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3 おれ
19 スペラ
しおりを挟む数百年生きて初セックスがクラゲ紳士スペラのおれに、この先の展開が読めるわけもない。
元の世界にいた頃も猥談くらいは参加したけど、エロ系コンテンツには興味が無かった。
そーゆーのより、自転車乗って知らない場所に行く方が楽しかったもんな。
いろいろ子供だったんだと思う、今もあんまり変わった気はしない。
というわけで。
いきなり翻弄されることになった。
人の姿でも、スペラはすごい。
すごかった。
力抜けちゃう、さスペェ。
息もできない濃厚なキスから始まった。
おれ、キス好きかもしんない。
口を塞がれて窒息しかねない勢いはやはり獣だ、紳士ではない。
人工物みたいな美貌に、欲にまみれた人間味が加わる姿はとても良いと思う。
「誓う、ボクは永遠にゼンさまのものだっ」
お互いの荒い呼吸の合間に、懇願するような口調で言われた内容に、頭がくらくらする。
二人の唾液が混ざって口の端から垂れて、首筋も胸元もべちゃべちゃになってるのに、不思議と気持ち悪くない。
「おれ、も」
返事が欲しいと願う瞳に促されるまま答える。
息が苦しくてかすれ声になってしまい、それを聞いたスペラがふにゃりと笑顔になるのが可愛い。
この国宝級イケメンがおれのものなのか、と思うとなんか嬉しい。
物扱いするつもりはないけど、やっぱり言葉にするとなんかこう、きゅんとするよな。
舌を絡ませ合うの、きもちいー。
にゅるにゅると舐め合って、おれよりも高いスペラの体温に馴染んで、全身がぽかぽかしてくる。
毛布越しの温もりが、包まれて守られているようで、安心感と興奮の境目が曖昧になっていく。
鳴り止まない水音が恥ずかしい。
少しだけ口が離れた後に、息を荒げてるおれを手放したくないと、食われそうなキスされんの好き。
口の中を余すことなく舐められて、お互いの体温と感触に慣れて。
「ふぁ、はっ……」
目の前に霞がかかったみたいだ。
気持ちよくて、ふわふわする。
キスって、こんなに良いものだったのか。
「ゼンさま、好きだ」
「さまはやめてほしいなぁ」
はぁはぁと呼吸をしながら頼むと、スペラが困ったように眉を下げてから、きらきらと微笑んだ。
「はい、ゼン」
やっばーい。
イケメンが頬染めた照れ顔でおれの名前を呼ぶ姿に、すげーときめく。
「もっとキスしたい」
「ゼンさ、ん、嬉しいがここで終わりにしよう、これ以上は本当にまずいから」
もしかして、色気もなんもないおれの言葉に煽られてる?
クラゲ化しちゃう?
そんなのスペラだけだって。
「やーだね、この後にもっとすごいことをしたいんだから、慣れてくれよ」
「~~っ」
「ぐえっ」
むぎゅう、と音がしそうな力で抱きしめられて、肺から空気が押し出された。
「至上の方を天に帰れなくなるほど穢してしまって……優しくしないで欲しいのに、受け入れられて嬉しい、ボクが側にいたいと願ったから?」
ごめんなさい、と頬に熱いしずくが落ちる。
「スペラはなんも悪いことなんてしてない」
泣き虫で情緒不安定な所があって。
時々見せる自己評価の低さは気のせいかと思ってたけど、名前の由来を聞いて納得した。
スペリアトという名の意味自体が、生まれた時から目上の者への服従を強いるようなものだなんて。
虐待じゃないか。
この世界で生まれ育った訳じゃないおれが、口を出せることじゃないけど。
すっげー気に入らねえ。
おれがどんだけ頭にきても、スペラの過去は変えてやれない。
なにがあったかを強引に聞き出す気はないけど、今のスペラは自由だ。
少なくとも、おれの目が届く間は自由であってほしい。
おれの生活はスペラに守られてる、スペラの心はおれが守ってやろう。
おれたちは対等だ。
夫夫だからな。
「ゼンさま」
「はいアウト!」
「えっ」
ちゅう、と唇に吸い付いてから、形の良い額を指先でぺしっと弾いた。
でこぴんだ。
「これから〝さま〟を付けるたびに罰を与える、キス一回だ」
「え、えっ?」
今のは初めてだから、おまけのでこぴん付きだ。
興奮と罪悪感の混在した顔が、おれの突然の宣言に驚いたように狼狽え、わなわなと震えた。
溜まっていた涙が、ぽろりとこぼれて白い頬を伝い落ちていった。
罰がキスってどんなバカップルなんだよ!、と言いたいならば言え。
正式に夫になった以上、おれはスペラをでろんでろんに甘やかしてやる、と決めたのだ!
