6 / 23
過去:花はなぜ咲く
合歓を望む木 1/3
しおりを挟む
すいません、予約投稿していなかったため、月光さんと投稿時間がずれました
~~~
「くさい!」
「えっ?」
買い出しついでに町で一泊してくると言った彼が、なぜか夜の間に帰ってきていたらしい。
朝帰りの可能性もあるけど。
彼の不在時は自分で水と陽光を摂るしかないので、朝になって目が覚めたから汲み置きの水のあるキッチンに向かったら、彼がいたのだ。
ぷんぷんと全身からくっさい臭いをさせる彼が。
なんで、なんでだよ、なんでなんだよ。
頭の中が疑問でいっぱいになる。
この臭いの元を、この身は知っている。
人の女がつける香水に違いない。
花の香りや獣の香りを恥ずかしげもなく混ぜて、本当の体臭を分からなくさせてしまう悪夢のようなもの。
人の男もつけるけれど、この甘ったるい匂いを選ぶのは女に違いない。
キッチンの椅子に座って机にうつ伏せていた彼は起きていたらしくて、この身の声に驚いたように振り返った。
体を酷使して疲労した時のように充血した目。
憔悴した様子。
なにをしてきて疲れきっているのかなんて、考えるまでもない。
「……ひどい、ひどいよ!」
町で人の女相手に繁殖行為をしてきたのは間違いない。
いつも側にこの身がいるのに、なんでそんな酷いことをするのか。
この身を相手にすれば良いのに!
頭の中がぐちゃぐちゃのまま彼を床に押し倒して腹の上に乗って、気がついた。
この身は彼の精が欲しいと思っている?
彼の精で授精したい。
そう、思っている?
彼に助けられてから一巡り以上が経つのに、どうしてこれまで気づかなかったのかと、自分ののんきっぷりに呆れてしまう。
彼が人だから、気づかないふりをしていた?
気づかれたら、彼に捨てられてしまうから?
気持ち悪いと思われるから?
だって、この身は植物でしかも男の形。
人の男の彼が求めるのは、人の女のはずだ。
せめて、人の女に似た姿になれたらよかったのに。
彼が不在の間に色々試してみたけれど、どうやっても胸部にも臀部にも豊満な子房を作れない、人の男を誘惑できる造形には変われなかった。
人の男の生殖器官もどきを小さくすることはできたけれど、人の女にはなれない。
彼との間に種が欲しい、結実したい。
自家受精ではなくて、彼に授精させられたい。
「ひどいよ、ひどいぃ」
ぽたぽたと彼の胸元に花蜜がしたたり落ちる。
気持ちを自覚した途端に、諦めるしかないなんて。
もう彼の側にいるのは無理なんだろうか、森には帰りたくない。
ここを追い出されたら、どこに行けば良いんだろう。
「ど、どうした?」
彼が目を身開いて、おろおろと両手を振り回す。
突然押し倒されたというのに、彼は驚きつつも声を荒げたりはしない。
人はドライアドを恐れていると教えられても、これまでは実感がなかったのに、彼の震える声を聞いて悲しくてたまらなくなった。
「うわきもの!」
「えっ?」
浮気ではない。
分かってる。
でも、そう思わないと苦しすぎて枯れてしまいそうで。
棘をそなえた蔓を作り出して下半身の服を引き裂き、ずっと前から用意してある尻の穴を彼の生殖器官に押し当てる。
彼の精が欲しいと自覚していなかったのに、穴が必要だと分かっていた。
なぜかなんて知らなくても、そうだと知っていたから。
だから作った。
穴があれば彼に入れてもらえると、自分でも知らないうちに期待していたんだろう。
実際に彼の生殖器官を入れたことは無いけれど、多分入るはずだ。
彼が自分の手で搾精しているところを何度か見て、大きさは調整してある。
人の女の臭いがするふにゃふにゃの生殖器官はあまりにも頼りなくて、これを入れて授精することしか知らないから、困ってしまう。
ぐりぐりと穴を押し付ける。
ふにゃふにゃと逃げる。
「っ、はいらない」
「まて、なにしてんだ、おい、待てってば」
入らない、なんで?
