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14 処女は繋がりを知る ※

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 目を開くと、周囲にぐるぐると渦巻く七色が見えた。
 世界は生きている、この世界には生命が満ちている、それがどれだけの奇跡の上に成り立っているのかを、私は知っている。


 『この&$は、無数の#+<界の*\要素を£~/めて¶られたため、多くの問題を抱えています。
 現在は〝µç〟と仮称する©≠∞∂質を、<#剤*して循環させることで安定していますが、循環の大部分を力%¢#≠§たちが担っているため、彼らの存在が頼りなのです。
 Á∏+£Œことで◯◯◯となる≠§たちの∞∫~$し、◯◯◯として機能することで、&$のÆÚ<§促∞されます。
 故に貴女にもご協力頂きたいのです』


 確かに、聞いたはずなのに、思い出せない。
 ……誰に聞いたの?
 ……嗚呼、世界を巡って渦巻く七色は、なんて綺麗なんだろう。

「……き、れ……い」

 乾いて掠れた低い声に驚き、体がびくりと震える。
 誰の声?と。
 飛び起きようとしたけれど動かない体にうろたえ、視線だけで周りを見回して、石でできた建物?の中にいることに気がついた。
 ここはどこだろう?と思ってから、すぐ近くに誰かが座っていることに気がついた。

「あれ、黄泉路を進んでいったと思ったのに、結んでもいない伴侶の絆が機能したのか?」
「……だ、れ?」
「初めまして、俺はハハだ、まずは水を飲みなさい」

 唇に硬いものが押し当てられ、するりと一口分の水が口に流れ込む。
 文字通り生き返ったような気持ちで、ゆっくりとわずかな水を飲み込み、乾ききってべったりと貼り付いたような喉を潤す。

 むせないように時間をかけて器一杯の水を飲ませられて、人心地がついた所で、水を与えてくれた相手に焦点をあわせようとするけれど、長く寝ていたのか目の前が霞んでいる。
 見るよりも意思疎通を優先して、潤ったばかりの喉に息を通す。

「……はは、さんですか」

 思った以上に掠れた声が出たけれど、人影は聞き取ってくれたようだ。

「その通り、人としての名は捨てている、ただ、ハハと呼んでくれ」
「ははさん」
「もう少し休みなさい。
 君は死にかけていた、それも肉体の死ではなく、精神の死という厄介な死に方で。
 伴侶を望むのは良いけれど、あの夢魔は少々頭の中身が軽くていけない、なんのために禁則事項を作ったと思ってるんだろうな、有事に糞の役にもたたないなんて」

 独り言のように淡々と言葉を漏らす人物は、視界が霞んでいる上に逆光を浴びているので、その姿はよく見えない。
 声は若い女性のように聞こえるけれど、その話し方は……大人の男性?のように聞こえる。

「触診する、触れるからな」

 おそらく指先で、トントンと私の腕や足に触れて、小さくうなずきながらひたすら呟いている。

「うん、全身の感覚はあるようだな、体内循環も問題ない……がまおうかの影響を受けたことで容量が増えたかな、人の身には毒か?
 あとはチョウナン夫妻に君を任せるか」

 独り言の延長のように言うと、人物は立ち上がった。

「『 点灯』」

 つぶやくような女性の声で、周囲が明るくなる。
 壁の何箇所かが直に光っているように見えるけれど、これは魔法?

「『 おやすみなさい』」

 瞬きを一つしただけで眠たくなってくる。
 女性の声がちゃんと聞き取れなかったのは、魔法だから?
 目覚めたばかりなのに、と目を瞬くと、ようやく霞のとれた目の前に可愛らしい面立ちの、無表情な少女が顔をつきだしてきた。

「もう少し寝なさい、次に目覚めたら忙しくなるぞ」

 表情のない少女の顔は、男性の口調で話していても人形のように見えた。


  ◆


 目を閉じて、開く。
 それだけをしたつもりだったのに、私の目の前に桃色が転がっていた。

「え?」

 横向きに寝ている私の目の前に転がっている桃色の口元には、……どう見ても捻った布にしか見えないものが噛まされていて、そのままスピースピーと寝息を立てている見慣れてきた姿に、感心すらしてしまう。
 この状態で寝てるって、すごい図太いなー。
 っていうか、なんで口に布を巻いてるの?
 これって猿ぐつわってやつ?
 そんなことを思っていると、目の前の桃色が「むごぉ」と呻いてごろりと転がった。

「……えぇ」

 あまりの光景に、思わず声が出てしまった。
 寝返りを打って私に背を向けたコハニーは、後ろ手に両手首を拘束されていた。
 手錠みたいな金属製の手枷で。

 なんでこんな状態で私の横に転がってるの?と思いながら、それでもスヤスヤと寝ているコハニーの姿に、彼は変態だったのか、と納得してしまう。
 寝ている時に拘束されることに、意味を見出すのは難しいな、と悩んでいると足音が近づいてきた。

