【R18】かみさまは知らない

４ ボク

スベテハマボロシ

　

　ここは、どこだろう。
　目を開けても見えるのはぼんやりと霞んだような煙ばかりで、自分がどうなっているのかも分からない。
　ゆらゆら、全てが揺れているような気がしているのは幻なのか。

……っ……ふうっ……はぁ……っあ……

　どこからともなく聞こえる呼吸や低い声のようなものが耳障りで、耳を塞ぎたいのに腕が動かない。
　全身の感覚が失われているせいで、寝ているのか立っているのかすら感じられない。

……じゅんばんはまだか
ちかごろは……じょうかのこうりつが……わるくなってきておるぞ

　時々、人の声のようなものが聞こえてくるけれど、うまく聞き取れない。
　なにを言っているのか耳を傾けようとすると、全身がずきずきと痛むような気がして集中できない。

まずいぞ……めをさまされた
……はようごまをたけ……もっとりょうをふやせ……ついかせよ
つかいすぎだぞ……
おうぞくでいれかわりがあったのでやすませられん……よわっておられるのやもしれん

　声のようなざわざわと流れる水の音のようなものが耳に届く。
　気持ち悪い。
　やめてくれ。

……そそぐかいすうをへらせというか
ごまをへらすことなどできぬぞ……ほかのてがあるとでもいうか
それでは……われらはきょうだんはどうなる……だかせてやらねば……

　荒野で獣に食われていた時のように体が動かない。
　やけにだるくて仕方ない。

　霞や霧の中を漂っているような視界は、いつのまにか暗闇しか見えなくなった。
　いまいちはっきりしない音。
　手足の感覚も満足になくて、動くこともできない。

うっ……はぁ…………もういちど……
ちかごろはしまりがわるいぞ……どうなっておる……

　ここはどこだ。
　いったい、いつからおれはここにいるんだろう？
　どうしておれは一人なんだ。
　一人にしないと言ってくれたのに。

　だれが言った？
　おれが、失いたくなかったものはなんだ。
　一緒にいたかったもの。
　なんだっけ。

……じょうかされぬようになっただと……なぜだ
やはりごまをたきすぎなのでは……このままでは
ふざけたことをぬかす……ぬーてういたらどぅんねぜうは……われらのものだ

　ふわふわと揺れる世界。
　霧がかかったような思考。
　ぽたぽたと注がれる味は、ひどくまずい。

……ごまをたけ……
このままではまずいぞ……
ぬーてういたらどぅんねぜうよ……なぜわれらにそのみをたくさぬ……

　誰だったかな。
　おれを大事にしてくれた人。

われらこそが……かみをもっともうまくつかえるのだ
そのはらを……そのみを……すべてあけわたせ……

　どぷりどぷりと音がする
　注ぎ込む音。

　声のような聞き苦しい音がする。
　おれの聞きたい音ではない。

　聞きたいのは。
　そうだ、おれがもう一度聞きたい声は。

「ゼンさまっっ！！！」

　ただ一人、おれの名を知るスペラの声が、聞こえた気がした。