5 / 15
種明かし
しおりを挟む嵐が過ぎ去った。
空虚な寒々しい大広間に、ぱんぱん、と手を叩く音が響いた。
「注目いただきたい」
殿下の側近候補である三人の高位貴族家子息の内、フェルレイク侯爵家令息が立ち上がり、手を打ち鳴らしていた。
彼は側近候補であると同時に、殿下直属の諜報官だと教えられた。
ここ半年の渦中にいながら、常に周囲の動きを探っていると。
なにが本当で、なにが嘘なのか。
真実を広めるには、ここが最良。
学院に通う中で、貴族家同士の繋がりを求める者の多くが、お茶の時間を使っている。
殿下にとって、今が一番どん底だとしても。
疑いを解くのは、早ければ早いほど良い。
「まずは、学院に通う皆々様方に、一連の騒動の終結の報告と、醜態をさらした詫びをさせて頂きたい」
いまだに顔を上げることのできない殿下の代わりに、三人の令息が立ち、揃って頭を下げた。
こうすることが、予定調和だった。
そう言わんばかりに。
騒めきと驚きが広間に広がっていく。
そして、同時に怒りも。
貴族の家に生まれ、真っ当な教育を受けていれば、誰でも怒りを抱くはずだ。
次代の王の一大事であったようなのに、どうして自分達を蚊帳の外に置いていたのかと。
殿下が玉座に登った後の臣下として、用命されたかったと悔しく思う気持ちは、わたしにも分からないことはない。
誰かが義憤にかられて声を上げるかと思った。
その時。
「一年前に王都の貴族間にて違法薬物の騒動が起きたことは、みな、知っているだろう」
オグンベクザンティ侯爵家令息が前に進み出た。
その口調は、やはり厳しく雄々しい。
へらへら、ふわふわとしていた、いかにも女性を好む男という様相は、欠片も残っていない。
外見だけは金茶の柔らかな髪に、優しい水色の二重の瞳で、いかにもな優男であるのに。
「自分は、一年前までティグナレット辺境伯家長男、スンジャル・オグ・ベル・ウトゥリタンディであった。
騒動でオグンベクザンティ侯爵家の嫡男殿が去られた事で、スンジャル・オグ・オグンベクザンティとして、次期侯爵の期待を頂くことになった」
ああ、それで見たことが無かったのか、と。
誰かが呟いた。
一年前、王都には粛正の嵐が吹き荒れていた。
水面下で貴族間に蔓延していた、中毒性の高い薬物の摘発が行われたのだ。
騒動の収束後に判明した、違法薬物を使用していた貴族は、殊の外に多かった。
とある事件を皮切りにして、徹底的に使用者が洗い出された結果、病を得たとして隠居、領地にて療養する者が続出した。
これを知らない貴族の子息令嬢はいないだろう。
薬物の蔓延が、隣国の根回しではないかと言われていることも。
隣国との国境線を、小競り合いの規模で守り続けている〝武のティグナレット辺境伯〟の縁を王都にと望む気持ちは痛いほどに理解できる。
辺境に王都の縁を、と望まれていることも。
誰もが怖いのだ。
目に見えない形で、隣国からの侵略行為を許していたことが。
そして。
397
お気に入りに追加
691
あなたにおすすめの小説

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる