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一年前から
しおりを挟むわたしと彼の婚約話は、一年前の薬物騒動の副産物だ。
粛正を切っ掛けとして、薬物を蔓延させた根源を叩き潰す話になった。
隣国からの立ち入りは厳しく取り締まられていたはずなのに、薬物の流入を許してしまった。
強かな商人がいるのか、隣国の間者がいるのか。
それとも、身内に敵が発生したか。
穴があったのか、隙を突かれたのか、詳しく精査するための知識も技術も、辺境には足りなかった。
責任を取る形で当時の辺境伯閣下が引退。
現在は、意気揚々と現場で魔獣や国境侵犯する者らを叩きのめしているそうだ。
引退の意味を聞いてみたい。
二十歳の辺境伯の長男が王都侯爵家の後継者にと頼まれ、繰り上がるように十八歳の次男が辺境伯になった。
三男は十二歳、邪魔な爵位を押し付けるには幼く、兄弟仲が良すぎたらしい。
……爵位への認識が不敬すぎる。
出入国管理体制の見直しのため、王都で輸入物取締官の長をしているアフ子爵、つまり伯父上のところに、知識を持つ適当な人物を複数名派遣して、辺境に設備と制度を確立してもらいたいと話が来た。
なにもない所に、新しい制度を導入するとなれば、派遣では足りないとなり。
誰かが移住して先導すべき、となり。
せっかくなら、移住した辺境での立場も確約してもらいたい、と躍進して。
八歳で両親を失い、伯父の家の養子として取締官を目指していた学院生のわたしに、話が飛んだ。
取締官免許は、すでに取得済み。
継ぐ肩書きや家がないので移住可能。
当時は十八歳で成人したばかり、辺境伯と同い年。
免許取得を優先したけれど、卒院に必要な単位は、あと一年で履修可能。
つまり学院を卒業すれば、新米取締官としてどこにでも派遣できる。
王都のアフ子爵との繋がりもできる。
体の良い生贄。
もしくは厄介払い。
それが一番初めに感じた、ことだった。
本当の子供のように、義兄や義姉と共に育てられていたのに、実は追い出したいと思われていたのか、と傷ついた。
逆だった。
伯父は、わたしに居場所を作ってやりたいと思っていたのだ。
成人した後は甥として、伯父一家と適切な距離をとろうと考えていたことを、見抜かれていた。
男に嫁入りしたとして、王都では口さがない噂にもなるだろうが、辺境伯の男嫁ならこれ以上ない、というのは理解できなくもない。
だが、相手が嫌がるだろう、と思った。
それなのに。
「子供はいらんから男で良い、すごい美人だが、そちらこそおれで良いのか?」
美少女にしか見えない辺境伯は、初めての顔合わせでそう言い放った。
美人?
わたしが?
この美少女は、目がおかしい。
心底からそう思った。
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