「目覚めたか」

 目を向けた先には、全身が仄白く光る白銀のキツネ、と女性。
 周囲には七色に色を変える魔素が満ちて、体は問題なさそうだけれど、極彩色が蠢く視覚情報だけでめまいがする。

「やはりハハの言葉通り、伴侶がそばにいた方が回復が早まるということか、確かな絆を結んでおらんでも効果があるとは」
「あなた、考察も結構ですが、説明をしてさしあげなくては、困っておられますよ」
「これは失敬、改めて初めましてであろうか、ヒトよ。
 我はハハとチチのチナンであり、ヒトらには〝聖獣〟と呼ばれているものだ、こちらが我が伴侶になる」

 暗闇でぼんやりと光輝いている白銀のキツネは、滑らかに言葉を紡ぎ、傍の女性に鼻先をすり寄せた。

「……聖獣」
「左様、そして其方が連れてきてくれたのは、非業の死を得ようと姿を消した我が叔父上だ。
 礼を言わせてくれ」

 あの岩になってしまったキツネは、このキツネの叔父さん、だったらしい。
 これまでの道のりが無駄でなかったことに安堵しながら、これ以上は個人的な事情に首をつっこみすぎている、と口を閉じた。

「ハハだけでなくチチからも、其方ら伴侶がうまく繋がる手助けをしてくれと言われてしまった以上、力を貸すことはやぶさかではない」

 その言葉を聞いて、聖獣一家の内情に首をつっこむ気は無いけれど、知りたいことを聞いたら答えてくれそうだ、と感じる。
 ハハさんと名乗った少女は、このキツネとどんな関係なのだろう。
 ハハとチチのチナンだと言っていたけれど。

「……あの、すいませんが」
「なんだね?」
「聖獣様の言う所の伴侶とは、一体なんなのですか?」

 人の言葉で伴侶といえば、普通は夫婦のことだろう。
 しかし、彼らの会話を聞いていると、夫婦という関係を別の呼び名で呼んでいるだけのように聞こえない。
 コハニーに聞いたところで答えが得られるとは思わなかったが、聖獣、さん?なら知っているはずだ。

「ふむ、まず一つ確認したい、其方はこことは異なる世界の記憶を持っているな」
「!……どうして」
「やはりか、ハハが見間違えるとは思わなんだが、このような形もあるのだな」

 白銀のキツネはふぅ、と息をついて、私を白い瞳で見つめる。

「なれば我に言えることはただ一つ、伴侶という言葉に振り回される必要はない、其方の思うがままにあれば良いのだ。
 叔父上のことも交え、後のことは追々話すこととしよう」

 くるりと向きを変えて、キツネが女性と去っていく。
 結局、何も教えられていない上に、はぐらかされた?と思いながら、光る巨大な白銀の尻尾を見送った。
 傍に添っていた女性がやけに心配そうにしていたのが、ものすごく気になったけれど、話しかけられる雰囲気ではなかった。

 起き上がろうとして、体の節々が痛む事に気がついた。
 まるで手術後の、夢と現の間でさまよっている時のような気分だ。

 私は全身麻酔でうわ言を言ってしまうらしいタイプだったから、早く頭がすっきりとしてほしい、と思いながら目を閉じて、開く。
 意識をしっかりと保っていれば、うわ言も言わないはず。
 そう思いながらも、まぶたが勝手に降りてきてしまう。





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 言いたくて、言われたくて、望んでいた言葉が頭の中をぐるぐると回っている。

 強欲で救い難い馬鹿、それが私。

 前世でも今世でも、家族からの愛は惜しみなく注がれていた。
 十分すぎるほど与えられていたのに、家族以外の誰かに愛されることを、家族以外の誰かを愛することを夢見ているなんて……誰にも言えない。

 前世では病気に膝を折って負けを認めるのが悔しくて、勝ち目がないのに負けたくなくて、叶うはずのない夢に逃げた。
 爆弾を抱えた女を愛する男性なんていないと知っていたから。
 叶わないと知っていたから、夢を追いかけられた。
 死ぬまでの逃避に。

 でも今世は違う。
 健康な男の体を持て余して、死ぬまで独り身でなくてはいけないのだと、思い込んで。
 筋肉質で体の大きな男を愛してくれる男性がいるかもしれない。
 そんな相手を探そうともしなかった。
 もし、そんな人に出会えても、私は逃げ出しただろう。
 同性を愛する人に愛されたって、虚しさで胸をかきむしりたくなるに決まってる。
 私は女なんだから。

