9 / 15
一年前から
しおりを挟むわたしと彼の婚約話は、一年前の薬物騒動の副産物だ。
粛正を切っ掛けとして、薬物を蔓延させた根源を叩き潰す話になった。
隣国からの立ち入りは厳しく取り締まられていたはずなのに、薬物の流入を許してしまった。
強かな商人がいるのか、隣国の間者がいるのか。
それとも、身内に敵が発生したか。
穴があったのか、隙を突かれたのか、詳しく精査するための知識も技術も、辺境には足りなかった。
責任を取る形で当時の辺境伯閣下が引退。
現在は、意気揚々と現場で魔獣や国境侵犯する者らを叩きのめしているそうだ。
引退の意味を聞いてみたい。
二十歳の辺境伯の長男が王都侯爵家の後継者にと頼まれ、繰り上がるように十八歳の次男が辺境伯になった。
三男は十二歳、邪魔な爵位を押し付けるには幼く、兄弟仲が良すぎたらしい。
……爵位への認識が不敬すぎる。
出入国管理体制の見直しのため、王都で輸入物取締官の長をしているアフ子爵、つまり伯父上のところに、知識を持つ適当な人物を複数名派遣して、辺境に設備と制度を確立してもらいたいと話が来た。
なにもない所に、新しい制度を導入するとなれば、派遣では足りないとなり。
誰かが移住して先導すべき、となり。
せっかくなら、移住した辺境での立場も確約してもらいたい、と躍進して。
八歳で両親を失い、伯父の家の養子として取締官を目指していた学院生のわたしに、話が飛んだ。
取締官免許は、すでに取得済み。
継ぐ肩書きや家がないので移住可能。
当時は十八歳で成人したばかり、辺境伯と同い年。
免許取得を優先したけれど、卒院に必要な単位は、あと一年で履修可能。
つまり学院を卒業すれば、新米取締官としてどこにでも派遣できる。
王都のアフ子爵との繋がりもできる。
体の良い生贄。
もしくは厄介払い。
それが一番初めに感じた、ことだった。
本当の子供のように、義兄や義姉と共に育てられていたのに、実は追い出したいと思われていたのか、と傷ついた。
逆だった。
伯父は、わたしに居場所を作ってやりたいと思っていたのだ。
成人した後は甥として、伯父一家と適切な距離をとろうと考えていたことを、見抜かれていた。
男に嫁入りしたとして、王都では口さがない噂にもなるだろうが、辺境伯の男嫁ならこれ以上ない、というのは理解できなくもない。
だが、相手が嫌がるだろう、と思った。
それなのに。
「子供はいらんから男で良い、すごい美人だが、そちらこそおれで良いのか?」
美少女にしか見えない辺境伯は、初めての顔合わせでそう言い放った。
美人?
わたしが?
この美少女は、目がおかしい。
心底からそう思った。
300
お気に入りに追加
573
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる