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過去:一花繚乱

花は咲き誇る 4/4 ※

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 精をこの身わたしの奥に注ぎながら。
 彼は更なる快感を求めているのか腰を揺らし、握られた両手は小刻みに震えていた。

 この身を傷つけたくない、ってこんな時にまで思ってくれている。
 嬉しくて、熱で受ける痛みが溶けるように快感に変わった。

 傷つける痛みではない。
 望まれる痛みだ。

 彼の精を注がれる喜びにうっとりしながら、どんな肥料よりもこの身を満たしてくれる焦熱を喜んで享受することにした。

 彼の腰の動きに逆らうように、ゆっくりと頭部を揺らす。
 ずりずりと擦れるような抵抗を不思議に思い、意識を向けて気がついた。
 あふれるほど消化液を分泌して熱を和らげていたのに、頭部の捕生殖器官袋の内壁が爛れて膨らんでしまっている。

 もう少しだけ保てば良い。
 彼に露見さえしなければ問題ない。

 熱くて、痛くて、焼けてしまえばもう使い物にならない、でも作り直せばいいだけ。

 彼に出会えて良かった。
 彼がこの身を求めてくれて良かった。
 そう感じる。

 こんな幸せ、他に無い。

 言いきれるのは、森で過ごした頃の永遠にも似た孤独と、ドライアドになりきれない絶望を知っているからかもしれない。



 全てを出し切った彼は、どさりと音を立てベッドに転がった。

「少し休憩させてくれ」

 はあ、と深く息を吐くと、豊かな体毛が呼吸の動きに合わせて揺れる。
 休憩に必要なのは甘味と水分だと知っているから、彼のために元気になる蜜を分泌することにした。

 水分補給と一緒に滋養も摂取できるなら、お腹がたぷたぷにならずにすむだろう。

「はい、どうぞ」
「えっ」

 不思議そうに声を上げてこの身の頭部を見てから、彼は追い詰められた手負の獣のような表情を浮かべた。

「???」

 どうしたの、と声に出して聞く前に、彼の熱い舌が頬を伝う蜜を舐めとっていく。
 触れるか触れないかの距離で肌を撫でる体毛が心地よい。

「甘いな……嫌ってわけじゃないが、ただ、あのなにがなんだか分かんなくなるのがあんまりなーってだけで」
「うん」

 前にも言ってくれたことだから、知ってるよ。
 彼の気持ちが向けられていることを喜びながら、相槌を打つ。
 言葉の意味は、よく分からないまま。

「はあ」

 熱のこもった息を吐いて、彼はにょっきりと生殖器官を立ち上がらせた。
 目が充血してうるんでいるのは、興奮してくれているから。

 注がれる視線の重さに全身が震えそうだ。
 嵐が来ることを知りながら逃げられない若木の頃に戻ってしまった気分。

 今から襲い来る嵐から逃げる気なんてこれっぽっちも無いけれど、嵐を恐れないわけじゃ無いから。

 くるりと体を回して彼にお尻を差し出す。
 両手と両膝はベッドについて、お尻を高く持ち上げるようにすれば、彼が喉を鳴らす音がした。

 捕生殖器官袋の蓋の中はもうたぷたぷになっているから、いつでも入れられる。

「たくさん、くれる?」

 はあ、はあ、と呼吸を荒げていた彼は言葉ではなく行動で返事を返してくれた。
 胴体に食い込む硬くて熱い指を感じた直後。

「~っあ、あ゛ぁっっ」

 焼ける。
 熱い。
 枯れてしまう。

 身の内に一息で差し込まれた灼熱の棒から与えられた衝撃で、体が硬直する。
 熱くて硬くて……痛いのに嬉しい。

「うぅ゛っ……ぅう゛ぅっっ」

 どすっどすっと音が聞こえそうな勢いで、彼の体重が臀部にかけられる。
 彼の腹が尻に打ち付けられるたびに、勢いで全身がみしみしと軋む。
 最奥を突き上げられるたびに、熱と痛みで声がこぼれる。

 腰に食い込んだ指の痛みと熱さ、体の内側を遠慮ない動きでえぐりながら削りとっていく生殖器官の硬さと熱に、苦鳴が止まらない。
 苦しくて痛いのに幸せで、歓喜の歌が口からこぼれ落ちる。

 授精したい衝動に流されながら、もっと、もっと、と言葉にしたら、彼がぶるりと震えて、最奥に液状の火が注がれた。
 獣のようなうめき声を上げる彼に押しつぶされ、勝手に思いもしない声が出た。