飴も鞭も両方とも甘やかして肯定して肯定しまくって、なにがあってもおまえは間違ってないとおれが言い切ってやるから覚悟しろ。
「おれの名前は?」
「ぜ、ゼン」
「はい、良くできました」
そう言って、もう一度キスをした。
「これはご褒美のキスな?」
「えっ」
さっきから「え」ばっかり言ってるんだけど。
少年の頃を思い出すなー、反応が可愛い。
罰でもご褒美でもキスをくれてやろう。
さあ覚悟するがいい、おれはキスが好きだと気がついてしまったのだ!
とまあ冗談はこれくらいにしておいて、おれはスペラに罪悪感を持ってもらいたくない。
食べられても良い、とおれが決めたことを曲解されては困る。
おれが決めたことでスペラが傷つく必要はない、それを理解して欲しい。
卑屈と謙虚は違うんだぞ。
むしろおれのわがままに振り回されて困っちゃう、くらいは思って欲しい所だ。
おれが何百年も死なないのは、望んだことではないし。
そもそもこの世界にいる理由も知らない。
誰にも認識されない不便すぎる世界で孤独に永遠を生きるより、スペラと面白おかしく楽しくいちゃいちゃしながら暮らしたい。
おれに付き合えるのはスペラだけで、おれが付き合わせたいのもスペラだけ。
それで良いじゃないか。
「どんな姿でも好きだよスペラ、抱いてくれるだろ?」
「は、いっ」
甘やかしたいおれの気持ちが、そのまま返ってきたような経験をしている。
全身を余すことなく撫で回されながら、キスされて。
くすぐったいのか恥ずかしいのか気持ちいのか、すぐに分からなくなった。
その途中で、おれも知らなかった気持ちよくなれちゃう場所を知られた。
「ひぅっ……ふぁ、ぁっっ」
「っ、かわいすぎ」
首筋を甘噛みされて歯を立てられ、変な声が出る。
耳に吹き込まれる声が甘すぎて背中がぞっくぞくする。
腰骨の辺りを撫でられるとなんか内臓がぞわっぞわするぅ。
背中とか脇の下なんて気持ちいいわけがないのに、舐められて撫でられて、分身がものすごく元気になっている。
スペラは優しかった。
優しさがもどかしくて、腰が勝手に動くほど。
「きもちぃ、もっと……あ」
もっと激しくして欲しい、と口にしようとして気が付いた。
初体験で意識を失ったから、告知して安全策を用意しておくべきだと。
「ちょっと止まって聞いてくれよ、おれはスペラとしたのが初めてだったんだ、激しくして欲しいけど、経験少ないから優しくしてくれ」
あの時の気絶が、ただ疲れたからなのか、死んだからなのかが分からない。
新婚数日で夫を残して死ぬ訳にはいかない。
自分でもなにを求めてるのか良く分からない本音を言った直後。
血色の良くなっていたスペラの顔が真っ白になって、泣き出してしまった。
うわ、なんだこの悲痛と絶望を混ぜ合わせたみたいな表情。
泣かせるつもりはなかったのに、罪悪感スイッチ押しちゃったよっ!?
「ゼンさま、ごめんなさいっ」
声を上げることはなくても、小さい子供のようにしゃくりあげながら何度も「ごめんなさい」と苦しそうに搾り出す様子を見て、おれが考える以上に罪悪感を刺激してしまったと知る。
うーん、おれとしては気持ちよかったから、結果として嫌じゃなかったけど。
スペラからしたら、おれを強姦しちゃったんだよな。
うーん、でも、してしまったことにこだわってるなら、おれに触れないと思うんだよな、違うのか?
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