【R18】かみさまは知らない

Cleyera

文字の大きさ
上 下
22 / 74
3 おれ

19 スペラ

しおりを挟む
 

 数百年生きて初セックスがクラゲ紳士スペラのおれに、この先の展開が読めるわけもない。

 元の世界にいた頃も猥談くらいは参加したけど、エロ系コンテンツには興味が無かった。
 そーゆーのより、自転車乗って知らない場所に行く方が楽しかったもんな。
 いろいろ子供だったんだと思う、今もあんまり変わった気はしない。

 というわけで。
 いきなり翻弄されることになった。

 人の姿でも、スペラはすごい。
 すごかった。
 力抜けちゃう、さスペェ。

 息もできない濃厚なキスから始まった。
 おれ、キス好きかもしんない。

 口を塞がれて窒息しかねない勢いはやはり獣だ、紳士ではない。
 人工物みたいな美貌に、欲にまみれた人間味が加わる姿はとても良いと思う。

「誓う、ボクは永遠にゼンさまのものだっ」

 お互いの荒い呼吸の合間に、懇願するような口調で言われた内容に、頭がくらくらする。
 二人の唾液が混ざって口の端から垂れて、首筋も胸元もべちゃべちゃになってるのに、不思議と気持ち悪くない。

「おれ、も」

 返事が欲しいと願う瞳に促されるまま答える。
 息が苦しくてかすれ声になってしまい、それを聞いたスペラがふにゃりと笑顔になるのが可愛い。

 この国宝級イケメンがおれのものなのか、と思うとなんか嬉しい。
 物扱いするつもりはないけど、やっぱり言葉にするとなんかこう、きゅんとするよな。

 舌を絡ませ合うの、きもちいー。
 にゅるにゅると舐め合って、おれよりも高いスペラの体温に馴染んで、全身がぽかぽかしてくる。

 毛布越しの温もりが、包まれて守られているようで、安心感と興奮の境目が曖昧になっていく。

 鳴り止まない水音が恥ずかしい。
 少しだけ口が離れた後に、息を荒げてるおれを手放したくないと、食われそうなキスされんの好き。

 口の中を余すことなく舐められて、お互いの体温と感触に慣れて。

「ふぁ、はっ……」

 目の前に霞がかかったみたいだ。
 気持ちよくて、ふわふわする。
 キスって、こんなに良いものだったのか。

「ゼンさま、好きだ」
「さまはやめてほしいなぁ」

 はぁはぁと呼吸をしながら頼むと、スペラが困ったように眉を下げてから、きらきらと微笑んだ。

「はい、ゼン」

 やっばーい。
 イケメンが頬染めた照れ顔でおれの名前を呼ぶ姿に、すげーときめく。

「もっとキスしたい」
「ゼンさ、ん、嬉しいがここで終わりにしよう、これ以上は本当にまずいから」

 もしかして、色気もなんもないおれの言葉に煽られてる?
 クラゲ化しちゃう?
 そんなのスペラだけだって。

「やーだね、この後にもっとすごいことをしたいんだから、慣れてくれよ」
「~~っ」
「ぐえっ」

 むぎゅう、と音がしそうな力で抱きしめられて、肺から空気が押し出された。

至上の方ドゥンネゼウを天に帰れなくなるほど穢してしまって……優しくしないで欲しいのに、受け入れられて嬉しい、ボクが側にいたいと願ったから?」

 ごめんなさい、と頬に熱いしずくが落ちる。

「スペラはなんも悪いことなんてしてない」

 泣き虫で情緒不安定な所があって。
 時々見せる自己評価の低さは気のせいかと思ってたけど、名前の由来を聞いて納得した。
 スペリアトという名の意味自体が、生まれた時から目上の者への服従を強いるようなものだなんて。
 虐待じゃないか。

 この世界で生まれ育った訳じゃないおれが、口を出せることじゃないけど。
 すっげー気に入らねえ。

 おれがどんだけ頭にきても、スペラの過去は変えてやれない。
 なにがあったかを強引に聞き出す気はないけど、今のスペラは自由だ。
 少なくとも、おれの目が届く間は自由であってほしい。

 おれの生活はスペラに守られてる、スペラの心はおれが守ってやろう。

 おれたちは対等だ。
 夫夫だからな。

「ゼンさま」
「はいアウト!」
「えっ」

 ちゅう、と唇に吸い付いてから、形の良い額を指先でぺしっと弾いた。
 でこぴんだ。

「これから〝さま〟を付けるたびに罰を与える、キス一回だ」
「え、えっ?」

 今のは初めてだから、おまけのでこぴん付きだ。
 興奮と罪悪感の混在した顔が、おれの突然の宣言に驚いたように狼狽え、わなわなと震えた。
 溜まっていた涙が、ぽろりとこぼれて白い頬を伝い落ちていった。

 罰がキスってどんなバカップルなんだよ!、と言いたいならば言え。
 正式に夫になった以上、おれはスペラをでろんでろんに甘やかしてやる、と決めたのだ!