「ぐぅぅううっ」
「あ゛、あ゛っ、あ゛ぁあぁぁっ」

 痛い。
 熱い。
 苦しい。
 枯れる、枯れてしまう。

 幸せ。
 嬉しい。
 拍動のない胸が高鳴る。
 もっと、もっとたくさん欲しい。

 人に似せて作った体は悲鳴をあげているのに、心は歓喜にむせび泣いていた。
 体と心の正反対の反応は矛盾しているのに、激痛と歓喜を同時に受けとるこの身は、破綻しない。

 彼が好きだ。
 なぜかなんて考えたくない、好きになった理由なんてどうでも良い。

 ただ彼が好きで。
 ただ彼の精で授精したい。

 それが正しい認識だから。
 痛いことも嬉しいことも間違っていない。

 ひくひくとこの身の奥で震えていた彼は、再び生殖器官に摩擦を与えるように腰を引いて、低くうめき声をあげ始めた。

 きもちいい、ああくそ、なんでこんなっ、ネム。

 その目は彼とこの身の結合部へ注がれていて、捕生殖器官袋が生殖器官を受け入れる様を食い入るように見つめていて、彼の喜びを感じられた。
 引っ掻きだされてとろとろと垂れ落ちる消化液は精と混ざって白く濁り、熱で爛れつつある胎内が生殖器官にすがりつくように張り付いているのを感じる。

 彼の荒い呼吸や、獣のような荒々しさが愛おしくてたまらない。

「ひぅっ!……ぃふぅ゛っ、うぅう゛っっ!!」

 いっそう激しくなった彼の動きで膝が崩れて、潰れるようにうつ伏せに倒れ込んでしまったけれど、そのまま押しつぶされるように生殖器官を根元まで押し込まれた。

 ベッドと彼に挟まれて潰され、ごりごりと体の中を行き来する熱に焼かれて。

「ぃぅぐっ、う゛ぅっ、い゛っぅぅっっ」

 彼の肌を伝って背中に落ちる塩水が痛い。
 ごりごりと削られる胎の内が痛い。
 触れ合っている場所の全てが熱で焼かれて痛い。

 痛いのに気持ちよくて、嬉しくて、幸せで。

 この身が成体のドライアドとして完成したことを知る。

 彼の精を受けた子株が欲しい。
 彼の精で子株が欲しい。

 ドライアドに本能なんてあるんだろうか。
 動物のように繁殖するために生きているんだろうか。
 知らない。
 知らなくて良い。

 彼と一緒に、いたい。
 彼と一緒に、在りたい。

 そのためにできることは……。

 ひくひくと震えながら奥に吐き出された精の熱にうっとりとしながら、この身は彼に全てを差し出すことにした。



   ◆



 日暮れまでに何度、彼の精を注いでもらっただろう。

 胎の中はめちゃくちゃだ。
 頭部の袋よりも分厚く頑丈に作っていた上、胎の中を消化液で満たしていたにもかかわらず焼け爛れて萎れてしまっている。

 しおれすぎた葉は元に戻らないし、枯れた花は二度と咲かない。
 再び彼に精を注いでもらえる機会が来る前に、早々に作り替える必要がある。

 注がれた精を養分として吸収してしまうのは勿体無いけれど、次はもっと彼に好まれる姿を作り、蜜を分泌できるようになるだろう。

 太陽が沈むと共に眠るこの身は、朝には新しく作り替えられる。
 夜毎に彼にふさわしく生まれ変わるのだ。

 毎日、新たな花を咲かせるように。
 新しく咲いた花は、いつだって前とは違うけれど、いつも美しいと思ってもらえるはずだ。

 翌朝の彼はどんな反応をするだろう。
 驚くかな。
 喜ぶかな。
 笑ってくれるだろうか。
 もしも気に入ってもらえなかったら。

 その時は、枯れて死んでしまうかもしれない。

 精を注いでもらいたいという願いに応えてもらえて嬉しかったはずなのに、変な心だ。

 彼の評価が必要だ。
 彼に好まれたい。

 この身に対する彼の反応を望むなんて。
 他のドライアドなら気にしないのかな。

 どうしようもないほど焦がれたものをようやく手に入れた、と誰かに伝えたい。

 この身の親株だろうか。
 名も知らぬドライアドだろうか。
 謎の記憶や知識を得た、どこかにだろうか。

 もう後戻りはできない。

 決して手放さない。
 この身が枯れても。
 彼が望んでも。

 この身の幸せは、永遠に続く。
 彼の側で咲き誇っている間。
 生きている間。










   了

 
===






大変ながらくお待たせいたしました
プロットもなく短編を書いたものの、物足りなくなって書き足していったら終わりどころが分からなくなる典型でしたが
、これはこれで悶々として楽しかったかもしれません

お読み頂きまして、ありがとうございます
(๑>◡<๑)
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