入れられない、どうしたら入るの?
思い出せ、よく分からない記憶の中から引っ張り出せ。
男の生殖器官を穴に入れるんだ。
こんなにふにゃふにゃのものを、どうやって穴に入れたらいいんだろう?
何度も穴を押し付けるのに、彼の生殖器官は穴に入ってくれない。
途方に暮れていると、彼がごそりと体を動かした。
「落ち着けよ、なあ、おれはお前が怒るようなことしちまったのか?」
「なにもしないからいけないんだ!」
「そうか、それじゃなにをすれば良い、ぎゃあっ」
がしり、と彼の生殖器官を握りしめる。
柔らかくて頼りなくてふにゃふにゃのこれが憎い。
人の女の穴には入れるのに、どうしてこの身には入れてくれないのか。
「これが欲しい、授精したい!」
「いてぇっ、いてえから離せって、わかったやる、なんでもしてやっから!」
悲しくて落ち込んでいた心が、つぼみが弾けるように開いた。
「なんでもなら、今すぐ!」
「ぎゃああっ!?」
彼が前言撤回する前にと急ぐことにした。
柔らかい蔓で全身を巻いて水場に運び、人の女の臭いを洗い流す。
冷てえっ!、と彼は泣いていたけれど、人の入る熱湯にこの身が触れたら熱くて枯れてしまう。
ごめんなさいと謝りながら彼の全身を丸ごと水場につっこんできれいにして、さっき起きたばかりのベッドへと戻る。
初めて結ばれるなら彼の部屋が良い気がする?、という謎の記憶に従って。
この身は植物だけれど色々知っているということを、彼に教えてあげなくてはいけない。
どこで知ったのかも分からない記憶だけれど、たぶん大丈夫だよね。
彼をベッドの上に転がして、先ほどまでよりさらに小さく縮んでしまった生殖器官を見つめる。
指先でつつくとふにゃふにゃで冷たい。
こんなに柔らかいものを、どうやって穴の中に入れるんだろう。
「入れてよ」
「ぐふっ」
入れ方が分からないからお尻を突き出した。
なぜか彼がむせて、ベッドの上で七転八倒しながら咳き込んだ。
逃げられないように手足は蔓をからめてあるから、彼ががくがくぶるぶると震えるのが全て伝わってくる。
「待て、一体どうしてそんなことを言い出したのか説明してくれないか?」
「授精したい」
「それなら相手が違うだろ、おれは人で樹精じゃないから無理だ」
「やだ、貴方の精が欲しい!」
「ぐふっっ」
またむせた。
彼がじたばたと手足を動かそうとするのを押さえ込みながら、気がつく。
「……大きくなった?」
彼の足の間でぷるぷるしていた生殖器官が、一回り大きくなってゆらゆらと揺れていた。
一体いつの間に。
「そこをじっくり見るのはやめてくれっ」
水でずぶ濡れの頭の体毛と顔にべったりと張り付いた顔のひげの隙間から、彼が赤くなっているのが見えた。
顔だけじゃなくて首元まで赤い。
人が熱を出した時の症状だ。
高すぎる熱を出すと人は死んでしまう、人の男の場合は命は助かっても精を作る場所が死んでしまう。
彼を冷やさないといけない、と思った。
「熱を伴う病気か?」
濡れたままの彼に抱きついたけれど、その体はいつもより冷たい。
顔から首までは真っ赤になって、かっかと熱くなっているのに。
「頼む、逃げたりしないから手足離してくれ、……じゅせい、したいんだろ?」
「うん」
「人は濡れたままでいると風邪をひくからな、体を拭かせてくれ」
「わかった」
蔓を外すと、彼は服を脱いで濡れていた全身を拭いて、ベッドのシーツを交換した。
そして、言った。
「とりあえず、分かる限りで良いから教えてくれないか、お前がなにを望んでいるのか」
「……おまえ」
これまでに何度も呼ばれているのに、初めて気がついた。
特別なものには名前がある。
彼は巣箱に個別の名前を付けている、女王蜂の気性で群れの行動指針が変わるから、それを覚えておくために必要なんだと。
でも、この身には名前がない。
オマエ、キミ、そう呼ばれてきた。
