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種明かし
しおりを挟む嵐が過ぎ去った。
空虚な寒々しい大広間に、ぱんぱん、と手を叩く音が響いた。
「注目いただきたい」
殿下の側近候補である三人の高位貴族家子息の内、フェルレイク侯爵家令息が立ち上がり、手を打ち鳴らしていた。
彼は側近候補であると同時に、殿下直属の諜報官だと教えられた。
ここ半年の渦中にいながら、常に周囲の動きを探っていると。
なにが本当で、なにが嘘なのか。
真実を広めるには、ここが最良。
学院に通う中で、貴族家同士の繋がりを求める者の多くが、お茶の時間を使っている。
殿下にとって、今が一番どん底だとしても。
疑いを解くのは、早ければ早いほど良い。
「まずは、学院に通う皆々様方に、一連の騒動の終結の報告と、醜態をさらした詫びをさせて頂きたい」
いまだに顔を上げることのできない殿下の代わりに、三人の令息が立ち、揃って頭を下げた。
こうすることが、予定調和だった。
そう言わんばかりに。
騒めきと驚きが広間に広がっていく。
そして、同時に怒りも。
貴族の家に生まれ、真っ当な教育を受けていれば、誰でも怒りを抱くはずだ。
次代の王の一大事であったようなのに、どうして自分達を蚊帳の外に置いていたのかと。
殿下が玉座に登った後の臣下として、用命されたかったと悔しく思う気持ちは、わたしにも分からないことはない。
誰かが義憤にかられて声を上げるかと思った。
その時。
「一年前に王都の貴族間にて違法薬物の騒動が起きたことは、みな、知っているだろう」
オグンベクザンティ侯爵家令息が前に進み出た。
その口調は、やはり厳しく雄々しい。
へらへら、ふわふわとしていた、いかにも女性を好む男という様相は、欠片も残っていない。
外見だけは金茶の柔らかな髪に、優しい水色の二重の瞳で、いかにもな優男であるのに。
「自分は、一年前までティグナレット辺境伯家長男、スンジャル・オグ・ベル・ウトゥリタンディであった。
騒動でオグンベクザンティ侯爵家の嫡男殿が去られた事で、スンジャル・オグ・オグンベクザンティとして、次期侯爵の期待を頂くことになった」
ああ、それで見たことが無かったのか、と。
誰かが呟いた。
一年前、王都には粛正の嵐が吹き荒れていた。
水面下で貴族間に蔓延していた、中毒性の高い薬物の摘発が行われたのだ。
騒動の収束後に判明した、違法薬物を使用していた貴族は、殊の外に多かった。
とある事件を皮切りにして、徹底的に使用者が洗い出された結果、病を得たとして隠居、領地にて療養する者が続出した。
これを知らない貴族の子息令嬢はいないだろう。
薬物の蔓延が、隣国の根回しではないかと言われていることも。
隣国との国境線を、小競り合いの規模で守り続けている〝武のティグナレット辺境伯〟の縁を王都にと望む気持ちは痛いほどに理解できる。
辺境に王都の縁を、と望まれていることも。
誰もが怖いのだ。
目に見えない形で、隣国からの侵略行為を許していたことが。
そして。
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