 何もかも、言い訳だ。

 ふに、と唇が温もりを拾う。
 柔らかくてかさついていて、少し低い体温。

 好きになって、とお互いに気持ちを押し付けあっていたのだとしたら、すれ違うのも当たり前。
 目を閉じたまま、心の中で言葉を紡ぐ。

「好きよ」
「すき?」
「そうよ、好きなの」
「うん」

 体に与えられた快感に驚いて、怖がって、生まれた気持ちを確認しなかったから、私たちの間の溝は埋まらなかった。

「側にいて」
「うん、側にいる」

 本当は、彼が私に魔法を使っていることに、いつでも気がつけたのに、流されたふりをして、逃げていた。

「ジェレは俺のものだ」
「……コハニーは、私のもの、よ」

 胸の奥でピンと糸が張るような感覚がして、ぐるぐると巡っていた思考が止まる。
 私の中に、彼を感じる。
 彼の中に、私がいる。

 目を開けば、とろりと溶けた宝石のような赤紫が、ゆっくりパチンと瞬く。

「離さないで」
「魂にかけて、誓うよ」

 訥々と話す彼はとても傷つきやすそうに見えて、重たい腕を持ち上げて細すぎる体を抱きしめた。

「私も離さない、から」
「……ありがとう?」

 彼が顔を押し付けてきた場所がじわりと濡れていき、ひくひくとしゃくりあげる体は、また細くなっていることを教えてくれた。
 痩せてしまったことを知られないように、幻覚で誤魔化されていたことに、やっと気がついた。

「……コハニー、初めてをもらってほしいの」
「ごめん、師匠が、まだダメって」
「え、そ、そうなの」

 ものすごく勇気を振り絞って言ったのに!と思っても、空回りした恥ずかしすぎる言動は取り消せない。

「チュウしたい、触りたい」
「……うん」

 恥ずかしすぎてコハニーが見れないけれど、彼の食事になれるなら、と頷いた。



 唇同士を軽く押し付けるようなキスから始まって、啄ばむように唇をなぞるように柔らかく食まれる。
 チロチロと時折触れていく舌先の感触が、私の全身を硬直させる。

 呼吸は鼻ですれば良いと知っていても、コハニーに荒くなった鼻息を聞かれるのも、彼の顔にふがふがと鼻息を吹きかけるのも恥ずかしくて、苦しさに喘ぐ。

「ジェレがかわいい、おいしい」

 さっきから壊れたように、これしか言わないコハニーが、ちゅ、ちゅと音をたてながら、顔中に唇を落としていく。
 恥ずかしすぎて、自分がどうなってるか分からない。
 唇が解放された隙に息をついていると、唇に指が触れる。

「……ぅ……っ?」

 するりとコハニーの唾液で濡れた唇を撫でられて、骨ばった指が口の中へと差しこまれ、歯を一本ずつ確かめるように撫でていく。
 歯の次は歯茎を撫で、そして頬の内側、舌を撫でるようにくすぐって、上顎の内側を指先でぬるりと擦られた時に、びくんと腰が動いてしまった。

 今の触れ方ではくすぐったいの方が強かったけれど、そういえば、口の中ですごく腰に直結する場所があったことを思い出す。

「ここ?」
「……っ」

 頬を彷徨う唇から柔らかい声で問われ、ぬるり、ぬるり、と幾度も上顎の内側を指先で撫でられる。
 その度に体が勝手に動き、くすぐったいが次第に気持ちいいに塗り替えられていく。

「…………ぅ、んっ」
「うん、もっとしよっか」

 下手に口を動かすと唾液が垂れてしまいそうで何も言えないのに、口の中に指がもう一本増やされた。
 苦しくはないけれど、二本の指で交互に口腔内を撫でられると、体が震えるのを隠すこともできない。
 舌を指で挟むように捕らえられて、ぬるぬると撫でられると、びくりと体が動いてしまう。

「こっちもね」
「~~っ!?」

 その言葉と一緒にぬちりと音がして、腰がカクカクと動いてしまった。
 いつのまにか、寝ている私の上に掛けられていた布が取り払われ、コハニーの手が肌着の中に消えている。
 服をはだけられて中に手を突っ込まれているのに、今の今まで全く気がつかなかったことに驚いていると、再びぐちりと音がして腰が動く。

「~んんっ」

 体が、勝手に動くのを止められない。
 コハニーに触れられるのが気持ちよくて、何も考えられなくなる。

 前なら怖い、おかしいと思った快感に対しての過敏状態も、今は怖くない。
 コハニーと私の間には目に見えない繋がりができていて、お互いが快感を感じるたびに繋がりによって増幅されて戻ってくる。
 彼は私に気持ちよくなってほしい、美味しくなってほしいだけで、怖がらせたいわけじゃない。
 なぜかそれが理解できる。

 つまり何が言いたいかと言うと、コハニーとなら一日中でもこうしていたいって、今は思ってる。
 彼となら溶けあってしまえそうだ。

 
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