この身は、彼の特別では無かった。
ずっと、ただの居候だった。
~~~
「くさい!」
「えっ?」
買い出しついでに町で一泊してくると言った彼が、なぜか夜の間に帰ってきていたらしい。
朝帰りの可能性もあるけど。
彼の不在時は自分で水と陽光を摂るしかないので、朝になって目が覚めたから汲み置きの水のあるキッチンに向かったら、彼がいたのだ。
ぷんぷんと全身からくっさい臭いをさせる彼が。
なんで、なんでだよ、なんでなんだよ。
頭の中が疑問でいっぱいになる。
この臭いの元を、この身は知っている。
人の女がつける香水に違いない。
花の香りや獣の香りを恥ずかしげもなく混ぜて、本当の体臭を分からなくさせてしまう悪夢のようなもの。
人の男もつけるけれど、この甘ったるい匂いを選ぶのは女に違いない。
キッチンの椅子に座って机にうつ伏せていた彼は起きていたらしくて、この身の声に驚いたように振り返った。
体を酷使して疲労した時のように充血した目。
憔悴した様子。
なにをしてきて疲れきっているのかなんて、考えるまでもない。
「……ひどい、ひどいよ!」
町で人の女相手に繁殖行為をしてきたのは間違いない。
いつも側にこの身がいるのに、なんでそんな酷いことをするのか。
この身を相手にすれば良いのに!
頭の中がぐちゃぐちゃのまま彼を床に押し倒して腹の上に乗って、気がついた。
この身は彼の精が欲しいと思っている?
彼の精で授精したい。
そう、思っている?
彼に助けられてから一巡り以上が経つのに、どうしてこれまで気づかなかったのかと、自分ののんきっぷりに呆れてしまう。
彼が人だから、気づかないふりをしていた?
気づかれたら、彼に捨てられてしまうから?
気持ち悪いと思われるから?
だって、この身は植物でしかも男の形。
人の男の彼が求めるのは、人の女のはずだ。
せめて、人の女に似た姿になれたらよかったのに。
彼が不在の間に色々試してみたけれど、どうやっても胸部にも臀部にも豊満な子房を作れない、人の男を誘惑できる造形には変われなかった。
人の男の生殖器官もどきを小さくすることはできたけれど、人の女にはなれない。
彼との間に種が欲しい、結実したい。
自家受精ではなくて、彼に授精させられたい。
「ひどいよ、ひどいぃ」
ぽたぽたと彼の胸元に花蜜がしたたり落ちる。
気持ちを自覚した途端に、諦めるしかないなんて。
もう彼の側にいるのは無理なんだろうか、森には帰りたくない。
ここを追い出されたら、どこに行けば良いんだろう。
「ど、どうした?」
彼が目を身開いて、おろおろと両手を振り回す。
突然押し倒されたというのに、彼は驚きつつも声を荒げたりはしない。
人はドライアドを恐れていると教えられても、これまでは実感がなかったのに、彼の震える声を聞いて悲しくてたまらなくなった。
「うわきもの!」
「えっ?」
浮気ではない。
分かってる。
でも、そう思わないと苦しすぎて枯れてしまいそうで。
棘をそなえた蔓を作り出して下半身の服を引き裂き、ずっと前から用意してある尻の穴を彼の生殖器官に押し当てる。
彼の精が欲しいと自覚していなかったのに、穴が必要だと分かっていた。
なぜかなんて知らなくても、そうだと知っていたから。
だから作った。
穴があれば彼に入れてもらえると、自分でも知らないうちに期待していたんだろう。
実際に彼の生殖器官を入れたことは無いけれど、多分入るはずだ。
彼が自分の手で搾精しているところを何度か見て、大きさは調整してある。
人の女の臭いがするふにゃふにゃの生殖器官はあまりにも頼りなくて、これを入れて授精することしか知らないから、困ってしまう。
ぐりぐりと穴を押し付ける。
ふにゃふにゃと逃げる。
「っ、はいらない」
「まて、なにしてんだ、おい、待てってば」
入らない、なんで?
入れられない、どうしたら入るの?
