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学院の大広間でのできごと
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初めての全年齢です
婚約破棄のバリエーションすごいなぁ、とぼんやりさまよっていたら、ぽこんと生まれました
設定はゆるゆるふわふわ、でもシリアスからの~シリアス必要??のらぶらぶが良いな、と頑張りました( ´ ▽ ` )ノ
Rなしって難しい(~_~;)
*
さやさやと騒めきに満ちた室内には、午後の日差しが朗らかに降り注いでいる。
なあ、と友人にひそめた声をかけられ、つい視線を動かしてしまった。
見る気などなかったのに。
「場所を変えるか?」
「そうだな、でも……」
彼に、わたしが見ていると知られてしまえば、きっと困らせてしまう。
格好悪いところを見られたくない、と言っていたから。
それでも目を離すことができなかった。
大広間の中央で、制服を着た五人が、必要以上に近づいて囁きあっている、そんな光景から。
きっと、今この場に居合わせてしまった者の多くが、こう考えていることだろう。
見てはいけないけれど、あちらを退かすことは出来ないからこちらが避けよう。
けれど、気になるからもう少し、と。
この学院の生徒たちは、いつ火事場に集まる野次馬になったのだろう。
わたしも含めて、だが。
正しいことを誰もが見失いかけているのは、国が乱れているからかもしれない。
見失っていることすら、気がついていないのかもしれない。
全ての始まりは、半年前に二人の編入生がきてから。
王都に名高き国立貴族学院は、今ではその気高さを失っている。
現在、この学院では〝一人の女子生徒と四人の男子生徒がやけに近い距離にいる光景〟が頻発している。
五人の中の二人は、編入生。
貴族学院への途中編入生というだけでも珍しいのに、それが同時に二人。
囲まれる女子生徒と、囲む男子生徒の中の一人がそうだ。
そして、その二人が来てから、公序良俗に反する行いがそこかしこで見られるようになった。
学院の中だけ、だとしても本来なら許されないこと。
本当なら、四人の男子生徒こそが、学院内の秩序を保つべき側なのに。
生徒の模範となるべき、方々であるのに。
男子生徒に囲まれている女子生徒は、にこにこと微笑んでいる。
愛らしい女子生徒は、いつも微笑んでいる姿を見せている。
四人の男子生徒を侍らせている様は、気まぐれでいたずらな妖精にも見えてしまう。
「ステルカリ、こちらはいかがかな?」
「こちらの焼き菓子も美味しいですよ」
「それよりもお茶をどうぞ」
言葉への返答はいつも笑顔だ。
男を微笑みで陥落させた。
そう言われても信じてしまうほど、愛らしい姿。
何人もの男子生徒に囲まれている事に臆する様子もなく。
周囲の困惑と嫌悪と戸惑いを、感じとることができないのか。
婚約者ではない知人程度であるはずの男子生徒たちに、家名ではなく、名前で自分を呼ばせている女子生徒は、にっこりと笑顔を深めて、こくりとうなずいた。
花が舞い散るように。
ふわりと蕾がほころぶように。
幼さを内包した笑みの愛らしさに、広間に集まる関係のない生徒が息をのんだ。
庇護欲を掻き立てる仕草はたおやかでありながら、いとけない。
陽の光を知らぬように真っ白な肌に、柔らかく色づく薄桃色の頬とぷるりとした小さな唇が、幼さと同時に妖艶さを醸しだすことで蠱惑的にさえ見える。
まるで妖精の姫のようだ、と誰かが呟いた。
わたしも同意する。
幼さの残るほっそりとした容姿は、学院に通う年齢には見えない。
けれど、編入が許されたということは、間違いなく貴族の一員として認められた上で、学院に通うことのできる十六歳から二十五歳の枠におさまっているはずだ。
王国貴族のための学府であり、飛び級制度、早期卒院制度を備えた学院は、必要な単元の履修が済めば、一年でも卒院できてしまう。
卒業までに必要な平均年数は四年と聞く。
実際に、有能さを示すための手段としての飛び級、金銭問題、相続、後継などの家内の問題。
さまざまな理由で、早期卒院を望む者は少なくないらしい。
女子生徒は、四人のうちの誰かからの贈り物らしい、絹の手袋に包まれた小さな両手を使って、卓上から取り上げた器を傾ける。
その仕草は、とても貴族家の子女として躾を受けているものには見えない。
良識ある貴族家に生まれた娘が、器のとってを片手で摘むのではなく、両手で持つことなどありえないのだから。
幼児なら許される不作法な姿に、見えぬように顔を顰めているものは多い。
それでも、この場を立ち去るものは少ない。
今いるここは、学生たちが歓談のために集う茶会用の大広間。
講義の終わった今は、お茶の時間という名の交流の場でもある。
学年や学科の垣根を越えて、学院から羽ばたいた後に、付き合いを続けられる貴族としての友人を見つけるための。
そんな和やかな交流の場の風紀を乱す五人。
本来なら、学生たちの規範であるべき、編入生を含む高位貴族家の令息が三人と。
妖精のように愛らしい編入生の令嬢。
そして。
「ベルジスト殿下っ」
「……イグか、院内で声をかけるなと言ったぞ!」