 飴も鞭も両方とも甘やかして肯定して肯定しまくって、なにがあってもおまえは間違ってないとおれが言い切ってやるから覚悟しろ。

「おれの名前は?」
「ぜ、ゼン」
「はい、良くできました」

 そう言って、もう一度キスをした。

「これはご褒美のキスな?」
「えっ」

 さっきから「え」ばっかり言ってるんだけど。
 少年の頃を思い出すなー、反応が可愛い。

 罰でもご褒美でもキスをくれてやろう。
 さあ覚悟するがいい、おれはキスが好きだと気がついてしまったのだ!

 とまあ冗談はこれくらいにしておいて、おれはスペラに罪悪感を持ってもらいたくない。

 食べられても良い、とおれが決めたことを曲解されては困る。
 おれが決めたことでスペラが傷つく必要はない、それを理解して欲しい。
 卑屈と謙虚は違うんだぞ。
 むしろおれのわがままに振り回されて困っちゃう、くらいは思って欲しい所だ。

 おれが何百年も死なないのは、望んだことではないし。
 そもそもこの世界にいる理由も知らない。
 誰にも認識されない不便すぎる世界で孤独に永遠を生きるより、スペラと面白おかしく楽しくいちゃいちゃしながら暮らしたい。

 おれに付き合えるのはスペラだけで、おれが付き合わせたいのもスペラだけ。
 それで良いじゃないか。

「どんな姿でも好きだよスペラ、抱いてくれるだろ?」
「は、いっ」





 甘やかしたいおれの気持ちが、そのまま返ってきたような経験をしている。

 全身を余すことなく撫で回されながら、キスされて。
 くすぐったいのか恥ずかしいのか気持ちいのか、すぐに分からなくなった。
 その途中で、おれも知らなかった気持ちよくなれちゃう場所を知られた。

「ひぅっ……ふぁ、ぁっっ」
「っ、かわいすぎ」

 首筋を甘噛みされて歯を立てられ、変な声が出る。
 耳に吹き込まれる声が甘すぎて背中がぞっくぞくする。
 腰骨の辺りを撫でられるとなんか内臓がぞわっぞわするぅ。
 背中とか脇の下なんて気持ちいいわけがないのに、舐められて撫でられて、分身がものすごく元気になっている。

 スペラは優しかった。
 優しさがもどかしくて、腰が勝手に動くほど。

「きもちぃ、もっと……あ」

 もっと激しくして欲しい、と口にしようとして気が付いた。
 初体験で意識を失ったから、告知して安全策を用意しておくべきだと。

「ちょっと止まって聞いてくれよ、おれはスペラとしたのが初めてだったんだ、激しくして欲しいけど、経験少ないから優しくしてくれ」

 あの時の気絶が、ただ疲れたからなのか、死んだからなのかが分からない。
 新婚数日で夫を残して死ぬ訳にはいかない。
 自分でもなにを求めてるのか良く分からない本音を言った直後。

 血色の良くなっていたスペラの顔が真っ白になって、泣き出してしまった。

 うわ、なんだこの悲痛と絶望を混ぜ合わせたみたいな表情。
 泣かせるつもりはなかったのに、罪悪感スイッチ押しちゃったよっ!?

「ゼンさま、ごめんなさいっ」

 声を上げることはなくても、小さい子供のようにしゃくりあげながら何度も「ごめんなさい」と苦しそうに搾り出す様子を見て、おれが考える以上に罪悪感を刺激してしまったと知る。

 うーん、おれとしては気持ちよかったから、結果として嫌じゃなかったけど。
 スペラからしたら、おれを強姦しちゃったんだよな。
 うーん、でも、してしまったことにこだわってるなら、おれに触れないと思うんだよな、違うのか?

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...