思い出せ、よく分からない記憶の中から引っ張り出せ。
男の生殖器官を穴に入れるんだ。
こんなにふにゃふにゃのものを、どうやって穴に入れたらいいんだろう?
何度も穴を押し付けるのに、彼の生殖器官は穴に入ってくれない。
途方に暮れていると、彼がごそりと体を動かした。
「落ち着けよ、なあ、おれはお前が怒るようなことしちまったのか?」
「なにもしないからいけないんだ!」
「そうか、それじゃなにをすれば良い、ぎゃあっ」
がしり、と彼の生殖器官を握りしめる。
柔らかくて頼りなくてふにゃふにゃのこれが憎い。
人の女の穴には入れるのに、どうしてこの身には入れてくれないのか。
「これが欲しい、授精したい!」
「いてぇっ、いてえから離せって、わかったやる、なんでもしてやっから!」
悲しくて落ち込んでいた心が、つぼみが弾けるように開いた。
「なんでもなら、今すぐ!」
「ぎゃああっ!?」
彼が前言撤回する前にと急ぐことにした。
柔らかい蔓で全身を巻いて水場に運び、人の女の臭いを洗い流す。
冷てえっ!、と彼は泣いていたけれど、人の入る熱湯にこの身が触れたら熱くて枯れてしまう。
ごめんなさいと謝りながら彼の全身を丸ごと水場につっこんできれいにして、さっき起きたばかりのベッドへと戻る。
初めて結ばれるなら彼の部屋が良い気がする?、という謎の記憶に従って。
この身は植物だけれど色々知っているということを、彼に教えてあげなくてはいけない。
どこで知ったのかも分からない記憶だけれど、たぶん大丈夫だよね。
彼をベッドの上に転がして、先ほどまでよりさらに小さく縮んでしまった生殖器官を見つめる。
指先でつつくとふにゃふにゃで冷たい。
こんなに柔らかいものを、どうやって穴の中に入れるんだろう。
「入れてよ」
「ぐふっ」
入れ方が分からないからお尻を突き出した。
なぜか彼がむせて、ベッドの上で七転八倒しながら咳き込んだ。
逃げられないように手足は蔓をからめてあるから、彼ががくがくぶるぶると震えるのが全て伝わってくる。
「待て、一体どうしてそんなことを言い出したのか説明してくれないか?」
「授精したい」
「それなら相手が違うだろ、おれは人で樹精じゃないから無理だ」
「やだ、貴方の精が欲しい!」
「ぐふっっ」
またむせた。
彼がじたばたと手足を動かそうとするのを押さえ込みながら、気がつく。
「……大きくなった?」
彼の足の間でぷるぷるしていた生殖器官が、一回り大きくなってゆらゆらと揺れていた。
一体いつの間に。
「そこをじっくり見るのはやめてくれっ」
水でずぶ濡れの頭の体毛と顔にべったりと張り付いた顔のひげの隙間から、彼が赤くなっているのが見えた。
顔だけじゃなくて首元まで赤い。
人が熱を出した時の症状だ。
高すぎる熱を出すと人は死んでしまう、人の男の場合は命は助かっても精を作る場所が死んでしまう。
彼を冷やさないといけない、と思った。
「熱を伴う病気か?」
濡れたままの彼に抱きついたけれど、その体はいつもより冷たい。
顔から首までは真っ赤になって、かっかと熱くなっているのに。
「頼む、逃げたりしないから手足離してくれ、……じゅせい、したいんだろ?」
「うん」
「人は濡れたままでいると風邪をひくからな、体を拭かせてくれ」
「わかった」
蔓を外すと、彼は服を脱いで濡れていた全身を拭いて、ベッドのシーツを交換した。
そして、言った。
「とりあえず、分かる限りで良いから教えてくれないか、お前がなにを望んでいるのか」
「……おまえ」
これまでに何度も呼ばれているのに、初めて気がついた。
特別なものには名前がある。
彼は巣箱に個別の名前を付けている、女王蜂の気性で群れの行動指針が変わるから、それを覚えておくために必要なんだと。
でも、この身には名前がない。
オマエ、キミ、そう呼ばれてきた。
この身は、彼の特別では無かった。
ずっと、ただの居候だった。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる