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そして現在

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 見た目はともかく、五人の男が寄り添って、いちゃいちゃ接待もどきごっこをしている。


 真実を知っているわたしには、この半年は茶番にしか見えなくて。
 無表情を保つだけで精一杯だった。

 彼が時折わたしを見る。
 わたしが避けると、夜中に寮の私室を襲撃された。

 見える所にいてくれないと守れない、と真剣に説得された。
 殿下と兄上だけでなく、わたしまで守るつもりなのかと呆れたが、嬉しくて。

 まるで女性相手にするように、手の甲に口づけを落とすのはやめてもらいたかった。
 恥ずかしいので。

 わたしは彼の、ステルクの嫁になっても良い、と一年かけて思い直してしまった。
 見た目は美少女でも、中身はどこまでも男らしい辺境伯に……恋をしたから。

 男に恋をするなんて。
 まさか、美少女にしか見えない男にときめく日がくるなんて。
 目が合うだけで嬉しいとか、物語だけではないのか。

 拗らせている自覚がある。
 男同士でも愛しあえると、自発的に書物で学ぶほどには。

 望まれている、と感じたから。
 彼からの好意を感じるから。
 友人や同志ではなく、本来の意味での嫁として扱うつもりのようだから。

 いろいろと言い訳を重ねて、自分を誤魔化したが。

 つまるところ、わたしはステルクが好きだ。
 大好きなのだ。



 抱きしめられていた体が傾く。

「わっ」
「アルドレイ帰るぞ!」
「ええっ!?」

 どこにだ、という言葉を口にする暇もなく、ステルクに物語の姫君のように抱えられた。

 逆だろ!
 わたしにステルクを抱える腕力は無いので、実現は不可能だとしても。

「早退届は出してあるからねー」
「な、ちが、それっ」

 他人事のように、血縁的には義兄になるかもしれないオグンベクザンティ侯爵家令息が、声を張った。
 そんな気遣いの前に、弟を止めてくれ!

 うまく言葉にできないまま、誘拐された。
 そのまま貴族院に連れ込まれて、その場で職員立会の元、婚姻約束契約締結書を提出させられた。

 どうして、保証人の欄が埋まっていて、わたしが書くだけの状態の書類が用意されていたのか。
 立会可能な免許持ちの職員が、待ち構えていたのか。

 聞けば墓穴を掘る気がした。

 婚約式は辺境で行うから、と学院の寮ではなく、王都にある辺境伯の別邸に連れ込まれた。
 勢いで浴室に連れ込まれた。

 これまでに何度も会っている使用人たちが頭を下げて、溶けるように視界から姿を消していく。
 辺境に由縁を持つという使用人たちは、気配を消すのがうますぎた。

 引き剥がすように制服を脱がされる。

 貧相な自分の体を見せるのは恥ずかしい。
 運動は苦手なんだよ。

「最後までしないから心配するな!」
 
 なにをだ、と口にしたかったのを耐えた。

 純情な振りができれば良いが、わたしは十九歳の成人男性だ。
 知らない方がおかしいだろう。

 そして、ぺろり、と食べられた。
 宣言通り最後まではされなかった。

 しかし、書物の内容はあくまで知識でしかないのだな、と知った。
 色々と失った気がした。

 婚姻後はもっとすごくなるのだろうか。
 ……早まった気がしてならない。


 わたしはティグナレット辺境伯閣下の正式な婚約者となったが、卒院するまでは王都のアフ子爵家の令息だ。

 母が病で亡くなり、消沈した父が事故に巻き込まれて亡くなり。
 なにもかもを斜に構えて見ることしかできなくなっていたが、真っ正面から叩き破られた。

 実力行使による正面突破が一番だ、と闊達と笑うステルク相手に、我を張ることは不可能だ。

 わたしに新しい家族と、仕事と、居場所を与えてくれて。
 ……あ、愛されることを教えてくれたステルク。

 辺境領の人々に受け入れてもらえるかは、数ヶ月後の卒院を待たなくては分からない。

 義兄とステルクが大丈夫、と胸を張り、王都別邸の使用人たちも、美しい奥様なら大丈夫です、と絶賛してくれる。

 辺境の人々は、おかしい。
 けれど、まあ、嬉しい。

 これからも、獰猛な獣のような笑みを浮かべる婚約者に貪られながら、そう思うのだろう。










   了

 
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