令嬢と令息三人を引き連れる、フォルン王国の第一王子。
気高き銀冠の髪を揺らして、殿下は声を荒げた。
婚約破棄のバリエーションすごいなぁ、とぼんやりさまよっていたら、ぽこんと生まれました
設定はゆるゆるふわふわ、でもシリアスからの~シリアス必要??のらぶらぶが良いな、と頑張りました( ´ ▽ ` )ノ
Rなしって難しい(~_~;)
*
さやさやと騒めきに満ちた室内には、午後の日差しが朗らかに降り注いでいる。
なあ、と友人にひそめた声をかけられ、つい視線を動かしてしまった。
見る気などなかったのに。
「場所を変えるか?」
「そうだな、でも……」
彼に、わたしが見ていると知られてしまえば、きっと困らせてしまう。
格好悪いところを見られたくない、と言っていたから。
それでも目を離すことができなかった。
大広間の中央で、制服を着た五人が、必要以上に近づいて囁きあっている、そんな光景から。
きっと、今この場に居合わせてしまった者の多くが、こう考えていることだろう。
見てはいけないけれど、あちらを退かすことは出来ないからこちらが避けよう。
けれど、気になるからもう少し、と。
この学院の生徒たちは、いつ火事場に集まる野次馬になったのだろう。
わたしも含めて、だが。
正しいことを誰もが見失いかけているのは、国が乱れているからかもしれない。
見失っていることすら、気がついていないのかもしれない。
全ての始まりは、半年前に二人の編入生がきてから。
王都に名高き国立貴族学院は、今ではその気高さを失っている。
現在、この学院では〝一人の女子生徒と四人の男子生徒がやけに近い距離にいる光景〟が頻発している。
五人の中の二人は、編入生。
貴族学院への途中編入生というだけでも珍しいのに、それが同時に二人。
囲まれる女子生徒と、囲む男子生徒の中の一人がそうだ。
そして、その二人が来てから、公序良俗に反する行いがそこかしこで見られるようになった。
学院の中だけ、だとしても本来なら許されないこと。
本当なら、四人の男子生徒こそが、学院内の秩序を保つべき側なのに。
生徒の模範となるべき、方々であるのに。
男子生徒に囲まれている女子生徒は、にこにこと微笑んでいる。
愛らしい女子生徒は、いつも微笑んでいる姿を見せている。
四人の男子生徒を侍らせている様は、気まぐれでいたずらな妖精にも見えてしまう。
「ステルカリ、こちらはいかがかな?」
「こちらの焼き菓子も美味しいですよ」
「それよりもお茶をどうぞ」
言葉への返答はいつも笑顔だ。
男を微笑みで陥落させた。
そう言われても信じてしまうほど、愛らしい姿。
何人もの男子生徒に囲まれている事に臆する様子もなく。
周囲の困惑と嫌悪と戸惑いを、感じとることができないのか。
婚約者ではない知人程度であるはずの男子生徒たちに、家名ではなく、名前で自分を呼ばせている女子生徒は、にっこりと笑顔を深めて、こくりとうなずいた。
花が舞い散るように。
ふわりと蕾がほころぶように。
幼さを内包した笑みの愛らしさに、広間に集まる関係のない生徒が息をのんだ。
庇護欲を掻き立てる仕草はたおやかでありながら、いとけない。
陽の光を知らぬように真っ白な肌に、柔らかく色づく薄桃色の頬とぷるりとした小さな唇が、幼さと同時に妖艶さを醸しだすことで蠱惑的にさえ見える。
まるで妖精の姫のようだ、と誰かが呟いた。
わたしも同意する。
幼さの残るほっそりとした容姿は、学院に通う年齢には見えない。
けれど、編入が許されたということは、間違いなく貴族の一員として認められた上で、学院に通うことのできる十六歳から二十五歳の枠におさまっているはずだ。
王国貴族のための学府であり、飛び級制度、早期卒院制度を備えた学院は、必要な単元の履修が済めば、一年でも卒院できてしまう。
卒業までに必要な平均年数は四年と聞く。
実際に、有能さを示すための手段としての飛び級、金銭問題、相続、後継などの家内の問題。
さまざまな理由で、早期卒院を望む者は少なくないらしい。
女子生徒は、四人のうちの誰かからの贈り物らしい、絹の手袋に包まれた小さな両手を使って、卓上から取り上げた器を傾ける。
その仕草は、とても貴族家の子女として躾を受けているものには見えない。
良識ある貴族家に生まれた娘が、器のとってを片手で摘むのではなく、両手で持つことなどありえないのだから。
幼児なら許される不作法な姿に、見えぬように顔を顰めているものは多い。
それでも、この場を立ち去るものは少ない。
今いるここは、学生たちが歓談のために集う茶会用の大広間。
講義の終わった今は、お茶の時間という名の交流の場でもある。
学年や学科の垣根を越えて、学院から羽ばたいた後に、付き合いを続けられる貴族としての友人を見つけるための。
そんな和やかな交流の場の風紀を乱す五人。
本来なら、学生たちの規範であるべき、編入生を含む高位貴族家の令息が三人と。
妖精のように愛らしい編入生の令嬢。
そして。
「ベルジスト殿下っ」
「……イグか、院内で声をかけるなと言ったぞ!」
令嬢と令息三人を引き連れる、フォルン王国の第一王子。
気高き銀冠の髪を揺らして、殿下は声を荒げた。
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