のように振る舞っているくせに、ボクには口うるさい。
けれどこいつの言ってる事は正しい。
仕方なく、仕事を探しに行くことにする。
「ボクがいない間に、ゼンさまに触れるなよ」
「目覚められたら湯浴みと着替えと食事のお相手をしておく、望まれたら夜伽の相手もな、泊まり込みの仕事でも探してくるんだな」
「……ディスプレ、名は体を表すとはお前のことだな」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ」
「そっちこそ」
口調荒く睨み合って牽制しあって、けれど、こいつはゼンさまを命懸けで守るだろうと確信しながら、ボクは宿を後にした。
ボクとあいつの相性は最悪だ。
ゼンさまが見ていない所では、ずっとこんな感じだろう。
お互いにゼンさまを独り占めしたいと思っているんだから、仲良くできるはずがない。
ゼンさまがボクら二人を受け入れて下さったから、譲歩してやってるだけだ。
ボクよりサイシの知識が豊富で、シンシとして有能で、お利口のふりが得意でも、決めるのはゼンさまだ。
これまで以上にゼンさまが快く暮らせるように、旅ができるように努力しよう。
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